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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

神経芽腫・ウィルムス腫瘍

Neuroblastoma and Wilms tumor

別名
腎芽腫Nephroblastoma
臓器系
腫瘍
科目
PediatricsPathologyUrology
トピック
小児科 3-04:神経芽腫・ウィルムス腫瘍・小児肝腫瘍小児科 1-02:小児の腹部腫瘤・腹部腫瘍病理学 B/22:小児腫瘍の特徴病理学 C/68:腎腫瘍泌尿器科学 N-02:腎腫瘍泌尿器科学 U-24:小児泌尿器科学
鑑別疾患
横紋筋肉腫褐色細胞腫肝芽腫神経節芽腫神経節腫腎細胞癌線維形成性小円形細胞腫
関連疾患
急性リンパ性白血病網膜芽細胞腫
治療薬
ビンクリスチンダクチノマイシンドキソルビシンシクロホスファミドシスプラチンカルボプラチンエトポシドブスルファンメルファラン
症状
下痢対麻痺麻痺Horner症候群オプソクローヌス
画像所見
石灰化水腎症MIBGシンチグラフィ後縦隔腫瘤
組織像
Wilms腫瘍(腎芽腫)神経芽腫
原因となる疾患
Denys-Drash症候群WAGR症候群ベックウィズ・ヴィーデマン症候群
適応薬
ビンクリスチン

🧠 全体像:「小児の無症候性腹部腫瘤」という同じ入り口から、由来組織で2つに分かれる。由来の(副腎髄質・交感神経鎖)から生じるは、正中を越え・石灰化し・全身状態が悪く・尿中カテコールアミン代謝物が上がり、などの分子所見が治療強度を決める。から生じるウィルムス腫瘍(腎芽腫)は、片側の平滑なで全身状態は保たれ、の有無が最重要の予後因子、治療は北米COGと欧州SIOPで手術と化学療法の順序が逆になる。

病態

由来の交感が分化を止めたまま増殖するで、交感神経鎖が走る場所すべて(副腎髄質が約40%、次いで後腹膜、頸部、骨盤)に発生する。小児の頭蓋外固形腫瘍として最多で、診断時年齢の中央値は約18か月と乳幼児に強く偏る。により(ganglioneuroblastoma)・良性のへ連続し、この「成熟しうる」性質が後述のの背景にある。

ウィルムス腫瘍は、腎発生の途中で残存したしたもので、小児腎悪性腫瘍の約90%を占め、好発は2〜5歳。である(nephroblastomatosis)は、生後も遺残した腎芽組織の巣()が多発したもので、両側性・多発性ウィルムス腫瘍のとして画像・病理で必ず探す。

💡 が正中を越えるのは、後腹膜正中の大血管前面を這うように増殖して大動脈・を「包み込む」ためである。ウィルムス腫瘍は腎という被膜のあるの中で膨張性に育つので、腎輪郭を押し広げつつ正中を越えにくい。この機序の違いが、そのまま触診所見・・後述のの差になる。

2疾患の対比

項目 ウィルムス腫瘍(腎芽腫)
由来組織 由来の(副腎髄質・交感神経鎖) (腎実質)
好発年齢 乳幼児、中央値約18か月(1歳未満も多い) 2〜5歳(よりやや年長)
腫瘤の性状 硬く不整、固定性、正中を越えることが多い 平滑・被膜様に境界明瞭、片側性、通常は正中を越えない
全身状態 不機嫌、るい痩、発熱、を伴いやすく「病気にみえる」 全身状態は保たれ、入浴・着替えの際に触知されることが多い
石灰化 CTで約80〜90%に まれ
尿中カテコールアミン代謝物(VMA・)が約90%で上昇 特異的マーカーなし
転移パターン 骨・骨髄・肝・皮膚・眼窩、眼窩転移で が圧倒的に多く、次いで肝。〜下大静脈への腫瘍血栓
随伴症候群 、VIP産生性下痢、、脊髄圧迫
高血圧 カテコールアミン過剰による(頻脈・発汗を伴う) 腫瘍によるのレニン過剰による
最重要の予後因子 年齢・病期に加えなどの分子所見 の有無(=組織学的予後良好/不良の別)

神経芽腫の生物学的特異性

分子生物学的所見が病期と同等以上に治療強度を決めるのが、この腫瘍の最大の特徴である。

因子 意味
約20%に認め、年齢・病期を問わず単独で高リスクへ振り分ける最強の不良因子
=良好、=不良。18か月未満で特に有用
MYCN非増幅例の中で予後不良群を拾い上げる染色体異常。とはほぼ相互排他的
・増幅 家族性の主要なでもあり、ALK阻害薬の標的となる
組織学的分類 の予後良好/不良の別。で判定

4S期/MS期のが限局しているのに肝・皮膚・骨髄に転移をもつという「の例外」。旧来のINSSでは4S期として1歳未満に限っていたが、現行のINRGSSはMS期としてこれを18か月未満まで広げ、の進展度は問わないこととした。転移がなくが10%未満であることが条件で、MYCN非増幅例では治療せずにすることが多く、5年は90%を超える。急速に増大するが呼吸・を障害する場合にのみ低用量化学療法や肝への照射を行う。

⚠️ 日本では1985年から生後6か月児への尿中VMA/一斉スクリーニングが行われたが、拾い上げられるのはほぼ全例が予後良好な生物学的性質をもつ腫瘍(放置しても退縮した症例)であり、死亡率を下げないまま過剰診断と不要な手術・化学療法を生んだことがドイツ・カナダ(ケベック)のでも確認され、2004年に中止された。「早期発見=常に有益」ではない代表例として押さえる。

神経芽腫の傍腫瘍症候群・局所進展

  • :多方向性の不随意眼球運動、、失調。抗腫瘍免疫のが原因と考えられ、腫瘍自体は限局・予後良好なことが多い一方、腫瘍を切除しても神経症状・発達障害が残存しうる。
  • VIP産生による難治性下痢の分泌による・脱水。分化型()に多く、腫瘍切除で改善する。
  • :頸部・原発によるの障害()。
  • による脊髄圧迫腫瘍がから内へ亜鈴状に進展するもの。麻痺・膀胱直腸障害を来したら緊急症として、化学療法(多くは第一選択)またはを直ちに行う。

ウィルムス腫瘍の病理と関連症候群

組織学的には腎発生を不完全に再現する、すなわち小型の青色細胞がに密集する(blastema)・上皮成分(未熟な尿細管や糸球体様構造)・間質成分からなる。全体の約5〜10%にみられる(核の著明な腫大・と異常TP53変異と関連)が最重要の予後因子で、を意味する。がなければ「予後良好組織型」として90%超の治癒が期待できる。

遺伝子・領域 症候群 特徴
WT1(11p13) ウィルムス腫瘍・・泌尿生殖器奇形・知的障害。11p13の隣接遺伝子欠失(PAX6欠失がを説明)
WT1(点変異) ウィルムス腫瘍・による早期腎不全
11p15(IGF2 過成長、

素因症候群・孤立性をもつ児は、原則として就学前まで3〜4か月ごとの腹部超音波でする。

💡 予後良好組織型でも、1p・16qのや1q増加があると再発リスクが上がるため、COGは1p/16q LOHを治療強度の振り分けに用い、1q増加の組み込みを進めている。

診断

flowchart TD
    A["小児の腹部腫瘤"] --> B["腹部超音波で臓器起源を判定"]
    B --> C["腎由来・平滑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='well-appearing'>全身状態良好</span>"]
    B --> D["副腎/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paravertebral'>傍脊柱</span>・正中越え・石灰化・全身状態不良"]
    B --> E["肝由来"]
    C --> F["造影CT/MRIで対側腎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal vein'>腎静脈</span>血栓を評価<br>胸部CTで肺転移"]
    D --> G["尿中VMA/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homovanillic acid (HVA)'>HVA</span>、造影CT/MRI(IDRFの判定)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='MIBG scintigraphy'>MIBGシンチグラフィ</span>、両側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow examination'>骨髄検査</span>"]
    E --> H["AFP測定:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='markedly elevated'>著明高値</span>なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatoblastoma'>肝芽腫</span>"]
    F --> I["ウィルムス腫瘍として病期・組織型を決定"]
    G --> J["INRGSS病期+MYCN・ploidy・11qでINRGリスク分類"]

超音波を最初に行い臓器起源と/嚢胞性を決め、造影CTまたはMRIで局所進展・・転移を評価する。ではのために(MIBG非集積例はFDG-PET)と両側の・生検を加える。

鑑別 決め手
腎皮質辺縁に沿うびまん性・板状の均一病変。が乏しく、正常腎実質をしない
水腎症 超音波で拡張した腎盂が連続し、充実成分がない
交通のない大小の嚢胞の。正常な腎実質・腎盂が同定できない
肝由来でAFPが。3歳未満に多く、で切除範囲を計画する
骨盤・傍精巣・後腹膜など腎外に発生。カテコールアミン代謝物もAFPも上昇しない

神経芽腫の病期分類と治療

現行の国際標準はINRGSS(INRGシステム)で、治療前の画像所見だけで決まるため施設・地域を越えて比較できる。20項目の――主要血管のの包み込み、進展、気管・気管支の圧迫など、初回完全切除を危険にする所見――の有無が軸になる。

病期 定義
L1 1つの体腔に限局し、IDRFを1つも持たない
L2 局所〜所属領域にとどまるが、IDRFを1つ以上持つ
M 遠隔転移あり(MS期を除く)
MS 18か月未満で、転移が皮膚・肝・骨髄のみに限られる

INRGリスク分類は、この病期に年齢(18か月が閾値)・組織型・を組み合わせ、超低〜高リスクへ層別化する。かつ診断時18か月以上、またはを伴うL2/が高リスクの中核である。

リスク群 治療
低リスク(L1、MS期のMYCN非増幅乳児など) 経過観察のみ、または手術単独。乳児の限局例では切除も省いてを待つ戦略が確立している
中等度の化学療法()+手術。反応をみて治療期間を短縮する
高リスク (上記+シスプラチン)→ 切除 → によるへの放射線療法 → +GM-CSF+による維持療法

、欧州ではβ)の導入は高リスクを明確に改善し、現在は一次治療の維持療法として標準である。かつて併用されていた2は、SIOPEN HR-NBL1試験で効果がなく毒性のみ増えたため、COG・SIOPENとも標準レジメンから外された。2023年には療法後に以上を得た症例の再発リスク低減を目的とした経口が米国で承認され、維持療法の選択肢に加わっている。⚠️ はGD2が末梢神経にも発現するため、強い・アレルギー反応を必発に近く起こす。オピオイドを含む鎮痛の事前計画なしに投与しない。

ウィルムス腫瘍の病期分類と治療

⚠️ は局所再発率を約20%へ跳ね上げ、そのまま病期を上げて放射線療法の適応にする。そのため・粗雑な反復触診は避け、手術も被膜を破らないよう計画する。とくにCOG方式では、を含むあらゆる術前生検が「腫瘍のこぼれ」とみなされ、自動的にIII期以上へ上げてしまう

項目 COG(北米) SIOP(欧州、UMBRELLAプロトコル)
初期治療 まず 6か月〜18歳では原則として、転移例は追加)を4〜6週。生後6か月未満はリスクを考慮して手術先行
病期の意味 化学療法を受けていない自然のままの進展度を反映する 化学療法後の残存範囲を反映する。同じ「II期」でも意味が異なり、単純に読み替えられない
病期+組織型(の有無)+年齢+腫瘍重量+1p/16q LOH 病期+後の組織型(低・中間・高リスク組織型。を高リスクとして治療強化)
正確な自然病期と組織型が得られ、低リスク例の治療を減らせる 腫瘍が縮小し術中破裂が減る(NWTS約15%に対しSIOPは約3%)
短所 術中破裂・合併症のリスクが高い 良性疾患や他の組織型に化学療法を行ってしまうリスクが残る

いずれの方式でも、術後治療は病期・組織型に応じて(進行例は追加、高リスク組織型ではを含む強化レジメン)を組み合わせ、III期以上や例にはを加える。両側性(V期)・・素因症候群例では、を先行させて腎温存手術を優先し、遠隔期の腎不全を避ける。予後良好組織型の全体治癒率は90%を超える。

まとめ

  • 小児腹部腫瘤の二大腫瘍は由来組織で分かれる。由来の、ウィルムス腫瘍=
  • ベッドサイドの鑑別は「正中を越えるか」「全身状態が悪いか」「石灰化があるか」の3点で、は3つとも陽性になりやすい。マーカーは尿中VMA/(ウィルムス腫瘍には特異的マーカーがない)。
  • 転移先は=骨・骨髄・肝・皮膚、ウィルムス腫瘍=肺と覚える。
  • の治療強度はINRGSS病期(IDRFの有無)と分子所見(・DNA ploidy)で決まり、高リスクでは・放射線に加えによる維持療法まで行う。一方MS期乳児は無治療でしうる——この幅の広さが乳児スクリーニング中止の理由でもある。
  • ウィルムス腫瘍の最重要予後因子はの有無。COGは除先行、SIOPは先行で、病期の数字が指す内容が異なる。破裂は病期を上げるため、と粗雑な触診を避ける。