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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

メネトリエ病

Ménétrier disease

別名
Ménétrier病巨大肥厚性胃炎低蛋白血症性肥厚性胃症
臓器系
消化器
科目
Internal MedicinePathology
トピック
内科学 G-01:食道・胃疾患病理学 C/33:胃炎
鑑別疾患
カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候群、インスリノーマを含む)リンパ球性胃炎リンパ腫胃炎
続発疾患
蛋白漏出性胃腸症胃癌
治療薬
セツキシマブオクトレオチド(バル)ガンシクロビル
原因微生物
サイトメガロウイルスヘリコバクター・ピロリ
症状
食欲不振早期満腹感浮腫心窩部痛消化管出血悪心嘔吐体重減少
検査値
アルブミンガストリン

🧠 全体像:は「胃の粘膜が増えすぎて、酸を作れなくなり、代わりに蛋白を漏らす病気」である。TGF-αの過剰がEGFRシグナルを持続的に押し上げ、胃の前駆細胞がばかりを作り、と主細胞を作らなくなる1。この一つの機序から、(の増生)・(の消失)・(上皮の漏れやすさ)という三つの顔がまとめて出てくる。⭐ なのにが上がらない——この一点でと分かれる。

位置づけ

の代表で、別名に・・がある2。成人例は30〜50歳台に多く男性優位で、報告数の総計が1000例に満たないまれな疾患である2。

⚠️ 「胃炎」という別名を持つが、炎症が主役の病態ではない。 胃炎(性・自己免疫性)が炎症とその帰結としての萎縮で説明されるのに対し、はシグナルによる上皮の作り替えで説明される。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric mucosa'>胃粘膜</span>でのTGF-α過剰"] --> B["EGFRシグナルの持続的亢進"]
    B --> C["胃前駆細胞が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='surface mucous cell'>表層粘液細胞</span>系列へ振り向けられる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foveolar hyperplasia'>小窩上皮過形成</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fold'>皺襞</span>の巨大化・粘液の過剰分泌)"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal cell'>壁細胞</span>・主細胞の減少"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypochlorhydria'>低酸症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='achlorhydria'>無酸症</span>"]
    D --> G["胃上皮細胞間の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tight junctions'>タイトジャンクション</span>の破綻"]
    G --> H["血清蛋白が胃内腔へ漏出"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoalbuminemia'>低アルブミン血症</span>"]
    I --> J["浮腫・腹水"]

💡 TGF-αが原因であるという根拠はにある。 胃でTGF-αをさせたは、染色の増強とを伴う、主細胞・の著明な減少、基礎およびヒスタミン刺激下の低下というのほぼ全ての特徴を再現した1。ヒトの病態がこのモデルと重なることが、後述するEGFRを標的とした治療の根拠になっている。

⭐ 血清が不相応に正常なままEGFRシグナルが亢進するのが要点である。通常ならは分泌を強く刺激するが、ではは正常〜軽度上昇にとどまる21。

蛋白漏出の機序が他と違う

の3機序のうち、はの亢進に分類される3。びらん・潰瘍から滲み出るのでも、のようにでごと漏れるのでもなく、胃上皮細胞間のが破綻して血清蛋白が管腔側へ漏れる2。

💡 だからでは、型のようなやは前景に立たず、失われるのは主にアルブミンである。

成人型と小児型

成人型 小児型
背景 多くは原因不明。除菌後に改善した症例報告がある2 感染との関連1
経過 慢性・進行性 2〜4週で自然軽快する1
治療 内科的治療、難治なら 支持療法が中心。を要する例がある

⚠️ 小児で自然軽快するからといって、成人例に「待てば治る」を当てはめない。 小児型は受診時に高度のを示すことが多いが数週で消退するのに対し1、成人型は慢性に経過し胃切除に至る例がある。

臨床像

・悪心・嘔吐・が中心で、が進むとによる浮腫と腹水が加わる2。と体重減少、重症例では消化管出血を伴う。まれに、に伴う反復性の報告もある2。

診断

⭐ 内視鏡では、・に限局し前庭部が保たれる肥厚・結節状のが見え、の滲出液に覆われる。に例えられる外観をとる2。

⚠️ 通常のでは診断できない。 病変の本体は粘膜の腺のであり、を含める(によるマクロ生検)が要る2。組織像はとの著明な減少・消失で、正常では約1:4であるが逆転する21。

診断を固めるには、内視鏡時に胃内pHを実測してを確認し、血清・との検査を併せる2。そのものは24時間便中α1-アンチクリアランス(27 mL/日超で)で裏づける3。

鑑別 分かれ目2
+亢進。はでは正常〜軽度上昇
肥厚は似るが、組織でが著増しびまん性の強い炎症を伴う
胃リンパ腫・胃癌(硬性癌) 肥厚を来すがを伴わない。悪性の除外はで行う
・ 最も多い模倣病態で、なかでも

治療

⭐ 支持療法が土台になる——高蛋白食、の補充、必要に応じたアルブミン投与2。やが検出されればまず除菌・を行い、関連例では(バル)が有効な症例があるとされる2。は症状緩和に用いる。

セツキシマブの試験を正確に読む

胃切除が検討されるほど重症の症候性9例を登録し、7例が1か月の投与を完了したがある4。

評価項目 結果4
(Ferrans and Powers QLIによる全般的生活の質) 有意に改善(P=0.02)。健康・機能サブスケールも改善(P=0.01)
量 1か月で3倍に増加(P=0.01)
胃内pHの平均 6.0(±2.5)から4.1(±2.7)へ低下(P=0.05)=の回復
腺あたりの陽性細胞数 24時間後に43.8から27.2へ減少(P=0.05)
有意な変化は検出されなかった

⚠️ 「でが治る」と読まない。 この試験は単群・9例登録/7例完了の小規模研究であり、は生活の質である。組織学的にほぼに至ったのは4例で、投与を1回超えて受けた7例中6例に特有の皮疹が出た。そして1か月の試験を完了した7例のうち4例は最終的に胃切除を受けている4。病態機序から導かれた治療が実際にを戻したこと自体は大きな成果だが、胃切除を置き換えたわけではない。

予後と胃癌リスク

胃癌リスクが上昇するという見方は古くからあるが、その大きさは確立していない1。ある症例集積からは5年生存率72.7%・10年65%、10年の追跡で8.9%が胃癌を発症したという数値が報告されており、これを根拠に年1回のによる監視を全例で考慮すべきとされる2。⚠️ 一方で小児型は予後良好であり、成人型の監視方針をそのまま持ち込まない。

まとめ

  • はTGF-α過剰によるEGFRシグナル亢進が胃前駆細胞をへ振り向ける疾患で、・と主細胞の減少・破綻が一つの機序から生じる。
  • は・に限局し前庭部は保たれる。を含むでなければ診断できない。
  • ⭐ なのにが正常〜軽度上昇という組み合わせが、+亢進のとの分かれ目になる。
  • はの亢進型で、型と違いは前景に立たない。
  • 小児型はと関連し2〜4週で自然軽快するが、成人型は慢性に経過する。
  • 治療は高蛋白食・・除菌/が土台で、とが薬物選択肢、難治例は。試験は9例登録・7例完了の単群研究で、量と生活の質は改善したがは有意に変わらず、完了例の4例がのちに胃切除を受けた。
  • 胃癌リスクの大きさは不確かだが、年1回のによる監視が勧められる。

出典

  1. 1.Ménétrier disease and gastrointestinal stromal tumors: hyperproliferative disorders of the stomach(The Journal of Clinical Investigation・2007)Clinical features と EGFR and Ménétrier disease の節で、胃体部・胃底部の巨大皺襞が組織学的には表層粘液細胞の著明な増生(小窩上皮過形成)と壁細胞・主細胞の減少であること、小窩の蛇行と嚢胞状拡張を伴うこと、胃粘膜でラットTGF-αを過剰発現させたトランスジェニックマウスがメネトリエ病のほぼ全ての特徴(ムチン染色の増強と嚢胞状拡張を伴う小窩上皮過形成、主細胞と壁細胞の著明な減少、基礎およびヒスタミン刺激下の酸分泌低下)を再現すること、血清ガストリンが不相応に正常なままEGFRシグナルが亢進することで胃前駆細胞が壁細胞・主細胞を犠牲にして表層粘液細胞系列へ振り向けられるという機序、小児型がサイトメガロウイルス感染と関連し2〜4週で自然軽快すること・受診時に高度の末梢浮腫を示すこと、セツキシマブによる同情的使用例で1日で悪心嘔吐が著明に軽減し1か月で血清アルブミンの上昇・便中への蛋白喪失の減少・壁細胞の出現がみられたこと、胃癌リスクは高いと考えられているがその大きさは不確かであることを確認した閲覧 2026-08-20
  2. 2.Ménétrier disease: A clinical review(World Journal of Gastroenterology・2025)疫学・病態生理・組織・診断・鑑別・治療・予後の各節で、別名(過形成性過分泌性胃症・巨大肥厚性胃炎・低蛋白血症性肥厚性胃症)、成人では30〜50歳台(原文は fourth to sixth decades of life)に多く男性に多いこと、TGF-α過剰によるEGFRシグナル亢進が小窩粘液細胞の増殖とムチン分泌を促し酸分泌を抑えること、胃上皮細胞間のタイトジャンクションの破綻により血清蛋白が消化管腔へ漏出すること、低酸症または無酸症を来す一方で血清ガストリンは正常〜軽度上昇にとどまること、小児型がサイトメガロウイルスと関連し予後が良いこと、成人例でヘリコバクター・ピロリ除菌後に臨床的・組織学的改善を示した症例報告があること、内視鏡所見(胃体部・胃底部に限局し前庭部が保たれる肥厚・結節状の巨大皺襞、脳回様)、粘膜筋板を含めるためポリペクトミースネアによる大型生検を行うこと、正常では約1:4の小窩対腺比が逆転すること、鑑別(ゾリンジャー・エリソン症候群は高ガストリン血症と酸分泌亢進、肥厚性リンパ球性胃炎は上皮内リンパ球の著増、胃リンパ腫は蛋白漏出を伴わない皺襞肥厚、過形成性ポリープや若年性ポリポーシスが最も多い模倣病態)、治療(高蛋白食・微量栄養素補充・アルブミン投与、除菌と抗サイトメガロウイルス療法、プロトンポンプ阻害薬、オクトレオチドの用量は皮下または静注で1日100〜600 µgもしくはデポ製剤10〜60 mgを4週ごと筋注、セツキシマブは初回400 mg/m²に続き250 mg/m²を週1回、難治例には胃全摘が部分切除より好まれること)、別研究の引用として5年生存率72.7%・10年生存率65%・10年追跡で8.9%が胃癌を発症したという数値と年1回の上部消化管内視鏡による監視の推奨を確認した閲覧 2026-08-20
  3. 3.Protein-Losing Enteropathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Etiology・Evaluation・Treatment の節で、メネトリエ病が蛋白漏出性胃腸症の原因のうち非びらん性・非潰瘍性の消化管疾患に分類されること、24時間便中α1-アンチトリプシンクリアランス(正常13 mL/24時間未満、27 mL/日超で蛋白漏出性胃腸症を示す)が主な検査でテクネシウム99m標識血清アルブミンシンチグラフィが代替になること、オクトレオチドが原発性腸リンパ管拡張症とメネトリエ病でリンパ管圧を下げ腸管からの蛋白喪失を減らすと考えられていること、原疾患の治療が管理の主体であることを確認した閲覧 2026-08-20
  4. 4.Efficacy of cetuximab in the treatment of Menetrier's disease(Science Translational Medicine・2009)Materials and Methods と Results の節で、胃切除が検討されるほど重症の症候性メネトリエ病9例(男性5・女性4)を登録し7例が1か月の治療を完了したこと、投与法が初回400 mg/m²の静注に続いて250 mg/m²を週1回3回投与であること、主要評価項目が1か月後のFerrans and Powers QLIによる全般的生活の質の変化であったこと、結果として全般QLI(P=0.02)と健康・機能サブスケール(P=0.01)が有意に改善し、壁細胞量が3倍に増加(P=0.01)、胃内pHの平均がTable 2で6.0(±2.5)から4.1(±2.7)へ低下(P=0.05。Results本文は同じ変化を「from 6.0 to 4.0」と丸めて記述)、腺あたりのKi-67陽性細胞数が24時間後に43.8から27.2へ減少(P=0.05)した一方、血清アルブミンには有意な変化が検出されなかったこと、のちに4例が組織学的にほぼ完全寛解を示したこと、単回を超える投与を受けた7例中6例にセツキシマブ特有の皮疹が出たこと、1か月の試験を完了した7例のうち4例が最終的に胃切除を受けたことを確認した閲覧 2026-08-20