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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

トキソカラ症

Toxocariasis (visceral larva migrans)

別名
内臓幼虫移行症VLMVisceral larva migrans
臓器系
感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 4/32:イヌ回虫・ネコ回虫微生物学 5/17:経腸的に獲得される寄生虫感染(一覧)とその診断
鑑別疾患
肝蛭症
合併症
心筋炎
関連疾患
眼トキソカラ症
治療薬
アルベンダゾールメベンダゾール
原因微生物
Toxocara canisToxocara cati
症状
発熱肝腫大喘鳴発疹
検査値
好酸球増多

🧠 全体像:は、・の幼虫がヒト体内で成虫になれないまま組織を彷徨い続けることで生じるであり、する場所によって内臓型・・神経型・眼型という異なる顔を見せる。本稿は眼球に限局しない全身型(を中心に、・神経型を含む)を扱い、は眼球内に限局した病型を独立して扱う——同じ寄生虫による同じ病態でも、全身に拡散するか、眼球という一局所に封じ込められるかという反応様式の違いから、両者は同一患者に併存しにくい。

病原体と感染経路

原因は回虫科の線虫であるToxocara canis(終宿主:イヌ)・Toxocara cati(終宿主:ネコ)で、ヒトは偶発的な宿主にすぎない。イヌ・ネコの糞便で汚染された土壌・食物中のを経口摂取するか、となる動物(鶏・ウサギ・羊・牛など)の生・加熱不十分な肉に含まれる幼虫を摂取して感染する1。

腸管内でした幼虫はヒト体内では成虫まで発育できず、腸粘膜を貫いて血流に乗り、行き場のないまま各臓器を無秩序に移行し続ける。この状態は年単位で持続しうる1。⭐ 小児の砂場での土いじり・、が不十分なペットとの接触が典型的なリスク因子である1。

臨床病型:4分類

は内臓型・眼型・・神経型の4つの臨床病型を包含する2。

病型 特徴
最も頻度の高い有症状病型で小児に多い。発熱・・喘鳴を伴う呼吸器症状・著明な好酸球増多が特徴1
明確な臓器病変を同定できない、持続性の好酸球増多にとどまる軽症例
幼虫が中枢神経系へする病型。で白質の高信号病変を認める
眼球内に限局し、を伴わないことがある——本稿の対象外、独立したノートを参照

内臓幼虫移行症の臨床像

⭐ 発熱・・喘鳴・著明な好酸球増多という組み合わせが内臓型の中核像である。 小児では腹痛・咳嗽・喘鳴が主症状となることが多く、発疹を伴うこともある13。まれに幼虫が心筋・脳・肺へすると心筋炎・脳炎・肺炎を来すこともある。

は、内臓型ほど多臓器に及ばず持続性の好酸球増多だけが残る軽症の連続体として理解する。神経型は頻度こそ低いが、幼虫が中枢神経系へした場合の重篤な病型で、でのが診断の手がかりになる1。

診断

flowchart TD
    A["小児の発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatomegaly'>肝腫大</span>・喘鳴・<br>著明な好酸球増多"] --> B["土壌接触歴・ペット飼育歴・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pica'>異食症</span>の有無を確認"]
    B --> C["血清<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzyme-linked immunosorbent assay'>ELISA</span>(抗Toxocara抗体)"]
    C --> D{"陽性か"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active infection'>活動性感染</span>とは限らない<br>臨床像と統合して判断"]
    D -->|"いいえ"| F["除外はできない<br>(特に眼型・神経型)"]
    E --> G{"神経症状を伴うか"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='white matter lesion'>白質病変</span>を確認<br>神経<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxocariasis'>トキソカラ症</span>を疑う"]
    G -->|"いいえ"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral larva migrans (VLM)'>内臓幼虫移行症</span>として治療"]

⚠️ ヒトの腸管内で産卵しないため、便中虫卵検査は無効である。 曝露歴・臨床像・血清学的検査を統合して診断する。

  • 血清が主要な診断法だが、急性期と慢性期の鑑別ができず、他の蠕虫感染とすることがあり、抗体陽性が必ずしもを意味しない13。
  • 好酸球増多は内臓型を支持する所見だが、眼型では正常のことがあり、必須ではない。
  • 画像検査では、・超音波で肝の、神経型ので白質の高信号病変がみられる1。

治療

⭐ 内臓型のはで、組織・中枢神経系へのに優れる。も代替薬として用いられる13。治療期間は内臓型で5〜14日、神経型では4〜8週間と長期に及ぶ1。

⚠️ 神経型・眼型では副腎皮質ステロイドが炎症制御に必須の併用薬となる。 だけで幼虫を排除しても、死滅した幼虫周囲の炎症反応そのものが組織障害を起こしうるためである1。

鑑別診断

好酸球増多を伴う臨床像は他の寄生虫症と酷似する。をはじめ、、、などとの鑑別には血清学的検査が必要になる。

予防

土壌接触後の手洗い、ペットの定期的な、小児のの抑制、ペットの糞便の適切な処理が、感染機会そのものを減らす基本的なである3。

まとめ

  • は・幼虫がヒト体内で成虫になれないまま組織を移行し続けることで生じ、内臓型・・神経型・眼型の4病型に分かれる。
  • は発熱・・喘鳴・著明な好酸球増多を特徴とし、小児に多い。は多臓器性に至らない軽症の連続体、神経型はまれだが重篤である。
  • とは「全身に拡散するか眼球に封じ込められるか」という反応様式の違いから同一患者に併存しにくく、本稿は眼球に限局しない病型を扱う。
  • 便中虫卵検査は無効で、血清・臨床像・曝露歴を統合して診断する。抗体陽性はを意味しない。
  • 内臓型の治療は(または)、神経型・眼型では副腎皮質ステロイドの併用が必須である。

出典

  1. 1.Toxocariasis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)ヒトが偶発宿主として土壌・食物中の感染卵、または待機宿主動物(鶏・ウサギ・羊・牛など)の生・加熱不十分な肉に含まれる幼虫を摂取して感染すること、幼虫はヒト体内で成虫になれず腸粘膜を貫通し血流に乗って組織を移行し数年間生存し続けること、内臓幼虫移行症が小児に多い最も一般的な有症状病型で発熱・肝腫大・喘鳴を伴う呼吸器症状・著明な好酸球増多を特徴とすること、潜在型(covert/common toxocariasis)は臓器病変を同定できない持続性の好酸球増多にとどまること、眼幼虫移行症は末梢血好酸球増多を伴わないことがあり内臓型と鑑別を要すること、血清ELISAが主要な診断法だが急性期と慢性期の鑑別ができず他の蠕虫感染と交差反応しうること、画像検査ではCT・超音波で好酸球性肉芽腫、神経トキソカラ症のMRIで白質の高信号病変がみられること、アルベンダゾールが組織・中枢神経系への移行性から第一選択薬であり神経型・眼型では副腎皮質ステロイドが炎症制御に必須であること、内臓型の治療期間は5〜14日、神経型は4〜8週間であること、砂遊びや異食症のある小児・不十分な駆虫のペットの飼育・汚染された砂場への曝露・待機宿主動物の生肉摂取がリスク因子であること、米国での血清陽性率が14%である一方ネパールで81%、アフリカ・アジアの一部で50〜100%に達すること、米国では年間約10,000例の臨床例が診断されていることを確認した(2026年6月24日最終更新のNCBIライブページで確認)閲覧 2026-09-07
  2. 2.Toxocariasis: a silent threat with a progressive public health impact(Infectious Diseases of Poverty・2018)トキソカラ症が内臓型・眼型・潜在型・神経型の4つの臨床病型を包含すること、いずれの病型も誤診・診断の遅れが重い健康被害と医療費増大につながりうることを確認した閲覧 2026-09-07
  3. 3.Toxocariasis: A Review for Pediatricians(Journal of the Pediatric Infectious Diseases Society・2014)トキソカラ症が米国全土に常在し小児に相当な罹患をもたらすこと、内臓型の症状が腹痛・咳嗽・喘鳴であること、眼型では視力低下・斜視が主要症状であること、抗体検査陽性が必ずしも活動性感染を意味しないこと、内臓型の推奨治療がアルベンダゾールまたはメベンダゾールであること、眼型の治療選択肢が副腎皮質ステロイド・眼科手術・駆虫薬であること、予防策として土壌接触後の手洗い・ペットの定期駆虫・異食症の抑制・ペットの糞便の適切な処理が挙げられることを確認した閲覧 2026-09-07