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Microbe Atlas · 原虫

Entamoeba histolytica

赤痢アメーバ

分類
アメーバ / AmoebaeEntamoeba
科目
Medical Microbiology
トピック
4/13: Entamoeba histolytica and Entamoeba coli5/17: Enterally acquired parasitic infections (list) and their diagnosis5/23: Pathogens of fungal and parasitic lung infections (list)
原因となる疾患
腸管原虫症肺膿瘍
作用する薬剤
クロロキンチニダゾールパロモマイシンメトロニダゾール

🧠 全体像:は「大腸を溶かし、血流に乗って肝臓に膿瘍を作る」アメーバである。への侵入がを、腸壁を越えたがのを生む——病原性の有無が最大の分かれ目で、のアメーバと混同しないことが臨床の出発点になる。ただし混同の性質は相手によって違う——Entamoeba coli(大腸アメーバ)は成熟嚢子の核数と核の形態で見分けられるが、E. disparは形態がまったく同じで鏡検では分けられない。

微生物学的な特徴

  • (で運動)に属し、感染型の嚢子と摂食・増殖型の栄養型の2形態を持つ。
  • 成熟嚢子の核数は4個で、核は中心性のカリオソームと細かく均一な周辺クロマチンをもつ1。Entamoeba coliの成熟嚢子は通常8核(16核以上のこともある)なので、成熟嚢子どうしを比べれば核数で見分けられる2。未成熟嚢子は核数が少ないため、核数を使うのは成熟嚢子に限る。
  • 栄養型内の像は古典的に本種と結びつけられる所見だが、のE. disparでもまれに起こるため両種を分ける信頼できる基準にはならず、染色標本で観察されることもまれである1。
  • E. dispar・E. moshkovskiiとは嚢子・栄養型のいずれの形態でも区別できないため、確定にはまたはによる抗原検出を要する1。

生活環

flowchart TD
  A["嚢子を経口摂取<br>(感染性)"] --> B["胃を通過"]
  B --> C["小腸で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excystation'>脱嚢</span>し<br>栄養型が大腸へ移動"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonic lumen'>大腸管腔</span>内で増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asymptomatic carriage'>無症候性保菌</span>)"]
  D --> E["嚢子形成→便として排出"]
  C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonic mucosa'>大腸粘膜</span>に接着・侵入<br>(症候性になるのは感染者の10〜20%程度)"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flask-shaped ulcers'>フラスコ状潰瘍</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='amoebic dysentery'>アメーバ性赤痢</span>"]
  F --> H["腸壁を越え門脈経由で肝へ<br>赤血球を貪食しながら播種"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver abscess'>肝膿瘍</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anchovy paste-like'>アンチョビペースト様</span>)"]
  I --> J["胸腔・肺・脳への播種"]

病原性の仕組み

  • 接着:Gal/GalNAcで大腸上皮細胞に結合する。
  • :が膜に孔を開ける。
  • 組織侵入:、、、、RNaseなどのがを分解し、を破壊しながら侵入する。
  • 侵入した栄養型は赤血球を貪食しつつ血流(門脈)に乗り、を中心に膿瘍を形成する。

⚠️ はで最も頻度の高い病態であり、最も試験で問われやすい。 好発部位はで、膿は「」様と形容される特徴的な性状を示す。を呈し、脳・肺など他臓器へも播種しうる。

感染経路と疫学

  • 熱帯・亜熱帯地域に多く、汚染された水(湧き水・氷)や食品、ゴキブリ・ハエが媒介する。
  • 糞口感染:汚染水、生野菜・果物を介した嚢子の経口摂取。
  • :で多い感染経路。
  • 感染の大半は無症候性の保菌にとどまり、大腸炎やなどの症候性へ進むのは感染者の10〜20%程度である3。

起こす疾患

型 疾患 押さえどころ
腸管型 () 血液・膿を伴う下痢、大腸の
腸管外型 、の膿、
腸管外型 胸膜・肺病変 が胸腔・肺にすると・を合併
腸管外型 まれだが致死的

診断

検査 所見・位置づけ
便の 栄養型・嚢子を検出する。原虫は便中に均等に分布しないため3回異なる機会に採取する(10日以内に連続3検体を調べると検出の機会が増える)1。感度は60%未満で3、嚢子でも栄養型でもE. disparなど他のEntamoeba種と区別できない。像は本種を示唆する所見にとどまり、決め手にはならない
便の抗原検査 本種に特異的な抗原を検出してE. dispar・Entamoeba coliと鑑別できるが、感度のばらつきが大きく、では低い
感度・特異度が高いで、大腸炎にもにも使える3。のEntamoeba種との区別もできる4
血清抗体() 侵襲性感染の補助診断。治癒後も何年も陽性が続くため流行地の住民では過去の感染と区別しにくく、流行地から戻った旅行者で役立つ。初回陰性でも7〜10日後に再検すると陽性化することがある
画像 を疑う場合は超音波・での病変を確認する

💡 の多くはを伴わずに起こるため、が陰性でもは否定できない。の診断は画像と血清抗体・を組み合わせ、との鑑別を出発点にする。

治療と予防

💡 組織侵襲型と型(嚢子保有者)は薬が違う。 メトロニダゾール・は組織に侵入した栄養型に効くが、腸管内に残る嚢子までは十分に消せない。そのため症候性の患者には組織移行薬のあとに作用薬を続け、無症候性のには作用薬だけを用いて感染源を断つ。

病型 組織移行薬 続けて用いる作用薬
無症候性の嚢子保有 不要 (7日間)を単独で
アメーバ性大腸炎 メトロニダゾール(5〜10日間)または(3〜5日間) (7日間)
・播種性病変 メトロニダゾール(10日間)または(5日間) (7日間)

出典:3

  • (アミノグリコシド系)は下痢を起こしうるため、と同時ではなく、その後に投与する。代替の作用薬に・ジロキサニドがあるが、国によっては入手できない(米国では両剤とも入手不可)3。
  • 作用薬を省くと、の治療後に約10%で再発しうる4。
  • のドレナージ:合併症のないは薬物治療だけで治ることが多い。ただしメトロニダゾール単独では約15%が反応しないため、治療開始3〜5日で改善しなければを考慮する。早期のドレナージを考えるのは、左葉・の膿瘍、膿瘍を覆うの縁が1 cm未満と薄い、膿瘍の壁が未成熟または破裂が切迫した画像所見がある、二次的な細菌感染がある、との鑑別がつかない、のいずれかに当たる場合である。大きな膿瘍やが不完全な膿瘍では、よりカテーテルによる持続ドレナージが選ばれる4。
  • 予防:(それでも嚢子は生存しうる)、、濾過による飲料水対策。安全な性行為。

まとめ

  • はへ接着・侵入し、で組織を破壊する病原性アメーバである。感染者の大半は無症候性で、症候性へ進むのは10〜20%程度。
  • Entamoeba coliとは成熟嚢子の核数(4個 vs 通常8個)と核の形態で見分けられるが、E. dispar・E. moshkovskiiとは形態で区別できない。像はE. disparでもまれに起こるため、2つの所見だけで病原性を決められない——確定は・抗原検査による1。
  • 腸管型は(血性下痢)、腸管外型はの膿瘍が代表病態。
  • 診断は便検体3回の+像の確認から始まるが、顕微鏡は感度が低く種を区別できないため、確定には抗原検査・を用いる。ではが陰性でも否定できない。
  • 治療は症候性なら組織移行薬(メトロニダゾール/)→作用薬()の「二段構え」、無症候性の嚢子保有者は作用薬単独が原則。は3〜5日で反応しなければドレナージを考える。

出典

  1. 1.DPDx - Amebiasis(Centers for Disease Control and Prevention・2019)ページ本文(最終確認2019年10月15日)を直接確認した。成熟嚢子は4核で、核は中心性のカリオソームと細かく均一な周辺クロマチンをもつこと。脱嚢は小腸で起こり、遊離した栄養型が大腸へ移動すること。赤血球の貪食は古典的に E. histolytica と結びつけられるが E. dispar でもまれに起こるため両種を分ける信頼できる基準ではなく、染色標本で観察されることもまれであること。E. histolytica・E. dispar・E. moshkovskii は形態では区別できず、鑑別はPCR(従来型・リアルタイム)と単クローン抗体による抗原検出に依存すること。鏡検は便1検体では感度が低く、10日以内に連続3検体を調べると検出の機会が増えること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.DPDx - Intestinal (Non-Pathogenic) Amebae(Centers for Disease Control and Prevention・2019)ページ本文(最終確認2019年10月29日)を直接確認した。E. coli の成熟嚢子は通常8核で、16核以上のこともあること。核は大きく偏在するカリオソームと粗く不規則な周辺クロマチンをもち、類染色質体は先の尖った破片状(E. histolytica では端が丸い)であること。脱嚢は小腸で起こり栄養型が大腸へ移動すること。これらのアメーバはいずれもヒトに症候性疾患を起こさず、定着は非侵襲性であること。閲覧 2026-09-27
  3. 3.A Review of the Global Burden, New Diagnostics, and Current Therapeutics for Amebiasis(Open Forum Infectious Diseases・2018)PMC全文(PMC6055529)で確認した。感染の大半は無症候性で症候性へ進むのは約10〜20%であること。Table 3で、顕微鏡検査は感度60%未満で他のEntamoeba種と区別できず、血清抗体は治癒後も何年も陽性が続くため流行地では役立ちにくく旅行者で有用で、初回陰性なら7〜10日後の再検が要ることがあること、便抗原検査は感度が0〜88%とばらつき肝膿瘍で感度が低いこと、PCRは感度92〜100%・特異度89〜100%で大腸炎・肝膿瘍の双方に使えるゴールドスタンダードであること、肝膿瘍の多くは腸管感染を伴わずに起こるため便検査の感度が下がること。Table 4で、大腸炎はメトロニダゾール5〜10日またはチニダゾール3〜5日、肝膿瘍・播種性病変はメトロニダゾール10日またはチニダゾール5日とし、無症候性保有にも組織移行薬の後にも管腔内薬パロモマイシン(7日)を用いること、パロモマイシンは下痢を起こしうるためニトロイミダゾール系と同時に投与しないこと、代替のヨードキノールとジロキサニドは米国では入手できないこと。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Amebic liver abscess: An update(World Journal of Hepatology・2024)PMC全文(PMC10989314)で確認した。合併症のないアメーバ性肝膿瘍はドレナージを要さないことが多く、メトロニダゾール単独に反応しない約15%のため治療開始3〜5日で反応しなければ経皮的ドレナージを考慮すること。早期ドレナージを考慮する状況は左葉・尾状葉の膿瘍、1 cm未満の薄い肝実質の縁、成熟した壁が無い・破裂が切迫した画像所見、二次的な細菌感染、化膿性肝膿瘍との鑑別がつかない場合の5つであること。大きな膿瘍や液化が不完全な膿瘍では針吸引より経皮的カテーテルドレナージが好まれること。メトロニダゾールの後に管腔内薬を使わないと約10%で再発しうること。便の抗原検査やPCRは本種を非病原性株と区別できること。閲覧 2026-09-27