組織病理学

組織病理学 · H2-118B

シュワン細胞腫(神経鞘腫)

Schwannoma

描出疾患
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
疾患
神経鞘腫

🧠 全体像:はに由来するの良性腫瘍で、そのものを腫瘍内に巻き込まずするため、多くは境界明瞭に摘出できる。密な細胞領域(Antoni A)と疎な粘液様領域(Antoni B)の交代、そしてという特徴的な核のが診断の中心になる。

標本の所見

所見 解釈
() のが束状に密に増殖する領域
内で、細胞突起を挟んで核が2列に向かい合う。腫に特徴的な所見
(疎性) 細胞密度が低く、粘液様の間質を伴う疎な増殖領域
で波状の核 に特徴的な、細く湾曲した核形態
した肥厚血管 血管壁が硝子様に肥厚した血管で、に高頻度にみられる二次的変化
flowchart TD
    A["末梢神経の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schwann cell'>Schwann細胞</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encapsulated'>被包性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoplastic proliferation'>腫瘍性増殖</span>"]
    B --> C["Antoni A(密)とAntoni B(疎)が交代する構築"]
    C --> D["Antoni A内に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Verocay bodies'>Verocay小体</span>(核の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antoni A'>柵状配列</span>)"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve fiber'>神経線維</span>自体は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>され保たれる"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyalinization'>硝子化</span>血管などの二次的変化"]

好発部位と症状

は隣接構造への局所圧迫によって症状を起こす。で()のから発生する型が代表的で、感音難聴・・を来し、臨床的には「腫(acoustic neurinoma/vestibular schwannoma)」と呼ばれる。、末梢神経の皮下軟部組織にもに生じうる。

遺伝子異常と関連症候群

散発性の多くはNF2遺伝子(産物merlin/schwannomin)の不活化に関連する。両側性の腫は(NF2)の診断的特徴であり、NF2患者ではやその他のも多発しうる。

⚠️ 病名の更新:という用語は廃止された。 2022年の国際コンセンサスは、とのを減らし表現型の重なりを反映するためにNF2とschwannomatosisのを改訂し、診断特異性を高める目的で「neurofibromatosis 2()」という用語そのものを廃止した1。現在は「NF2関連schwannomatosis(NF2関連)」と呼ぶ。NF2という遺伝子名は変わらないので混同しない。旧病名は実習・試験や成書ではなお広く使われるため、両方を対応づけて覚える。ではがびまん性に陽性となり、分化の指標になる。

💡 S-100陽性だけを「である」の根拠にしない。 S-100は特異性が低く、非schwann性・非性腫瘍668例のうち53例(特異度91%)が陽性で、・・・などでもびまん性強陽性を示す症例がある。同じ集団でSox10が陽性だったのは5例のみ(特異度99%)で、を除く神経堤由来腫瘍での感度は両者ほぼ同等(S-100 95%、Sox10 93%)だった2。S-100びまん性陽性は分化を支持する所見だが、決め手は形態(Antoni A/B・)との組み合わせにある。

神経線維腫との違い

⚠️ はと異なり通常はしない。両者はいずれも末梢神経由来の良性腫瘍だが、由来細胞の構成、との関係、関連症候群、リスクが異なるため混同しない。詳しい比較はの対比表を参照する。

⚠️ 「しない」と言い切らない——きわめて稀だがゼロではない。 ののうち悪性は1000件あたり1件と見積もられ、1253例のNF2データベースで確認された2114個ののうちのは1例もなかった。を生じた2例はいずれもの既往例である3。のの報告を精査したレビューでも、組織学的に確認された症例は放射線手術・後を合わせて8例にとどまり、リスクは「ゼロではないが、その大きさはおそらくごく小さい」とされている4。臨床的には「を前提に管理しなくてよい」が正しく、「起こりえない」は言い過ぎである。放射線治療を受けていないNF2関連schwannomatosisの患者に対してリスクが高いと説明すべきではない、という点も同じ根拠から示されている3。

まとめ

  • は由来の良性腫瘍で、自体を巻き込まずする。
  • Antoni A/B領域の交代とが組織学的診断の鍵である。
  • ・由来の型は難聴を来し、腫として知られる。
  • はNF2遺伝子変異に関連し、両側性腫はNF2症候群を示唆する。
  • と異なりは通常みられない点が重要な鑑別点だが、頻度がきわめて低いだけでゼロではなく、報告例の多くは後である34。
  • 全般の分類は中枢・を参照する。

出典

  1. 1.Updated diagnostic criteria and nomenclature for neurofibromatosis type 2 and schwannomatosis: An international consensus recommendation(Genetics in Medicine(Plotkin SR, et al.)・2022)国際コンセンサスにより神経線維腫症2型(NF2)とschwannomatosisの診断基準がモザイク型を含む形で改訂され、両者の表現型の重なりを強調し神経線維腫症1型との誤診を減らすために命名法が更新された。改訂された命名法では「neurofibromatosis 2(神経線維腫症2型)」という用語は診断特異性を高めるために廃止された閲覧 2026-08-24
  2. 2.Sox10 and S100 in the diagnosis of soft-tissue neoplasms(Applied Immunohistochemistry & Molecular Morphology・2012)抄録で、S100は特異性の低さがよく知られているにもかかわらず神経堤由来腫瘍の診断に日常的に用いられていること、非schwann性・非メラノサイト性腫瘍668例でSox10陽性は5例のみ(特異度99%)だったのに対しS100は53例が陽性(特異度91%)であったこと、滑膜肉腫・Ewing肉腫・横紋筋肉腫・軟骨肉腫などでS100がびまん性強陽性を示す症例が存在すること、MPNSTを除く神経堤由来腫瘍ではS100とSox10の感度が同程度(95%対93%)であったことを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Malignant Peripheral Nerve Sheath Tumors are not a Feature of Neurofibromatosis Type 2 in the Unirradiated Patient(Neurosurgery・2018)抄録で、北米の発生率データに基づく既報では小脳橋角部の神経鞘腫瘍1000件あたり1件が悪性であったこと、1253例のNF2データベースで確認された2114個(病理確定1150個・良性と推定964個)の前庭神経鞘腫のうち自然発生の悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)は1例もなかったこと、MPNSTを生じた2例はいずれも前庭神経鞘腫に対する定位放射線手術の既往があったこと、したがって放射線治療を受けていないNF2患者に「悪性転化のリスクが高い」と説明すべきではないと結論したことを確認した閲覧 2026-08-24
  4. 4.Evaluation of Reported Malignant Transformation of Vestibular Schwannoma: De Novo and After Stereotactic Radiosurgery or Surgery(Otology & Neurotology・2015)抄録で、前庭神経鞘腫の悪性転化が定位放射線手術後にも顕微鏡下手術後にも報告されており、組織学的に確認された症例が8例(手術単独後はさらに4例)に限られること、de novoの原発性悪性前庭神経鞘腫も18例報告があり治療との因果推定を難しくすること、悪性転化のリスクはゼロではないがその大きさはおそらくごく小さいと結論されたことを確認した閲覧 2026-08-24