疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

神経鞘腫

Schwannoma

別名
シュワン細胞腫neurilemmomaneurinoma
臓器系
腫瘍神経
科目
HistopathologyPathology
トピック
組織病理 H2-118B:シュワン細胞腫(神経鞘腫)組織病理 H2-132:シュワン細胞腫(前庭神経鞘腫の管理とschwannomatosis)病理学 C/111:中枢・末梢神経系腫瘍
鑑別疾患
悪性末梢神経鞘腫瘍消化管間質腫瘍粘膜下腫瘍
症状
知覚異常
画像所見
後縦隔腫瘤
下位分類
前庭神経鞘腫
原因となる疾患
神経鞘腫症神経線維腫症2型

🧠 全体像は、末梢神経を鞘のように包むだけから生じる、性・良性の腫瘍である。以外に線維芽細胞・軸索も腫瘍の構成要素になる)との対比が理解の軸で、は①に包まれ神経本幹の外側に偏って増殖するため神経を温存したまま摘出しやすく、②性ならしないという2点でと決定的に異なる。組織はAntoni A(密)とAntoni B(粗)の2つの領域が同居し、という核のが診断的である。第Ⅷ脳神経()に生じたものはとして別ノートに独立させ、両側性なら(NF2)を疑う——本ノートはという腫瘍そのもののを扱う。

病態・組織像

は末梢神経の軸索を取り巻くで、NF2遺伝子(22番染色体、産物はmerlin)の不活化が性・を問わず共通の分子基盤になる。腫瘍はの外側に偏心性に発育し、自体を巻き込まずにするため、を残したまま神経本幹から剥離できることが多い1

組織学的には2つの領域が特徴的に混在する。

領域 所見
Antoni A領域 が密に配列する領域。しばしば核が柵状に並び(線維性突起を挟んで向かい合う核の列)を形成する
Antoni B領域 細胞密度が低く、粘液様基質・マクロファージ・を背景とする浮腫性領域

免疫染色ではS-100蛋白がびまん性に強陽性を示し、腫瘍が由来であることを裏づける1。💡 と異なり、は正常な軸索を腫瘍組織の中に取り込まない(腫瘍の外に軸索が押しのけられる)ため、術中に神経本幹を犠牲にせず核出できる可能性が高い——この一点が、外科的方針を大きく左右する。

flowchart TD
    A["末梢神経を包む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schwann cell'>Schwann細胞</span>"] --> B["merlin(NF2遺伝子産物)の機能喪失"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schwann cell'>Schwann細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clonal proliferation'>クローン性増殖</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve fiber'>神経線維</span>の外側に偏心性に発育"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous cap'>線維性被膜</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encapsulated'>被包</span>される"]
    E --> F["Antoni A領域(密)とAntoni B領域(粗)が混在"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antoni A'>柵状配列</span>した核=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Verocay bodies'>Verocay小体</span>"]
    G --> H["S-100陽性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encapsulated'>被包</span>性良性腫瘍として同定"]

発生部位と臨床像

はどの末梢神経からも生じうるが、頭頸部・縦隔、四肢ではに好発する1。好発年齢は20〜50歳で、明確な性差は報告されていない1

臨床像の中心は無症候性の腫瘤である。神経を巻き込まず外側からするため、初期は無症状のことが多く、増大して隣接構造を圧迫して初めて疼痛・・運動症状が出現する1。触診上は神経の走行と直交する方向には可動性があるが、走行に沿った方向には可動しにくい、という所見が神経由来腫瘤を示唆する。

画像所見

CTでは筋肉よりやや低吸収の腫瘤としてを伴って描出され、MRIではT1で筋肉と等信号、T2で高信号を示し、しばしば変性を伴う不均一な内部信号を呈する1。中心部の低信号と辺縁の高信号からなるtarget sign(標的様所見)は末梢瘍を示唆する所見として知られる。との鑑別点は、が神経を偏心性に変性を伴いやすいのに対し、そのものを取り込んでに腫大させる点にある。

多発例と関連症候群

が大多数だが、複数のが同時にみつかる場合は、以下の症候群を鑑別する。

病態 鍵となる違い
(NF2) 両側性のが最も特徴的(約90〜95%)。を合併する
schwannomatosis 診断には両側性の不在を要件とする(NF2との相互排他的な定義)。最多の初発症状は疼痛で、慢性の限局性・びまん性疼痛がを伴わずに多発するから生じる。だがは低く、罹患者の8割超で両親に既往がない3

⚠️ 多発性=NF2と決めつけない。 両側を伴わない多発例はschwannomatosisを考える。LZTR1SMARCB1で、いずれも22番染色体NF2近傍に位置するが別遺伝子であり、の合併はSMARCB1関連例に限られる3

診断

MRIで性・偏心性の腫瘤と特徴的信号パターンを確認し、生検・でAntoni A/B領域・・S-100陽性という組織所見で確定する。単発無症候性のに対する生検はしばしば省略され、典型的な画像所見があれば経過観察下に増大傾向を確認するか、症候性であれば診断と治療を兼ねて切除を行う。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schwannoma'>神経鞘腫</span>を疑う腫瘤"] --> B{"無症候性か"}
    B -->|"無症候性・典型的画像所見"| C["経過観察(定期画像)"]
    B -->|"症候性・増大傾向・診断不確実"| D["手術(被膜を利用した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enucleation'>核出術</span>)"]
    C --> E{"増大・症候化するか"}
    E -->|"する"| D
    E -->|"しない"| C
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrophysiology'>電気生理</span>モニタリング下に神経本幹を温存"]
    F --> G["多発例ならNF2・schwannomatosisを鑑別"]

治療の基本は経過観察外科的切除の使い分けである。無症候性・画像が典型的な病変は定期的な画像フォローでよいが、症候性・増大傾向・診断が不確実な病変は手術適応になる。と異なりが神経本幹との間の剥離面を提供するため、モニタリング下に被膜だけを切除しを温存するが可能なことが多い1性のへはほとんど転化しない——MPNSTの多くはNF1関連のから生じ、由来ではない点はと対比する上で重要である。

まとめ

  • だけから生じる性良性腫瘍で、Antoni A(密)/Antoni B(粗)領域と、びまん性S-100陽性が断の柱である。
  • 神経を巻き込まず外側からするため、多くは無症候性で発見され、手術では被膜を利用したで神経本幹を温存できる。
  • 好発部位は頭蓋内()・として最多)・四肢・消化管(GISTとの鑑別)と幅広い。
  • 多発例では両側を伴うNF2と、それを伴わないschwannomatosis(疼痛が主症状、LZTR1SMARCB1関連)を鑑別する。
  • がまれで、の多くはNF1関連のから生じる点でと対比される。

出典

  1. 1.Neurilemmoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Davis DD, Kane SM)・2023)神経鞘腫の組織学的特徴(Antoni A領域=密な紡錘形細胞、Antoni B領域=粗な浮腫性領域、Verocay小体=核の柵状配列、S-100陽性)、好発部位が頸部・縦隔および四肢の屈側であり好発年齢が20〜50歳で明確な性差がないこと、無症候例は経過観察でよく症候性では線維性被膜のおかげで神経本幹を温存したまま核出できること、術前に筋力が保たれていた症例の88%で術後も正常筋力が維持され、症状は52%で完全消失・18%で改善したことを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.LZTR1- and SMARCB1-Related Schwannomatosis(GeneReviews(Dhamija R, Plotkin S, Gomes A, Babovic-Vuksanovic D)・2025)schwannomatosisの診断基準が「両側性前庭神経鞘腫の不在」を含みNF2と相互排他的に定義されること、最多の初発症状が限局性・びまん性の疼痛であること、常染色体顕性遺伝だが浸透率が低く罹患者の8割超で両親に既往がないこと(新生バリアントの割合はLZTR1関連で約3割・SMARCB1関連で約1割)、推定有病率が約12万6千人に1人であることを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.ITMIG Classification of Mediastinal Compartments and Multidisciplinary Approach to Mediastinal Masses(RadioGraphics(Radiological Society of North America)・2017)ITMIGのCTに基づく傍脊椎(後縦隔)区画の境界定義と、この区画に生じる異常の大半を神経原性腫瘍が占めることを確認した閲覧 2026-08-10