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Symptoms · Published

嗅覚障害

Olfactory dysfunction

別名
嗅覚低下嗅覚脱失無嗅症異嗅症anosmia
臓器系
耳鼻咽喉科神経
科目
ENTPhysiologyAnatomy
トピック
耳鼻咽喉科 29:鼻腔通気低下の原因、鼻中隔偏位、嗅覚障害生理学 8.6:平衡感覚の生理学。味覚と嗅覚。解剖学 7.6:頭部:鼻腔と副鼻腔
関連疾患
Kallmann症候群ウイルス性脳炎パーキンソン病新型コロナウイルス感染症髄液漏髄膜腫鼻茸慢性副鼻腔炎

🧠 全体像:患者が「においが分からない」と訴えたとき、まず量的異常(嗅覚が弱い・消えている)と質的異常(においの感じ方が歪む、何もないのに感じる)を分けることが出発点になる。次に病態生理を(においの分子がまで届かない)・そのものの障害)・中枢性より中枢の経路の障害)の3群に整理すると、原因検索と対症療法の選び方が同時に決まる。頻度としては後やが多いが、前頭蓋底の腫瘍、後のという、地味だが見逃してはいけない鑑別を先に頭に入れておく。

定義と用語の整理

は、感じる強さが変化する量的異常と、感じ方そのものが歪む質的異常に大別される。

分類 用語 定義
量的異常 においを全く感じない
量的異常 においを感じる閾値が上がる
量的異常 通常量の刺激を過度に強く感じる(稀)
質的異常 刺激源はあるのに、本来と違うにおいに感じる(多くは不快なにおいへの歪み)
質的異常 においの刺激源が無いのに、においを感じる

⚠️ は量的異常の回復過程で新たに出現することがある。 後やCOVID-19後のでは、いったんとして発症した患者の一部が、数週間から数か月を経てを来す1。「においが分かるようになってきたのに、前と違う嫌なにおいに感じる」という訴えは治療の失敗ではなく、の再生過程で生じる典型的な経過であることを患者に説明する。

病態生理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory dysfunction'>嗅覚障害</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conductive'>気導性</span><br>においの分子が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory cleft'>嗅裂</span>に届かない"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensorineural (olfactory)'>嗅神経性</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory epithelium'>嗅上皮</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory nerve'>嗅神経</span>自体の障害"]
    A --> D["中枢性<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory bulb'>嗅球</span>より中枢の経路の障害"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasal polyp'>鼻茸</span>を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic rhinosinusitis'>慢性副鼻腔炎</span>"]
    B --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allergic rhinitis'>アレルギー性鼻炎</span>"]
    B --> B3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deviated nasal septum'>鼻中隔偏位</span>"]
    C --> C1["ウイルス感染後<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper respiratory tract infection'>上気道感染</span>後・COVID-19後)"]
    C --> C2["有毒物質・薬剤"]
    C --> C3["加齢による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory epithelium'>嗅上皮</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='regenerative capacity'>再生能</span>低下"]
    D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic brain injury, TBI'>頭部外傷</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shearing of the olfactory filaments'>嗅糸断裂</span>"]
    D --> D2["前頭蓋底・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory bulb'>嗅球</span>部腫瘍"]
    D --> D3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurodegenerative disease'>神経変性疾患</span>"]

💡 この3群分けはに直結する。 はにおいの分子がまで届く経路さえ確保できれば嗅覚そのものは温存されていることが多く、原因となっている鼻腔病変(の粘膜腫脹、)を治療すれば改善しうる。一方、・中枢性はの受容体細胞そのものや、それより中枢の伝導路が壊れているため、鼻腔を通気させても嗅覚は戻らず、後述するが中心になる。

の代表がウイルス感染後のである。では、においを感じるそのものよりもこれを支える支持細胞が先にウイルスの標的になりやすく、炎症によりの脱落・機能低下が生じる。から生涯にわたり再生され続けるためとともにしうるが、再生の過程で軸索が本来と異なる糸球体へ誤って接続すると、においの組み合わせパターンが変質しとしてされる。COVID-19後のもこの機序で説明され、回復には数週間から数か月を要し、感染から数か月後になって初めてを来す例もある1

💡 鼻閉・をほとんど伴わずにだけが突然生じる場合は、よりを疑う手がかりになる。 COVID-19後のは鼻腔の通気が保たれたまま起こることが多く、この点がによるとの臨床的な鑑別点になる。

中枢性のうち加齢・によるでは、パーキンソン病で異常凝集したに早期から沈着し、では周辺が部位にあたる。⭐ どちらもが運動症状・記憶障害に何年も先行しうるため、単独のを「年のせい」で済ませず、の可能性として記録しておく価値がある。

緊急・見逃してはいけない疾患

危険度の高い順に並べる。頻度が高いのは感染後・性だが、それらを疑う前にまず以下を除外する。

  • ⚠️ 前頭蓋底・ の片側性で発見が遅れやすく、増大すると同側のと対側のを来すを呈する。頭痛や性格変化を伴うは画像検査の閾値を下げる。
  • ⚠️ のうち原発は・片側固定性の鼻閉とともにで発見されることがある。片側性で進行性なら腫瘍を疑って精査する。
  • ⚠️ 後の を伴うでは嗅糸がを来すと同時に、から髄膜炎を起こしうる。水様性のを伴えばが上がる。
  • ⚠️ パーキンソン病としての 運動症状や記憶障害が明らかになる何年も前からが先行しうる。原因不明のとして片付けず、便秘やなど他のも併せて聴取する。
  • ⚠️ 先天性の発生不全とを合併する疾患で、思春期が来ないことと嗅覚が生来無いことを併せ持つ点が手がかりになる。関連するの評価に進む。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory dysfunction'>嗅覚障害</span>の訴え"] --> B{"鼻閉・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhinorrhea'>鼻漏</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasal endoscope'>鼻内視鏡</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasal polyp'>鼻茸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deviated nasal septum'>鼻中隔偏位</span>・<br>粘膜腫脹を確認し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conductive'>気導性</span>を評価"]
    B -->|"なし"| D{"発症・経過"}
    D -->|"急性発症"| E["感冒・COVID-19の先行や<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic brain injury, TBI'>頭部外傷</span>歴を確認"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slowly progressive'>緩徐進行性</span>"| F["神経症状の有無<br>視力障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parkinsonism'>パーキンソニズム</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive decline'>認知機能低下</span>"]
    E --> G{"外傷歴や<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological findings'>神経所見</span>があるか"}
    F --> G
    G -->|"あり"| H["画像検査<br>副鼻腔CT・頭蓋底/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory bulb'>嗅球</span>のMRI"]
    G -->|"なし"| I["標準化嗅覚検査で定量評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='standard olfactory test (T&amp;T olfactometry)'>基準嗅覚検査</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous olfactory test (Alinamin test)'>静脈性嗅覚検査</span>など"]
    C --> J["原疾患の治療で改善するか経過を見る"]
    H --> K{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass lesion'>占拠性病変</span>・骨折を同定できたか"}
    K -->|"あり"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurosurgery'>脳神経外科</span>など専門科と連携"]
    K -->|"なし"| I
    I --> M["感染後・外傷後・特発性として<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory training'>嗅覚刺激療法</span>を検討"]

嗅覚検査は的な訴えを客観化するために重要である。は複数の基準臭をしてを求め、は薬剤を静注してから嗅覚路を介して感じるまでの時間とを測ることで中枢への伝導そのものを評価する。⭐ 片側性、急性発症、神経症状を伴う場合は嗅覚検査より先に画像検査を優先する。

対症療法の考え方

治療の軸は原因群によって異なる。は原疾患の治療がそのまま嗅覚の治療になる。を伴う例ではしうるほか、既存治療に反応しない重症例ではを標的とする生物学的製剤がを改善させることがで示されている2

・中枢性では鼻腔を通気させても嗅覚は戻らないため、(嗅覚トレーニング)が対症療法の中心になる。バラ・ユーカリ・レモン・クローブなど性質の異なる複数のにおいを1日2回、それぞれ20〜30秒程度嗅ぐことを続ける方法で、実施期間は24週以上が標準とされ、16週より1年続けたほうが改善しやすいとの報告がある3。感染後のではを行った群の約7割に改善がみられ対照群の約4割を上回った一方、外傷後の改善率は2割程度にとどまり、パーキンソン病でも自然軽快を上回る改善が得られるのは約2割にとどまるなど、原因によって効果の大きさが異なる点は患者にあらかじめ伝えておく3

⚠️ は生活の質だけでなく安全にも関わる。 ガス漏れ、の煙、腐敗した食品に気づけないため、ガス警報器・煙感知器の設置、賞味期限や見た目での食品管理を具体的に助言する。原因治療やの効果を待つ間も、この安全対策は並行して行う。

まとめ

  • は量的異常()と質的異常()に分けて聴取する。は量的異常の回復過程で新たに出現することがある。
  • 病態生理は(においがに届かない)・の障害)・中枢性(より中枢の障害)の3群で整理し、この分類がそのままを決める。
  • 見逃してはいけないのは前頭蓋底・)、後の、パーキンソン病・である。
  • 鑑別は鼻閉・の有無でを先に切り分け、経過・外傷歴・で画像検査の要否を決め、最後に嗅覚検査で定量評価する。
  • は原疾患治療(ステロイド・手術・生物学的製剤)で、・中枢性はで対応する。いずれの場合もガス漏れや食品の安全に関わる説明を怠らない。

出典

  1. 1.Qualitative Olfactory Dysfunction and COVID-19: An Evidence-Based Review with Recommendations for the Clinician(American Journal of Rhinology & Allergy・2023)COVID-19による嗅覚障害患者の約4割が異嗅症などの質的嗅覚障害を来し、発症は感染から数か月後になることもあり、症状が7か月を超えて持続しうることを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Dupilumab improves sense of smell and clinical outcomes in patients with severe chronic rhinosinusitis with nasal polyps with anosmia(Current Medical Research and Opinion・2025)無嗅症を伴う重症の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者にデュピルマブを投与したSINUS-24/-52試験のプール解析で、24週時点の無嗅症の割合が投与群で80.9%から28.5%に減少し14.9%が正常嗅覚に達した一方、プラセボ群では79.2%が無嗅症のまま推移したことを確認し、生物学的製剤が気導性嗅覚障害の治療選択肢になりうる根拠とした。閲覧 2026-08-02
  3. 3.Olfactory Training(StatPearls Publishing (National Library of Medicine)・2024)嗅覚刺激療法の標準的な方法(性質の異なる4種のにおいを1日2回20〜30秒嗅ぐ、24週以上、1年継続の方が16週より良好)と、感染後・外傷後・特発性・パーキンソン病における改善率(感染後約71%対照37%、外傷後約23%、パーキンソン病では約2割が自然軽快を上回る改善)を確認した。閲覧 2026-08-02