疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 疾患

胃炎

Gastritis

臓器系
消化器
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/33:胃炎内科学 S-27:胃炎
鑑別疾患
MALTリンパ腫(節外性辺縁帯リンパ腫)機能性ディスペプシア
続発疾患
胃癌巨赤芽球性貧血亜急性連合性脊髄変性症
関連疾患
消化性潰瘍
治療薬
ボノプラザンラベプラゾール(エソメプラゾール)アモキシシリンクラリスロマイシンメトロニダゾール次サリチル酸ビスマス
原因微生物
ヘリコバクター・ピロリ
症状
悪心下血倦怠感呼吸困難出血出血性ショック心窩部痛吐血嘔吐
検査値
ガストリンペプシノゲンヘリコバクター・ピロリ抗体
組織像
胃粘膜びらんと漏出性出血(肉眼標本)胃炎(HE染色)ヘリコバクター・ピロリ胃炎(Giemsa染色)
下位分類
ストレス潰瘍
適応薬
ベタネコールボノプラザンラベプラゾール

🧠 全体像:胃炎とは組織学的に確認されるの炎症であり、上腹部症状だけを指すとは同義でない。診療の幹は、①急性(一過性の)と慢性(持続する炎症→萎縮の経過)を時間軸で区別する、②の主因であるH. pylori感染とを機序で鑑別する、③→異形成→胃癌というを理解し、H. pylori陽性は全例で除菌して治癒確認する、の3段階である。

概要・定義

胃炎は内視鏡所見(発赤・びらんなど)だけで診断する病名ではなく、生検による組織学的炎症の確認が本質である。症状の強さと組織学的炎症の程度は必ずしも一致せず、無症状のも多い。

  • :NSAIDs、アルコール、重症ストレスなどによる一過性のが主体で、とびらん・出血を特徴とする。
  • :持続する炎症性変化がへ進行する経過で、リンパ球・形質細胞浸潤を特徴とする。最多の原因はH. pylori感染である。

💡 「胃炎」と「消化性潰瘍」は連続的な病態である。急性びらん性胃炎の重症例(NSAIDs・アルコール・重症ストレス)は浅い多発性びらんにとどまるが、傷害が進むとを越える潰瘍に至る。両者は深さの違いで理解し、詳しい潰瘍の合併症・治療は消化性潰瘍ノートに譲る。

急性胃炎 vs 慢性胃炎(対比)

項目
経過 一過性、数日で軽快・粘膜再生 持続性、放置すると萎縮が進行
主な原因 NSAIDs(特にアスピリン)、、重症ストレス(外傷・熱傷・低体温)、H. pylori急性感染、喫煙 H. pylori感染(B型)、自己免疫(A型)、胆汁逆流・NSAIDs慢性使用(C型・
組織像 、点状出血、多発性びらん(<1 cm、を越えない) リンパ球・形質細胞浸潤、腺の消失+、進行例で
部位の特徴 汎胃炎または前庭部優位 自己免疫性は部・優位、H. pylori性は前庭部優位から全胃炎(pangastritis)へ拡大
主な臨床像 、悪心・嘔吐、時に者のの主要原因) 無症状〜軽度の腹部不快感が多い。自己免疫性は低・、鉄欠乏、ビタミンB12欠乏(
重要な帰結 、重症例では重症患者の:熱傷、:頭蓋内病変) H. pylori:消化性潰瘍、。自己免疫性:(NET)・腺癌リスク

⚠️ 重症患者(広範囲熱傷、頭蓋内圧亢進、など)に生じるは急性びらん性胃炎の重症型であり、熱傷後に生じるものを、頭蓋内病変(外傷・腫瘍・脳外科術後)に伴いによる亢進を機序とするものをと呼ぶ。いずれも重症患者の(PPI・H₂受容体拮抗薬)の対象になる。

慢性胃炎の病型(A/B/C分類)

病型 機序 特徴 主な帰結
A型(自己免疫性) に対する自己抗体による腺破壊 部・優位の萎縮、など他の自己免疫疾患と合併しやすい 鉄欠乏、ビタミンB12欠乏→、胃NET・腺癌リスク上昇
B型(細菌性・H. pylori H. pyloriがウレアーゼでアンモニアを産生し胃酸を中和して定着、慢性炎症を維持 前庭部優位型(高)と全胃炎/多巣性(低)の2パターン 前庭部優位型は、全胃炎型は腺癌・MALTリンパ腫のリスク上昇
C型(化学性・ 胆汁逆流、NSAIDs慢性使用などの化学的刺激 は軽度で、・浮腫が主体になり得る 慢性者・NSAID長期使用者に多い

💡 A型は体部優位で酸を作れなくなる(上昇→NET)、B型は前庭部優位から始まり進行すると全胃炎化する、と部位で覚えると鑑別しやすい。

病態:Correa cascade(発癌への連鎖)

H. pyloriは、正常から)へ至る多段階の組織学的連鎖を引き起こす。この連鎖は可逆的な早期段階(まで)と、が高まる後期段階(以降)に分かれ、後者はの対象になる。

flowchart TD
    A["正常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric mucosa'>胃粘膜</span>"] --> B["H. pylori感染"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic active gastritis'>慢性活動性胃炎</span><br>(好中球+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphocytic infiltration'>リンパ球浸潤</span>)"]
    C --> D["多巣性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrophic gastritis'>萎縮性胃炎</span><br>(腺組織の消失)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal metaplasia'>腸上皮化生</span><br>(腺上皮が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal type'>腸型</span>円柱上皮へ置換)"]
    E --> F["異形成<br>(dysplasia)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric adenocarcinoma'>胃腺癌</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal type'>腸型</span>)"]
  • まではH. pylori除菌により部分的に改善しうるが、以降は除菌後も組織学的変化が残りやすく、癌化リスクは残存する。
  • 「良性の胃炎が癌に変わる」のではなく、慢性炎症が背景粘膜を発癌しやすい状態へ作り替える、という理解が正確である。
  • の疫学・(TNM)・治療(〜胃切除、化学療法)は胃癌ノートに譲り、本ノートはとしての・異形成の位置づけに焦点を当てる。

臨床像

  • 、悪心・嘔吐が主体。重症例はからに至る。
  • :多くは無症状、または非特異的な腹部不快感・悪心にとどまる。
  • :貧血症状(感、労作時)、(ビタミンB12欠乏による)で気づかれることがある。
  • H. pylori胃炎そのものは症状に乏しいことが多く、消化性潰瘍・出血・貧血など合併症で発見されることが少なくない。

診断

胃炎は組織学的診断であり、症状の有無だけで確定・除外しない。(出血、体重減少、嚥下障害、貧血など)があれば年齢によらず+生検を優先し、がなければ年齢・地域のH. pyloriに応じて非侵襲検査から始める。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dyspepsia'>ディスペプシア</span>/貧血/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal bleeding'>上部消化管出血</span>"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alarm feature'>警告徴候</span><br>(出血・体重減少・嚥下障害など)"}
    B -->|"あり"| C["上部内視鏡+生検<br>(部位別に複数個採取)"]
    B -->|"なし"| D["年齢・地域リスクに応じ<br>H. pylori非侵襲検査"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea breath test (UBT)'>尿素呼気試験</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool antigen'>便中抗原</span>"]
    E --> F{"陽性か"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eradication therapy'>除菌治療</span>"]
    F -->|"いいえ"| H["症状別にPPI等を検討"]
    C --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='histology'>組織診</span>断(萎縮・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal metaplasia'>腸上皮化生</span>・H. pylori)"]
    I --> J{"H. pylori陽性か"}
    J -->|"はい"| G
    G --> K["除菌終了4週以降・PPI中止2週以降に<br>治癒確認"]

内視鏡・生検

  • の重症度・拡がりは、に準じて胃前庭部・部から複数部位を生検し、炎症・萎縮・H. pyloriの有無を評価する。
  • が疑われる場合は部・優位の萎縮を確認し、CBC、鉄、ビタミンB12、になりうる)、を併せて評価する。
  • ・異形成を認めた場合は、範囲や重症度に応じての間隔を個別化する。

H. pylori検査法の使い分け

検査 主な用途 注意点
の診断、除菌後の治癒確認 PPI/、抗菌薬、の使用で偽陰性になりうる
の診断、除菌後の治癒確認 検体の質・測定法に依存。薬剤間を守る
内視鏡時の簡便な診断 出血直後、PPI使用中、高度萎縮では感度が低下しうる
内視鏡時の診断、菌の形態・胃炎の重症度評価を同時に行える 陰性でも臨床的疑いが強ければ他検査で再確認する
血清抗体 未治療集団での補助的スクリーニング 既感染と現感染を区別できないため、には使わない

は全例で、抗菌薬・終了から4週以降、かつPPI/中止から2週以降に、・生検のいずれかで行う。血清抗体は治癒判定に使わない。

治療

原因除去・粘膜保護

  • :NSAIDs・アルコール・喫煙などの誘因を中止し、必要に応じPPIでを促す。重症患者のとしては、消化管出血の高リスク群(、48時間以上のなど)にPPIまたはH₂受容体拮抗薬を用いる。
  • NSAIDs継続が必要な場合はPPI併用などの胃保護を検討する(詳細は消化性潰瘍ノート参照)。

H. pylori除菌療法

H. pylori陽性は無症状でも全例での適応となる(消化性潰瘍、MALTリンパ腫、胃癌リスクの低減が目的)。感受性不明のでは、率の上昇を背景に、を第一選択としないことが国内外の現行指針で共通する。

代表的レジメン 要点
一次除菌 )またはPPI+アモキシシリン+、7日間 国内ではベースが除菌率でPPIベースを上回るため優先される。が疑われる・既知の地域や患者では下記の代替を検討する
疑い時の代替 最適化(PPI/+メトロニダゾール+テトラサイクリン系、10〜14日間) 2024年ACG指針は感受性不明の初回治療でもこのレジメンを第一選択に位置づける
二次除菌 またはPPI+アモキシシリン+メトロニダゾール、7日間 一次除菌不成功時に、をメトロニダゾールへ変更する
除菌以降 に基づく個別化(など) ルーチンでのは避け、可能なら培養・または既治療歴に基づき選択する

⚠️ 除菌成功は症状の消失では判定できない。全例で除菌終了4週以降・PPI中止2週以降に・生検のいずれかで治癒確認する。

自己免疫性胃炎の管理

  • 鉄欠乏・ビタミンB12欠乏を確認し補充する(ビタミンB12欠乏は経口吸収不良を伴いうるため筋注・皮下注が確実)。
  • に伴うは胃NET(1型)のリスクとなり、個別化したを検討する。
  • 、1型糖尿病、など他の自己免疫疾患の合併を念頭に置く。

まとめ

  • 胃炎は組織学的に確認されるの炎症で、症状の有無だけで診断・除外しない。
  • はNSAIDs・アルコール・重症ストレス・H. pylori急性感染による一過性ので、重症例はを含むとしてに至りうる。
  • はA型(自己免疫性、体部優位、)・B型(H. pylori、前庭部優位から全胃炎へ進展)・C型(化学性)に分け、B型が最多である。
  • H. pylori→異形成→胃癌というCorrea cascadeを理解し、以降はを検討する。胃癌そのものの評価・治療は胃癌ノートに譲る。
  • H. pylori陽性は無症状でも全例除菌し、耐性を考慮したレジメンを選び、除菌終了4週以降・PPI中止2週以降に必ず治癒確認する。