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Disease Atlas · 神経 · 疾患

中枢神経表在性ヘモジデリン沈着症

Superficial siderosis of the central nervous system

別名
脳表ヘモジデリン沈着症古典型表在性ヘモジデローシステント下型表在性ヘモジデローシス
臓器系
神経耳鼻咽喉科
科目
NeurologyOtorhinolaryngology
トピック
神経内科 G2-25:脳血管障害の分類耳鼻咽喉科 22:急性・慢性感音難聴
鑑別疾患
脊髄小脳変性症前庭神経鞘腫
関連疾患
脳アミロイド血管症
治療薬
デフェリプロン
症状
難聴小脳性運動失調歩行不安定嗅覚障害耳鳴眼振
画像所見
皮質表在性ヘモジデローシス脳微小出血
原因となる疾患
髄液漏

🧠 全体像:は、へ長年にわたってごく少量の血液が漏れ続けた結果、下にが層状に沈着して神経を壊していく病気である1。出血そのものは臨床的に一度も「出血発作」として現れないので、患者は難聴・失調・というの変性疾患のような顔つきでやってくる。⭐ 鍵は「なぜ漏れているか」を探すことにある——最も多い原因は脊髄ので、そこを閉じない限り沈着は進み続ける2。⚠️ を撮らないと所見そのものが見えない。 通常のT1・やでは検出できない。

⚠️ 皮質型と古典型(テント下型)は別の病気である

同じ「」の語が、分布も原因も症候も異なる2つの病態に使われている1。本ノートが扱うのは(型)である。

(型)
分布 の大脳凸面のに限局 脳幹・小脳・脊髄のうち少なくとも2か所。を伴うこともある
最多の原因 (脊髄硬膜の欠損)
主症候 一過性、 進行性の感音難聴、、
見つかる文脈 の評価、の評価 原因不明のの難聴と失調

⚠️ 「」というは両方に使われる。 とくになどの添付文書がARIA-Hの一項目として挙げる「」は、を背景とする皮質型を指しており、本ノートのとは別物である。どちらを指しているかを文脈で確かめる。

病態

は、沈着を説明しうる自然発症あるいはのが無いものとして定義される(1型)。これに対し、・・手術外傷など明らかな出血歴があるものを二次性(2型)と呼ぶ1。

の出血源として提唱されている機序は次のとおりである1。硬膜の欠損そのものはとして独立した病態を作り、をに別の入口から見つかることもある。

flowchart TD
    A["腹側の脊髄<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dural defect (dural tear)'>硬膜裂孔</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epidural space'>硬膜外腔</span>への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CSF leak'>髄液漏</span>出"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epidural'>硬膜外</span>の血管からの反復性の微量出血"]
    C --> D["裂孔を通って<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subarachnoid space'>くも膜下腔</span>へ血液が戻る"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pia mater'>軟膜</span>下への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemosiderin deposition'>ヘモジデリン沈着</span>(数年〜数十年)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cranial nerve VIII'>第VIII脳神経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellar vermis'>小脳虫部</span>・脊髄表層の変性"]

💡 なぜと小脳がやられるのか。 は橋を出たあと髄液中を長く走り、しかも髄鞘がに由来するため、鉄の毒性に最も曝されやすい1。同じ理由でも侵されやすく、が高頻度に出る。は背側に接して髄液の流れが速いことと、・に富むことが感受性の高さの説明として挙げられている。

以外の原因としては、手術後・外傷・が挙げられる2。腫瘍(とくにの腫瘍)も出血源になりうる。

臨床像

の中核は次の3つである21。

  1. の両側感音難聴:高音域から左右対称に落ちる。蝸牛より中枢の障害()であることが、通常のとの違いになる。
  2. :、、眼振、。実際には四肢のより体幹の・が前面に出やすい。
  3. :、感覚障害、。に伴うの液体貯留が脊髄を圧迫することも一因と考えられている。

これに加えて、、、てんかん、めまい、頭痛、がしばしば伴う1。

⚠️ 見逃されやすい。 症状が緩徐で、初期には「加齢による難聴と」として片付けられる。中年以降に難聴とが一緒に進むのを見たら、この病気をする。

診断

flowchart TD
    A["進行性の両側感音難聴+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellar ataxia'>小脳失調</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='susceptibility-weighted imaging'>磁化率強調像</span>を含む頭部MRI"]
    B --> C{"脳幹・小脳表面に線状の低信号があるか"}
    C -->|"無い"| D["他の変性疾患・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrocochlear pathology'>後迷路性病変</span>を検索"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='supratentorial'>テント上</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulcus'>脳溝</span>に限局"| E["皮質型として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral amyloid angiopathy, CAA'>脳アミロイド血管症</span>を評価"]
    C -->|"脳幹・小脳・脊髄の2か所以上"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic form'>古典型</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='infratentorial'>テント下</span>型と診断"]
    F --> G["全脊髄<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>(T2-space法を含む)で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dural defect (dural tear)'>硬膜裂孔</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epidural'>硬膜外</span>液貯留を探す"]
    G --> H{"液貯留はあるが漏出部位が定まらない"}
    H -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelography'>脊髄造影</span>・デジタルサブトラクション<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelography'>脊髄造影</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MR myelography'>MR脊髄造影</span>"]
    H -->|"いいえ"| J["外科的閉鎖の適応を検討"]
    I --> J
  • が診断の基準となる撮像法である3。でも線状の低信号として見えるが、のほうがに鋭敏である。
  • 診断がついたら必ず脊髄まで撮る。 頭部だけで止めると原因に到達しない。T2-space法は従来のより、沈着そのものとの同定に優れる1。
  • 脊柱管内の液体貯留は「どこかから漏れている」ことしか示さない。 瘻孔の位置を決めるには・デジタルサブトラクション・を用いる1。
  • 髄液には赤血球が認められることがある。

疫学

長らく「きわめてまれ」とされてきたが、画像で拾える頻度はそれほど低くない。UK Biobank の強調 10,305件をした研究では、小脳またはに型の所見を持つ5例が同定され、推定は人口10万あたり48.5例(95%信頼区間20.7〜113.5)であった3。1908年の最初の記載以来の報告例は270例あまりにとどまるので、⭐ 報告数と実際の保有者数の差が大きい=診断されていないという構図になる。

⚠️ ただしこれは画像所見のである。 全員が症候性という意味ではない。

治療

⚠️ 確立した標準治療は無い。 現状の柱は次のとおりである1。

方針 内容 位置づけ
出血源の処理 の閉鎖、動脈瘤・・腫瘍の外科的処理 進行を止める唯一の根本的な手段。ただし報告例は少なく長期成績は未確定
(経口の) 少量投与で一定の効果を示す報告がある一方、長期投与の安全性に疑問が呈されている
症状への対応 、リハビリテーション の難聴でも一定の恩恵を受ける患者がいる

⚠️ の長期投与は無害ではない。 引用されている報告では、40%が有害事象のため治療を中止し、その最多はに伴う敗血症(30%)であった1。はもともとをに持ち、週1回のの測定が求められる薬である。本症への使用は承認された適応の外にあたる。

💡 「鉄を抜けば治る」ではない。 すでに起きた神経細胞の脱落は戻らないので、も外科的閉鎖も進行を止めるための治療として位置づける。だからこそ、原因不明の難聴と失調の段階でを撮ることに意味がある。

鑑別

まとめ

  • は、への慢性のごく少量の出血が下にを沈着させる病態である。
  • 型()とに限局する皮質型は、分布・原因・症候のいずれも異なる別の病態として扱う。の文脈で言う「」は皮質型を指す。
  • の3徴は進行性の両側感音難聴・・で、もしばしば伴う。とは髄鞘が由来で髄液中を長く走るため障害されやすい。
  • 診断は。脳幹・小脳・脊髄のうち2か所以上の線状低信号で定義される。⚠️ 頭部で止めず、必ず全脊髄まで撮ってを探す。
  • 治療は出血源の外科的処理と。は長期投与でに伴う敗血症が問題になる。
  • UK Biobank の研究では画像上のは人口10万あたり48.5例と推定され、報告例数(270例あまり)との差は診断されていない例の多さを示唆する。

出典

  1. 1.Infratentorial superficial siderosis: report of six cases and review of the literature(Frontiers in Neuroscience・2024)中枢神経表在性ヘモジデリン沈着症がくも膜下腔への慢性・反復性または持続性のごく少量の赤血球漏出によって生じる神経変性疾患であること、侵される領域によって皮質型とテント下型に分けられ、テント下型が脳幹・小脳・脊髄のうち少なくとも2か所が侵されることとして定義されること、テント下型の主症状が進行性の小脳性運動失調・両側の感音難聴・脊髄病変であり、認知機能障害・てんかん・嗅覚低下・めまい・頭痛も高頻度であること、テント下型が原因によって古典型(1型、沈着を説明しうる自然発症または外傷性の頭蓋内出血が無い)と二次性(2型)に分けられること、古典型では硬膜裂孔が最も多い原因とされ腹側の硬膜裂孔から硬膜外腔へ髄液が漏れ硬膜外の血管からの反復出血がくも膜下腔へ戻ることで沈着が起こるという機序が提唱されていること、第VIII脳神経が橋から出たあと髄液中を長く走りかつ髄鞘がグリア細胞由来であるため最も障害されやすいこと、嗅神経も同じ理由で障害されやすいこと、T2-space法が従来のT2強調像より表在性ヘモジデローシスと硬膜裂孔の同定に優れ、瘻孔の同定にはCT脊髄造影・デジタルサブトラクション脊髄造影・MR脊髄造影を用いること、治療が出血源の外科的処理とデフェリプロンを主体とし人工内耳が一部の患者に有用でありうることを、Introduction・Discussion 節で確認した。デフェリプロンの長期投与で40%が有害事象(最多は顆粒球減少に伴う敗血症で30%)のため治療を中止したという数値は本論文自身の測定値ではなくSammaraieeら2020年の報告の引用である。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Cerebral Superficial Siderosis: Etiology, Neuroradiological Features and Clinical Findings(Clinical Neuroradiology・2022)表在性ヘモジデローシスが軟膜と大脳・脊髄の表層に線状のヘモジデリン沈着を生じる病態であること、テント下型がくも膜下腔への反復性または持続性のわずかな出血によると考えられること、髄液漏を来す脊髄硬膜の病変が最も重要な原因群と考えられており脊髄の詳細な画像評価が必要であること、他の原因として脳神経外科手術・外傷・動静脈奇形が挙がること、テント下型の典型的な神経症候が緩徐進行性の感音難聴と失調・運動時振戦・眼振・構音障害といった小脳症候であること、これに対しテント上に限局する皮質表在性ヘモジデローシスは別の型として区別され高齢者では脳アミロイド血管症が主因で一過性局所神経症状を呈することを、Abstract で確認した(既存ノート imaging-findings/cortical-superficial-siderosis.md と同一のid・urlを再利用し、本稿の執筆にあたって自分で取得し直した)。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Prevalence of infratentorial superficial siderosis in a large general population sample from the UK Biobank(Journal of Neurology・2025)古典型テント下型表在性ヘモジデローシスが1型テント下型と同義であり、髄液中への慢性の間欠的または持続的で少量の赤血球漏出に続く鉄分解産物(主にヘモジデリン)の沈着を特徴とすること、1908年の最初の記載以来270例超が報告されてきたこと、磁化率強調MRIが診断の基準となる撮像法であること、UK Biobank の磁化率強調MRI 10,305件を読影して小脳または上小脳虫部の所見を持つ5例が同定され、推定有病率が人口10万あたり48.5例(95%信頼区間20.7〜113.5)であったこと、この値が他の希少な神経・神経耳科疾患で報告される有病率より高いことを、Abstract および Introduction で確認した。閲覧 2026-09-03