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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 腫瘍

前庭神経鞘腫

Vestibular schwannoma

別名
聴神経腫瘍聴神経鞘腫acoustic neuromaacoustic neurinoma
臓器系
耳鼻咽喉科腫瘍神経
科目
NeurologyENTOncologyHistopathologyPathology
トピック
神経内科 G2-03:前庭系障害の症状と主な原因耳鼻咽喉科 22:急性・慢性感音難聴腫瘍学 I-21:定位放射線治療と定位放射線手術組織病理 H2-132:シュワン細胞腫(前庭神経鞘腫の管理とschwannomatosis)病理学 C/111:中枢・末梢神経系腫瘍
上位概念
神経鞘腫
鑑別疾患
髄膜腫
続発疾患
水頭症
関連疾患
頭蓋底腫瘍
症状
難聴耳鳴めまい歩行不安定顔面神経麻痺
スコア
House-Brackmann分類Koos分類
原因となる疾患
神経線維腫症2型

🧠 全体像(旧称:)は、第Ⅷ脳神経のを包むに生じ、で発育するの代表的な分類である。診断から決定までの一本道は、片側進行性の感音難聴という「ありふれた」訴えから始まり、MRIで腫瘤を確認し、大きさ・症候性・年齢・患者の希望に応じて「経過観察/」という3つの選択肢のどれが最も害が少ないかを選ぶ、という流れで理解する。両側性なら特発例はまずあり得ず、(NF2)を強く疑う——この一点だけは例外なく記憶する。

疫学

は年間10万人あたり1.2例(米国)ので、診断時年齢の中央値は55歳、性差は明確でない1。全の約6割を占め、全体の8.6%を占める1。ほとんどが片側性・性で、例の多くは体NF2遺伝子(22番染色体、産物はmerlin)両アレルの不活化による——生殖細胞系列にを持つNF2では両側性になる1

臨床像

⭐ 診断の入口は片側進行性の感音難聴である。は次のとおりで、進行はゆっくりであることが多く、症状出現から診断まで平均約5年の遅れが生じているとの報告がある1

症状 特徴
難聴 最も頻度が高い初発症状。片側性・の感音難聴。の程度に比して不釣り合いに悪いことがある
難聴と同側に生じることが多い
めまい の緩徐な機能低下はが働くため、回転性めまいよりも持続する不安定感としてされやすい
まれ。顔面神経はに強く、腫瘍がかなり大きくなるまで温存されやすい1

腫瘍が増大しを占拠すると、三叉神経(顔面)・小脳(同側の)・脳幹の症候が加わり、最終的には第4脳室を偏位させ水頭症を来しうる。

診断

flowchart TD
    A["片側進行性の感音難聴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tinnitus'>耳鳴</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pure-tone audiometry'>純音聴力検査</span>で感音難聴を確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gadolinium'>ガドリニウム</span>造影MRI(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal auditory canal (IAC)'>内耳道</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellopontine angle'>小脳橋角部</span>)"]
    C --> D{"腫瘤を認めるか"}
    D -->|"あり・片側性"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vestibular schwannoma'>前庭神経鞘腫</span>と診断<br>大きさ・進展度を評価"]
    D -->|"あり・両側性"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurofibromatosis type 2'>神経線維腫症2型</span>を疑う"]
    D -->|"なし"| G["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrocochlear pathology'>後迷路性病変</span>・中枢性病変を検討"]
    E --> H["管理方針の決定へ"]
    F --> H

聴力検査()は、その後の管理方針にかかわらず必須のベースライン評価である1。画像は造影MRIが標準で、T1で等〜低信号、T2で不均一な高信号を呈し、造影で均一に増強される1。なお中心部の低信号と辺縁の高信号からなるtarget signは末梢瘍(とくに)のT2所見であり、では診断の手がかりにならない。

腫瘍の進展度は内への限局から脳幹までを4段階に分けるKoos分類(Grade I:内に限局/Grade II:外への進展があるが脳幹に接しない/Grade III:小脳橋角槽を占めるが脳幹をしない/Grade IV:脳幹をし第4脳室を偏位させる)で記載されることが多く、の選択に直結する。

管理方針:3つの選択肢

の管理は「切る/照射する/様子をみる」の3択で、どれを選ぶかは大きさ・症候の有無・年齢・患者の価値観で決まる。いずれも良好な腫瘍制御が期待できるため、聴力温存やとのバランスで選択する。

選択肢 適応の目安 腫瘍制御 聴力温存 主な合併症
経過観察 1.5cm未満・無症候・画像上の増大なし 2年時点で65% 2年時点で実用聴力71% なし(増大時に次の治療へ移行)
(単回照射12〜13Gy) 小型(Koos I〜II中心)、が高い患者 1年局所制御100%(手術と同等) 57.5%(別レビューでは約70%) 顔面神経障害6.1%、12.2%
分割(20〜25Gyを5分割) 単回照射よりやや大きい病変・聴力温存を優先したい場合 高い局所制御 33〜81% 単回照射より低い傾向
大型(Koos IV)・脳幹・症候性・増大が速い病変 全摘後の再発0〜2%(亜全摘は30%)/シリーズの全摘率98% 同シリーズでは68%、比較研究では14.4〜37.5% 顔面神経障害35.3%、22%、死亡率1.1%

(数値はいずれもStatPearlsが引用する報告の集計値1

経過観察では平均増大速度が年1.4mmとされ、初期は6か月ごと、安定していれば年1回のMRIで増大の有無を追跡する1。増大・症候の悪化があれば放射線治療または手術へ移行する。

手術アプローチ

アプローチ 特徴
経迷路法 内耳を犠牲にするため聴力温存は不可能。すでに実用聴力がない・大型腫瘍に適する
後S状洞法 聴力温存の可能性があるが、腫瘍の位置によっては再発リスクがやや高い
小型腫瘍で聴力温存を狙える。腫瘍サイズに適応が制限される

いずれの術式でも、顔面神経モニタリング下に顔面神経の温存を最優先しつつ全摘出を目指す。術後のHouse-Brackmann分類で記録するのが標準で、この分類はもともと摘出術後の顔面神経温存を報告するために作られた経緯がある。

鑑別診断

腫瘤としてはが主要な鑑別に挙がる。を中心に「アイスコーン状」に進展しの拡大を伴うのに対し、は硬膜への付着・dural tail・を示しの拡大を伴わない点で区別する。

両側性=神経線維腫症2型(NF2)

⚠️ 両側性のは特発例ではほぼあり得ず、NF2患者の約90〜95%に存在するNF2の最も特徴的な所見である2。片側性で発症した若年患者でも、家族歴・皮膚病変・他部位の腫瘍を確認し、NF2を疑う所見があれば遺伝学的検査と全身の画像評価に進む。NF2関連の例に比べて多発性・多巣性の傾向があり、は聴力の両側温存を軸に個別化される。詳細はノートに委ねる。

まとめ

  • (旧称:)は第Ⅷ脳神経に生じるの代表的な分類で、に好発する。
  • 臨床像は片側進行性の感音難聴・・めまい/の順で、は腫瘍がかなり大きくなるまでまれ。
  • 診断は造影MRIが標準で、進展度はKoos分類(I〜IV)で記載する。
  • 管理は経過観察・の3択で、いずれも良好な腫瘍制御が期待できる一方、聴力温存率と顔面/リスクにがある。
  • 腫瘤の鑑別は拡大の有無・dural tailの有無で見分ける。
  • 両側性はNF2患者の90〜95%に存在する最も特徴的な所見であり、両側性を見たら特発例と決めつけずNF2を疑う。

出典

  1. 1.Vestibular Schwannoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Sheikh MM, De Jesus O)・2023)米国での発生率が年10万人あたり1.2例・診断時年齢中央値55歳であること、難聴・耳鳴・平衡障害の3徴に加え顔面神経麻痺はまれであること、症状出現から診断まで平均約5年の遅れがあること、待機観察(wait-and-scan)の適応は1.5cm未満・無症候・無増大であり平均増大速度は年1.4mmで2年時点の腫瘍制御率65%・実用聴力温存率71%であること、定位放射線手術(単回12〜13Gy)の聴力温存率57.5〜81%・局所制御率98〜100%・顔面/三叉神経障害6.1%/12.2%であること、分割定位放射線治療(20〜25Gyを5分割)の聴力温存率が約81%と単回照射より優れる傾向にあること、顕微鏡下手術の全摘率98%・聴力温存率14.4〜37.5%・顔面/三叉神経障害35.3%/22%・死亡率1.1%・再発率が全摘後0〜2%に対し亜全摘後は30%に達すること、経迷路法・後S状洞法・中頭蓋窩法という3つの手術アプローチの特徴、multiple schwannomaの3%がNF2に起因することを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.Neurofibromatosis Type 2(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Tiwari R, Singh AK)・2022)両側性前庭神経鞘腫がNF2患者の約90〜95%に存在するNF2の最も特徴的な所見であることを確認した閲覧 2026-08-10