微生物学

微生物学 · 4/26

広節裂頭条虫と小形条虫

Diphyllobothrium latum and Hymenolepis nana

微生物
Diphyllobothrium latumHymenolepis nana

🧠 この2種は条虫の中の「例外」として読む。 Diphyllobothrium latum()はヒトに寄生する最大の条虫(10mにもなる)で、生活環に甲殻類と魚という2つの中間宿主を必要とする唯一のグループであり、でビタミンB12を横取りしてを起こす。一方Hymenolepis nana()は、条虫の中で唯一虫卵がそのままヒトに直接感染する種であり、中間宿主なしにでヒトからヒトへ増幅しうる——他のすべての条虫が中間宿主を必要とするのとは対照的である。

Diphyllobothrium latum(広節裂頭条虫)— 形態・生活環

⚠️ 属名がDibothriocephalusへ改称されている。 2017年のでDiphyllobothrium属が多系統群(互いに近縁でない種の寄せ集め)であることが示され、D. latumを含むヒト寄生の主要種は復活した属Dibothriocephalusへ移され、正式にはDibothriocephalus latusと呼ばれる1。ただし本ノートでは実習・試験で問われる旧来の呼称Diphyllobothrium latum()で統一して記載する。

項目 内容
通称
サイズ ヒトに寄生する条虫の中で最大(最大10m)
槍状で2本のを持つ
第1中間宿主 甲殻類(など)
第2中間宿主
終宿主 ヒトおよび他の魚食性

💡 日本国内のは、実は別種Diphyllobothrium nihonkaiense(日本海、2017年にDibothriocephalus nihonkaiensisへの転属が提案)が原因のことが多い。 形態的にはD. latumとよく似るが、第2中間宿主がD. latumの(マス・カワカマスなど)ではなく、サクラマス・カマス・シロザケなど降海性のサケ属魚類である点で生態学的に区別される2。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unfertilized egg'>未受精卵</span>が終宿主の糞便中に排出"] --> B["水中で卵が成熟し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coracidium'>コラシジウム幼生</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span>"]
  B --> C["甲殻類(第1中間宿主)に摂取される"]
  C --> D["甲殻類の体腔内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='procercoid larva'>プロセルコイド幼生</span>に発育"]
  D --> E["魚(第2中間宿主)が甲殻類を捕食"]
  E --> F["魚の組織に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plerocercoid larva'>プレロセルコイド幼生</span>として侵入"]
  F --> G["ヒトが生・加熱不十分な魚を摂取"]
  G --> H["小腸で成虫に発育"]
  H --> A

感染経路

  • 生・加熱不十分なの摂取。

臨床像:広節裂頭条虫症

💡 虫体がでビタミンB12を奪う。 虫体が腸管内でビタミンB12()を優先的に吸収するため、(赤血球は少数だが大型)を起こす——ただし感染から6ヶ月ほど経ってから貧血として顕在化する点に注意する。

  • 下痢、、悪心、体重減少を伴うこともある。

診断

  • 糞便検体中の検出。

治療

Hymenolepis nana(小形条虫)— 形態・生活環

💡 属名をRodentolepisへ変更する提案があるが、臨床では今もHymenolepis nana表記が主流である。 Diphyllobothrium→Dibothriocephalusほどには定着しておらず、2025年時点の臨床文献でも“Rodentolepis (Hymenolepis) nana“のように両属名が併記・混用される3。本ノートでも医学教育で定着したHymenolepis nanaの表記を用いる。

項目 内容
通称
例外的な性質 虫卵そのものがヒトに直接感染性を持つ——条虫の中で唯一、必須の中間宿主を持たない
中間宿主(任意) 穀物害虫などの節足動物(cysticercoid幼生を持つ)
flowchart TD
  A["汚染された食品・水・手指から<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fertilized egg'>受精卵</span>を経口摂取"] --> B["小腸壁に付着し幼虫に発育"]
  B --> C["成虫となり虫卵を産生"]
  C --> D["糞便中に虫卵排出"]
  D --> A
  B -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoinfection'>自己感染</span>"| E["腸管内で虫卵が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span>"]
  E --> F["cysticercoid幼生に発育"]
  F --> G["宿主外に出ずそのまま成虫化"]
  G --> B

感染経路

  • 汚染された食品・水・手指からの虫卵の経口摂取、またはcysticercoidに感染した節足動物の誤食。

臨床像

  • 軽度感染:虫体数が少なければ無症状。
  • 重度感染:・過剰感染が起こると、下痢、腹痛、頭痛、を呈しうる。

⭐ が可能な唯一の条虫。 虫卵が腸管内でそのまましcysticercoid幼生を経て成虫化するため、外部宿主を介さずに虫体数が増幅し、重症化しうる。

診断

  • 糞便検体中の検出。

治療

まとめ

  • Diphyllobothrium latumは2017年ので属名がDibothriocephalusへ改称され正式にはDibothriocephalus latusと呼ばれるが、本ノートでは旧来の呼称で記載する1。日本国内の症例は形態の似た別種D. nihonkaiense(降海性サケ属魚類を第2中間宿主とする)が原因のことが多い2。
  • Hymenolepis nanaもRodentolepis属への転属が提案されているが、臨床文献では今も両属名が併記・混用され定着には至っていない3。
  • Diphyllobothrium latumはヒト寄生条虫で最大(10m)、甲殻類→魚という2段階の中間宿主を経て生・加熱不十分な魚から感染する。
  • D. latumはでビタミンB12を奪い、感染から約6ヶ月後にとして顕在化する——治療は/+B12補充。
  • Hymenolepis nanaは条虫で唯一、虫卵がそのままヒトに直接感染性を持ち、中間宿主を必須としない。
  • H. nanaは腸管内でのが可能な唯一の条虫で、これが重度感染・過剰感染の原因になる。
  • 両者とも診断は糞便中の検出、治療は/が基本。

出典

  1. 1.The catholic taste of broad tapeworms - multiple routes to human infection(International Journal for Parasitology・2017)核・ミトコンドリアの複数遺伝子を用いた系統解析でDiphyllobothrium属が多系統群であることが示され、ヒトに寄生する主要な種(Diphyllobothrium latum、D. dendriticum、D. nihonkaiense を含む)が復活した属Dibothriocephalusへ移され、Diphyllobothrium latumはDibothriocephalus latusという新組み合わせ名になったこと、DiplogonoporusはDiphyllobothriumの新参異名とされたことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Epidemiology of Diphyllobothrium nihonkaiense Diphyllobothriasis, Japan, 2001–2016(Emerging Infectious Diseases(Ikuno H, et al.)・2018)日本国内の広節裂頭条虫症の原因のほとんどは*D. latum*ではなく別種*Diphyllobothrium nihonkaiense*(2017年にDibothriocephalus nihonkaiensisへの新組み合わせが提案)であり、第2中間宿主がマス・カワカマスなど淡水魚ではなくサクラマス・カラフトマス・シロザケなどの降海性サケ属魚類である点で*D. latum*と生態学的に区別されることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Incidence of Rodentolepis nana infection within people seeking asylum and refugees attending health screening at an integrated refugee health service(BMC Global and Public Health・2025)小形条虫の属名についてRodentolepisへの転属が提案されているが、2025年時点の臨床文献でも"Rodentolepis (Hymenolepis) nana"のように両属名が併記・混用されており、Hymenolepis nanaの名称が今も広く使われ続けていることを確認した。閲覧 2026-08-26