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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

網膜芽細胞腫

Retinoblastoma

臓器系
腫瘍
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-03:小児脳腫瘍と網膜芽細胞腫
鑑別疾患
Coats病Li-Fraumeni症候群遺残胎児血管系眼トキソカラ症眼窩蜂窩織炎白内障未熟児合併症(気管支肺異形成症・未熟児網膜症・脳室内出血・新生児遷延性肺高血圧症)
続発疾患
中枢神経系腫瘍(成人・小児)悪性黒色腫骨肉腫・ユーイング肉腫
関連疾患
神経芽腫・ウィルムス腫瘍
治療薬
ビンクリスチンエトポシドカルボプラチンメルファラン
症状
前房蓄膿白色瞳孔
画像所見
石灰化
適応薬
ビンクリスチン

🧠 全体像:乳幼児に最も多い眼内悪性腫瘍で、RB1(13q14)のによって生じるKnudsonのtwo-hit仮説の原型疾患である。生殖細胞系列に1つ目のhitを持つ遺伝性型(両眼性・多発性・早期発症)と、1個の網膜細胞に2つのhitが揃う型(片眼性・単発)に分かれる。入口はとで、のが最初の関門になる。生検は禁忌で、は「生命を守る→眼球を守る→視機能を守る」の優先順位で決める。

病態

RB1は13番染色体(13q14)にあるで、ヒトで最初に同定されたでもある。腫瘍が発生するには同一の網膜細胞で両方のアレルが失われる必要があり、この「2回の」という考え方がKnudsonのtwo-hit仮説として提唱され、その後の研究の枠組みになった。発生途上の未熟な細胞から生じるという点では、・ウィルムス腫瘍と同じに属する。

RB蛋白は細胞周期のG1/S の中心にある。低リン酸化型のRB蛋白は転写因子E2Fを捕捉してS期関連遺伝子の転写を止めており、増殖刺激で–CDK4/6がRB蛋白を高リン酸化するとE2Fが遊離してS期に進む。両アレルが失われるとこのが恒常的に外れる。

flowchart TD
    A["低リン酸化RB蛋白"] --> B["転写因子E2Fを捕捉"]
    B --> C["G1/S移行を阻止する"]
    D["増殖刺激による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclin D'>サイクリンD</span>–CDK4/6の活性化"] --> E["RB蛋白の高リン酸化"]
    E --> F["E2Fが遊離"]
    F --> G["S期関連遺伝子の転写・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>合成へ"]
    H["RB1両アレルの不活化"] --> I["RB蛋白の機能喪失"]
    I --> F
    I --> J["未熟網膜細胞が制御を失って増殖"]
項目 遺伝性(あり) (のみ)
頻度 約30〜40% 約60〜70%
1つ目のhit の時点で全身の細胞が保因 網膜細胞1個に後天的に発生
2つ目のhit 網膜細胞での(多くはの消失) 同じ細胞で2回目の
病変の広がり 両眼性・多発性が典型(片眼性でも約15%は生殖細胞系列) 片眼性・単発
発症年齢 より早い(1歳前後) やや遅い(2〜3歳)
遺伝形式 。RB1はほぼ(>99%)で、25%以下の低型は家系の10%未満1 遺伝しない
三側性・二次がん 生涯リスクあり ほぼなし

💡 個々の腫瘍細胞のレベルでは両アレルの喪失を要する「劣性」の形質だが、家系のレベルでは1つ目のhitを既に全細胞が持つため2つ目が高率に起こり、のように見える。この見かけの矛盾がtwo-hit仮説の要点である。

⭐ 全体の約2/3が2歳未満で診断され、5歳以降の発症はまれである。両眼性はほぼ全例がによる。

臨床像

⭐ 最も多い初発徴候はで60〜80%を占め、次いでが20〜30%である。は暗所やのフラッシュで瞳孔が白〜黄白色に光る所見で、片眼だけが写らない写真が受診契機になることが多い(猫目様反射)。

⚠️ 乳幼児の・新規発症の・(red reflex)の左右差や減弱は、緊急の小児眼科紹介の適応である。生後6か月を過ぎても残るを「そのうち治る」と経過観察してはならない。AAPはおよび以後のすべての健康診査での確認を行うよう推奨しており、・・左右差はいずれも紹介の根拠になる。

進行例では眼痛、、による、に似た、(眼外進展)がみられる。眼外進展や遠隔転移(骨髄・中枢神経)は医療アクセスの良い地域では稀だが、世界全体では診断の遅れが予後を大きく左右し、3年は高所得国の99.5%に対し低所得国では57.3%にとどまる(診断時に眼外進展を認めた割合も高所得国0.8%に対し低所得国42.9%)2。

の原因 鑑別の手掛かり
白色の網膜内腫瘤、超音波で高反射の石灰化、2歳未満、片眼性/両眼性ともあり
はレベルで、腫瘤を伴わない。でが一様に白い
の異常拡張と。男児・片眼性・やや年長。を伴わず、石灰化はまれで、あってもに沿う線状分布にとどまる3
早産・の既往、両眼性、の血管新生と
() 片眼性・、後方の索、を伴う
犬回虫幼虫による網膜肉芽腫。年長児、ぶどう膜炎・を伴い石灰化を欠く

診断

⚠️ は禁忌である。穿刺路やを通じて腫瘍細胞が眼外へ播種し、局所再発と転移のリスクを大きく高める。診断はと画像で確定させる。

麻酔下のは評価の中核で、を併用して両眼のまで観察し、腫瘍の数・大きさ・部位・・網膜下播種を記録して分類につなげる。は石灰化を伴う高反射腫瘤として腫瘍を捉え、造影MRIは視神経浸潤・浸潤・眼外進展の評価との同時評価に最適である。

⚠️ は石灰化の描出に優れるが、は遺伝性例で二次がんリスクを高めるため、診断にもにも最小限にとどめ、原則として超音波とで代替する。

RB1遺伝学的検査は全例に行う。末梢血でを検索し、陰性でも摘出腫瘍組織の解析やモザイクを想定した高感度検査を追加する。結果は同胞・子のスクリーニング計画と遺伝カウンセリングに直結する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leukocoria'>白色瞳孔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Strabismus'>斜視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red reflex'>赤色反射</span>の異常"] --> B["緊急の小児眼科紹介"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='examination under anesthesia (fundus)'>麻酔下眼底検査</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular ultrasound'>眼球超音波</span>"]
    C --> D["造影MRIで視神経浸潤・眼外進展・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pineal gland'>松果体</span>病変を評価"]
    D --> E["生検は行わず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical signs'>臨床所見</span>と画像で診断"]
    E --> F["眼ごとに国際分類、患者ごとに国際<span class='jp-term jp-term-diagram' title='staging'>病期分類</span>"]
    F --> G["RB1遺伝学的検査と家族<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counseling'>カウンセリング</span>"]
    G --> H["生命・眼球・視機能の優先順位で治療を決定"]

分類・病期

眼球温存の可否は「眼ごと」の国際分類で、生命予後は「患者ごと」の国際で判断する。この2軸を混同しないことが治療計画の前提になる。

分類 評価単位 役割
group A〜E 眼ごと 眼内腫瘍の大きさ・部位・播種の程度から眼球温存の見込みを層別化する
国際 stage 0〜IV 患者ごと 眼外進展・・遠隔転移で生命予後を規定する(0=眼球温存療法のみ、I/II=後の遺残なし/、III=領域進展、IV=遠隔転移)
群 所見の目安 眼球温存の見込み
A 3mm以下の網膜内腫瘍で、黄斑・視神経から離れている ほぼ全例(+で100%)
B Aを超える網膜内腫瘍、または少量ののみ 高い(同93%)
C 限局性の網膜下播種・を伴う 良好(同90%)
D びまん性の播種、広範な 中等度(同47%。内・の併用で大きく改善する)
E 、・浸潤、、大量の眼内出血など 低い。原則は

治療

で腫瘍を縮小させる(chemoreduction)を土台に、残った病変をで叩いて固めるのが基本形である。全身レジメンは・・の3剤併用が標準で、には(の)、(周辺部病変)、(プラーク、中等大の孤立病変や再発)を病変の位置と大きさで使い分ける。

眼球温存を大きく前進させたのがの2つの経路である。はからマイクロカテーテルをへ進めて(必要に応じ・を併用)を注入する方法で、を抑えつつ高濃度を眼内へ届け、group D/Eの温存率を時代の30〜50%からおおむね60〜85%へ引き上げた。合併症として狭窄(約18%)・閉塞(最大9%)、、一過性の血球減少がある。は(±)をへ直接投与するもので、を抜いて一過性とし穿刺部をする安全強化手技が確立して以来、かつては摘出以外に選択肢がなかった眼の温存を可能にした。

はgroup Eや温存不能例、視機能回復の見込みがない眼に行う。視神経を可能な限り長く(10mm以上)付けて切離し、摘出標本に高リスク病理所見(を越える視神経浸潤、広範な浸潤、浸潤、浸潤)があれば術後を追加する。

⚠️ は二次がん、とくに内ののリスクを大きく高める。遺伝性例ではの診断から50年時点の新規がんが36%(は5.7%)に達する。遺伝性例のうち放射線治療を受けた群は、受けていない群に比べて新規がんのリスクが3.1倍(95%CI 2.0〜5.3)である4。⚠️ 36%は遺伝性コホート全体の、3.1倍は照射の有無どうしので、掛け合わせる数字ではない。を受けた患者に限れば、続発する悪性腫瘍の発生は50%を超えるとされる1。オランダのコホートでは40年がを受けた例で33.2%、照射を受けていない遺伝性例で13.3%であった5。そのためは他の手段を尽くした後の選択肢とする。を絞れるは代替となりうる。はとを含むを要するが、中枢神経転移例の予後はとくに不良である。

三側性網膜芽細胞腫と長期フォロー

は、両眼性(まれに片眼性の例)の患児に頭蓋内の原始性腫瘍が加わる病態で、その多くはに生じる(pineoblastoma)である。では両眼性例の5.3%(うち型4.2%、・などの非型0.8%)に生じ、過大評価を避けて100例以上のコホートに限ると3.8%、をもつ遺伝性例では3.5%と、従来言われてきた値より低く見積もられている6。多くは眼腫瘍の診断から1年以上遅れて出現する。ベースラインの頭部MRIで発見された例の5年生存率が67%であるのに対し、症状出現後の診断では11%にとどまるため、遺伝性例では診断時と以後の定期でを評価する(を避けは用いない)。そのものの分類・治療は(成人・小児)を参照する。

⭐ 遺伝性例では生涯にわたり二次原発がんのリスクが続く。診断5年後から40歳ごろまではが最も多く、それ以降は軟部肉腫が上回る。悪性黒色腫、、鼻腔腫瘍、肉腫も増加する。長期フォローの柱は次の3点である。

  • 患児本人:治療終了後もを継続して新病変・再発を追い、生涯にわたり二次がんを念頭に置いた診察を行う。画像はを避けた手段を選ぶ。
  • 同胞・子:RB1変異が判明していれば保因者を、判明していなければ全員を対象に、生後早期から定期的なでスクリーニングする。GeneReviewsは生殖細胞系列RB1保有者について、生後6か月までは3〜4週ごと、3歳までは2か月ごと、7歳までは3〜6か月ごと、10歳までは年1回、以後は2年ごとの眼科診察(幼児では麻酔下)を挙げている1。
  • 家族:遺伝カウンセリングで再発リスク、保因者の子への検査、出生前・の選択肢を説明する。

まとめ

  • RB1(13q14)ので生じるKnudsonのtwo-hit仮説の原型疾患で、遺伝性(約30〜40%、両眼性・多発性・早期発症)と(約60〜70%、片眼性・単発)に分かれる。
  • 低リン酸化RB蛋白がE2Fを捕捉してG1/S移行を止めるが失われ、未熟な網膜細胞が制御を離れて増殖する。
  • 最も多い初発徴候は、次いで。乳幼児の・の異常・新規のは緊急の眼科紹介の適応で、での確認が最初の関門になる。
  • 生検は播種のリスクがあるため禁忌。・・造影MRIで診断し、は最小限にとどめる。
  • 治療は+を基本に、内・で眼球温存が大きく進歩した。は二次がん()のリスクから遺伝性例では極力避ける。
  • 遺伝性例はと生涯続く二次原発がんのリスクを負うため、本人・への長期と遺伝カウンセリングが不可欠である。

出典

  1. 1.Retinoblastoma(GeneReviews, University of Washington, Seattle・2023)NCBIのライブページで Initial Posting 2000年7月18日・Last Update 2023年9月21日を確認した。'About 60% of affected individuals have unilateral retinoblastoma with a mean age of diagnosis of 24 months; about 40% have bilateral retinoblastoma with a mean age of diagnosis of 15 months'、浸透率は 'With few exceptions, RB1 null alleles show complete penetrance (>99%)' で低浸透率型は家系の10%未満・浸透率25%以下であること、'The incidence of subsequent malignant neoplasms is more than 50% in individuals with retinoblastoma who received external beam radiation therapy' で頻度の高い二次腫瘍が骨肉腫・軟部肉腫(主に平滑筋肉腫と横紋筋肉腫)・黒色腫であること、生殖細胞系列RB1病的バリアント保有児のサーベイランスが生後6か月までは3〜4週ごと、3歳までは2か月ごと、7歳までは3〜6か月ごと、10歳までは年1回、以後は2年ごとの眼科診察(幼児では麻酔下)であることを確認した。閲覧 2026-09-04
  2. 2.The Global Retinoblastoma Outcome Study: a prospective, cluster-based analysis of 4064 patients from 149 countries(The Lancet Global Health(Global Retinoblastoma Study Group)・2022)2017年に診断された未治療の網膜芽細胞腫4,064例(149か国・260施設)を3年追跡した前向き研究で、3年生存率が高所得国99.5%(95%信頼区間98.8〜100.0)、高中所得国91.2%、低中所得国80.3%、低所得国57.3%(52.1〜63.0)であったこと、診断時の眼外進展(cT4)が高所得国0.8%に対し低所得国42.9%であったこと、診断時年齢中央値が23.2か月であったことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-04
  3. 3.Exudative Retinitis (Coats Disease)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Coats病では石灰化がまれであり、存在する場合も網膜色素上皮に沿って線状に分布して、網膜芽細胞腫の充実性腫瘤内でランダムに分布する石灰化とは性質が異なること、画像上もCoats病が充実性腫瘤を伴わない滲出性網膜剥離・網膜下液として描出されるのに対し網膜芽細胞腫は石灰化による高輝度エコーを伴う充実性腫瘤として描出されることを確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Risk of new cancers after radiotherapy in long-term survivors of retinoblastoma: an extended follow-up(Journal of Clinical Oncology・2005)1914〜1984年に診断された網膜芽細胞腫生存者1,601例(遺伝性963例・非遺伝性638例)の追跡で、二次がんの標準化罹患比が遺伝性19(95%信頼区間16〜21)・非遺伝性1.2(0.7〜2.0)であったこと、放射線治療が遺伝性例の二次がんリスクをさらに3.1倍(2.0〜5.3)に高めたこと、網膜芽細胞腫診断後50年時点の新規がん累積発生率が遺伝性36%(31〜41%)・非遺伝性5.7%(2.4〜11%)であったことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-04
  5. 5.Subsequent Malignant Neoplasms in Retinoblastoma Survivors(Cancers・2021)オランダのコホートで二次悪性腫瘍の40年累積発生率が放射線治療を受けた生存者33.2%(95%信頼区間24.6〜42.8)、照射を受けていない遺伝性生存者13.3%(3.28〜23.3)であったこと、二次腫瘍の型が年齢帯で異なり 'in the first two decades of life sarcomas were predominating. Melanomas occurred mostly in the third decade while carcinomas were predominantly found beyond the third decade'(第1〜2の10年=0〜20歳は肉腫、第3の10年=20歳代は黒色腫、それ以降は癌腫)であること、体幹・四肢の軟部肉腫は30歳を過ぎて急増する一方、頭頸部では思春期にピークがあることを確認した。閲覧 2026-09-04
  6. 6.The Incidence of Trilateral Retinoblastoma: A Systematic Review and Meta-Analysis(American Journal of Ophthalmology・2015)26研究23コホートのメタ解析で、両眼性網膜芽細胞腫における三側性網膜芽細胞腫の頻度が5.3%(95%信頼区間3.3〜7.7%、うち松果体型4.2%・非松果体型0.8%)、遺伝性網膜芽細胞腫では4.1%(松果体型3.7%)であったこと、過大評価バイアスを避けるため100例以上のコホートに限ると両眼性で3.8%(松果体型2.9%・非松果体型0.7%)、遺伝性で3.5%(松果体型3.2%)に下がり、従来報告されてきた値より低いと結論されたことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-04