疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

神経鞘腫症

Schwannomatosis

別名
SWN多発性シュワン細胞腫症候群
臓器系
腫瘍神経
科目
HistopathologyPediatrics
トピック
組織病理 H2-132:シュワン細胞腫(前庭神経鞘腫の管理とschwannomatosis)小児科 3-61:単一遺伝子疾患の遺伝形式
鑑別疾患
神経線維腫症2型(NF2)
合併症
悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)髄膜腫
続発疾患
神経鞘腫
治療薬
ガバペンチンアミトリプチリン
症状
疼痛

🧠 全体像:schwannomatosis(症)は、多発性のを生じながら両側性だけは作らないという一点で(NF2)と区別される腫瘍症候群である。SMARCB1LZTR1で、いずれもNF2遺伝子が乗る22番染色体上に近接して位置するが別の遺伝子であり、この近接性が(後述する二重の体細胞不活化)にも関わる。⚠️ 2022年の改訂で用語の使われ方が大きく変わった:従来の「(NF2)」という病名は廃止され「NF2関連schwannomatosis」と呼ばれるようになり、schwannomatosisは現在、NF2関連・SMARCB1関連・LZTR1関連・22q関連の4つの遺伝学的に加え、が未実施のNOS・実施してもを同定できないNECを含む概念としても用いられる1。本ノートは主に非NF2関連(SMARCB1・LZTR1関連)のschwannomatosisを扱う。臨床的には、腫瘍の大きさに比例しない慢性疼痛が主症状で、NF2関連schwannomatosisで前景に立つ難聴は目立たない。

命名法の整理(2022年改訂)

国際コンセンサス(Plotkinら、2022年)は、とのを減らし表現型の重なりを正しく反映するため、NF2とschwannomatosisのを改訂し」という用語そのものを廃止した2

旧称 現行名称 特徴
(NF2) NF2関連schwannomatosis ほぼ全例が30歳までに両側性を発症する3
schwannomatosis(狭義) SMARCB1関連schwannomatosis
LZTR1関連schwannomatosis
両側性を通常作らない

⚠️ 「schwannomatosis」という語は現在2つの意味を持つ。 NF2・SMARCB1・LZTR1・22q関連の4つの遺伝学的に加え原因不明のNOS/NECを含む計6区分を包括する概念としての用法と、非NF2関連(SMARCB1・LZTR1関連)を指す狭義の用法が併存するため、どちらの意味で使われているか文脈で判断する必要がある1。本ノートで単に「schwannomatosis」と書く場合は、NF2関連schwannomatosis(NF2)と対比される狭義の意味(SMARCB1・LZTR1関連)を指す。

病態・遺伝学

SMARCB1LZTR1で、いずれも22番染色体上にNF2遺伝子と近接して位置する別の遺伝子である1(優性)遺伝の形式をとるがが40〜50%と低くSMARCB1の方がLZTR1よりが高い)、罹患者の8割超で両親に既往がない1の割合はLZTR1関連で約30%、SMARCB1関連で約10%である1。推定は約12万6千人に1人とされるが、診断の難しさから過小評価とみられる1

flowchart TD
    A["SMARCB1またはLZTR1の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germline pathogenic variant'>生殖細胞系列病的バリアント</span>"] --> B["1回目のヒット(生殖細胞系列)"]
    B --> C["体細胞での追加変異が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schwannoma'>神経鞘腫</span>形成に必要"]
    C --> D["22番染色体上のNF2遺伝子の不活化も関与しうる"]
    D --> E["多発性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schwannoma'>神経鞘腫</span>(両側性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vestibular schwannoma'>前庭神経鞘腫</span>は通常作らない)"]
    E --> F{"どちらの遺伝子か"}
    F -->|"SMARCB1関連"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meningioma'>髄膜腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malignant peripheral nerve sheath tumor (MPNST)'>悪性末梢神経鞘腫瘍</span>の<br>リスクが上昇(放射線歴がなくても)"]
    F -->|"LZTR1関連"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meningioma'>髄膜腫</span>の報告なし"]

でリスクプロファイルが異なる。 の合併はSMARCB1関連例に限られ、LZTR1関連例では報告がない1のリスクも、放射線照射歴がなくてもSMARCB1関連例で上昇する1。多発性をみたときにどちらの遺伝子が背景にあるかを推定する上で、この合併症プロファイルの違いは臨床的な手がかりになる。

臨床像

最多の初発症状は疼痛である(限局性または びまん性)。腫瘍そのものより先に、あるいは腫瘍の大きさに比例しない慢性疼痛として現れることが多く、疼痛は腫瘍の存在部位に一致しないこともあるよくみられる併存症である1。無症候性の腫瘤として偶発的にみつかることもある。NF2関連schwannomatosisで前景に立つ難聴・は、両側性を作らないため目立たない。

診断基準

診断は臨床基準と分子基準の組み合わせで行う1

  • 臨床基準: 2個以上の非皮内性のを示唆する腫瘍があり、かつ両側性が存在しないこと。
  • 分子基準: LZTR1またはSMARCB1を同定する、あるいは解剖学的に異なる2個以上の症関連腫瘍に同一の体細胞を認める。

⚠️ 両側性の存在は除外基準である。 これがあればNF2関連schwannomatosisを満たすため、schwannomatosis(狭義)とは診断しない1

flowchart TD
    A["2個以上の非皮内性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schwannoma'>神経鞘腫</span>を示唆する腫瘍"] --> B{"両側性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vestibular schwannoma'>前庭神経鞘腫</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["NF2関連schwannomatosisと診断"]
    B -->|"なし"| D["LZTR1・SMARCB1の生殖細胞系列<br>または多発腫瘍に共通する体細胞バリアントを検索"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>を同定できるか"}
    E -->|"できる"| F["SMARCB1関連またはLZTR1関連<br>schwannomatosisと確定"]
    E -->|"できない"| G["臨床基準のみで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='working diagnosis'>暫定診断</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mosaicism'>モザイク型</span>の可能性を考慮)"]

モザイク型

(親が臨床的に非罹患でも生殖細胞にバリアントを持つ)の報告があり、その場合は同胞への再発リスクが一般集団よりわずかに高くなる1自身がを持つ場合は、子への伝達リスクが理論上の50%より低くなりうる1

鑑別

NF2関連schwannomatosisが最も重要な鑑別対象であり、両側性の有無という一点が実務上の分かれ目になる。多発性のをみたら反射的にNF2関連と診断せず、難聴・が目立たず疼痛が前景に立つ例ではschwannomatosis(SMARCB1・LZTR1関連)を積極的に鑑別に挙げる。

治療

が治療の中心で、手術を急がない。 専門医または神経内科医によるアプローチ(などのカルシウムチャネルなどの)が、手術を回避したまま長期的に症状を管理する機会を提供する1

外科的切除は、難治性の限局性疼痛やを伴う症候性腫瘍に適応となる。⚠️ ただし腫瘍を切除しても疼痛が必ず消失するとは限らないため、手術は薬物療法と並行して行い、切除の利益とリスクを個別に判断する1

まとめ

  • schwannomatosisは多発性を生じるが両側性を作らない点でNF2関連schwannomatosisと区別される。SMARCB1LZTR1で、22番染色体上でNF2遺伝子と近接するが別の遺伝子である。
  • 2022年の改訂で「」という用語は廃止され「NF2関連schwannomatosis」と呼ばれるようになり、schwannomatosisはNF2・SMARCB1・LZTR1・22q関連の4つの遺伝学的とNOS/NEC(原因不明)を含む概念としても使われる。
  • 最多の初発症状は腫瘍の大きさに比例しない慢性疼痛で、NF2関連schwannomatosisで前景に立つ難聴は目立たない。
  • は「2個以上の非皮内性」+「両側性の不在」+(LZTR1・SMARCB1の生殖細胞系列または多発腫瘍共通の体細胞バリアント)で、だがは40〜50%と低くも存在する。
  • のリスクはSMARCB1関連例に偏る。治療はを中心とした薬物療法が主体で、手術は症候性腫瘍に限る。

出典

  1. 1.LZTR1- and SMARCB1-Related Schwannomatosis(GeneReviews(Dhamija R, Plotkin S, Gomes A, Babovic-Vuksanovic D)・2025)schwannomatosisが「多発性神経鞘腫の易罹患性を持つ個人」を包む上位概念(umbrella term)であり、Nomenclature項でNF2関連・SMARCB1関連・LZTR1関連・22q関連(LZTR1・SMARCB1・NF2いずれにも生殖細胞系列病的バリアントを同定できないが染色体22q上で共通のヘテロ接合性消失とNF2の両アレル不活化を示す)・schwannomatosis-NOS(臨床像を満たすが分子解析未実施)・schwannomatosis-NEC(分子解析を行ったが病的バリアントを同定できず)の計6区分が列挙されていること、schwannomatosisの臨床診断基準が「2個以上の非皮内性のシュワン細胞腫を示唆する腫瘍」かつ「両側性前庭神経鞘腫の不在」であり両側性前庭神経鞘腫の存在はNF2関連schwannomatosisの診断基準を満たすため除外基準になること、分子診断はLZTR1またはSMARCB1のヘテロ接合性生殖細胞系列病的バリアント、または解剖学的に異なる2個以上の腫瘍に同一の体細胞病的バリアントを認めることで確定すること、最多の初発症状が限局性・びまん性の疼痛または無症候性腫瘤であり疼痛は腫瘍部位に一致しないこともある併存症としてよくみられること、常染色体顕性遺伝だが浸透率40〜50%と低くSMARCB1の方が浸透率が高いこと、罹患者の8割超で両親に既往がなく新生バリアントの割合はLZTR1関連で約30%・SMARCB1関連で約10%であること、推定有病率が約12万6千人に1人であること、髄膜腫の合併がSMARCB1関連例に限られLZTR1関連例では報告がないこと、悪性末梢神経鞘腫瘍のリスクが放射線照射歴がなくてもSMARCB1関連例で上昇すること、疼痛管理は薬物療法(ガバペンチンなどのカルシウムチャネルα2δリガンド、アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬)を中心とした集学的アプローチが手術を要さない長期管理の機会を提供すること、症候性腫瘍への外科的切除は難治性疼痛や神経脱落症状を伴う場合に適応となるが腫瘍切除後も疼痛が消失するとは限らないこと、生殖細胞系列モザイシズムの可能性により同胞への再発リスクが一般集団よりわずかに高いことを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 3.Updated diagnostic criteria and nomenclature for neurofibromatosis type 2 and schwannomatosis: An international consensus recommendation(Genetics in Medicine(Plotkin SR, et al.)・2022)国際コンセンサスとして、神経線維腫症1型との誤診を減らし表現型の重なりを反映するため命名法を改訂し「神経線維腫症2型」という用語を廃止したこと、改訂された診断基準がモザイク型を含む臨床的・分子遺伝学的な最小基準を定めたことを確認した閲覧 2026-08-11