組織病理学

組織病理学 · H1-020

心筋脂肪浸潤(HE染色)

Fatty infiltration of the myocardium (HE)

疾患
脂肪腫

🧠 全体像:は、の脂肪組織が心筋束の間へ入り込む所見で、右室壁に目立ちやすい。脂質が内へ蓄積する「脂肪変性」とは異なり、成熟として存在することが最大の識別点である。

標本の要点

項目 所見
臓器 心臓、壁
染色 ・染色(hematoxylin and eosin stain:HE)
脂肪から心筋束間へ連続する成熟
心筋 好酸性に染まる束が脂肪組織で隔てられる
脂肪の位置 内ではなく、細胞外の成熟内
標本内の構造 心内膜、右室心筋、浸潤脂肪、脂肪

成り立ちと病的意義

脂肪は正常でも存在する。加齢や肥満に伴って脂肪が増え、心筋束の間へ入り込むことがある一方、線維化を伴うは後や不整脈原性右室心筋症などでも生じうる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subepicardium'>心外膜下</span>脂肪組織"] --> B["右室壁の心筋束間へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adipocyte'>脂肪細胞</span>が進展"]
    B --> C["心筋束が脂肪組織で隔てられる"]
    C --> D["高度・広範または線維化を伴う場合<br>伝導の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heterogeneity'>不均一性</span>が増す可能性"]
    D --> E["原因疾患に応じて不整脈リスクを評価"]

⚠️ 脂肪が見えるだけでや不整脈の原因と断定しない。 孤立性のはになりうる。心臓以外の原因で死亡した148例の「正常心」を調べた検討では、85%の心臓に右室の心筋内脂肪が認められ、高齢者と女性でより多かった。しかも148例のいずれにも有意な線維化や炎症はなかった1。つまり右室の脂肪そのものは正常範囲の所見でありうる。や重篤な不整脈の危険性は、脂肪の量だけでなく、線維化、の脱落、炎症、壁菲薄化、基礎疾患を含めて判断する。

観察の順序

低倍率

  1. とを同定し、その間にある右室心筋壁の厚さをする。
  2. の広い脂肪組織から、が心筋束間へ連続して入り込む分布を見る。
  3. 心筋壁が脂肪で完全に置換されているのか、心筋束が十分残っているのかを確認する。
  4. 線維化、炎症、脱落、壁菲薄化の有無を探す。

高倍率

観察部位 読み方
成熟 大きな状細胞が並び、薄い細胞質と辺縁へ押された核を示す。通常の切片では脂質が溶出して白く見える
好酸性の細長い細胞質をもち、中央に核を置く。とは独立した細胞集団である
浸潤境界 心筋束の間にが入り込み、を島状・に隔てる
脂肪 心筋外側の脂肪組織で、浸潤脂肪とのが読みやすい
心内膜 側の薄い被覆層で、標本の向きを決める目印になる

💡 各領域の面積や周長そのものはではない。では分布、の残存、線維化の有無が重要である。

💡 鑑別に挙げる「ARVC」という名前自体が広がっている。 線維脂肪性心筋置換は右室に限らず左室優位型・両室型にも共通する所見であることが分かり、現在はという概念で扱われる。右室優位型だけを対象とした2010年修正Task Force基準の限界を補うために2020年のPadua基準が提案され、右室優位型・両室型・左室優位型のいずれも診断対象に含めた2。ARVCという旧称は右室優位型を指す語として実習・試験でも使われ続けるので、両方を対応づけて覚える。

鑑別

病変 鑑別点
の脂肪変性 が内に蓄積する。成熟が間へ進展する像とは異なる
生理的な脂肪 心筋外側に限局し、深部への明らかな進展が乏しい
右室優位の心筋脱落と線維脂肪性置換を示す。線維化を伴わない単純なと分ける点が決め手で、診断は組織像単独では行わず、構造・組織・心電図・不整脈・家族歴/遺伝の各領域の・を組み合わせる(2010年修正Task Force基準)3
の脂肪性化生 既存の内に脂肪組織を認め、虚血性傷害の分布を伴う
心臓 境界明瞭な腫瘤を形成し、びまん性に間へ入り込むとは異なる

まとめ

  • では、成熟がから右室心筋束間へ入り込む。
  • 脂肪は内ではなく、独立した内に存在する。
  • 低倍率では心内膜・右室壁・脂肪の位置関係、高倍率では成熟と残存心筋を確認する。
  • 単独でや不整脈を断定せず、線維化や心筋脱落、基礎疾患を評価する。

出典

  1. 1.Fat in the right ventricle of the normal heart(Histopathology・2005)非心臓死148例の「正常心」を検討し、85%の心臓で右室に何らかの心筋内脂肪を認め、高齢者と女性で脂肪置換が有意に多く、148例のいずれにも有意な線維化や炎症は認めなかったこと、この頻度の高い単純な脂肪浸潤を不整脈原性右室心筋症と混同しないよう注意すべきことを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Diagnosis of arrhythmogenic cardiomyopathy: The Padua criteria(International Journal of Cardiology・2020)線維脂肪性心筋置換が不整脈原性心筋症(ACM)に共通する表現型病理所見であること、2010年修正Task Force基準が右室優位型のみを対象とし左室優位型を診断できない限界をもつこと、Padua基準が右室優位型・両室型・左室優位型のいずれのACMも診断対象に含めたことを確認した。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Diagnosis of arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy/dysplasia: proposed modification of the Task Force Criteria(International Task Force (European Heart Journal)・2010)2010年修正Task Force基準が構造・組織・心電図(再分極/脱分極)・不整脈・家族歴/遺伝の各領域に大基準と小基準を置き、組織所見についても正常データとの比較に基づく定量的基準を導入したこと、したがって組織像単独ではARVCを診断しないことを確認した。閲覧 2026-08-24