微生物学

微生物学 · 5/17

経腸的に獲得される寄生虫感染(一覧)とその診断

Enterally acquired parasitic infections (list) and their diagnosis

微生物
Ascaris lumbricoidesBalantidium coliBlastocystis hominisEchinococcus granulosusEchinococcus multilocularisEntamoeba disparEntamoeba histolyticaEnterobius vermicularisFasciola hepaticaGiardia lambliaToxoplasma gondii
疾患
トキソカラ症横川吸虫症肝蛭症

🧠 は「何を経口摂取して感染するか」で整理すると、診断法まで自動的に決まる。 原虫は嚢子やを、線虫は虫卵を糞口感染で摂取し、条虫は感染した食肉・魚に含まれる幼虫(・スパルガヌム)を摂取する——いずれも最終的にヒトの腸管に定着するため、標準的な診断法はで統一できる。例外はで、ヒトの糞便から虫体を検出できないため・血清学に頼る。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteral'>経腸的</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='parasitic infections'>寄生虫感染</span>"] --> B["糞口感染<br>(ヒト便に汚染された食品・水の摂取)"]
  A --> C["感染源動物の摂取<br>(加熱不十分な食肉・魚介類)"]
  B --> B1["原虫の嚢子・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span><br>線虫の虫卵"]
  C --> C1["条虫の幼虫<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cysticercus'>嚢虫</span>・スパルガヌムなど)"]
  B1 --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool examination'>検便</span>で診断"]
  C1 --> D

原虫

病原体 感染型
Entamoeba histolytica 嚢子/ 糞口感染(間接)。性行為による直接伝播もありうる
Entamoeba dispar、Entamoeba moshkovskii 嚢子/ 糞口感染。E. histolyticaと形態的に区別できない種12
Giardia lamblia(Giardia intestinalis・Giardia duodenalisと同義3) 嚢子 糞口感染
Dientamoeba fragilis 糞口感染
Balantidium coli 嚢子 糞口感染
Isospora belli 糞口感染
Cryptosporidium属(C. parvumなど) 糞口感染
Enterocytozoon bieneusi 芽胞 糞口感染
Toxoplasma gondii — 経口摂取(詳細は専用ノートを参照)

⚠️ 免疫不全者のでは、の効果に限界がある。 患者を対象としたRCTで、による寄生虫クリアランス改善が有意だったのはCD4陽性T細胞数50/mm³超の患者に限られ、進行(高度低CD4)患者では治癒効果が乏しかった4。健常者では自然治癒するがこの群ではによるが根本的な対策になる。

線虫——「EATTT」

病原体 感染型
Enterobius vermicularis 虫卵 糞口感染
Ascaris lumbricoides 虫卵 糞口感染
Trichinella spiralis — 加熱不十分な豚肉の摂取(詳細は専用ノートを参照)
Trichuris trichiura 虫卵 糞口感染
Toxocara canis/T. cati 虫卵 糞口感染

💡 「EATTT」で線虫を一気に覚える。 ・回虫・・Trichuris trichiura・Toxocara canis/catiの頭文字を並べた語呂合わせ。

吸虫——Schistosoma属を除く全て

本講座で扱う吸虫のうち、感染に分類されるのはFasciola hepatica()とParagonimus westermani()である。

⚠️ 吸虫の中でSchistosoma属だけがこのリストから除外される。 他の吸虫・線虫・条虫がいずれも経口摂取(虫卵・嚢子・幼虫を含む食品や水の摂取)で感染するのに対し、Schistosoma属のは水中から皮膚を直接貫通して感染する——「」という本稿の分類軸そのものから外れるため、このリストでは唯一の例外となる。

条虫——全て

病原体 感染型
Taenia solium 、、または分節 感染豚肉の摂取(虫卵を摂取した場合は=cysticercosisを起こす)5
Taenia saginata 感染牛肉中のの摂取
Diphyllobothrium latum 感染魚中のスパルガヌムの摂取
Echinococcus granulosus 感染イヌ科の虫卵の摂取
Echinococcus multilocularis 由来の虫卵の摂取、糞口感染
Hymenolepis nana 虫卵の摂取、糞口感染

⚠️ は世界的にみて予防可能なてんかんの最多原因と考えられている。 ではてんかん患者の最大30%にの画像所見が認められる5。虫卵の経口摂取(豚肉ではなくヒトの虫卵そのもの)が原因になる点が、豚肉中のを食べて起こる(腸管内の成虫感染)とはまったく別の感染経路である。

診断:検便

  • 少なくとも3回の異なる機会に検体を採取する
  • で嚢子・・虫卵を確認する(通常は湿性標本=wet mountを用いる)
  • の場合は例外的に・血清学を用いる

まとめ

  • は原虫(Entamoeba histolytica、Giardia lamblia、Balantidium coli、Cryptosporidium属、Toxoplasma gondiiなど)と大半の蠕虫(線虫のEATTT、Schistosomaを除く吸虫、条虫全て)を含む。
  • 感染型は原虫の嚢子・、線虫の虫卵、条虫の・スパルガヌム・と多様だが、標準的な診断は(3回、湿性標本での)で統一できる。
  • 唯一の例外はで、ヒト便から虫体を検出できないため・血清学を用いる。
  • 線虫は「EATTT」(Enterobius・Ascaris・Trichinella・Trichuris・Toxocara)の語呂合わせで覚える。
  • 吸虫の中でSchistosoma属だけがによるのためこのリストから除外される。
  • 条虫はTaenia属(有鉤・無鉤)、Diphyllobothrium latum、Echinococcus属、Hymenolepis nanaが代表で、いずれも感染した食肉・魚・の虫卵の摂取で感染する。

出典

  1. 1.Differential Detection of Entamoeba histolytica, Entamoeba dispar, and Entamoeba moshkovskii by a Single-Round PCR Assay(Journal of Clinical Microbiology(American Society for Microbiology)・2006)E. histolytica・E. dispar・E. moshkovskiiは嚢子・栄養型ともに形態的に同一で鏡検では区別できないこと、単回PCRでそれぞれ異なる産物長を生成して種を鑑別できることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Epidemiology of clinically relevant Entamoeba spp. (E. histolytica/dispar/moshkovskii/bangladeshi): A cross sectional study from North India(PLoS Neglected Tropical Diseases・2021)E. dispar・E. moshkovskiiが非侵襲性感染にのみ関連する非病原性種であること、形態的に区別できないためWHOがE. histolytica/dispar/moshkovskii複合体としての報告を推奨していることを確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.Zoonotic potential of Giardia(International Journal for Parasitology・2013)Giardia duodenalisはGiardia lamblia・Giardia intestinalisと同義であること、遺伝子型(アセンブリッジ)は8群(A〜H)に分かれ、うちヒト・動物双方に感染するのはA・Bの2群のみであることをアブストラクトで確認した閲覧 2026-08-26
  4. 4.Past, current, and potential treatments for cryptosporidiosis in humans and farm animals: A comprehensive review(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology・2023)ニタゾキサニドのAIDS患者に対するランダム化比較試験(Rossignol et al., 1998)で、寄生虫クリアランス率の有意な改善が見られたのはCD4陽性T細胞数50/mm3超の患者に限られ、進行AIDS(低CD4)患者では治癒効果が乏しかったことを確認した閲覧 2026-08-26
  5. 5.WHO guidelines on management of Taenia solium neurocysticercosis(World Health Organization(WHO)・2021)神経嚢虫症が世界的な予防可能なてんかんの最多原因と考えられており流行地域ではてんかん患者の最大30%に神経嚢虫症病変が画像上認められること、条虫症(成虫による腸管感染、加熱不十分な豚肉の摂取で生じる)と、ヒトが排出した虫卵がヒト自身または豚に感染し組織内に嚢虫を形成する嚢虫症とが明確に区別されることを確認した閲覧 2026-08-26