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Disease Atlas · 全身 · 症候群

PHACE症候群

PHACE syndrome

別名
PHACES症候群後頭蓋窩奇形・血管腫・動脈異常・心奇形・眼異常症候群
臓器系
全身皮膚神経循環器小児
科目
PathologyCardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
病理学 B/42:心臓・血管腫瘍循環器内科 B-16:血管画像診断(超音波・CT・MRI)と血管奇形
合併症
脳梗塞
続発疾患
大動脈縮窄Dandy-Walker奇形遺残胎児血管系
関連疾患
血管腫神経皮膚症候群
治療薬
プロプラノロールアセチルサリチル酸
症状
頭痛難聴

🧠 全体像:は「大きな分節状の乳児血管腫は、皮膚だけの問題ではない」という一点に尽きる。顔面や頭皮に5 cmを超える分節状の血管腫を見たら、その裏に(P)・血管腫(H)・動脈異常(A)・/(C)・眼異常(E)がに並んでいないかを、頭頸部とのMRA・心エコー・眼科診察で組織的に探す。皮膚の病変が退縮しても動脈病変・頭痛・難聴・神経発達の問題は残る——診断は治療の開始点ではなく、長期の監視計画の開始点である。

定義と呼称

・血管腫・動脈病変・/・眼異常を含むで、1996年にFriedenらが各系統の頭文字を組み合わせてした1。とを加えてと呼ぶこともあり、現行のではこれらは腹側正中のに含まれる2。

乳児血管腫全体でみれば約2.3%にすぎないが、頭頸部のでは20〜31%、近年の多施設報告では238例中108例(44.5%)、50例中29例(58%)と、より高い割合が報告されている1。女児に多く、男女比は最大1対9に達する1。顔面のはS1()・S2()・S3()・S4()の4領域に分けて記述する1。

診断基準

2009年に策定され、2016年のコンセンサスで改訂された1。の骨子は次のとおりである2。

系統 の骨子
動脈 主要脳・頸部動脈の異常(形成異常、狭窄・閉塞、欠損・中等度以上の低形成、・走行、遺残頸動脈-吻合)。bovine archなど一般的な分岐変異は除く
脳構造 、Dandy-Walker complex、中脳/の低形成・形成異常
心血管 の異常(、異形成、動脈瘤)、の(の有無を問わない)
眼 の異常(、、、、)
腹側正中 胸腹部正中の異常(・・・)

は、、正中・、・/・、の異常(・・・)、/下垂体機能低下・正中のである2。

は、①頭部(頭皮を含む)の直径5 cm超の血管腫+1つ(または2つ)、②頸部・・体幹と近位上肢の+2つ、のいずれか。頭部5 cm超+1つ、頸部等+1つまたは2つ、血管腫を欠き2つはpossible PHACEとする2。

臓器別の所見

  • 動脈:最も高頻度の皮膚外病変で63.6〜91.3%に及ぶ。・・・などの大〜中血管を侵し、顔面の血管腫と同側であることが多い。68例の長期追跡では29.4%に血管病変の進行、8.8%にまたは進行性の狭窄・閉塞がみられた1。
  • 脳構造:36.4〜81%に報告され、異常と中脳・低形成が多い。も含まれる1。
  • 心血管:文献上のの頻度は41〜67%、は19〜30%2。⚠️ 本症候群の閉塞は通常のの限局狭窄と違って長い区域に及び、を伴いやすい。しかも両側が閉塞部より遠位から起始することが多いため、による評価が不正確になる2。異常をもつ例の37%が外科的介入を要する2。
  • 眼:約6〜26%と報告に幅がある。S1・S4領域の病変で多い。⭐ 眼周囲に血管腫が無くても眼科的スクリーニングを行う1。
  • 腹側正中:6.7〜26%。・・・が主で、S3領域の病変で多い1。
  • 内分泌:104例中19例(18.3%)に内分泌異常があり、20例の解析では55%が視床下部-下垂体機能異常、50%がによる甲状腺機能低下症であった1。
  • 気道:は本症候群の40〜52%に生じ、下顎から前頸部にかけてのいわゆる、とくにS3領域が高リスクである1。の血管腫と気道病変をもつ小児の47%が本症候群の基準を満たしたという報告がある2。
  • 歯:29.8%、歯根の異常15.4%1。

スクリーニングと初期評価

顔面または頭皮に大きなをもつ乳児は全例がスクリーニングの対象になる。頸部・・体幹と近位上肢の大きなに1つを伴う例、皮膚の血管腫を欠くが2つをもつ例も完全な評価の対象である2。前向き研究では、顔面血管腫の表面積22 cm²以上の乳児の31%がを満たした2。

検査 内容
眼の異常と正中の(・・)に注意する
/MRA を含む頭頸部と、頭部・頸部・のMRA。⚠️ だけでは動脈の異常を描出できない
心エコー 全例に行い、異常があれば/MRAでとの解剖を評価する
眼科診察 眼周囲血管腫の有無にかかわらず行う

とは初期検査としては推奨されず、外科的介入前の評価に限られる2。

⚠️ 脳卒中リスクの層別化

Siegelらは報告済みの22例を検討し、発症の平均年齢が13.6か月、全例が狭窄または描出されない主要脳動脈の支配領域に梗塞を生じ、79%が2本以上の異常動脈をもっていたことを示した。この観察に基づき、初回MRAの所見から3群に層別化する2。

リスク 内容 監視
低リスク 一般集団にもみられる・走行、の変異など血行動態的に無意味な変異 ベースライン以降の定期画像は不要。新たな症状が出れば再検
狭窄を伴わない形成異常、より近位の狭窄・閉塞でが十分な例 小児神経科紹介。鎮静が不要になってからの画像評価
高リスク 動脈輪内または遠位の25%超の狭窄・閉塞で孤立した循環となる例、複数狭窄でが低下しうる例、慢性・や進行性狭窄閉塞を示す実質所見 小児神経科紹介+6か月後・1年後の短期画像フォロー

中間・高リスクではコンタクトスポーツと極端な頸部を伴う活動を避けるよう勧める。高リスクには、エビデンスは乏しいものの1日4〜5 mg/kg(最大81 mg)の(アスピリン)予防投与を考慮する2(2025年の総説は3〜5 mg/kg/日と記す1)。

⚠️ プロプラノロールをいつ始めるか

は全身治療を要する乳児血管腫の第一選択だが、のある動脈病変をもつ本症候群での使用には議論がある2。

  • 原則:頭頸部・のMRAと心エコーというベースライン評価を先に行う。とくに心エコーでを除外してから開始するのが一般的である1。
  • ⚠️ 例外:の閉塞や気道病変など生命・機能を脅かす血管腫では、画像評価の結果を待たずに投与を検討してよい。その場合は、脳血管・大血管の異常が後に判明した際の理論上のリスクを保護者に説明したうえで、標準の2 mg/kg/日より低いおよび/またはより緩徐な増量を選び、1日量を3回に分割しての変動を抑える2。評価期間中は0.5 mg/kg/日という低用量から用いる1。
  • 安全性の実測:Siegelらはβ遮断薬内服中の2例にを報告したが、2例ともを併用し高度の動脈病変をもっていた。Metryらは動脈異常をもつ32例(うち高7例)で大多数が良好にしたと報告している2。2020年には本症候群76例と非罹患726例の比較で、・・心血管事象といった重篤な有害事象を認めず、非重篤な有害事象にも差が無かったと報告された1。

💡 「β遮断薬は危険だから使わない」ではなく、「評価を組み立てながら、低用量から慎重に使う」が現在の立ち位置である。

長期の合併症

皮膚の血管腫が退縮しても、次の問題が残る。

  • 頭痛:32〜89%に生じ、多くは片頭痛様である1。⚠️ 新規の頭痛が生じたら、初回の異常の有無にかかわらず血管病変・脳虚血を含むの検索を行う2。
  • 難聴:17.3〜42%にみられ、感音難聴が最も多い1。
  • 神経発達:1歳以降に言語・を中心とした障害が現れる。10歳以上の追跡では言語34.6%・26.9%・18.3%が報告された1。
  • 心理社会的問題:104例の検討でうつ20.2%・不安29.8%・45.1%が報告されている1。
  • 心血管:非閉塞性の異常には年1回の心エコーによる小児循環器科の経過観察を続ける2。

まとめ

  • 頭部(頭皮を含む)の5 cm超の乳児血管腫に1つで確定診断となる。は動脈・脳構造・心血管・眼・腹側正中の5系統に置かれている。
  • 顔面・頭皮の大きなは全例がスクリーニング対象。⚠️ に加えて頭部・頸部・のMRAが必須(だけでは動脈異常を描出できない)で、心エコーと眼科診察を組み合わせる。
  • 動脈異常が最多(63.6〜91.3%)で、進行性の狭窄・を来しうる。初回MRAで低・中間・高リスクに層別化し、高リスクには短期の画像フォローとアスピリンを考慮する。
  • は長い区域に及び、両側が閉塞部より遠位から起始するためでは拾えないことがある。
  • は原則としてベースライン評価の後に開始するが、視機能・気道を脅かす病変では画像を待たずに低用量・緩徐増量・分3で始めてよい。
  • 皮膚病変の退縮後も頭痛・難聴・神経発達・心理社会的問題が続く。診断はの開始点である。

出典

  1. 1.PHACE syndrome: looking backward and forward(Orphanet Journal of Rare Diseases・2025)PMC12232788の全文を自分で取得して確認した。PHACE症候群が後頭蓋窩奇形・血管腫・動脈病変・心奇形/大動脈縮窄・眼異常を含む神経皮膚症候群であり1996年にFriedenらが各系統の頭文字を組み合わせて命名したこと、乳児血管腫全体の約2.3%を占めるにとどまる一方で頭頸部の分節状乳児血管腫では20〜31%とされ、近年はCottonらが238例中108例(44.5%)、Fordeらが50例中29例(58%)と報告していること、女児に多く男女比が最大1対9に達すること、2006年にHaggstromらが顔面の分節状血管腫をS1(前頭側頭部)・S2(上顎部)・S3(下顎部)・S4(前頭鼻部)の4領域に分けたこと、動脈異常が最も高頻度の皮膚外病変で63.6〜91.3%にみられ内頸動脈・前大脳動脈・椎骨動脈・中大脳動脈・後交通動脈などの大〜中血管を侵し、異常は顔面の血管腫と同側にあることが多く、68例の長期追跡で29.4%に血管病変の進行、8.8%にもやもや病または進行性の狭窄・閉塞がみられたこと、脳構造異常が36.4〜81%に報告され後頭蓋窩異常と中脳・後脳低形成が多いこと、心血管異常が約27〜67%で鎖骨下動脈の異常起始と大動脈縮窄が多いこと、眼異常が約6〜26%と報告されS1・S4領域の病変で多いこと、腹側正中の異常が6.7〜26%で胸骨欠損・胸骨陥凹・胸骨裂・臍上部縫線が主でありS3領域の病変で多いこと、内分泌異常がBraunらの報告で104例中19例(18.3%)にみられ、20例の解析では55%が視床下部-下垂体機能異常、50%が甲状腺形成不全による甲状腺機能低下症であったこと、エナメル質欠損が29.8%・歯根の異常が15.4%にみられること、気道血管腫がPHACE症候群の40〜52%に生じ下顎から前頸部にかけてのいわゆるひげ領域、とくにS3領域が高リスクであること、頭痛が32〜89%に生じ多くが片頭痛様であること、難聴が17.3〜42%にみられ感音難聴が最も多いこと、神経発達の障害が1歳以降に言語・粗大運動を中心に生じ、10歳以上の追跡では言語34.6%・平衡障害26.9%・不注意18.3%が報告されたこと、104例の検討でうつ20.2%・不安29.8%・学習障害45.1%が報告されたこと、診断基準が2009年に策定され2016年の専門家コンセンサスで改訂されたこと、2020年の研究がPHACE症候群76例と非PHACE 726例で経口プロプラノロールの安全性を比較し重篤な有害事象(脳梗塞・一過性脳虚血発作・心血管事象)を認めず非重篤な有害事象にも差が無かったこと、一方でMetryらが高脳卒中リスク例ではβ遮断薬を慎重に用いるべきだとしたこと、一般にプロプラノロール投与前に心エコーで大動脈縮窄を除外すること、評価期間中は血圧の大きな変動を避けるため0.5 mg/kg/日の低用量から用いること、高リスク例の脳卒中一次予防にアスピリン3〜5 mg/kg/日が推奨されること、頭頸部の分節状血管腫では眼周囲血管腫の有無にかかわらず眼科的スクリーニングが勧められることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.PHACE Syndrome: Consensus-Derived Diagnosis and Care Recommendations(The Journal of Pediatrics・2016)PMC6599593の著者原稿全文を自分で取得して確認した。頭部(頭皮を含む)の直径5 cm超の乳児血管腫に大基準1つ(または小基準2つ)を満たすとPHACE症候群確定、頸部・上部体幹・体幹と近位上肢の分節状乳児血管腫に大基準2つで確定とし、頭部5 cm超+小基準1つ、頸部等+大基準1つまたは小基準2つ、血管腫を欠き大基準2つを「possible PHACE」とすること、大基準が動脈系(主要脳・頸部動脈の異常=大脳動脈の形成異常、もやもや側副血行の有無を問わない狭窄・閉塞、大脳・頸部動脈の欠損または中等度以上の低形成、bovine archなど一般的な分岐変異を除く異常起始・走行、遺残頸動脈-椎骨脳底動脈吻合)・脳構造(後頭蓋窩奇形、Dandy-Walker complex、中脳/後脳の低形成・形成異常)・心血管(大動脈弓の異常、大動脈縮窄、異形成、動脈瘤、血管輪の有無を問わない鎖骨下動脈の異常起始)・眼(後眼部の異常=遺残胎児血管系、網膜血管異常、朝顔症候群、視神経低形成、乳頭周囲ぶどう腫)・腹側正中(胸腹部正中の異常=胸骨欠損、胸骨陥凹、胸骨裂、臍上部縫線)であること、小基準が脳動脈瘤、正中脳奇形と皮質形成異常、心室中隔欠損・右側大動脈弓/重複大動脈弓・体静脈異常、前眼部の異常(小眼球、強膜角膜、コロボーマ、白内障)、異所性甲状腺・下垂体機能低下および正中の胸骨丘疹/過誤腫であること、スクリーニングの対象が顔面または頭皮の大きな分節状乳児血管腫をもつ全乳児であり、頸部・上部体幹・体幹と近位上肢の大きな分節状血管腫に大基準1つを伴う例、皮膚の血管腫を欠くが大基準2つをもつ例も完全な評価の対象になること、前向き研究で顔面血管腫の表面積22 cm2以上の乳児の31%が診断基準を満たしたこと、ベースライン評価としてガドリニウム造影を含む頭頸部MRIと頭部・頸部・大動脈弓のMRAを行いMRIだけでは動脈の異常を描出できないこと、全例に心エコーを行い異常があれば心臓MRI/MRAで弓部と腕頭動脈の解剖を評価すること、CT血管造影とカテーテル血管造影は初期検査としては推奨されず外科的介入前の評価に限られること、文献上の先天性心疾患の頻度が41〜67%で大動脈縮窄が19〜30%であること、PHACE症候群の弓部閉塞が通常の傍動脈管部の限局狭窄と異なり長い区域に及び動脈瘤様拡張を伴いやすいこと、両側鎖骨下動脈が閉塞部より遠位から起始するため四肢血圧の上下肢差による評価が不正確になりうること、弓部異常をもつ例の37%が外科的介入を要すること、心疾患を伴う例の50%に鎖骨下動脈の異常起始がみられること、Siegelらが報告済みの脳梗塞22例を検討し発症の平均年齢が13.6か月で全例が狭窄または描出されない主要脳動脈の支配領域に梗塞を生じ79%が2本以上の異常動脈をもっていたこと、この観察に基づき初回MRAの所見から低・中間・高リスクの3群に層別化し高リスクを「Willis動脈輪より遠位または輪内の主要脳血管の25%超の狭窄・閉塞により孤立した循環となる」「複数の狭窄により脳灌流が低下しうる」「慢性・無症候性虚血や進行性狭窄閉塞を示す実質所見」のいずれかとしたこと、低リスクではベースライン以降の定期画像は不要で、中間リスクでは小児神経科紹介と鎮静が不要になってからの待機的画像評価、高リスクでは6か月後と1年後の短期画像フォローを推奨すること、中間・高リスク群にはコンタクトスポーツと極端な頸部肢位を伴う活動を避けるよう勧め、高リスクにはエビデンスは乏しいものの1日4〜5 mg/kg(最大81 mg)のアスピリン予防投与を考慮すること、非閉塞性の弓部異常には年1回の心エコーによる小児循環器科の経過観察を勧めること、プロプラノロールが全身治療を要する乳児血管腫の第一選択でありFDA承認薬である一方、脳卒中リスクのある動脈病変をもつPHACE症候群での使用には議論があること、Siegelらがβ遮断薬内服中のPHACE症候群2例に急性虚血性脳卒中を報告したが2例とも経口ステロイドを併用し高度の動脈病変をもっていたこと、Metryらが動脈異常をもつ32例(うち高脳卒中リスク7例)の治療を報告し大多数が良好に忍容したこと、視軸の閉塞や気道病変など生命・機能を脅かす血管腫では画像評価の結果を待たずにプロプラノロール投与を検討してよく、その場合は脳血管・大血管の異常が後に判明した際の理論上のリスクを保護者に説明したうえで標準の2 mg/kg/日より低い目標用量および/またはより緩徐な増量を検討し1日量を3回に分割すること、ひげ領域の血管腫と気道病変をもつ小児の47%が診断基準を満たしたこと、新規の頭痛が生じた場合は初回MRIの異常の有無にかかわらず血管病変・脳虚血を含む二次性頭痛の検索を行うことを確認した閲覧 2026-09-03