微生物学

微生物学 · 4/29

ウエステルマン肺吸虫

Paragonimus westermani

微生物
Paragonimus westermani

🧠 はの生活環に「もう1つの中間宿主」を継ぎ足した吸虫として読む。 貝(第1中間宿主)→、まではと共通だが、はさらにカニ・エビ(第2中間宿主)に入り込んでからする。だからヒトの感染源はではなく「生・半生のカニ/エビ」になる。そして肺に寄生する成虫は喀痰に血性の卵を混じらせるため、慢性の咳++胸部陰影という像が結核と酷似する——この「肺結核の偽物」という位置づけが臨床上の急所である。

分類と形態

吸虫共通の性状(扁平な虫体・貝を中間宿主とする生活環)はを参照。はその中でもである。

項目 内容
形態 レモン形の虫体
卵 ——と同型
第1中間宿主 貝(水生巻貝)
第2中間宿主 産のカニ・エビ
終宿主 ヒト・肉食動物(虫体は肺実質に寄生)

💡 米国にも在来種Paragonimus kellicottiが分布する。 ミシシッピ川流域(特にミズーリ州)で、生・加熱不十分なザリガニの摂食により感染し、ネコ・イヌ・アライグマなど多様なを持つ——P. westermaniが東アジア・東南アジアのカニ・エビを介して感染するのとは地域も中間宿主種も異なる1。

感染経路と生活環

  • 感染源は生または加熱不十分なカニ・エビ肉に含まれる
  1. 虫卵が喀痰または糞便として排出される
  2. 中でがし、貝に侵入してまで発育する
  3. が貝を離れ、カニ・エビに侵入してとしてする
  4. ヒトが生・加熱不十分なカニ・エビを摂食する
  5. 小腸で
  6. が腸壁を貫通し、横隔膜を越えて肺まで移行する
  7. 肺実質でに囲まれながら成虫となる
  8. 産卵された卵は気管支腔に排出され、喀痰としてされる、または嚥下されて糞便中に排出される
flowchart TD
  A["生・半生のカニ/エビ<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metacercaria'>メタセルカリア</span>含有)を摂食"] --> B["小腸で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excystation'>脱嚢</span>"]
  B --> C["腸壁を貫通し横隔膜を越え肺へ移行"]
  C --> D["肺実質で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous cap'>線維性被膜</span>に囲まれ成虫化"]
  D --> E["気管支腔に産卵"]
  E --> F["喀痰として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Expectoration'>喀出</span> or 嚥下→糞便排出"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fresh water'>淡水</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='miracidium'>ミラシジウム</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span>→貝に侵入"]
  G --> H["貝内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cercaria'>セルカリア</span>まで発育"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cercaria'>セルカリア</span>がカニ/エビに侵入し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encystment (to encyst)'>被嚢</span>"]
  I --> A

臨床像:肺吸虫症

病期 症状
の移行期 胸痛、咳嗽、
成虫寄生期(肺) 発熱、、呼吸困難、、
異所性寄生 脳・肝臓・腹腔などへすることもある

⚠️ は肺結核とされやすい。 慢性の咳嗽・・胸部陰影という組み合わせは肺結核と酷似しており、生のカニ・エビ摂食歴(渡航歴・食歴の聴取)が鑑別の鍵になる。ネパールでの症例集積(20例)では、と確定診断された患者の全例が診断確定前に肺結核として治療を受けていた——流行地・結核高蔓延地域では特に見逃されやすい2。

診断

  • 喀痰または糞便からの金褐色のの検出
  • 胸部X線:結節性嚢胞と胸水
  • 好酸球増多

治療

  • が第一選択——経口75mg/kg/日を3分割し2〜3日間投与する1

まとめ

  • はの2021〜2030年NTDロードマップで食品媒介吸虫症の一つとして制御対象に位置づけられている3。
  • 米国在来種P. kellicottiはザリガニを介して感染し、ミシシッピ川流域に分布する——P. westermaniとは地域・中間宿主種が異なる1。
  • はで、貝(第1中間宿主)とカニ・エビ(第2中間宿主)の2段階の中間宿主を持つ点がと異なる。
  • 感染源は生・加熱不十分なカニ・エビ。は腸壁→横隔膜を越えて肺に移行し、成虫は気管支腔に産卵する。
  • 卵は喀痰としてされるか嚥下されて糞便中に排出される——診断検体が喀痰・糞便の両方になる。
  • 臨床像は慢性の咳嗽・・胸部陰影で肺結核との鑑別が重要。脳・肝臓など異所性寄生も起こりうる。
  • 治療はと異なりが第一選択(吸虫症の標準治療に合致する)。

出典

  1. 1.Paragonimiasis Acquired in the United States: Native and Nonnative Species(Clinical Microbiology Reviews(Diaz JH)・2013)米国在来種のParagonimus kellicottiがミシシッピ川流域(主にミズーリ州)に分布し、ネコ・イヌ・ヒツジ・スカンク・アカギツネ・コヨーテ・アライグマ・ボブキャット・ミンクを保虫宿主とし、生・加熱不十分なザリガニの摂食で感染すること、肺吸虫症の治療は経口プラジカンテル75mg/kg/日を3分割し2〜3日間投与することを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Clinical, Laboratory and Radiological Features of Paragonimiasis Misdiagnosed as Pulmonary Tuberculosis(Iranian Journal of Parasitology(Poudyal BS, et al.)・2022)ネパールの症例集積(2015〜2019年、20例)では、肺吸虫症と最終診断された患者の全例が診断確定前に肺結核として抗結核薬による経験的治療を受けていたことを確認した(データはこのネパールの1施設の症例集積によるもので、世界全体の誤診率を示すものではない)。閲覧 2026-08-26
  3. 3.New global targets for NTDs in the WHO roadmap 2021–2030(PLOS Neglected Tropical Diseases・2021)WHOの2021〜2030年NTDロードマップが肺吸虫症を含む食品媒介吸虫症(foodborne trematode infections)を制御対象の20疾患群の一つとして明示的に含めていることを確認した。閲覧 2026-08-26