微生物学

微生物学 · 4/32

イヌ回虫・ネコ回虫

Toxocara canis, T. cati

微生物
Toxocara canisToxocara cati
疾患
トキソカラ症眼トキソカラ症
症状
白色瞳孔
検査値
好酸球増多

🧠 ・はヒトの体内で「決して成虫になれない」線虫として読む。 本来の終宿主はイヌ・ネコであり、ヒトはに近い迷い込み先にすぎない。幼虫は行き場を失ったまま体内を無秩序にさまよい続け、した臓器に応じて症状が決まる——これがという病態概念そのものである。腸管内で成虫にならないため、ヒトの糞便から虫卵は検出されない点が診断上の急所になる。

分類と形態

項目 内容
分類 回虫科の線虫
Toxocara canis 終宿主:イヌ
Toxocara cati 終宿主:ネコ
ヒトでの位置づけ 幼虫のまま組織内を移行し続ける「」

感染経路と生活環

  • 感染はイヌ・ネコの糞便で汚染された土壌・食物中のの摂取による(小児の砂場での土いじり・土を口にする(土食症)が典型的な感染機会)
  1. イヌ・ネコの糞便中に虫卵が排出される
  2. 環境(土壌)中で1〜4週間かけて卵が成熟し、第3期幼虫を含むになる1
  3. ヒトが成熟卵を経口摂取する
  4. 腸管内で幼虫がするが、ヒト体内では成虫にまで発育しない
  5. 幼虫は血流に乗り、さまざまな臓器へ無秩序に移行し続ける

💡 「終宿主でない」ことが病態を決める。 イヌ・ネコの腸管内であれば幼虫は成虫となり産卵するが、ヒトの体内ではその発育プログラムが完結しないため、幼虫は行き場なく組織を彷徨い続ける。これが慢性・多臓器性の症状につながる。

臨床像:トキソカラ症— 複数の病型

病型 特徴
多臓器が侵される:発熱、発疹、著明な好酸球増多、肝脾腫。心筋炎・脳炎・肺炎を来すこともある
とぶどう膜炎を特徴とし、失明に至りうる
・全身型(common) 腹痛・発熱・咳嗽など非特異的症状にとどまる軽症例で、内臓型ほど多臓器性ではない2

⚠️ は小児のとされうる。 片眼性の・肉芽腫様病変を呈するため、悪性腫瘍との鑑別が臨床上重要になる。

💡 は無症候性の曝露を含めれば世界的にありふれた感染である。 71か国・26万人超を対象とした系統的レビューでは世界全体の率が19.0%と推計され、地域差が大きい(アフリカで37.7%、東地中海地域で8.2%)——多くは無症候かつ自然治癒し、本項で述べるを呈するのは一部にとどまる3。

診断

  • 曝露歴・臨床像と血清学的検査(〈enzyme-linked immunosorbent assay〉による)を統合する ——ヒトは終宿主でなく腸管内で産卵しないため、糞便中に虫卵は検出されない。幼虫の排出分泌抗原を用いたがヒト診断で一般的に用いられる血清学的検査である2
  • 好酸球増多は内臓型を支持するが、眼型では正常のことがあり、正常値だけで除外しない

治療

  • 内臓型:400 mgを1日2回、または100〜200 mgを1日2回、いずれも5日間がの実務的レジメン。最適な治療期間は確立しておらず、病変部位・重症度に応じと個別化する。
  • 眼型:視力障害を防ぐことが中心で、眼科と連携し、ではを検討する。局所またはで炎症を制御し、必要時は手術を組み合わせる。

⚠️ 旧来用いられたを第一選択として並列しない。長期の投与では肝機能と血算を監視し、妊娠・授乳・幼児ではリスクと利益を個別に判断する。

まとめ

  • ・はそれぞれイヌ・ネコを終宿主とする線虫で、ヒトは幼虫のまま発育が完結しない「」である。
  • 感染はイヌ・ネコの糞便で汚染された土壌・食物中のの経口摂取による。幼虫は成虫にならず、体内を無秩序に移行し続ける。
  • 臨床像は(VLM:多臓器性、好酸球増多)と(OLM:ぶどう膜炎、失明——との鑑別が重要)の2型に分かれる。
  • ヒトの腸管内で産卵しないため糞便虫卵検査は無効で、曝露歴・臨床像・血清学を統合する。好酸球増多は内臓型を支持するが眼型を除外できない。
  • 内臓型のはまたは、眼型は炎症制御と眼科的処置を組み合わせる。

出典

  1. 1.Toxocariasis(Centers for Disease Control and Prevention (DPDx)・2019)2019年7月9日最終確認のDPDxページ(ウェブアーカイブで本文を取得)で、終宿主の糞便中に排出された虫卵が環境中で1〜4週間かけて発育し、第3期幼虫を含む感染性の卵になることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Toxocariasis: a silent threat with a progressive public health impact(Infectious Diseases of Poverty・2018)ヒトToxocara症が内臓幼虫移行症(VLM)・眼幼虫移行症(OT)に加え、潜在型(covert toxocariasis, CT)・神経型(neural toxocariasis, NT)を含む4病型に分類されること、L3幼虫の排出分泌抗原を用いたELISAがヒトトキソカラ症診断に一般的に用いられる血清学的検査であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Seroprevalence estimates for toxocariasis in people worldwide: A systematic review and meta-analysis(PLoS Neglected Tropical Diseases・2019)71か国・265,327人を対象とした系統的レビュー・メタ解析で、世界全体のToxocara属血清陽性率が19.0%(95%CI 16.6-21.4%)と推計され、アフリカ地域で37.7%と最も高く東地中海地域で8.2%と最も低いなど地域差が大きいことを確認した。閲覧 2026-08-26