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Microbe Atlas · 蠕虫

Paragonimus westermani

肺吸虫

分類
吸虫 / TrematodesParagonimus
科目
Medical Microbiology
トピック
4/23: General characterisation and taxonomy of helminths4/29: Paragonimus westermani
原因となる疾患
肺吸虫症
作用する薬剤
ビチオノールプラジカンテル

🧠 全体像:(Paragonimus westermani)を読む軸は「結核とされやすい肺の寄生虫症」という1点に尽きる。感染経路は生・加熱不十分な産カニ・ザリガニの摂取で、したは腸壁を貫いて腹腔に出たあと、(Clonorchis sinensis)のように胆管系へ向かうのではなく、横隔膜を貫いて胸腔へ、そこから肺実質へ直接移行する。慢性の・咳嗽・胸痛に遊走性の胸水が加わり、画像・臨床像とも結核に酷似するため、治療に反応しない「結核」を診たら本症を疑うというな覚え方が有効。

微生物学的な特徴

  • 吸虫(トレマトーダ)。扁平な葉状の虫体で、を除く吸虫共通の性質として。成虫は肺内で2匹一組(対)でに住み着くことが多い。
  • 虫卵は淡黄褐色ので、喀痰または(した虫卵を嚥下した場合は)便中に排出される。
項目 内容
虫卵 。喀痰または便中に排出
第1中間宿主 (カワニナ属など)
第2中間宿主 産カニ・ザリガニ(サワガニ・モクズガニなど)
終宿主 ヒト、イヌ、ネコ、ブタなど肉食性・雑食性
成虫の定着部位 肺実質(の線維性嚢胞)

生活環

flowchart TD
    A["虫卵が喀痰・糞便中に排出される"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='freshwater snail'>淡水巻貝</span>(第1中間宿主)に<br>摂取される"]
    B --> C["貝の消化管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='miracidium'>ミラシジウム</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span><br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporocyst'>スポロシスト</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='redia'>レジア</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cercaria'>セルカリア</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cercaria'>セルカリア</span>が貝から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diapedesis (emigration)'>遊出</span>し<br>水中を自由遊泳"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fresh water'>淡水</span>産カニ・ザリガニ(第2中間宿主)の<br>筋肉・鰓に侵入し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encystment (to encyst)'>被嚢</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metacercaria'>メタセルカリア</span>)"]
    E --> F["ヒト(終宿主)が生・加熱不十分な<br>カニ・ザリガニを摂取"]
    F --> G["小腸で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excystation'>脱嚢</span>した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schistosomulum'>幼若虫</span>が<br>腸壁を貫き腹腔へ"]
    G --> H["横隔膜を貫いて胸腔に入り<br>肺実質へ直接移行"]
    H --> I["肺実質で成虫化・産卵<br>(2匹一組で嚢胞を形成)"]
    I --> A

⭐ 肺実質への到達経路が病態の鍵。 は腹腔→横隔膜→胸腔→肺実質という経路を数日〜1週間かけて移行し、通過した組織に機械的損傷と出血を残す。この移行過程ですると、脳・脊髄・皮下・腹腔など肺以外の臓器に異所性病変(脳性など)を作ることがある。

病原性の仕組み

  • 肺に到達した成虫はに線維性の被膜を伴う嚢胞を形成し、慢性の炎症・機械的刺激を持続的に起こす。嚢胞が気管支と交通すると虫卵が喀痰中に排出されるが、交通しない嚢胞では虫卵が貯留し局所の炎症が強まる。
  • 胸膜への波及で胸水・気胸を生じ、片側から対側へ遊走することが特徴とされる(同にとどまる結核性胸水との鑑別点の一つ)。
  • 移行経路のによりに病変が生じる脳性は、頭痛・痙攣・を呈し重篤化しうる。

感染経路と疫学

  • 生・加熱不十分な産カニ・ザリガニ(サワガニ・モクズガニなど)の摂取で感染する。酒漬け・酢漬けなど不十分な下処理でもは失活しない。
  • 東アジア・東南アジア(中国、韓国、日本、フィリピン、東南アジア各国)に集中して流行する1。ヒトのほか、イヌ・ネコ・ブタなど肉食性・雑食性も終宿主となる人獣共通感染症。
  • となるイノシシなどの肉を生食することでも、その体内にしていた経由で感染しうる。

起こす疾患

疾患・病態 特記事項
慢性の・喀血、咳嗽、胸痛、発熱。結核との臨床的類似が診断上の最大の落とし穴
胸水・気胸 好酸球増多を伴う。片側→対側へ遊走することがある
脳性 の異所性による頭痛・痙攣・。まれだが重篤
皮下パラゴニミア症 皮下移動性腫瘤として触知される例

診断

  • 喀痰または胸水中の検出が基本。単回検査での感度は30〜40%にとどまるため、複数回の検体採取で感度を上げる2。した虫卵を嚥下していればでも検出できる3。
  • P. westermani抗原に基づく特異的・高感度な血清抗体検査も利用できる3。
  • 画像所見:・環状影・末梢の線状陰影に加え、遊走性の胸水・気胸。ではの移動経路に沿った影・小嚢胞、がみられる2。
  • ⚠️ 肺結核との鑑別がしばしば問題になる。 症状・画像とも酷似するため、に反応しない「結核」を診たら、渡航歴・喫食歴(流行地でのカニ・ザリガニ生食)を聴取し本症を疑う1。
  • 好酸球増多を伴うことが多い。

治療と予防

  • ⭐ が第一選択。 日本の電子添文ではに対し1回20mg/kgを1日2回、2日間投与する4。
  • 予防:流行地での産カニ・ザリガニの生食・不十分な加熱調理(酒漬け等)を避け、中心温度63℃以上で十分に加熱する3。

まとめ

  • (Paragonimus westermani)は→産カニ・ザリガニの2つの中間宿主を経て、生・加熱不十分なカニ・ザリガニの摂取でヒトに感染する吸虫。
  • は腹腔→横隔膜→胸腔を経て肺実質へ直接移行し、対で嚢胞を形成して成虫化する。移行過程でのにより脳など肺以外に病変を作ることもある。
  • 慢性の・咳嗽・胸痛に片側から対側へ遊走する胸水が加わり、臨床像・画像とも結核に酷似するのが最大の診断上の罠。
  • 診断は喀痰・胸水中の検出(感度は単回30〜40%)と血清抗体検査。
  • 治療はが第一選択(日本では1回20mg/kg、1日2回2日間)。予防は流行地でのカニ・ザリガニの生食回避。

出典

  1. 1.Foodborne trematode infections(World Health Organization・2021)WHOが食品媒介吸虫症として挙げる4区分(肝吸虫症・肝蛭症・肝ジストマ症<Opisthorchiasis>・肺吸虫症)の第1中間宿主はいずれも淡水巻貝で、肺吸虫症では第2中間宿主が甲殻類(カニ・ザリガニ)になる。肺吸虫症では成虫が肺組織に定着し、血痰を伴う慢性咳嗽・胸痛・呼吸困難・発熱という、結核と混同されやすい症状を起こす。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Paragonimiasis Acquired in the United States: Native and Nonnative Species(Clinical Microbiology Reviews・2013)肺吸虫症の画像所見として肺浸潤影・環状影(ring sign)・末梢の線状陰影に加え、胸水・気胸がみられ、CTでは蠕動跡(虫体の移動経路)に沿った索状影・嚢胞、小結節が描出される。喀痰中虫卵検出の感度は単回検査で30〜40%にとどまり、複数回の検体採取で感度が上がる。臨床像が結核と紛らわしく、ツベルクリン反応や特異的な顕微鏡・血清学的検査による鑑別が必要になる。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Clinical Overview of Paragonimiasis(Centers for Disease Control and Prevention・2024)診断は喀痰中の虫卵検出が基本で、咳で喀出された虫卵を嚥下した場合は便からも検出されうる。組織生検で虫卵を確認することもある。P. westermani抗原に基づく特異的・高感度な抗体検査も利用できる。感染経路は生・加熱不十分なカニ・ザリガニの摂取で、予防にはカニ・ザリガニを中心温度約63℃(145°F)以上に加熱することが有効。閲覧 2026-09-05
  4. 4.ビルトリシド錠600mg 電子添文(2023年10月改訂・第2版)(バイエル薬品(PMDA 医療用医薬品情報)・2023)日本の電子添文で肺吸虫症がプラジカンテルの承認適応の一つであり、用法用量は肝吸虫症・肺吸虫症ともに1回20mg/kgを1日2回、2日間投与であること。閲覧 2026-09-05