病理学

病理学 · B/42

心臓・血管腫瘍

Cardiac and vascular tumors

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High-yield / ポイント
疾患
Kasabach-Merritt現象PHACE症候群カポジ肉腫様血管内皮腫グロムス腫瘍化膿性肉芽腫結節性硬化症血管腫脂肪腫心臓粘液腫乳頭状線維弾性腫房状血管腫
症状
毛細血管拡張

🧠 全体像:心臓腫瘍は「全体では転移が最多、原発では成人=・小児=が最多」という頻度の逆転を押さえるのが鍵。は良性(整った)→中間(・多くの)→悪性(未整の血管、細胞異型)というスペクトラムで理解すると鑑別の軸が定まる。

心臓腫瘍 — 概要

  • 転移腫瘍が最も多い心臓腫瘍(癌患者の約5%)。頻度順の:肺癌、リンパ腫、乳癌、白血病、黒色腫、、。⭐ 30年間の連続剖検266例の解析では、がわずか2例だったのに対し転移性は264例で、転移性は原発性のおよそ132倍の頻度であった1。
  • 原発性心臓腫瘍は稀で、最も多い5つは良性(悪性化なし)。
  • 教科書的な頻度順(講義では成人として提示): > 線維腫 > > > 。ただし線維腫とは主に小児の腫瘍で、小児の良性心臓腫瘍で最多なのはと線維腫である2。悪性はが代表(後述)。⚠️ 「良性で最多はどれか」は数える母集団で入れ替わる——を最多とする従来の位置づけはな剖検症例集積にもとづくもので、近年の心エコー・手術の症例集積ではが最多でありうるとされる(心エコー1,100件あたり1件)3。⚠️ 上の5点の並び全体が剖検由来と裏づけられているわけではない。分母を言わずに「最多」と答えない。

原発性心臓腫瘍

腫瘍 主な特徴
成人で最多の。の左房、単発、1〜10cm、・ゼラチン状・。有茎型は収縮期にへ「振れ込む」 → (「」)、塞栓、発熱、
線維腫 小児で2番目に多い。心室心筋(左室・中隔)、HCMを模倣、境界明瞭、心室性不整脈を起こす
不良の脂肪塊。左室・左房・、・不整脈または無症状
弁上の毛髪状突起、塞栓しうる、器質化した血栓のことも
乳児・小児で最多。アポトーシス欠陥 → の(と関連)、弁・流出路閉塞、しばしば、組織像:をもつ大型円形細胞()
悪性の代表。右房に好発し、診断時に転移していることが多い2

⚠️ 「が唯一の悪性」ではない。 悪性のはの5〜6%にすぎないが、内訳は肉腫64.8%・リンパ腫27%・8%で、肉腫にも・・・・・・がある。分化型の肉腫ではが最も多く、次いでである2。

血管腫瘍 — 枠組み

良性、中間、悪性に分けられる。内皮細胞または血管周囲の支持細胞から生じる。大血管(大動脈、肺動脈、大静脈)のは稀な結合組織肉腫。鑑別の原則:

  • 良性: 血液・リンパで満たされ、正常内皮に裏打ちされた整った。
  • 悪性: 未整の血管、より細胞性で。

良性血管腫瘍

  • 血管腫: 乳児・小児期に多い。(異)常な血液充満血管の数の増加、多くは先天性、退縮しうる(1/3は肝に生じる)。⭐ 乳児血管腫はする経過をとり(新しい研究では90%が4歳までに退縮完了)、全身治療を要する例には経口が第一選択となっている45。
    • 毛細血管性: 密に詰まった毛細血管、皮膚・粘膜・肝/脾/腎、〜青色。
    • : 大きく拡張した血液充満腔、深部・なし・浸潤性、血栓+、の一部(脳 → 出血リスク)。
      • ⚠️ 「」は現行の血管異常分類では使わない方向の語である。 の用語集は、この語がとの乳児血管腫という別々の病変を指して使われてきたため診断上の混乱を招くとして、使用を強く勧めていない6。
    • : 外傷後に急速増大する赤くした結節(皮膚・歯肉・口腔粘膜)、退縮しうる。
  • : 有痛性、グロムス小体の()由来、指先端・爪下、グロムス細胞+分岐毛細血管。
  • 血管拡張(真の腫瘍ではない・Vascular ectasia): の局所拡張。
    • — (母斑、頭頸部、型は残存・肥厚)、(中心核+放射状細動脈、高エストロゲン状態:妊娠、肝硬変)。

💡 腫瘍か奇形か。 (2025)は血管異常を「(細胞が増殖する)」と「(形成異常)」に分ける。乳児血管腫は早期に増殖してするGLUT-1陽性の良性腫瘍、(小葉状管腫)も良性腫瘍に置かれる一方、()はであり、ともの欄に入る6。「血管拡張は真の腫瘍ではない」という上の整理はこの枠組みと合っている。

中間悪性度

: HHV-8による。+赤血球++炎症細胞、紫色の無痛性の局面・結節、免疫不全患者に多い。4型(同一機序):・欧州型(高齢の地中海系、陰性、緩徐)、リンパ節腫脹型・アフリカ型(若年、進行性、陰性)、移植関連型(免疫抑制、進行性・)、関連型(HIV陽性、早期に広範播種)。💡 2020年軟部腫瘍分類(第5版)では、は「肉腫」という名に反して悪性群ではなく中間群に置かれる7。でものである6。

: 血管腫との中間スペクトラム、内皮細胞+管腔、皮膚/脾/肝、約40%が再発、約20%が転移(講義の値)。

⚠️ 「」は1つの腫瘍名ではなく群の名前で、全部が中間ではない。 2020年分類ではカポジ様・内皮腫・複合・偽などが中間群に入る一方、類上皮は名前に反して悪性群に置かれる(全体の約15%、肺・胸膜などで強い侵襲性)7。も類上皮を悪性とする6。

悪性血管腫瘍

: 悪性内皮腫瘍、高齢者、皮膚/軟部/乳房/肝。

  • 肝: 物質 — 、、。既知の原因が同定できる症例は少数(約25%)で、塩化ビニル曝露例の潜伏期は約20年に及ぶ8。
  • リンパ管肉腫: 乳房切除・放射線の数年後(慢性)。
  • 形態:赤色結節 → 浸潤縁・壊死・出血を伴う大きく肉質の赤褐色・灰白色腫瘤、進行性の局所浸潤+転移。
  • ⚠️ 「」は現行の分類では廃止された病名である。 様の血管パターンを示すな腫瘍に広く使われてきたためで、その多くは現在と認識されている7。講義の「も悪性」は旧分類での記述として扱う。

💡 ポイント: 心臓腫瘍で全体最多 = 転移、成人の原発最多 = (左房、、)、小児最多 = (、グリコーゲン「」)。血管:血管腫(良性、毛細血管性/、↔von Hippel-Lindau)、(有痛性、爪下)、(HHV-8、免疫不全)、(悪性、肝↔/PVC/、リンパ管肉腫↔乳房切除後)。

まとめ

  • 心臓腫瘍全体で最も多いのは(肺癌・リンパ腫・乳癌が主)で、原発性腫瘍は稀かつ大部分が良性である。
  • 成人ので最多は(左房・、への振れ込みでを来す)。
  • 小児で最多は(と関連、グリコーゲンを含む「」が特徴)。
  • は良性(整った)・(、多くの)・悪性(、類上皮)に分けられる。・は腫瘍ではなく(ISSVA)。
  • はHHV-8による4型(・リンパ節腫脹型・移植関連型・関連型)があり、免疫不全患者に多い。
  • は分化型の原発性心臓肉腫で最も多い悪性腫瘍だが唯一ではなく、心臓にはほかの肉腫・リンパ腫・も原発する。肝は・・との関連が知られる。

出典

  1. 1.A 30-year analysis of cardiac neoplasms at autopsy(Canadian Journal of Cardiology・2005)トロント大学病院ネットワークの1973〜2004年の連続剖検266例の心臓腫瘍のうち原発性はわずか2例で残り264例が転移性であり、転移性心臓腫瘍は原発性のおよそ132倍の頻度であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Cardiac Tumors: JACC CardioOncology State-of-the-Art Review(JACC: CardioOncology・2020)全文(PMC8352246)で、悪性の原発性心臓腫瘍は原発性心臓腫瘍の5〜6%にすぎず、その内訳は肉腫64.8%・リンパ腫27%・中皮腫8%であること、原発性心臓肉腫の組織型には血管肉腫・平滑筋肉腫・脂肪肉腫・横紋筋肉腫・滑膜肉腫・粘液線維肉腫・未分化多形肉腫があり、分化型の肉腫では血管肉腫、次いで平滑筋肉腫が多いこと、血管肉腫は右房に好発し診断時に転移していることが多いこと、小児の良性心臓腫瘍では横紋筋腫と線維腫が最多であることを確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.Cardiac papillary fibroelastoma(Journal of Geriatric Cardiology・2021)Europe PMC経由でPMC8185441の全文を確認した。良性原発性心臓腫瘍で粘液腫が最多という従来の位置づけが大規模な剖検症例集積に基づくものであり、心エコー技術の向上と乳頭状線維弾性腫の理解が進んだ近年の症例集積では乳頭状線維弾性腫が最多でありうるとされること("recent case series studies have found that, in fact, cardiac papillary fibroelastoma may be the most common benign primary cardiac neoplasm")、Taminらが心エコー1,100件あたり1件の割合を報告したことを確認した閲覧 2026-09-08
  4. 4.Clinical Practice Guideline for the Management of Infantile Hemangiomas(American Academy of Pediatrics・2019)全身治療を要する乳児血管腫には経口プロプラノロール(用量2〜3mg/kg/日)を第一選択薬とすること(推奨グレードA・strong)、旧来は退縮が年10%の速さで進行し5歳までに50%・9歳までに90%が消退すると教えられてきたのに対し新しい研究では退縮の90%が4歳までに完了するとされることを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.A Randomized, Controlled Trial of Oral Propranolol in Infantile Hemangioma(New England Journal of Medicine・2015)生後1〜5か月の増殖期乳児血管腫460例を対象とした無作為化二重盲検比較試験で、プロプラノロール3mg/kg/日を6か月投与した群の治療成功率がプラセボ群より有意に高かった(60%対4%、P<0.001)ことを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.ISSVA Classification of Vascular Anomalies and Glossary(International Society for the Study of Vascular Anomalies (ISSVA)・2025)ISSVA分類(Copyright 2025、用語集は2025年3月更新)で、血管異常を血管性腫瘍(良性・境界・悪性)と血管奇形に分け、乳児血管腫と化膿性肉芽腫(小葉状毛細血管血管腫)を良性、カポジ肉腫とカポジ様血管内皮腫などの血管内皮腫群を境界、血管肉腫と類上皮血管内皮腫を悪性の血管性腫瘍に置くこと、ポートワイン母斑(Nevus flammeus)を低流速の毛細血管奇形(Port wine CM)とし、毛細血管拡張とクモ状血管腫も毛細血管奇形の欄に置くこと、乳児血管腫が早期の増殖と自然退縮という特徴的な経過をとりGLUT-1陽性であること、「海綿状血管腫」は静脈奇形と深在性の乳児血管腫の両方を指して使われてきた歴史的用語で診断上の混乱を招くため使用を強く勧めないとしていることを確認した閲覧 2026-09-24
  7. 7.The 2020 WHO Classification of Soft Tissue Tumours: news and perspectives(Pathologica・2021)全文(PMC8167394)のTable IV(血管性腫瘍)で、カポジ肉腫が悪性群ではなく中間群に置かれ(HTML版の表の見出しはIntermediate (locally aggressive)で、稀に転移する群との区別は表に現れない)、悪性群が類上皮血管内皮腫と血管肉腫の2つであること、本文が類上皮血管内皮腫を名前に反して悪性に位置づける理由として全体の転移率約15%と肺・胸膜などでの強い侵襲性を挙げていること、2013年以降の大きな変化として血管周皮腫という病名が廃止され、その多くが孤立性線維性腫瘍と認識されるようになったことを確認した閲覧 2026-09-24
  8. 8.Liver Angiosarcoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)肝血管肉腫の既知の危険因子が塩化ビニルモノマー曝露・トロトラスト(コロイド性二酸化トリウム)曝露・慢性ヒ素摂取などであること、既知の原因を特定できない症例が約75%を占め、塩化ビニル曝露から発症までの潜伏期が約20年に及ぶことを確認した閲覧 2026-08-27