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Drug Atlas · B36 Targeted cancer therapy / 分子標的薬

セツキシマブ

cetuximab

分類
Targeted cancer therapy / 分子標的薬Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤
商品名(日本)
アービタックス
商品名(EU)
Erbitux
科目
Pharmacology
トピック
B36: Drugs used in cancer treatment VI (Large molecule signal transduction inhibitors. Immunostimulant anticancer drugs)
副作用
皮疹爪囲炎
影響検査値
マグネシウム
対象疾患
大腸癌頭頸部癌

🧠 全体像は EGFR のに結合するモノクローナル抗体(語尾 -ximab)で、大腸癌ではRAS遺伝子(KRAS/NRAS)が野生型のときにしか効かないという前提条件が、薬そのものの薬理より重要になる薬である。EGFRは細胞膜上の受容体にすぎず、そこから下流へを伝えるRAS-RAF-MAPK経路の途中にがあれば、上流の受容体をどれだけ塞いでも下流は独立して回り続ける。「上流を止める意味があるのは、下流が正常に制御されているときだけ」という発想が、このクラス最大の試験ポイントになる。

薬効群の中での位置づけ

高分子標的薬は「抗体で何を狙うか」で整理すると理解しやすい。は①シグナルを塞ぐ抗体のうち、EGFRを狙う一角にあたる。

標的 代表薬 抗体の型 主な適応
EGFR 型/ RAS野生型大腸癌・
HER2 ヒト化型 HER2陽性乳癌・胃癌
VEGF-A ヒト化型 大腸癌・肺癌・など

同じEGFR阻害でも、低分子TKI()とは狙う集団が違う。 低分子TKIは肺癌でEGFR陽性の腫瘍を狙うのに対し、/は大腸癌でRASが野生型(=EGFRから下流への経路が正常に制御されている)腫瘍を狙う。同じ受容体でも「変異があるから効く」薬と「変異がないから効く」薬が同居しているのが紛らわしいポイント。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cetuximab'>セツキシマブ</span>がEGFR<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular domain'>細胞外ドメイン</span>に結合"] --> B["EGF・TGF-αなど<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endogenous ligand'>内因性リガンド</span>の結合を阻止"]
    B --> C["EGFR<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dimerization'>二量体化</span>を阻害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='downstream signal'>下流シグナル</span>遮断<br>RAS→RAF→MEK→ERK<br>PI3K→AKT"]
    D --> E["腫瘍細胞の増殖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='survival signal'>生存シグナル</span>↓"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fc region'>Fc部分</span>がNK細胞のFcγ受容体に結合"]
    F --> G["ADCC(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antibody-dependent cellular cytotoxicity (ADCC)'>抗体依存性細胞傷害</span>)"]
    H["腫瘍細胞のRAS遺伝子に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activating variant (mutation)'>活性化変異</span>あり"] -.->|"下流が受容体非依存に<br>活性化し続ける"| D
    H -.->|"上流を塞いでも無効"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cetuximab'>セツキシマブ</span>は効かない"]

💡 「RAS野生型が前提」の意味を機序から理解する。 EGFRを塞いでもRASそのものが変異を持っていれば、下流のRAF-MEK-ERK経路はEGFRの指令を待たずに回り続ける。だから大腸癌へ投与する前にKRAS/NRASの全エクソン(コドン12・13だけでなく61・117・146なども含む)を調べるのが必須になっている。

薬物動態

項目 値・特徴
のみ(
構造 (マウス由来Fab+ヒトIgG1定常領域)
分布・消失 受容体を介した取り込みで消失する(標的介在性)。高用量ほど相対的に消失が遅くなる
半減期 約4〜5日(投与を重ねるとやや延長)
代謝・排泄 肝・腎の酵素を介さない。抗体としてを受ける

適応

領域 使いどころ
大腸 RAS野生型の転移性大腸癌。化学療法との併用が基本
頭頸部 :放射線療法との併用(局所進行例)、+5-FUとの併用(再発・転移例)

RAS野生型でも効きにくい集団がいる。 現行のNCCN/ESMOガイドラインでは、右側大腸癌(盲腸〜)はRAS/BRAF野生型であってもへの反応が乏しいことが複数の(CALGB/SWOG 80405、FIRE-3など)で示されており、左側原発に優先して用いる。またBRAF V600E変異があれば、たとえRAS野生型でも単独の効果は乏しく、BRAF/MEK阻害薬との併用療法が検討される。「RAS野生型」だけでなく「BRAF野生型」「左側原発」まで揃って初めての効果が期待しやすいというのが現行の理解。

用法・用量

週1回投与、または2週毎投与のレジメンがあり、初回はから開始することが多い。投与前に拮抗薬などのを行い、速度を緩徐にしてに備える。であるため、特に牛肉・豚肉アレルギーの既往がある一部地域の患者で初回投与時から重篤なアナフィラキシーが起こりうる(後述)。実際の用量・はレジメン・・施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • ⚠️ RAS変異陽性大腸癌には投与しない。 効果が期待できないばかりか、無効な治療で有害事象だけを負わせることになる
  • ⚠️ 初回投与時の重篤な(アナフィラキシー):一部の患者は投与前からに対するIgEを保有しており、初回投与の早い段階で重症反応を起こしうる(特有のリスクで、では頻度が下がる)
  • (まれ)
  • での放射線療法併用時は心肺停止の報告があり、のモニタリングを要する

副作用

頻度 内容
高頻度 様(ざそう)皮疹効果と相関するとされる)、、皮膚乾燥
注意 血症(EGFRは腎のTRPM6チャネルを介したMg再吸収にも関与するため、遮断すると再吸収が落ちる)、下痢、
重篤・まれ 重症・アナフィラキシー、、心肺停止(放射線併用時)

まとめ

  • 。EGFRに結合しを阻害、ADCCも併せ持つ。
  • RAS(KRAS/NRAS)野生型のにのみ有効。下流のRAS変異があれば上流を塞いでも無意味。
  • 現行ガイドラインでは左側原発・BRAF野生型であることも効果予測に重要。
  • にも適応(放射線併用・化学療法併用)。
  • は効果の指標とされる代表的副作用。低Mg血症はTRPM6経路を介した機序。
  • ゆえに初回投与時の重篤なリスクがより高い。