組織病理学

組織病理学 · H2-033

ヘリコバクター・ピロリ胃炎(Giemsa染色)

Gastritis (Giemsa)

描出疾患
胃炎

🧠 全体像:では、胃表面・腺窩のに沿うHelicobacter pyloriを湾曲した短桿菌として強調する。菌量は不均一で、陰性染色だけで感染を除外しない。

観察点

所見 読み方
表層粘液内の湾曲短桿菌 H. pyloriを支持
腺窩上皮に沿う菌体 好発する分布
腺窩上皮細胞 表面粘液を産生する胃上皮
好中球性腺窩炎 活動性胃炎
に伴う獲得MALT
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Giemsa stain'>Giemsa染色</span>で湾曲短桿菌を検索"] --> B["表面・腺窩<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucus layer'>粘液層</span>との位置を確認"]
    B --> C["慢性活動性炎症と整合"]
    C --> D["H. pylori感染を診断"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eradication therapy'>除菌治療</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea breath test (UBT)'>尿素呼気試験</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool antigen'>便中抗原</span>で除菌確認"]

偽陰性と追加検査

状況 影響・対応
使用 菌量・分布が変わり偽陰性が増えうる
抗菌薬・使用後 一時的に菌量が減る
・高度萎縮 菌が少なくなることがある
状感染 とから適切に採取
形態が不明瞭 免疫染色、、を検討
活動性(好中球)を欠く Giemsaの感度が最も落ちる場面。免疫染色を追加する1

⚠️ 「Giemsa陰性で除外しない」を数字で持っておく。 胃生検2,896例でGiemsa、免疫染色、を比較した研究では、Giemsaの全体感度は83.3%にとどまり、免疫染色98.8%・ 98.0%より有意に低かった。しかも好中球性の活動性を欠く症例に限るとGiemsaの感度は33.6%まで落ちる1。つまり6例に1例は見落とし、活動性がなければ3例に2例を見落とす計算になる。

💡 偽陰性の主犯は「菌量=活動性」であって、ではない。 同じ研究で、感度は菌量とそれに対応する活動性の有無に強く依存した一方、や萎縮などのがGiemsa・免疫染色・いずれの感度に与える影響も無いか弱いにとどまった1。上の表の「・高度萎縮」は菌量そのものが減る現象として覚え、染色法の限界とは分けて考える。臨床的に疑わしいのに通常染色が陰性なでは免疫染色を追加するのが同研究の推奨で、は主にの判定に用いる。

除菌の原則

抗菌薬感受性が不明な未治療例では、14日間のが代表的な第一選択となる2。ここでいうは、・・テトラサイクリン・メトロニダゾールの組み合わせを指す3。を感受性不明のまま一次治療に使わない根拠は耐性率にある。欧州のMaastricht VI/Florence合意(2022)は、個別のが利用できない場合、率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をとし(治療WG Statement 2、合意率92%、Grade B1)、それも使えなければ非含有の併用四剤療法を考慮しうるとしている。(++アモキシシリン)を用いるのは、局所で有効性が示されているか感受性が判明している場合に限られる3。同合意はまた、または培養でが利用できるなら、を含むレジメンを処方する前に感受性を確認すべきとしている(診断WG Statement 9、合意率91%、Grade A1)3。⚠️ Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1=強い/2=弱い)を表す。 韓国の2025年版ガイドラインを解説した総説も、耐性率が30%を超えて一次治療に求められる intention-to-treat 除菌率80%に届かなくなったことを、を経験的一次治療から外した理由に挙げている4。

⚠️ ただし日本では今もが一次除菌の標準である。 日本ではが使用できないため四剤療法が選択される機会は限られており、日本ヘリコバクター学会2024年版はを行わない一次除菌に「+アモキシシリン+」または「+アモキシシリン+メトロニダゾール」を強く推奨している(合意率90.5%、エビデンスの確実性A)5。日本の率は30%以上でどの地域でも15%以上だが、メトロニダゾール耐性率が低いという地域特性がこの推奨を支えている5。「は退場した」は地域を限定せずに言える主張ではない。

💡 四剤が使えないときの経験的代替も一緒に覚える。 の2024年ガイドラインは、未治療かつ感受性不明例の推奨を14日間のとしたうえで、ペニシリンアレルギーがなければまたはカリウム競合型()二剤療法の14日間を経験的代替として挙げている。⭐ 「最適化」という言い方が出てくるのは既治療例のほうである——例で最適化をまだ受けておらず感受性も不明なら14日間の最適化を優先し、既に受けた例では14日間が代替となる。やを含むは感受性が確認された場合にのみ用いる。は全例で行う2。

の時期は、日本ヘリコバクター学会のガイドラインが具体的な数値を示している。薬の内服終了後4週以降に、またはモノクローナル抗体を用いた測定で判定し、偽陰性を避けるため抗菌薬は4週間以上、またはは少なくとも2週間の中止が望ましいとされる6。

HEでの炎症・萎縮・化生の評価は 胃炎のHE染色 を参照する。

まとめ

  • H. pyloriは表面・腺窩の湾曲短桿菌としてみえる。
  • Giemsa陰性だけで感染を除外せず、薬剤歴と採取部位を確認する。
  • 除菌レジメンは耐性を考慮し、全例で治療後の除菌確認を行う。

出典

  1. 1.Sensitivity of Helicobacter pylori detection by Giemsa staining is poor in comparison with immunohistochemistry and fluorescent in situ hybridization and strongly depends on inflammatory activity(Helicobacter・2017)胃生検2,896例でGiemsa染色は687例(23.7%)、免疫染色は795例(27.5%)、FISHは788例(27.2%)をH. pylori陽性と判定した。Giemsaの全体感度は83.3%で、免疫染色98.8%・FISH 98.0%より有意に低かった。とくに好中球性活動性を欠く(nonactive)症例ではGiemsaの感度が33.6%まで急落した。感度は菌量、ひいては活動性の有無に強く依存する一方、腸上皮化生や萎縮といった構造変化の影響は無いか弱いにとどまった。臨床的に疑わしい非活動性慢性胃炎で通常染色が陰性なら免疫染色を推奨し、FISHは主にクラリスロマイシン耐性の判定に推奨される。閲覧 2026-08-24
  2. 2.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)抄録のみ閲覧(誌上版本文は取得できず)。未治療でかつ抗菌薬感受性が不明のH. pylori感染では14日間のビスマス四剤療法が推奨レジメンで、ペニシリンアレルギーがなければリファブチン三剤療法またはカリウム競合型酸分泌抑制薬(P-CAB)二剤療法の14日間が経験的代替となる。既治療の持続感染では最適化ビスマス四剤療法14日間を優先し、それを既に受けた例ではリファブチン三剤療法14日間が代替となる。クラリスロマイシンやレボフロキサシンを含むサルベージレジメンは感受性が確認された場合に限って用いる。全例で治療後の除菌判定(test-of-cure)を行う。除菌判定の待機期間の数値とビスマス四剤療法の構成薬は抄録に無い。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Management of Helicobacter pylori infection: the Maastricht VI/Florence consensus report(Gut(European Helicobacter and Microbiota Study Group ほか、29か国41名の専門家)・2022)リポジトリ版(repositorio.uam.es)から全文PDFを取得して確認した。取得できたのは Gut 2022;0:1-39 と表記されるonline-first 版で、誌上版 71(9):1724-1762 とはページ番号が異なる。H. pylori 感染はICD-11で感染症として正式に位置づけられ、原則として感染者全員が治療対象になる。診断ワーキンググループのStatement 9は「Clarithromycin susceptibility testing, if available through molecular techniques or culture, is recommended before prescribing any clarithromycin containing therapy.」(合意率91%、Grade A1)で、分子生物学的手法または培養による感受性検査が利用できる場合という条件つきの推奨である。治療ワーキンググループのStatement 2(合意率92%、Grade B1)は、個別の感受性検査が利用できない場合、クラリスロマイシン耐性率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をビスマス四剤療法とし、それも利用できなければビスマス非含有の併用(concomitant)四剤療法を考慮しうるとする。図1の凡例はビスマス四剤療法をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾール、クラリスロマイシン三剤療法をPPI・クラリスロマイシン・アモキシシリンと定義し、後者は局所で有効性が示されているかクラリスロマイシン感受性が判明している場合にのみ用いるとする。治療Statement 1(Grade D2)は一次治療前でも感受性検査をルーチンに行うことを reasonable とするが、原文自身が「そのような感受性検査に基づく戦略を日常診療で一般的に用いることの妥当性はまだ確立されていない」と続けている。なおMethodsの定義により、Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1強い/2弱い)を表す閲覧 2026-09-08
  4. 4.Treatment of Helicobacter pylori Infection in Korea: An Evidence-Based Analysis of the Upcoming 2025 Guideline(The Korean Journal of Helicobacter and Upper Gastrointestinal Research・2026)全文を確認した。ビスマス四剤療法(BQT)の構成をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾールと明記していること。クラリスロマイシン耐性率が15%を超える地域では感受性検査なしの三剤療法を一次治療として推奨しないこと閲覧 2026-09-08
  5. 5.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第2章「治療」(日本ヘリコバクター学会・2024)第2章「治療」のPDF全文を確認した。総論は、本邦のクラリスロマイシンの耐性菌率は30%以上であり本邦のどの地域でも15%以上であることから、本来であればMaastricht VI/Florence consensus reportに基づくとビスマス製剤を含む4剤療法が適切な推奨レジメンとなるが、本邦ではビスマス製剤を使用することができないと述べる。CQ2-5は、本邦で一次除菌治療に感受性検査をしないときはボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシン、またはPPI+アモキシシリン+メトロニダゾールのいずれかを推奨する(推奨の強さ「強い」、合意率90.5%、エビデンスの確実性A)閲覧 2026-09-08
  6. 6.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第1章「診断」(日本ヘリコバクター学会・2024)PDF全文を確認した。BQ1-7は除菌判定を除菌治療薬内服終了後4週以降に行うとし、尿素呼気試験およびモノクローナル抗体を用いた便中H. pylori抗原測定を有用とする。偽陰性を避けるため、PPI・P-CAB等は少なくとも2週間、抗菌薬は4週間以上の中止が望ましいとする。BQ1-6の表1でも尿素呼気試験・迅速ウレアーゼ試験・血清ペプシノゲン濃度は2週間以上の休薬が必要とされる閲覧 2026-09-08