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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

乾燥性角結膜炎

Keratoconjunctivitis sicca

別名
ドライアイ乾性角結膜炎涙液減少症KCS
臓器系
眼科免疫・膠原病
科目
PathophysiologyInternal Medicine
トピック
病態生理学 1-33:全身性エリテマトーデス・全身性硬化症・シェーグレン症候群内科学 L-67:全身性自己免疫疾患:全身性エリテマトーデスとシェーグレン病内科学 R-10:シェーグレン病内科学 R-03:関節リウマチの臨床像
鑑別疾患
アレルギー性結膜炎結膜炎蒸発亢進型ドライアイ
関連疾患
シェーグレン症候群
症状
涙液分泌低下眼痛羞明点状表層角膜症
検査値
抗核抗体

🧠 全体像は、名前が似ているとはまったく別の疾患である。炎が急性の感染・アレルギーで分泌物を伴う炎症であるのに対し、の量的・質的な不足が慢性に続くことで眼表面がダメージを受ける病態であり、分泌物ではなく「乾く」「ゴロゴロする」という訴えが中心になる。学習の軸は2つ——①層のどの成分()が不足しているかで原因を整理すること、②片眼が乾いているだけでは終わらせず、両側性・慢性のの背後に症候群のような全身性自己免疫疾患が隠れていないかを疑うことである。

定義と用語の整理

は、の量的減少または質的異常により眼表面(角膜・)がに障害される状態を指し、一般には「」と同義に使われる。

用語 意味
分泌の低下・質的異常により角上皮が障害された状態全般
減少型 そのものの分泌低下が主因(本ノートの中心)
亢進型 分泌量は保たれるがの異常でが早い(が代表)
症候群関連 ・唾液腺への自己免疫性による減少型

炎との違いは一覧にすると明確になる。

項目
経過 急性、数日〜数週 慢性、月〜年単位で持続
分泌物 膿性・水様性など、原因ごとに特徴的な分泌物がある 分泌物は目立たず「乾く」「ゴロゴロする」が
左右差 片眼から始まることが多い 通常両眼性
主な機序 感染・アレルギーによる の量的・質的不足による慢性の上皮障害
随伴しうる 淋菌・など 症候群関節リウマチなどの自己免疫疾患

病態生理

層は油層(由来の)・由来)・由来)の3層構造で眼表面を保護しており、このいずれが障害されてもを生む。が主に扱うのは分泌そのものの低下である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal'>基礎分泌</span>低下"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear fluid (lacrimal fluid)'>涙液</span>層の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous layer'>水層</span>減少"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear fluid (lacrimal fluid)'>涙液</span>浸透圧の上昇"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal and conjunctival epithelial cells'>角結膜上皮細胞</span>への浸透圧ストレス"]
    D --> E["上皮細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>産生"]
    E --> F["眼表面の炎症反応が自己増幅"]
    F --> G["角<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>上皮障害(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superficial punctate keratopathy'>点状表層角膜症</span>)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foreign body sensation'>異物感</span>・視機能の変動"]

💡 は「涙が足りない」だけの単純な現象ではなく、が引き金になる炎症性疾患である。 量が減るとの浸透圧が上がり、このそのものが角上皮にを産生させ、炎症が機能をさらに落とすという悪循環(自己)を作る。これが、単純なの補充だけでは不十分な例に抗炎症治療が必要になる理由である1

の破壊による減少型の代表は症候群で、・唾液腺へのが腺房を破壊し、そのものを不可逆に落とす。関節リウマチなど他の自己免疫疾患でも同様の機序でを来しうる。

シェーグレン症候群との関係とSchirmer試験

症候群の代表的なであり、(シッカ症状)とあわせて診断の入口になる。2016年ACR-EULAR原発性症候群分類基準では、を用いて5分間の分泌量を測定する検査)がな眼所見の評価項目の一つとして採用されている。

具体的には、①唇腺生検での1以上、②陽性をそれぞれ3点、③5以上またはvan Bijsterveld score 4以上、④が片眼でも5 mm/5分以下、⑤無刺激量0.1 mL/分以下をそれぞれ1点として重み付けし、合計スコア4以上を分類のとする2

は「の存在」を示す所見の一つにすぎず、単独で症候群の診断を確定しない。 加齢性のでも値は低下しうるため、・唇腺生検の結果とあわせて重み付けする設計になっている2

臨床像

患者は「目が乾く」「ゴロゴロする」「まぶしい」といった訴えをに繰り返す。夕方にかけて症状が悪化しやすく、乾燥した環境・長時間の画面・コンタクトレンズ装用で増悪する。ではによるが角膜下方に目立つことが多く、メニスカスの低下・の短縮を認める。

症候群に伴う例では、・耳下腺腫脹・関節痛・全身感などの腺外症状を伴うことがあり、だけを対症的に治療しての検索を後回しにしないことが重要である。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 片眼性・急性発症の充血・分泌物をで説明しない。 は本来、両眼性・慢性の経過をたどる疾患であり、片眼性で急性の充血・があればを疑い直す。

⚠️ 重度のを放置するとに進みうる。 が強い、あるいは視力の変動が大きい例では、単純なの頻回点眼だけで済ませず眼科での評価を急ぐ。

⚠️ 症候群に合併するB細胞リンパ腫のリスクを見落とさない。 通常のの悪化ではなく、持続性・非対称性の唾液腺腫脹やリンパ節腫大を伴う場合は精査を急ぐ。

⚠️ を伴う両側性の慢性を「加齢のせい」で片づけない。 ・唇腺生検を組み合わせた評価に進む閾値を下げ、症候群の見逃しを防ぐ。

治療

治療は保存的治療から段階的に強化する設計であり、などの抗炎症点眼を初手から使うわけではない1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratoconjunctivitis sicca'>乾燥性角結膜炎</span>の診断"] --> B["第1段階:患者教育・眼瞼衛生・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='preservative'>防腐剤</span>無添加<span class='jp-term jp-term-diagram' title='artificial tears'>人工涙液</span>"]
    B --> C{"症状・所見が持続するか"}
    C -->|"はい"| D["第2段階:局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclosporin'>シクロスポリン</span>・<br>局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corticosteroids'>コルチコステロイド</span>(短期)"]
    C -->|"いいえ"| E["第1段階を継続"]
    D --> F{"なお不十分か"}
    F -->|"はい"| G["第3段階以降:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='punctal plug'>涙点プラグ</span>・<br>血清点眼・治療用コンタクトレンズ"]
  • 第1段階は患者教育・眼瞼衛生・無添加のである1
  • 第2段階として、保存的治療で不十分な場合に局所などの抗炎症点眼を追加する1点眼は、眼表面の炎症により産生が抑制されていると推定される患者で産生を増加させる適応を持つが、薬を併用中または使用中の患者では効果のが確認されていない3
  • 局所は短期の増悪期に限り、のリスクを踏まえて漫然と継続しない。
  • 症候群に伴う例では、対症的な眼局所治療と並行してとしての評価・フォローを行う。
  • ⚠️ 亢進型が主体)には、で分泌量を補う発想ではなく・眼瞼衛生によるの改善が主体になる。 減少型と機序が異なるため、同じ段階的抗炎症治療をそのまま当てはめない。

まとめ

  • 炎とは別疾患で、急性・片眼性・分泌物主体の炎に対し、慢性・両眼性で「乾く・ゴロゴロする」がになる。
  • 層の減少によるが眼表面の炎症を引き起こし、炎症がさらに機能を落とす自己が病態の核心である。
  • 症候群の代表的なで、2016年ACR-EULAR分類基準では(≤5 mm/5分)・が唇腺生検・抗SSA抗体とあわせた重み付け評価に組み込まれている。
  • 単独では症候群を確定診断できず、加齢性でも低下しうる。
  • 治療は患者教育・の保存的治療を第1段階とし、不十分な場合に局所などの抗炎症治療へ段階的に進める設計である。
  • 片眼性・急性の充血や炎を、持続性の唾液腺腫脹・リンパ節腫大は症候群に合併するリンパ腫を疑わせる見逃してはいけない所見である。

出典

  1. 1.TFOS DEWS II Management and Therapy Report(Tear Film & Ocular Surface Society (TFOS)・2017)ドライアイ疾患の段階的管理アルゴリズムにおいて、第1段階が患者教育・眼瞼衛生・人工涙液などの保存的治療であり、局所シクロスポリンや局所コルチコステロイドなどの抗炎症薬・分泌促進薬は保存的治療で不十分な場合の第2段階以降に導入される設計であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Comparison of performance of the 2016 ACR-EULAR classification criteria for primary Sjögren's syndrome with other sets of criteria in Japanese patients(Annals of the Rheumatic Diseases・2017)2016年ACR-EULAR原発性シェーグレン症候群分類基準が、唇腺生検の巣状リンパ球浸潤(フォーカススコア1以上)・抗SSA/Ro抗体陽性をそれぞれ3点、眼表面染色スコア(OSS)5以上またはvan Bijsterveld score 4以上・Schirmer試験片眼でも5 mm/5分以下・無刺激唾液分泌量0.1 mL/分以下をそれぞれ1点として重み付けし、合計スコア4以上を分類のカットオフとする5項目の客観的検査から構成されることを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.RESTASIS (cyclosporine ophthalmic emulsion) — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration (DailyMed)・2021)シクロスポリン点眼が、眼表面の炎症により涙液産生が抑制されていると推定される乾燥性角結膜炎患者の涙液産生を増加させる適応を持つこと、局所抗炎症薬併用中または涙点プラグ使用中の患者では涙液産生増加が確認されなかったことを確認した。閲覧 2026-08-02