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Disease Atlas · 皮膚 · 症候群

Kasabach-Merritt現象

Kasabach-Merritt phenomenon

別名
Kasabach-Merritt syndromeKMSKMP
臓器系
皮膚血液小児
科目
Pathology
トピック
病理学 B/42:心臓・血管腫瘍
鑑別疾患
血管腫
治療薬
シロリムスプレドニゾロンメチルプレドニゾロンビンクリスチンアセチルサリチル酸
症状
皮膚結節点状出血出血疼痛
検査値
血小板数フィブリノゲンDダイマー破砕赤血球

🧠 全体像を理解する鍵はただ一つ、「これはふつうの乳児血管腫では起こらない」という点に尽きる。かつては急速に増大するどんな乳児血管腫でも生じうると考えられていたが、現在では原因病変がとそれより稀な房状血管腫という、まったく別の血管腫瘍に限られることが証明されている。病態の実体は、腫瘍血管の特異な構造が循環血小板を病変内に捕捉し、局所でフィブリノゲンを消費し尽くすであり、を伴うも加わる。治療はを安易に行わず、・副腎皮質ステロイド・で腫瘍そのものを退縮させることが軸になる。名前が似ているだけのとはの別疾患である点も、取り違えを防ぐために強調しておく。

原因病変:ふつうの乳児血管腫ではない

⚠️ は、乳児血管腫(内皮細胞が増殖して自然消退する良性腫瘍)では生じない。 原因となる血管腫瘍は次の2つに限られる12

原因病変 頻度
罹患例の約7割で原因になる
房状血管腫 罹患例の約1割で原因になる

💡 ただし「Kasabach-Merritt症候群」という語は、分野によって今も広い意味で使われている。 肝胆膵・外科領域のガイドラインは、巨大なに伴うをKasabach-Merritt症候群と呼ぶ記述を残しており、このvaultでも外科学 S-12外科学 B-13がその立場で書いている。欧州肝臓学会の良性肝腫瘍ガイドライン(2016年)は、の推奨のなかで Kasabach-Merritt 症候群を増大病変・圧迫症状と並ぶ専門チーム紹介の要件として挙げている3血管腫瘍・の分類が整理された後も領域ごとに用法が分かれたままで、同じ語が指す病変が文献によって違う。 本ノートは血管性腫瘍の分類に沿った狭義(KHE・房状血管腫)で扱う。

これらは病理学的にも臨床的にも乳児血管腫とは別の腫瘍である。境界不明瞭で紫紅色〜赤色調の急速に増大する腫瘤として四肢・体幹・頸部・顔面に生じ、約1割は内臓に病変があり視認できない2。生後12か月までに診断されることが多い2

⚠️ とは名称が似ているだけの別疾患である。 感染を背景とする成人・AIDS患者に生じる腫瘍で、乳幼児のの原因病変である「様」とは、組織像・年齢層・原因のいずれも異なる。「に似た組織像を持つ」という意味でしかないが、混同の元になりやすい。

病態:血小板の病変内捕捉

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Kaposi sarcoma'>カポジ肉腫</span>様<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hemangioendothelioma'>血管内皮腫</span>または房状血管腫"] --> B["腫瘍血管に特有の裂隙状血管腔"]
    B --> C["循環血小板が血<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraluminal'>管腔内</span>に捕捉・隔離される"]
    C --> D["血小板の局所活性化・消費"]
    D --> E["病変局所でのフィブリノゲン消費"]
    E --> F["重度の血小板減少・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypofibrinogenemia'>低フィブリノゲン血症</span>"]
    B --> G["異常血管による赤血球の機械的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fragmentation'>破砕</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microangiopathic hemolysis'>微小血管症性溶血</span>性貧血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schistocyte'>破砕赤血球</span>"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='consumption coagulopathy'>消費性凝固障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic diathesis'>出血傾向</span>"]

本質は血小板の「病変内での捕捉」による局所消費であり、全身性の凝固活性化ではない。 腫瘍血管内皮の特異な構築(裂隙状の血管腔)が循環血小板を物理的に捕捉・隔離し、免疫染色ではCD61陽性血小板が血に証明される。捕捉された血小板が活性化されるとともに、病変局所でフィブリノゲンが消費される1。同じ異常血管が赤血球を機械的に傷つけることで、性貧血も合併する14では機械的を反映するを認める。

臨床像・検査所見

  • 急速に増大する紫紅色〜赤色調の腫瘤に、疼痛・を伴う1
  • 高度の血小板減少により広範な点状出血・を呈する1
  • 病変が深部・後腹膜・に及ぶほど診断が遅れやすく、予後にも影響する12
検査項目 典型的な変化
著明に低下(多くは10,000/µL未満)1
フィブリノゲン 低下
・フィブリン分解産物 上昇
出現(を反映)
PT・aPTT 正常〜軽度延長にとどまることが多い1

治療

flowchart TD
    A["KHE・房状血管腫による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Kasabach-Merritt phenomenon'>Kasabach-Merritt現象</span>と診断"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sirolimus'>シロリムス</span>+副腎皮質ステロイドを開始"]
    B --> C{"血小板・フィブリノゲンが改善するか"}
    C -->|"改善"| D["腫瘍の退縮を確認しながら継続"]
    C -->|"不十分・進行"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vincristine'>ビンクリスチン</span>を追加"]
    A --> F["活動性出血・周術期以外は<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet transfusion'>血小板輸血</span>を避ける"]
    F --> G["フィブリノゲン低値には<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryoprecipitate'>クリオプレシピテート</span>を考慮"]

⚠️ は活動性出血時・周術期以外は避ける。 輸血された血小板もまた病変内に捕捉されて活性化されるため、腫瘍の増大や疼痛を助長しうる1。同じ理由でヘパリンによるも禁忌とされる1。フィブリノゲンが症候性に低値の場合はを考慮する1

)と副腎皮質ステロイドの併用が第一選択になりつつある。 では10例全例でKHEのとKMPの完全消退が得られ、を要さずできる利点もあって多くの施設が第一選択に採用している1

は、問題が血小板の凝集ではなく病変内への隔離であるため効果が乏しく、単独治療としては用いない1

予後

早期に診断・治療されればは治療開始から数日で改善し始め、凝固能は数週間で正常化し、腫瘍も退縮しうる1。未治療のは生命を脅かし、死亡率は約3割とされ、内臓病変で視認できない例は診断が遅れて予後が悪化しやすい2。治癒後も・慢性疼痛・機能障害が残ることがある1

まとめ

  • は、ふつうの乳児血管腫ではなく、(約7割)・房状血管腫(約1割)という別の血管腫瘍が原因である。
  • 名称が似ているとは組織像・年齢層・原因のいずれも異なる別疾患であり、混同しない。
  • 病態の本質は血小板の病変内での捕捉による局所消費で、上昇・を伴うを来す。
  • は活動性出血・周術期以外は避け、ヘパリンは禁忌である。
  • +副腎皮質ステロイドが新しい第一選択になりつつあり、北米ではステロイド+、欧州では+アスピリンが標準治療とされてきた。

出典

  1. 1.Kasabach-Merritt Phenomenon: Classic Presentation and Management Options(Clinical Medicine Insights: Blood Disorders・2017)Kasabach-Merritt現象(KMP)の原因病変がカポジ肉腫様血管内皮腫(KHEの約70%に合併)と房状血管腫に限られ、当初考えられていた通常の乳児血管腫では生じないことが証明されたと述べていること。機序として、腫瘍血管内皮の特異な構築(裂隙状の血管腔)が循環血小板を捕捉・隔離し(免疫染色でCD61陽性血小板が血管腔内に証明される)、病変局所でフィブリノゲンが消費されることを説明していること。検査所見として血小板数が3,000〜60,000/µL(多くは10,000/µL未満)まで低下すること、低フィブリノゲン血症、Dダイマー・フィブリン分解産物の上昇、異常血管による赤血球の機械的破砕(sheering)に伴う溶血性貧血を来しうること、PT・aPTTは正常〜軽度延長にとどまることを述べていること。治療で血小板輸血は活動性出血時・周術期以外は避けるべきであり(血小板捕捉・活性化を助長し腫瘍増大と疼痛を来しうるため)、ヘパリンは禁忌であること、北米標準治療が全身性副腎皮質ステロイド+週1回静注ビンクリスチンであること、欧州標準治療がビンクリスチン+アスピリン+チクロピジンであること、シロリムス+副腎皮質ステロイドが第II相試験で10例全例のKHE部分奏効・KMP完全消退を達成し多くの施設で第一選択になりつつあることを確認した。閲覧 2026-08-12
  2. 2.Kasabach-Merritt Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Kasabach-Merritt症候群が血小板減少・微小血管症性溶血性貧血・消費性凝固障害を呈することを明記していること、評価には全血球計算・凝固パネル(PT・aPTT)を含み血小板減少が高度になりうること、凝固検査でPT・aPTT延長・低フィブリノゲン血症・Dダイマー上昇を認めることを確認した。末梢血塗抹における破砕赤血球の明記はない。閲覧 2026-08-12
  3. 3.EASL Clinical Practice Guidelines on the management of benign liver tumours(European Association for the Study of the Liver (EASL)・2016)肝血管腫の推奨のなかで「Kasabach-Merritt症候群がある場合、増大する病変、圧迫による症状のある病変は良性肝腫瘍の多職種チームへ紹介する」と述べており、肝胆膵領域のガイドラインが現に肝血管腫にKasabach-Merritt症候群を帰属させていることを確認した。カポジ肉腫様血管内皮腫・房状血管腫への言及はない。閲覧 2026-08-12
  4. 4.Kasabach-Merritt Syndrome(Cleveland Clinic・2026)カポジ肉腫様血管内皮腫が罹患乳児の約7割、房状血管腫が約1割でKasabach-Merritt症候群の原因病変になること、血小板と赤血球が異常な腫瘍血管内に捕捉され赤血球が早期に損傷されること、微小血栓形成が凝固蛋白(特にフィブリノゲン)を消費し重度の血小板減少・低フィブリノゲン血症・貧血に至ること、生後12か月までに診断されることが多く四肢・体幹・頸部・顔面に病変が生じること、約1割は内臓に病変があり視認できないこと、治療としてシロリムス(副腎皮質ステロイド併用のことがある)とビンクリスチン化学療法、外科的切除・塞栓術・放射線療法、輸血・血小板輸血・クリオプレシピテート・新鮮凍結血漿による支持療法を挙げていること、死亡率が約3割とされ無症候性病変での診断遅延が予後を悪化させることを確認した。閲覧 2026-08-12