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Disease Atlas · 皮膚 · 腫瘍

血管腫

Hemangioma

別名
乳児血管腫苺状血管腫毛細血管性血管腫
臓器系
皮膚小児
科目
CardiologyPathologyPediatricsDermatology
トピック
循環器内科 B-16:血管画像診断(超音波・CT・MRI)と血管奇形病理学 B/42:心臓・血管腫瘍小児科 3-04:神経芽腫・Wilms腫瘍・小児肝腫瘍皮膚科 1-01:皮膚の原発疹・続発疹
鑑別疾患
Kasabach-Merritt現象リンパ管奇形動静脈奇形
合併症
慢性心不全(高拍出性)
関連疾患
弱視
治療薬
プロプラノロールチモロールプレドニゾロン

🧠 全体像:血管腫を理解する鍵は、「血管の病変=みな似たようなもの」という思い込みを捨てることである。血管腫は内皮細胞が増殖する良性腫瘍であり、→退縮期というをたどって多くは自然に小さくなる。これに対し(毛細など)はでの血管形成の異常であり、内皮細胞は増殖せず自然消退しない。名前も見た目も紛らわしいこの2つを「腫瘍か、発生異常か」という一点で区別できることが、乳児の皮膚を診るうえでの土台になる。

病態:腫瘍か奇形か

flowchart TD
    A["乳児期に生じる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular lesion'>血管性病変</span>"] --> B{"内皮細胞が増殖するか"}
    B -->|"増殖する(腫瘍)"| C["血管腫"]
    B -->|"増殖しない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='structural aberration'>構造異常</span>)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular malformations'>血管奇形</span>"]
    C --> C1["生後数週〜数か月で急速増大<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative phase'>増殖期</span>)"]
    C1 --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plateau'>プラトー</span>期"]
    C2 --> C3["自然に縮小<br>(退縮期、数年かけて)"]
    D --> D1["出生時から存在"]
    D1 --> D2["緩徐に成長・周囲へ浸潤"]
    D2 --> D3["自然消退しない<br>治療(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sclerotherapy'>硬化療法</span>・塞栓・切除)を要しやすい"]

血管腫は乳児期最初の6か月で急速増大したのち、多くは自然消退するである。は出生時から存在し、緩徐に成長・周囲へ浸潤して治療を要しやすい——このの違いこそが両者を分ける最大の実用的ポイントである。 血管腫はを追える病変が大半だが、は「様子を見れば小さくなる」という期待が外れる病変である。

自然史と分類

乳児血管腫の期・退縮期の3段階をたどる。最初の3か月で急速に増殖し、5〜8か月にかけて緩徐な増殖が続く(深部の病変では9〜12か月まで増殖が続くこともある)。6〜12か月でに達したのち退縮期に入り、5年で約50%、7年で約70%、9年で約90%が退縮する1。内皮細胞はすべての増殖段階でGLUT1(1)を発現し、や他の血管腫瘍との鑑別マーカーとして用いられる1

病型 特徴
毛細血管性血管腫 密に詰まった毛細血管からなり、皮膚・粘膜に好発。色〜青色を呈する
大きく拡張した血液充満腔からなり、深部・なしで浸潤性。を伴うことがある
外傷後に急速増大する赤色のした結節。皮膚・歯肉・口腔粘膜に生じ、しうる
(乳児型) で多くは経過観察でよいが、巨大病変ではの評価を要する

皮膚病変としての血管腫は、平坦な色調変化を示すの分類では色の隆起性病変として位置づけられ、や充血と同じ「赤」の系統に含まれるが、触知できる隆起を伴う点で単純な充血とは区別される。

臨床像

乳児血管腫は出生直後にはごく軽微な・蒼)として気づかれ、生後数週から急速に隆起性の色病変(いわゆる「血管腫」)へと成長する。単発が多いが、多発例では内臓病変(とくに肝)の合併を疑う。

女児に多く(男女比は最大1対5)、早産・・出生前低酸素が危険因子として知られる1

診断

診断の大部分は病歴と・触診による臨床診断で完結する。出生後の急速な増大というそのものがとの鑑別点であり、多くの表在性病変では画像検査を要しない。

深部病変・巨大病変・PHACES症候群が疑われる顔面正中の大型分節状病変では、造影MRIまたはで病変の広がりと血流パターンを評価し、治療計画(全身導入前の心血管・評価を含む)に役立てる。血管腫はGLUT1を全増殖段階で発現するため、非典型例で生検した場合はGLUT1免疫染色がや他の血管腫瘍との鑑別に用いられる1。多発病変や急速な増大と血小板減少を伴う病変では、通常の乳児血管腫としての経過観察に進む前に、内臓病変の検索や凝固能評価を追加する。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 血管腫をと取り違えない。 出生時から存在し急速を経ずに緩徐に拡大する病変はを疑うべきで、「乳児のだから経過観察でよい」と一律に扱わない。は自然消退しないため、・塞栓術・レーザー・外科切除といった血管腫とは異なるになる。

⚠️ 危険な部位の血管腫はの閾値を下げる。 口唇・顔面・頸部・腋窩・おむつ部の病変はしやすく(症例の最大10%)、あご髭部位の病変は気道血管腫・窒息のリスクと関連し、眼周囲の病変は視軸を遮ってを来しうる12

⚠️ 顔面正中の大きな分節状血管腫(5 cm以上)はPHACES症候群を疑う。 奇形・血管異常・心・眼異常・を伴いうる神経候群で、全身開始前に心血管・の評価を要する1

⚠️ 急速増大するに血小板減少・を伴う場合は、乳児血管腫ではなく(房状血管腫を含む)によるを疑う。 乳児血管腫とは異なり自然消退を期待できず、で生命を脅かしうるため、通常の乳児血管腫の経過観察方針をそのまま当てはめない。

⚠️ 巨大・多発性のの評価を要する。 大きな速い血流の短絡は静脈還流を増やし心負荷を高めるため、心不全徴候(・多呼吸・)を定期的に確認する。

治療

全身治療が必要な乳児血管腫の第一選択は経口であり、局所治療は小型・表在性・非に限られる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic indications'>治療適応</span>の評価"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulceration'>潰瘍化</span>・気道/視軸への影響・<br>整容上の懸念・機能障害があるか"}
    B -->|"なし・小型表在性"| C["経過観察、または<br>局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='timolol'>チモロール</span>を検討"]
    B -->|"あり・進行性"| D["全身<span class='jp-term jp-term-diagram' title='propranolol'>プロプラノロール</span>導入前の<br>スクリーニング(心血管・PHACES評価)"]
    D --> E["経口<span class='jp-term jp-term-diagram' title='propranolol'>プロプラノロール</span><br>2〜3 mg/kg/日を開始"]
    E --> F["少なくとも6か月間、<br>多くは1歳頃まで継続"]
  • 経口2〜3 mg/kg/日が第一選択で、強い推奨のエビデンスに基づく12。生後1〜5か月の乳児を対象としたでは、3 mg/kg/日を6か月間投与するレジメンで群を大きく上回る治療成功率が示され(60% 対 4%、P<0.001)、低血糖・低血圧・徐脈・などの有害事象は群と有意差のない頻度でまれにとどまった3
  • 治療期間は少なくとも6か月間、多くは1歳頃まで継続する。
  • 局所は小型・表在性・非複雑な病変に用いる、全身投与より侵襲の少ない選択肢である1
  • 全身導入前にはのスクリーニングを行い、顔面正中の大型分節状病変ではPHACES症候群の評価を先行させる。
  • などの全身は、が普及する以前の主要な肢であったが、現在は不耐・無効例などに位置づけがしている。
  • 外科的切除は、退縮後の残存組織による整容的問題や、内科的治療で制御できない合併症の予防を目的に検討される1

まとめ

  • 血管腫は内皮細胞が増殖する良性腫瘍で→退縮期をたどり多くは自然消退するのに対し、の血管形成異常で自然消退しない。このの違いが両者を分ける最大のポイントである。
  • は最初の3か月の急速増殖、5〜8か月の緩徐な増殖、6〜12か月の期、その後数年に及ぶ退縮期(5年で50%・7年で70%・9年で90%が退縮)からなる。
  • 女児・早産・・出生前低酸素が危険因子で、GLUT1が全増殖段階で発現する診断マーカーになる。
  • ・気道閉塞・視軸への影響のリスクがある部位の病変、5 cm以上の顔面正中分節状病変(PHACES症候群の懸念)はの閾値を下げる。
  • 急速増大に血小板減少・を伴う場合は乳児血管腫ではなくによるを疑い、通常の経過観察方針を当てはめない。
  • 全身治療の第一選択は経口2〜3 mg/kg/日で、少なくとも6か月・多くは1歳頃まで継続する。小型表在性病変には局所を、導入前には心血管・PHACES評価を行う。

出典

  1. 1.Hemangioma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)乳児血管腫が新生児の約4〜5%に生じ女児対男児比が最大5対1に達すること、早産・低出生体重・出生前低酸素が危険因子であること、自然史が最初の3か月の急速な増殖期・5〜8か月の緩徐な増殖(深部病変は9〜12か月まで持続しうる)・6〜12か月のプラトー期・その後数年続く退縮期からなり退縮率が5年で50%・7年で70%・9年で90%に達すること、GLUT1が全増殖段階で発現し診断マーカーになること、潰瘍化が症例の最大10%に生じ肛門性器部・下口唇・腋窩・頸部で頻度が高いこと、顔面正中の5cm以上の分節状血管腫でPHACES症候群を疑うこと、気道病変が鼻腔・声門下・喉頭に生じうること、視軸周囲の病変が弱視・乱視・近視を来しうること、第一選択治療が経口プロプラノロール2 mg/kg/日であり小型・表在性・非複雑病変には局所チモロールを用いること、外科的切除は合併症予防目的で検討されることを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.A Randomized, Controlled Trial of Oral Propranolol in Infantile Hemangioma(New England Journal of Medicine・2015)生後1〜5か月の増殖期乳児血管腫を対象とした多施設二重盲検ランダム化比較試験で、プロプラノロール3 mg/kg/日を6か月間投与するレジメンが最終的な有効性解析に選ばれ、治療成功率がプラセボ群と比べて有意に高く(60% 対 4%、P<0.001)、低血糖・低血圧・徐脈・気管支攣縮などの有害事象はプラセボ群と有意差のない頻度でまれに生じたことを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.Infantile Hemangioma: AAP Releases Guideline for Management(American Family Physician (American Academy of Family Physicians)・2019)米国小児科学会2019年ガイドラインの要約として、生後1〜3か月に急速に増大し多くは生後5か月までに増殖をほぼ終えること、口唇・顔面・頸部・腋窩・おむつ部の病変は潰瘍化リスクが高いこと、あご髭部位の血管腫は気道血管腫・窒息と関連すること、眼周囲の血管腫は視力に影響しうること、全身治療が必要な場合は経口プロプラノロール2〜3 mg/kg/日が強い推奨のエビデンスに基づく第一選択であること、小型・表在性病変には局所チモロールも処方されうることを確認した閲覧 2026-08-10