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Disease Atlas · 眼科 · 先天性疾患

遺残胎児血管系

Persistent fetal vasculature

別名
遺残硝子体過形成症PFVPHPV
臓器系
眼科小児
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
発生学 19.4:眼:臨床発生学 19.3:眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体発生学 19.1:眼:眼胞と眼杯
鑑別疾患
Coats病眼トキソカラ症網膜芽細胞腫
合併症
白内障弱視網膜剥離緑内障
続発疾患
眼球癆
症状
白色瞳孔小眼球症視力低下
検査値
眼圧
画像所見
石灰化
原因となる疾患
PHACE症候群

🧠 全体像:は「退縮するはずだったの眼内血管が残ってしまった」という一点から全部が説明できる。どこが残ったかで前部型・後部型・混合型に分かれ、残ったが①を遮ってを作り、②収縮して網膜やを引っ張る、という2つの経路で視力を奪う。⭐ 臨床の入口は片眼性ので、そこで最初にやるべき仕事はを外すことである——の疑いで紹介されながら別疾患だった児に限ると、1歳未満では本症が最も多い1。

名称:PHPVからPFVへ

古典的には(PHPV)と呼ばれてきたが、この名称は「だけが過形成している」という誤った印象を与える。実際に残るのはだけでなく、後面の血管網()やへ向かう枝を含む胎生眼内血管系の全体であり、現在は(PFV)という名称が用いられる2。同じ病態の新旧の呼び名であって、別の疾患ではない。

発生学:どこまでが生理的な遺残か

にはが内に入り、発達中のと網膜を養うを灌流している。その後、のが置き換わるとともに、系はアポトーシスとマクロファージの関与で退縮する(発生学 19.3)。近位部だけはとして存続する。

退縮は「全か無か」ではなく、退縮しきれなかった痕跡は健常眼にも見つかる。

所見 何の遺残か 臨床的な意味
が後面に付着していた部位 の鼻下方の小白点。無症候で治療不要
前面の鞘の膠細胞 乳頭前のベール状の遺残。無症候で治療不要
血管を含むそのものが残存 の遮断・牽引・を伴い、視力を脅かす

💡 点や膠細胞の痕跡と本症を分けるのは「血管を含むとしての量」である。 量があるからこそ収縮し、牽引という第2の機序が働く。

病型

病型 主な所見 起こりうること
前部型 、血管の怒張、後方の、、の延長 膜の牽引でが引かれるとが落ちへ。逆にではへ
後部型 と後面を結ぶstalk、、、 牽引による・・
混合型 前部型と後部型の所見が併存 最も重症。両眼例ではこの型が多い2

はどの病型にも起こりうる()。片眼性が大半で、両眼性は10%未満にとどまる。両眼性ならなどの全身異常を疑い、眼遺伝のに相談する2。

⭐ 網膜芽細胞腫との鑑別が最初の仕事

の原因のうち、放置して命を失うのはだけである。とはいえ頻度は逆で、の疑いで紹介された2,775例のうち22%は別疾患であり、その別疾患だった604例に限ると1歳未満の49%が本症だった1。「多いほうを当てる」ことと「危険なほうを外す」ことを混同しない。

手がかり
眼球の大きさ 患眼が小さい()ことが多い 通常は正常大
超音波での石灰化(⚠️ 小児ではのためを第一選択にしない) 伴わない 腫瘤内石灰化が特徴的
特徴的な構造 乳頭と後面を結ぶstalk、延長した 網膜内の、
経過 先天性・非進行性(合併症で悪化する) 進行性に増大する

⚠️ 超音波で腫瘤内に石灰化を認めたらとして扱い、精査を進める2。石灰化が無いことは本症を支持するが、生検で確かめる選択肢は無い(ではが禁忌)。他に・も同じ入口を共有する。

評価の進め方

flowchart TD
    A["乳児の片眼性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leukocoria'>白色瞳孔</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>下の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='examination under anesthesia (fundus)'>麻酔下眼底検査</span>+B-mode超音波"]
    B --> C{"腫瘤内に石灰化があるか"}
    C -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinoblastoma'>網膜芽細胞腫</span>として精査"]
    C -->|"なし"| E{"乳頭と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>後面を結ぶstalk<br>延長した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary process'>毛様突起</span>があるか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='persistent fetal vasculature (PFV)'>遺残胎児血管系</span>と診断"]
    E -->|"なし"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital cataract'>先天白内障</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Coats disease'>Coats病</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular toxocariasis'>眼トキソカラ症</span>などを検討"]
    F --> H["A-mode超音波で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axial length'>眼軸長</span>を測る"]
    H --> I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axial length'>眼軸長</span>15 mm未満<br>または両眼差3.5 mm以上"}
    I -->|"はい"| J["視力予後は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='light perception'>光覚</span>程度<br>整容・眼球保存を主目的に方針を立てる"]
    I -->|"いいえ"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual axis'>視軸</span>の遮断・牽引の有無で<br>手術適応を判断"]

15 mm未満、または両眼差3.5 mm以上の眼では、手術をしてもを超える視力が得られることはまれである2。この数値は「手術をしない」判断そのものではなく、家族への説明と目標設定を変えるために測る。

治療

  • が透明で進行が無ければ手術は要らない。 手術適応は、を遮る(・後方の膜)、の進行性の浅化、コントロール不良の緑内障またはの牽引による続発、、である2。
  • 適応があるなら早いほどよい。 待つほどと膠細胞が成熟し、・・が戻らなくなる。の改善は生後13か月より前に手術した児で報告されている2。
  • 手術はと、stalkの切離が中心で、同時にを入れることは勧められない。将来の挿入に備えてを残す選択肢はあるが、後発の癒着に注意する2。
  • ⚠️ 手術は治療の半分でしかない。 片眼性であるほど性・性のが最終視力を決めるため、と治療を術後すぐ始める。を外傷から守るも同時に手当てする2。

合併症と予後

  • 続発緑内障は生涯の合併症で、閉塞隅角・血管新生・両者の混在という機序をとる。術後の約10〜30%に生じ、・・手術時年齢が若いことなどが関与する2。したがって経過観察に終わりが無い。
  • 術中のはを介して治療の失敗に直結するため、術前評価と切開位置の選択で予防する2。
  • 手術をしない例では完全失明に至る割合が報告により27〜70%と幅がある。一方、手術を受けた例でも約10%はへ進行する2。手術は失明を確実に防ぐものではない。
  • 予後は病型(前部型が最も良い)、受診時年齢、両眼性か、随伴奇形、の有無で決まる2。

まとめ

  • (旧称:)は胎生眼内血管系の退縮不全で、残ったがの遮断と牽引という2経路で視力を奪う。
  • ・は同じ血管系の生理的な遺残で無症候。量を持ったが残ったものが本症である。
  • 前部型・後部型・混合型に分け、はどの型にも起こりうる。90%超が片眼性で、両眼性ではなどの全身異常を検索する。
  • 片眼性の入口で最優先の仕事はの除外で、腫瘤内石灰化の有無が最初の分岐になる。の疑いで紹介されて別疾患だった604例のうち、1歳未満では49%が本症だった。
  • が透明なら手術は不要。適応があるなら早期に行い、術後は治療を続け、のため生涯の経過観察を要する。

出典

  1. 1.Lesions simulating retinoblastoma (pseudoretinoblastoma) in 604 cases: results based on age at presentation(Ophthalmology・2013)網膜芽細胞腫として紹介された2,775例のうち604例(22%)が網膜芽細胞腫ではない類似病変であり、その内訳がCoats病244例(40%)・遺残胎児血管系158例(28%)・硝子体出血27例(5%)・眼トキソカラ症22例(4%)の順であったこと、年齢層で内訳が変わり1歳未満では遺残胎児血管系が49%で最多、2〜5歳ではCoats病61%・眼トキソカラ症8%・遺残胎児血管系7%であったことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Diagnostic and Management Strategies in Patients with Persistent Fetal Vasculature: Current Insights(Clinical Ophthalmology・2020)全文を閲覧し、遺残胎児血管系が胎生硝子体血管系の子宮内退縮不全で生じること、大半が片眼性で両眼性は10%未満であり両眼例では混合型が多く網膜病変も重いこと、両眼例ではトリソミー13などの全身異常を除外し眼遺伝の専門家に相談することが勧められること、前部型は浅前房・虹彩血管の怒張・水晶体後方の膜・白内障・毛様突起の延長を示し、膜の牽引で毛様突起が引かれると房水産生が減って低眼圧に至ること、後部型は視神経乳頭と水晶体後面を結ぶstalkが主所見で硝子体牽引・網膜前膜・視神経低形成を伴いうること、小眼球はどの病型にも起こり視力予後が悪いこと、超音波で腫瘤内に石灰化があれば網膜芽細胞腫を疑うこと、眼軸長15 mm未満または両眼差3.5 mm以上では手術をしても光覚を超える視力が得られることはまれであること、手術適応が視軸を遮る混濁・前房の進行性浅化・コントロール不良の緑内障または毛様突起牽引による続発低眼圧・硝子体出血・網膜剥離であること、手術は早いほどよく網膜ひだの改善は生後13か月より前に手術した児で報告されていること、術後合併症が網膜剥離と続発緑内障(術後の約10〜30%)であり生涯の経過観察を要すること、手術を行わない例で完全失明に至る割合が報告により27〜70%であること、手術を受けた例でも約10%が眼球癆へ進行することを確認した。閲覧 2026-09-03