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Disease Atlas · 皮膚 · 腫瘍

化膿性肉芽腫

Pyogenic granuloma

別名
血管拡張性肉芽腫毛細血管拡張性肉芽腫分葉状毛細血管腫Lobular capillary hemangioma
臓器系
皮膚耳鼻咽喉科
科目
Pathology
トピック
病理学 B/42:心臓・血管腫瘍病理学 C/30:口唇・口腔・咽頭の病理
鑑別疾患
カポジ肉腫悪性黒色腫血管腫細菌性血管腫症
治療薬
硝酸銀イミキモドアリトレチノインチモロールプロプラノロール
原因薬剤
イソトレチノインカペシタビン5-フルオロウラシルドセタキセルパクリタキセルセツキシマブパニツムマブゲフィチニブエルロチニブラパチニブオシメルチニブイマチニブベムラフェニブシクロスポリンAタクロリムス
症状
皮膚結節出血びらん・潰瘍爪囲炎

🧠 全体像:この疾患は名前が二重に誤っている。膿を出すわけでも(化膿性ではない)、とからなる肉芽腫でもない。実体は中心のを核にした毛細血管ので、学術的に正確な名称はである1。臨床で問われるのは3点に尽きる——①急速に増大し触れただけで出血する赤い結節という像、②その像を作るを見落とさないという一線、③反応性増殖に見えて実は妊娠と薬剤という2つの明確な誘因をもつこと。

名称の落とし穴

「」という呼称は、かつて本症を感染や化膿性の刺激に対する過剰な肉芽腫性反応と考えていた時代の名残であり、現在は誤称と明言されている1。文献でもが見出し語として定着し、が同義語として併記される2。という表記も同一の病変を指す。

⭐ 名称を疑うことが病理の理解に直結する。 肉芽腫はマクロファージのであり、本症の像とは別物である。組織学的には中心にをもつ小葉が並び、疎なに薄壁の毛細血管が埋まる1。

さらに近年は「反応性増殖」という位置づけ自体が動いている。に続発した病変10例のうち8例に BRAF p.Val600Glu、1例に NRAS 変異が見つかり、孤発例25例でも同じ BRAF 変異が3例に検出された。変異を担っていたのは内皮細胞であり、著者らは本症を良性腫瘍と位置づけている3。

誘因——外傷は思ったより少ない

誘因 内容
外傷 誘因として古くから挙がるが、外傷歴に直接帰せられるのは最大7%にとどまる1
妊娠 第2・の歯肉に好発し、granuloma gravidarum・epulis gravidarum と呼ばれる1
薬剤 多発性の爪囲病変では最大30%が薬剤関連と報告される1
既存の ・に、またそれらへのレーザー・後に生じうる1

⚠️ 原因薬は「と分子標的薬」で束ねて覚える。 をはじめとする全身性・外用の、の、・、・、(・・・・・)、、の、・などが挙げられている1。

💡 による・爪囲病変は様の副作用として記述されてきた。でもに様の増殖性病変が重なる。「爪のまわりに赤い肉が盛り上がってきた」という訴えでは、まずを取る。

臨床像

・〜暗赤色ので軟らかい丘疹〜結節で、直径は数mm〜2cm程度。急速に増大し、表面はしばしばする2。わずかな外力で大量に出血するのが最大の特徴で、受診理由もたいていこれである。基部に鱗屑の襟をめぐらせる1。

  • 皮膚では小児は顔面、成人は体幹・四肢に好発する2。
  • 粘膜では口腔(とくに歯肉)が最多で、口唇・舌・・・子宮頸部にも生じる1。
  • 新生児ではに生じ、と呼ばれる2。
  • 発症は全年齢に及ぶ。ある総説では発症のピークが10歳代にあり、粘膜病変は女性では30歳代に多かった1。

鑑別——外せない一線

flowchart TD
    A["急速に増大する赤い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pedunculated'>有茎性</span>結節"] --> B{"経過・分布は典型的か"}
    B -- "典型的で単発" --> C["臨床診断が可能"]
    B -- "非対称・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pigmented'>色素性</span>変化を伴う<br>難治・再発を繰り返す" --> D["生検で組織学的確認"]
    C --> E["切除するなら検体は必ず病理へ提出"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amelanotic melanoma'>無色素性悪性黒色腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='squamous cell carcinoma'>有棘細胞癌</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Angiosarcoma'>血管肉腫</span>を除外"]
    E --> F
鑑別対象 手がかり
⚠️ 悪性黒色腫(・) 最も見落としてはならない相手。色素を欠くと外見が酷似する2
免疫不全(とくに感染)という文脈。皮膚生検とで桿菌を確認する
同じく免疫不全の文脈。様型という組織亜型があり、LANA-1免疫染色が助けになる
血管腫(乳児血管腫) する経過をとる。免疫染色でGLUT-1が陽性となり、陰性の本症と分かれる1
多発・対称性で、で暗紫色のラクーナを示す

⚠️ 切除した検体は必ず病理へ出す。 臨床診断で足りる病変ではあるが、悪性腫瘍を「だと思って」してしまう事故を防ぐ唯一の手段が組織学的確認である1。

治療

自然消退しないうえ、出血・潰瘍・整容上の問題を起こすため治療の対象になる1。標準治療は確立しておらず、どの方法にも再発の可能性を説明しておく。

方法 位置づけ
完全切除・縫合 再発が最も少なく、病理標本も得られる。有茎でない病変・で優先される1
・+ 整容部位で用いるが再発が多い1
、による化学的 切除によらない選択肢21
・・1,064nm Nd:YAGレーザー 小児や整容部位ので考慮する1
・ゲル・・ 外用の選択肢として報告がある1

⭐ 妊娠中の病変は原則として待つ。 妊娠に伴う口腔病変は分娩後に退縮することが多いため、出血が問題にならない限り分娩後まで経過をみるのが理にかなう1。薬剤性のものも、の中止・変更が最初の一手になる。妊娠関連・薬剤性のいずれも、誘因が続くかぎり治療後の再発率が高い1。

まとめ

  • は「化膿性」でも「肉芽腫」でもなく、実体はという良性の血管性増殖である。ではが見出し語、・が同義語にあたる。
  • 内皮細胞の BRAF・RAS が報告され、単なる反応性ではなく良性腫瘍として位置づけられつつある。
  • 誘因のうち外傷は最大7%にとどまり、妊娠(歯肉のgranuloma gravidarum)と薬剤(・などの分子標的薬)の比重が大きい。多発性の爪囲病変では最大30%が薬剤関連である。
  • ⚠️ 急速増大・易出血の赤い結節という像はと共有される。切除検体は必ず病理へ提出する。
  • 治療は完全切除が再発最少。妊娠に伴う口腔病変は分娩後に退縮しやすく、薬剤性はの見直しが先に立つ。

出典

  1. 1.Pyogenic Granuloma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)学術的に正確な名称が分葉状毛細血管腫であり化膿性肉芽腫は誤称であること、外傷歴に直接帰せられるのは本症の最大7%にとどまること、多発性の爪囲病変は最大30%が薬剤関連と報告されること、原因薬として全身性・外用のレチノイド、インジナビル、カペシタビン、全身性5-フルオロウラシル、ドセタキセル、パクリタキセル、EGFR阻害薬(セツキシマブ・パニツムマブ・ゲフィチニブ・エルロチニブ・ラパチニブ・アファチニブ・オシメルチニブ)、イマチニブ、BRAF阻害薬(ベムラフェニブ)、TNF阻害薬、mTOR阻害薬、シクロスポリン、タクロリムスが挙げられること、妊娠中とくに第2・第3三半期の歯肉に生じたものをgranuloma gravidarum・epulis gravidarumと呼ぶこと、組織像が中心の栄養血管をもつ小葉状の毛細血管集簇であること、CD31・CD34・第VIII因子関連抗原が陽性で乳児血管腫と違いGLUT-1が陰性であること、ある総説では発症のピークが10歳代で粘膜病変は女性では30歳代に多かったこと、完全切除が再発率の低い方法で剃刀切除・掻爬では再発が多いこと、凍結療法・硝酸銀による化学的焼灼・色素レーザー・CO2レーザー・1,064nm Nd:YAGレーザー・イミキモド・アリトレチノインゲル・チモロール・プロプラノロールが選択肢であること、悪性化能はないが自然消退しないため治療を要すること、妊娠関連の口腔病変は分娩後に退縮することが多いことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.あたらしい皮膚科学 第21章 皮膚の良性腫瘍(北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室・2018)本邦の皮膚科教科書が見出し語として「化膿性肉芽腫」を採り同義語に「毛細血管拡張性肉芽腫」を挙げていること、外傷などを誘因として生じる毛細血管の増殖と血管腔の拡張を主体とした血管腫の一種で直径数mm〜2cmの半球状に隆起した有茎性の軟らかい腫瘤であること、外傷により容易に出血・潰瘍を形成すること、新生児では臍部に生じることが多く臍肉芽腫と呼ばれること、小児では顔面・成人では体幹や四肢に好発すること、急速に出現しびらんを形成して出血するため無色素性悪性黒色腫などとの鑑別を要すること、治療として凍結療法・硝酸銀塗布・炭酸ガスレーザー療法・外科的切除を行いステロイド外用が有効なこともあることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.BRAF and RAS Mutations in Sporadic and Secondary Pyogenic Granuloma(The Journal of Investigative Dermatology・2016)ポートワイン母斑に続発した化膿性肉芽腫10例中8例にBRAF c.1799T>A(p.Val600Glu)、1例にNRAS c.182A>Gを認めたこと、孤発性の化膿性肉芽腫25例では同じBRAF変異が3例、BRAF c.1391G>Aが1例、KRAS c.37G>Cが1例であったこと、変異特異的免疫染色で変異を担う細胞が内皮細胞であることを確認したこと、これらの所見から本症を良性腫瘍と位置づけたことを確認した。⚠️ 抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03