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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

脂肪腫

Lipoma

臓器系
腫瘍皮膚運動器
科目
PathologySurgeryGynecologyENTHistopathology
トピック
病理学 C/98:脂肪組織腫瘍病理学 B/42:心臓・血管腫瘍病理学 C/42:小腸・大腸の腫瘍病理学 B/02:腫瘍の組織学的分類(上皮性・間葉系・造血/リンパ系など)外科学 B/18:大腸ポリープ・ポリポーシス症候群・憩室症の外科的側面外科学 B/22:ヘルニアの定義・分類・症状婦人科 15:外陰・腟の良性病変耳鼻咽喉科 43:口腔・咽頭の良性腫瘍と前癌病変病理学 C/79:陰茎・陰嚢・精巣上体の疾患組織病理 H1-020:心筋脂肪浸潤(HE染色)組織病理 H2-109B:脂肪肉腫(後腹膜)
鑑別疾患
鼠径ヘルニア軟部肉腫粘膜下腫瘍
合併症
腸重積症
症状
疼痛腫脹

🧠 全体像は成熟からなる性の良性腫瘍で、成人における軟部腫瘍として最も頻度が高い。皮下に生じる通常型が大多数を占めるが、血管・筋・を混じえる亜型や、腸管・心臓・・外陰・口腔咽頭など脂肪組織に乏しい部位に生じる例もあり、部位によって発見の入口ももまったく異なる。学習上の核心は「これは本当にか」を見極めること——サイズ5 cm未満・浅在性・緩徐増大という典型像から外れたら、との鑑別に進む。

病態と分類

は単クローン性の良性で、正常の成熟脂肪組織に酷似する。組織学的には均一な大きさの成熟が薄いに包まれ、細胞異型やを欠く。

的には非ランダムな染色体異常を示し、12q13-15(HMGA2遺伝子)の再構成が最も多く、次いで6p21(HMGA1遺伝子)の再構成、13qの異常が続く3系統に大別される。

💡 HMGA2・HMGA1はいずれもクロマチンのを組み替えることで転写を調節する因子で、正常な分化では発現が抑制されている。再構成によりこの抑制が外れると、前駆細胞が単クローン性に増殖する——「脂肪が増えた」のではなく「特定のクローンが腫瘍として増えた」という理解が、良性でも腫瘍と呼ぶ根拠になる。

亜型と発生部位

通常型(皮下)が大多数を占めるが、混在する組織や発生部位によって亜型が分かれる。

亜型 特徴 主な部位・背景
通常型 均一な成熟性、単発が多い 皮下(上背部、頸部、肩、腹部)に最多
脂肪組織に毛細を伴う。しばしば有痛性 前腕・体幹、若年成人に多い
またはを混じえる。13q14(RB1)の欠失を示す 項部・肩・上背部、中高年男性に多い
骨格筋間または筋内に浸潤性に発育する深部病変 四肢の深部軟部組織
由来。11q13の異常を伴う ・腋窩・大腿、若年成人
を含む) 多発性の形式をとることがある 四肢・体幹に多発、顔面・頭皮は比較的まれ
多発性の有痛性と肥満を伴う症候群 閉経後女性に多い

⭐ 「有痛性の」を見たらする。通常型は無痛性が原則であり、疼痛は亜型を疑う手掛かりになる。

は被膜を欠き骨格筋へ浸潤性に発育するため、辺縁切除後の局所再発率が通常型より高い。ただし遠隔転移能はなく、あくまで良性腫瘍にとどまる点は変わらない。

部位別の臨床像

脂肪組織に乏しい臓器へ生じるは、部位ごとに発見の契機が異なる。

部位 臨床像
皮下(最多) 無痛性・軟らかい・可動性の皮下腫瘤として緩徐に増大する
大腸ので最多の亜型。多くは無症状の内視鏡的だが、2 cmを超えると出血やの原因になりうる
心臓 成人ので3番目に多い。心室・などに生じ、無症状のことも、・不整脈の原因になることもある
精索・ 中に見つかることが多く、腹膜前脂肪が脱出したもの(いわゆる)と真の腫瘍との鑑別が問題になる。腫脹との鑑別に挙がる
外陰 に軟らかい皮下腫瘤として触知される。他の外陰腫瘤との鑑別対象になる
口腔・咽頭 、口腔底、咽頭に黄色調の軟らかい腫瘤として生じる。多くは無症状で、大きい場合のみ嚥下・を来す

⚠️ 心臓のは、性の腫瘤という点で、心間へびまん性に脂肪が入り込むや、の非腫瘍性の脂肪沈着()とは異なる病態である。境界明瞭な腫瘤を形成しているかどうかが鑑別の軸になる。

脂肪腫とALT/WDLPSの鑑別

学習上もっとも重要なのは、の鑑別である。ALT/WDLPSは低悪性度ながらの一種であり、形態がに酷似するため画像・肉眼所見だけでは判別が難しい。

項目 ALT/WDLPS
好発部位 皮下(四肢・体幹・頭頸部) 後腹膜、精索、縦隔などの深部軟部組織
深さ 浅在性(皮下)が多い より深い、または体腔内
サイズ 多くは5 cm未満で緩徐に安定 しばしば5 cmを超え、後腹膜では10 cmを超えることもある
組織像 均一な成熟、線維性間質はごく少量 大型異型核を伴うが散在する
単純な12q13-15(HMGA2)・6p21・13q再構成 MDM2・CDK4遺伝子増幅(12q13-15領域)が診断の中心

⚠️ 「深部・大きい・後腹膜・再発性」のいずれかがあれば、として安易に切除せず、画像で脂肪性腫瘤の性状を確認し、必要ならMDM2・CDK4増幅の証明(蛍光in situや免疫染色)を行う。詳しい鑑別と治療の考え方は軟部肉腫を参照する。

flowchart TD
    A["皮下・軟部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipoma'>脂肪腫</span>様腫瘤"] --> B{"5cm未満・浅在性・<br>緩徐増大・無症状?"}
    B -->|"はい"| C["典型的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipoma'>脂肪腫</span>として臨床診断<br>画像・生検は必須ではない"]
    B -->|"いいえ<br>(大きい・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep-seated'>深在性</span>・急速増大・再発)"| D["超音波・MRIで<br>脂肪性腫瘤の性状を確認"]
    D --> E{"厚い隔壁・結節状増強域など<br>非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='typical finding'>典型所見</span>がある?"}
    E -->|"あり"| F["MDM2・CDK4増幅を<br>FISH・免疫染色で確認"]
    F --> G["ALT/WDLPSを疑い<br>軟部肉腫の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical care pathway'>診療経路</span>へ"]
    E -->|"なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipoma'>脂肪腫</span>として経過観察<br>症状・整容目的があれば切除"]

診断

典型的な小型・浅在性・可動性の皮下腫瘤は、・触診による臨床診断で十分なことが多く、画像・生検は必須ではない。

  • 超音波:皮膚に平行な境界明瞭な腫瘤として描出される。
  • MRIと同じ信号強度を全シーケンスで示し、隔壁は薄く(2 mm未満)、結節状の増強域を欠く。
  • (隔壁が厚い、結節状増強域がある、深部・後腹膜性、急速増大)があれば、ALT/WDLPSを念頭に追加画像や生検を検討する。

生検は診断が確実な典型例には不要だが、深部病変や非がある場合はでMDM2・CDK4増幅を確認する。

💡 は、内視鏡でによりすると軟らかく凹む「」、CTでは脂肪濃度そのものを示す所見が診断の手掛かりになる。いずれも脂肪という組織そのものの性状を反映しており、悪性所見(潰瘍、、急速増大)を伴わない限り、生検で組織を採取しなくてもとして経過観察できる根拠になる。

治療

無症状で診断が確実なは治療を要さず、経過観察でよい。切除を検討するのは次のような場合である。

  • 疼痛・圧迫症状・機能障害を伴う。
  • 整容上の希望がある。
  • 急速な増大、深部・後腹膜性など診断に確信が持てない。
  • が出血やを来した、心臓が弁機能や伝導系に影響する、など部位特有の合併症がある。

性の通常型は被膜ごと摘出すれば再発はまれである。一方、は被膜を欠き骨格筋へ浸潤性に発育するため、辺縁切除では取り残しが生じやすく、通常型より局所再発率が高い。ただし遠隔転移能はなく、再発してもあくまで良性の範囲にとどまる。多発性の表在性にはが整容目的で用いられることもある。

まとめ

  • は成人で最も頻度の高い軟部腫瘍で、成熟からなる性の良性腫瘍である。的には12q13-15(HMGA2)、6p21(HMGA1)、13qの再構成が代表的。
  • 亜型には(有痛性)、(13q14・RB1欠失)、(浸潤性、局所再発率が高い)、由来、11q13異常)、(多発性)がある。
  • 皮下が最多の発生部位だが、下(で最多亜型)、心臓(で3番目)、精索・、外陰、口腔・咽頭にも生じ、部位ごとに発見の契機が異なる。
  • 最も重要な鑑別はALT/WDLPSで、深部・5 cm超・後腹膜性・再発性のいずれかがあれば安易に切除せず、画像評価とMDM2・CDK4増幅の確認を検討する。
  • 典型的なは臨床診断で十分で、無症状なら経過観察でよい。切除は症状・整容・診断的不確実性・部位特有の合併症がある場合に行う。