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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

眼トキソカラ症

Ocular toxocariasis

別名
眼幼虫移行症OLM
臓器系
眼科感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 5/37:眼感染を起こす原虫と蠕虫(一覧)とその診断微生物学 4/32:イヌ回虫・ネコ回虫
鑑別疾患
トキソプラズマ症網膜芽細胞腫
続発疾患
眼内炎
原因微生物
Toxocara canisToxocara cati
症状
視力低下飛蚊症白色瞳孔
検査値
好酸球増多

🧠 全体像の臨床的な実利はただ1点——小児の片眼性で受診し、と紛れることに尽きる。の幼虫がヒト体内で成虫になれず眼球内へするであり、同じのもう一つの顔であるとは、局所に封じ込められた免疫反応か全身に拡散した免疫反応かという違いから、同一患者に併存しにくい。もう1つのは、全身の免疫応答が乏しいために血清好酸球増多ももしばしば陰性化することで、「検査が陰性だから否定できる」という直感が通用しない疾患である。

病型

眼球内のどこに腫を作るかで3病型に分かれる。

病型 所見
後極に孤立性の隆起した黄白色腫瘤を形成する
周辺部 周辺網膜に隆起した白色腫瘤と、それを取り巻く膜を伴う
慢性 高度の炎症所見(疼痛・充血・)を伴う重症型で、の像を呈する1

いずれの病型も、というに共通する症候で発症しうる一方、小児では症状を訴えられないままのみで受診することも多い。

病態:なぜ内臓型と眼型は併存しにくいか

の幼虫はヒト体内で成虫になれず、行き場を失ったまま組織を無秩序に移行し続ける。臨床像はの強さ・炎症反応の程度・摂取した幼虫量・した臓器で決まる。は多数の幼虫が多臓器へ拡散し全身性の炎症反応(好酸球増多・肝脾腫)を伴う病型であるのに対し、眼型は単眼性に、少数の幼虫が眼球内という一局所にし、そこで免疫反応が局所完結する病型である。この「全身に拡散するか、一局所に封じ込められるか」という反応様式の違いが、同一患者に両病型が併存しにくい理由になる。

💡 眼型で好酸球増多・が陰性になりやすいのも同じ理由である。 眼型では病原体量が少なく炎症が眼局所に限局するため、全身の免疫応答(好酸球増多や検出可能な血清の上昇)が誘導されにくい。血清ELISAが陰性でもは除外できない——ぶどう膜炎患者を対象にした検討では、血清IgG ELISAの感度が80.2%にとどまったのに対し、水のIgG ELISAは感度88.4%・特異度96.4%と血清より優れており、水のが血清より診断的価値が高い2。それでも群の10.7%は水の未満であり、が全て陰性であっても臨床像から否定してはならない2

⚠️ 網膜芽細胞腫との鑑別

⚠️ 小児の片眼性を診た時点で、まずを除外する。 両者は臨床像が重なるが、年齢・画像所見で区別できる。

項目
好発年齢 3歳未満(乳幼児) 8歳前後(年長児)
石灰化 を伴う(超音波) 限局性・乏しい1
病変の性質 腫瘍そのもの(悪性) 幼虫周囲の腫(炎症性)
ぶどう膜炎・ 通常目立たない しばしば伴う
生検 播種のリスクがあり禁忌 診断は血清学・眼内液検査が中心

は生検が播種のリスクから禁忌であるため、この鑑別を誤ると不要なやその逆(悪性腫瘍の見逃し)につながりかねない。年齢・石灰化パターン・炎症所見の3点を組み合わせて判断する。

トキソプラズマ症の眼病変との区別

も小児のの代表的な原因だが、時期と所見が異なる。先天性()の網瘢痕として出生前後から存在し、・水頭症・)の一角をなす。これに対し後天性(土壌中の虫卵の経口摂取)で、年長児にとして現れる点が対照的である。既存の瘢痕()か、新規に形成される腫()かという発生様式の違いが、画像・病歴からの鑑別の軸になる。

診断

  • 病歴:小児の砂場遊び・、イヌ・ネコとの接触歴を確認する。
  • 腫の局在(/周辺部)と随伴するを評価する。
  • 血清学:ELISAによる抗Toxocara抗体を測定するが、陰性でも除外できない。水のELISAは血清より検出率が高い2
  • 好酸球増多は内臓型を示唆する所見だが、眼型では正常のことが多く、正常値だけで否定しない。
flowchart TD
    A["小児の片眼性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leukocoria'>白色瞳孔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='floaters'>飛蚊症</span>"] --> B["緊急の小児眼科紹介"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fundus examination (fundoscopy)'>眼底検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽</span>腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>を確認"]
    C --> D{"石灰化の性状・年齢は"}
    D -->|"高<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luminance'>輝度</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acoustic shadowing'>音響陰影</span>・3歳未満"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinoblastoma'>網膜芽細胞腫</span>を最優先で除外"]
    D -->|"限局性・乏しい・8歳前後"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular toxocariasis'>眼トキソカラ症</span>を疑う"]
    F --> G["血清・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>水のELISA"]
    G --> H["陰性でも臨床像から否定しない"]

治療

  • 副腎皮質ステロイド(局所または全身)が炎症制御の中心で、活動性の炎症・を鎮める目的で用いる。
  • 全身性など)の位置づけは限定的である。 眼内のToxocara幼虫を殺滅する効果は証明されておらず、その役割は明確でない1で使用が検討されることはあるが、単独の中心治療ではない。
  • などのには、などの外科的介入を要することがある。

まとめ

  • 幼虫によるで、腫・周辺部腫・慢性の3病型に分かれる。
  • とは「全身に拡散するか、一局所に封じ込められるか」という反応様式の違いから同一患者に併存しにくく、同じ理由で眼型では好酸球増多・血清が陰性になりやすい。
  • 最大の実利は小児の片眼性におけるとの鑑別で、年齢(8歳前後 vs 3歳未満)と石灰化パターン(限局性 vs 高)で区別する。
  • 先天性の網瘢痕を残すとは、後天性で新規に腫を形成する点が対照的である。
  • 診断は血清・眼内液のELISAだが、陰性でも除外できない。治療は副腎皮質ステロイドが中心で、全身性の役割は証明されていない。

出典

  1. 1.Ocular Toxocariasis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)眼トキソカラ症がToxocara canis/T. catiによる人獣共通感染症であること、臨床像が周辺部肉芽腫・後極部肉芽腫・眼内炎(重症の炎症・疼痛・充血・流涙・羞明を伴う)の3型に分かれること、血清ELISAが陰性でも眼トキソカラ症を除外できず前房水・硝子体液のELISAが検出率を上げること、網膜芽細胞腫との鑑別では網膜芽細胞腫の石灰化が高輝度で音響陰影を伴うのに対し眼トキソカラ症の石灰化は限局性であること、網膜芽細胞腫が3歳未満に多いのに対し眼トキソカラ症は8歳前後に多いこと、全身性駆虫薬(アルベンダゾール・チアベンダゾール)の眼内Toxocara殺滅効果は証明されておらず役割が不明確であること、副腎皮質ステロイドが炎症制御の中心であることを確認した。閲覧 2026-08-12
  2. 2.Diagnosis of Ocular Toxocariasis by Serum and Aqueous Humor IgG ELISA(Translational Vision Science & Technology・2021)ぶどう膜炎患者290例(眼トキソカラ症128例・非眼トキソカラ性ぶどう膜炎162例)の検討で、血清IgG ELISA(カットオフ8.2U)の感度80.2%・特異度94.0%に対し前房水のIgG ELISA(カットオフ1.8U)は感度88.4%・特異度96.4%と優れていたこと、眼トキソカラ症群の10.7%は前房水IgGもカットオフ未満であり血清抗体陰性のみで診断を除外できないことを確認した。閲覧 2026-08-12