病理学

病理学 · B/22

小児腫瘍の特徴(神経芽腫・網膜芽細胞腫・ウィルムス腫瘍など)

Tumors of childhood and their characteristics (neuroblastoma, retinoblastoma, Wilms tumor)

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High-yield / ポイント
応用トピック
小児脳腫瘍と網膜芽細胞腫神経芽腫・Wilms腫瘍・小児肝腫瘍
疾患
Currarino症候群Denys-Drash症候群WAGR症候群ベックウィズ・ヴィーデマン症候群神経芽腫・ウィルムス腫瘍神経節芽腫神経節腫仙尾部奇形腫
画像所見
後縦隔腫瘤
スコア
国際神経芽腫病理分類

🧠 全体像:小児腫瘍は成人と発生臓器も性質も異なり、・神経系・軟部組織に生じる未分化な「芽細胞」腫瘍が中心という点が全体の軸になる。・・ウィルムス腫瘍はいずれも特徴的な遺伝子異常とロゼット・組織像で鑑別され、遺伝子異常の種類(、RB1変異、WT1・11p15異常)が予後や随伴症候群を決める。

小児腫瘍 — 一般的特徴

小児悪性腫瘍は成人のものと異なる:、神経系、軟部組織に生じ(肺・前立腺・結腸ではない)、催奇形と発癌が密接に関連し、しばしば・症候群をもち、・成熟しうる。小型で未分化の「芽細胞」からなる。組織型そのものも成人と対照的で、成人に多い上皮性のはまれであり、・肉腫・白血病が中心を占める。

良性: 血管腫(乳児で最も多い腫瘍)、、(10%が先天性正中欠損を伴う)。⚠️ は血管腫ではない。 国際血管異常学会(ISSVA)分類では、乳児血管腫は良性の、はのうちのに分類され、別の箱に入る1。⚠️ この10%と、成書がよく挙げる「15〜30%に」は別の数字である——前者は正中欠損という特定の一群、後者は水腎症のような腫瘍の圧迫による二次的な奇形を含む全体を指す。が明らかな合併症候群はをほぼ唯一の例外としてまれである。

神経芽腫

  • +副腎髄質の腫瘍。散発性またはAD。
  • ・成熟しうる2。大きな腫瘤は壊死・出血を示す。
  • 組織像: 小型でする細胞、乏しい細胞質、の背景、(中心腔なし)。・ = より成熟した亜型。
  • 予後: 病期+年齢(18か月未満が良好、国際リスクグループ(INRG)分類はこれに組織型・・MYCNの状態・11q status・ ploidyを加えた7因子で層別化する3)。4S(INSS)= 1歳未満で、小さな(正中を越えない)+皮膚・肝・骨髄(全の10%未満)に限られた転移、予後良好。治療前の画像で決めるINRG(INRGSS)では、局所〜所属領域の腫瘍を画像上の危険因子(IDRF)の有無でL1・L2に分け、遠隔転移をM、18か月未満で転移が皮膚・肝・骨髄に限られるものをMSとする。MSは4Sの年齢上限(12か月)を18か月未満へ広げ、正中を越えて浸潤するも含めた点が4Sと異なる4。(旧称N-MYC)= 予後不良。
  • 診断: 尿中(VMA、)の増加。

💡 早期発見が常に良いとは限らない例。 乳児のの一部は治療しなくてもしうる——MYCN非増幅の限局性乳児を経過観察したでは、93例中44例がした一方で経過観察群の3年全生存率は手術・化学療法群と差がなかった2。この性質のため日本・ドイツ・カナダで乳児マススクリーニングが行われたが、いずれも死亡率減少を示せなかった。ドイツの対照試験(258万人に提供し約148万人が受検、対照地域は212万人)では、スクリーニング群と対照群で4期の・死亡率に有意差がなく、10万人あたり推定7例の過剰診断を招いた5。カナダ・ケベック州の全乳児47万6,654人を対象にした試験でも、複数の非スクリーニング対照地域と比較したはいずれも1と有意差がなかった6。日本の乳児マススクリーニングも1985年から全国で実施されたが、2003年7月の厚生労働省の検討会が「現行の検査事業による死亡率減少効果の有無は、現在、明確でない」「今後、わが国で…明確になる見通しはない」とし7、事業は中止された(Ioka 2016 は2004年に中止と記す)8。⚠️ この検討会が挙げた理由は「効果が示せない」ことだけではない。 発見例に「相当程度、積極的治療を必要としない例が含まれている」ことに加え、治療そのものの合併症を不利益として明記しており、1976〜1996年にスクリーニングで発見された1,453例のうち手術1,226例中132例・化学療法1,025例中49例に治療合併症が生じ、治療合併症による死亡が手術8例・化学療法10例あったという日本小児がん学会の集計を引いている7。「早期発見の害」は概念ではなく実数で記録されている。

網膜芽細胞腫

  • 小児の眼の悪性腫瘍で最多。遺伝性の例では両側性・多巣性が多い。
  • RB1の(2ヒット)。遺伝性(1ヒット目が生殖細胞系列)→ 両側性・多巣性が多く、二次原発(など)リスク増加。(2ヒットとも体細胞)→ 片側性・。
  • ⚠️ 遺伝性=家族性ではない。 家族歴があるのはの約10%にすぎず、遺伝性の大多数は家系内で唯一の罹患者(による孤発例)である。家族歴がなく片側性でも、RB1の生殖細胞系列検査で遺伝性かどうかを判定する。まれに、RB1変異がなくで生じるの片側性腫瘍もある9。
  • 組織像: 小円形の青い細胞、Flexner-Wintersteinerロゼット(真の中心腔 — と対照)。
  • 臨床: (「猫目反射」)、、。未治療なら致死的。

⚠️ 遺伝性のは骨・軟部肉腫の二次がんリスクが高い。 肉腫の多くは放射線照射野内に生じるが外にも生じ、肉腫は遺伝性の二次がんの約半数を占める一方、例ではきわめてまれである10。

ウィルムス腫瘍(腎芽腫)

  • 小児ので最多、2〜5歳。
  • 素因症候群を背景に持つ症候性Wilms腫瘍は全Wilms腫瘍の9〜17%を占める11。⚠️ この9〜17%は素因症候群の全体であって、WT1関連症候群だけの割合ではない。 責任遺伝子座は2つに分かれる。
遺伝子座 症候群
WT1(11p13) 、、
11p15の (IGF-2インプリンティング喪失 → )

💡 をWT1と結び付けない。 WT1(11p13)とは別の座(11p15、いわゆるWT2領域)の異常であり、この2つを同じ箱に入れると「WT1変異を探せば素因が分かる」という誤った検査方針に倒れる。⚠️ 症候性Wilms腫瘍は診断年齢が早く、両側性・が多いため、とは別の管理を要する——素因症候群では腹部(腎)超音波を3〜4か月ごとに、症候群に応じて5歳または7歳まで行うのが一般的なである11。

  • 組織像: — +間質+上皮(未熟な尿細管・糸球体)。(p53)= 予後不良、。(FAWT)とびまん性(DAWT)は程度の差でなく別個の臨床病理学的単位として扱われ、臨床的な対応もSIOP研究グループとCOGグループで異なる12。 = 。
  • 臨床: 大きなな腹部腫瘤。+化学療法で予後良好——Wilms腫瘍全体のはかつて30%未満だったが、に基づく治療の体系化により現在は90%を超える13。

💡 ポイント: — 副腎・交感神経、、VMA/HVA増加、MYCN = 予後不良、4S(INRGSSではMS)は退縮。 — RB12ヒット(遺伝性の多くは家族歴のない)、Flexner-Wintersteinerロゼット(真の腔)、。ウィルムス — WT1(WAGR、Denys-Drash、Frasier)と11p15(Beckwith-Wiedemann)は別の座、組織像、予後良好。

まとめ

  • 小児悪性腫瘍は成人と異なり・神経系・軟部組織に好発し、・症候群と関連し、・成熟しうる未分化な「芽細胞」からなる。
  • は副腎髄質・の腫瘍で、(中心腔なし)、尿中増加、が予後不良因子。治療前の病期はINRGSS(L1・L2・M・MS)で表す。
  • は小児の眼悪性腫瘍で最多、RB1の2ヒット変異(遺伝性の例は両側性・多巣性が多いが、家族歴があるのは一部にすぎない)、Flexner-Wintersteinerロゼット(真の中心腔)、が特徴。
  • ウィルムス腫瘍は小児ので最多、組織像(+間質+上皮)で予後良好。素因症候群は全体の9〜17%を占め、WT1(11p13)関連のWAGR・Denys-Drash・Frasierと、11p15によるBeckwith-Wiedemannに分かれる。

出典

  1. 1.ISSVA Classification of Vascular Anomalies and Glossary(International Society for the Study of Vascular Anomalies (ISSVA)・2025)ISSVA分類(Copyright 2025、用語集は2025年3月更新)で、乳児血管腫は血管性腫瘍の良性に分類される一方、ポートワイン母斑(Port wine birthmark、Nevus flammeus、旧称 Port wine stain)は低流速の血管奇形のうち毛細血管奇形(Port wine CM)に分類されることを確認した。閲覧 2026-09-23
  2. 2.Localized infant neuroblastomas often show spontaneous regression: results of the prospective trials NB95-S and NB97(Journal of Clinical Oncology(Hero B, Simon T, Spitz R, et al.)・2008)MYCN非増幅の限局性乳児神経芽腫340例中、腫瘍を残したまま経過観察した93例では自然退縮44例・局所進行28例・4S期への進行7例・4期への進行4例で、経過観察群の3年全生存率が0.99±0.01と手術群・化学療法群と差がなかったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.The International Neuroblastoma Risk Group (INRG) classification system: an INRG Task Force report(Journal of Clinical Oncology・2009)1990〜2002年に診断された神経芽腫8,800例で13の候補予後因子を検討し、病期・年齢・組織型・分化度・MYCNの状態・11q status・DNA ploidyの7項目が統計学的にも臨床的にも最も有意であったこと、年齢の最適カットオフが15〜19か月の間にあり分類には18か月を採用したこと、無イベント生存率が有意に異なる16の治療前グループを定義したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.The International Neuroblastoma Risk Group (INRG) staging system: an INRG Task Force report(Journal of Clinical Oncology・2009)全文(PMC2650389)で、INRG病期分類(INRGSS)は治療前の臨床基準と画像上の危険因子(IDRF)に基づき、局所〜所属領域の腫瘍をIDRF(20項目)の有無でL1(なし)とL2(1つ以上)に分け、遠隔転移をMとし、18か月未満で転移が皮膚・肝・骨髄に限られるものをMSとすること、術後の病期分類であるINSSとは別に治療前のリスク分類のために作られたことを確認した。MS期の骨髄浸潤は塗抹または生検で全有核細胞の10%未満に限られること、INSSの4S期の年齢上限が12か月であるのに対しMS期は18か月未満へ拡張されたこと、4S期と異なりMS期は正中を越えて浸潤する原発巣(INSS 3期相当)も含むことを確認した。閲覧 2026-09-23
  5. 5.Neuroblastoma screening at one year of age(The New England Journal of Medicine・2002)ドイツの16州のうち6州で1995〜2000年に258万1,188人へスクリーニングを提供し、うち約148万人(1995〜1999年出生者の61.2%)の乳児に生後約1年時点の尿中カテコラミン代謝物によるマススクリーニングを提供し、非スクリーニング地域(211万7,600人)と比較したところ、4期神経芽腫の発生率(10万人あたりスクリーニング群3.7例・対照群3.8例)も神経芽腫による死亡率(10万人あたりスクリーニング群1.3例・対照群1.2例)も両群で有意差がなく、10万人あたり推定7例(95%信頼区間4.6〜9.2)の過剰診断が生じたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Screening of infants and mortality due to neuroblastoma(The New England Journal of Medicine・2002)カナダ・ケベック州で1989〜1994年に出生した47万6,654人の乳児全員(参加率92%)に生後3週・6か月時点で神経芽腫スクリーニングを提供し、8歳未満での神経芽腫による累積死亡率が10万人あたり4.78±1.14例と算出されたこと、オンタリオ・ミネソタ・フロリダ・デラウェア各地域の非スクリーニング対照集団と比較した標準化死亡比がいずれも1と有意差がなく(0.90〜1.40の範囲)、乳児スクリーニングは神経芽腫による死亡率を減少させないと結論したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.神経芽細胞腫検査事業に関する評価について(これまでの議論のまとめ)(第3回神経芽細胞腫マススクリーニング検査のあり方に関する検討会 資料5、平成15年7月14日)(厚生労働省(神経芽細胞腫マススクリーニング検査のあり方に関する検討会)・2003)検討会の「3 まとめ」が「現行の神経芽細胞腫検査事業による死亡率減少効果の有無は、現在、明確でない。」「今後、わが国で神経芽細胞腫マススクリーニングによる死亡率減少効果の有無が明確になる見通しはない。」と結論したこと、その根拠として2002年のドイツ・カナダの2つの比較対照研究が死亡率減少効果に否定的な結果を出したことを挙げ、国内の観察研究7件は結果が一致せず研究デザインとして比較対照研究に劣るため確定的な証拠にはできないとしていること、不利益として発見例に「相当程度、積極的治療を必要としない例が含まれている」ことと治療による合併症を挙げ、日本小児がん学会の1999年発表データとして1976〜1996年にマススクリーニングで発見された1,453例のうち手術1,226例中132例・化学療法1,025例中49例に治療による合併症があり治療合併症による死亡が手術8例・化学療法10例あったと記載していることを確認した(本資料は検討会の資料であり、事業の休止年そのものは書かれていない)閲覧 2026-09-08
  8. 8.Effects of the Cessation of Mass Screening for Neuroblastoma at 6 Months of Age: A Population-Based Study in Osaka, Japan(Journal of Epidemiology・2016)「Nationwide mass screening for neuroblastoma at 6 months of age has been performed in Japan since 1985.」と本文冒頭に明記され、大阪でも「the mass screening program … started in 1985」とあることを確認した(1980〜1984年は部分的なVMA検査の期間で、全国的な実施の開始は1985年)。「In 2004, the Japanese government halted the 6-month mass screening program for neuroblastoma」とも記され、中止後(2005〜2009年)の年齢調整罹患率11.1/100万が導入前(1975〜1979年)の8.6/100万と同程度、年齢調整死亡率は4.0から2.7へ低下傾向で、中止によって死亡率も年長児の進行例も増えていないと結論している。閲覧 2026-09-04
  9. 9.Retinoblastoma(GeneReviews, University of Washington, Seattle・2023)Wayback の保存版(2026-06-14取得、Last Update 2023年9月21日)で、発端者は家族歴なし・片側性が60%、家族歴なし・両側性が30%、家族歴ありが約10%であること、遺伝性網膜芽細胞腫の大多数は家系内で唯一の罹患者(孤発例)であり、家族歴のない例ではRB1の生殖細胞系列病的バリアントを遺伝学的検査で同定して遺伝性かを判定すること、RB1の病的バリアントがなくMYCN増幅による非遺伝性と考えられる片側性腫瘍もあることを確認した。閲覧 2026-09-23
  10. 10.Sarcomas in hereditary retinoblastoma(Clinical Sarcoma Research・2012)遺伝性網膜芽細胞腫の生存者は骨・軟部肉腫のリスクが高く、その多くが放射線照射野内に生じるが照射野外にも生じること、肉腫が遺伝性生存者の二次がんの約半数を占める一方で非遺伝性網膜芽細胞腫後にはきわめてまれであることを確認した。閲覧 2026-08-27
  11. 11.Syndromic Wilms tumor: a review of predisposing conditions, surveillance and treatment(Translational Andrology and Urology・2020)Wilms腫瘍素因症候群は全Wilms腫瘍の9〜17%を占め、WT1関連のWAGR症候群・Denys-Drash症候群・Frasier症候群、11p15異常によるBeckwith-Wiedemann症候群などが代表的であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  12. 12.Anaplasia in Wilms tumor: A critical review(Pediatric Blood and Cancer・2024)退形成はWilms腫瘍で最も重要な予後不良の組織学的所見で、局所性退形成(FAWT)とびまん性退形成(DAWT)は別個の臨床病理学的単位として扱うべきであり、臨床的な対応(追加治療の強度判断)がSIOP腎腫瘍研究グループとCOG腎腫瘍グループで異なることを確認した。閲覧 2026-08-27
  13. 13.Wilms' tumor(Current Opinion in Pediatrics(Davidoff AM)・2009)Wilms腫瘍全体の生存率はかつて30%未満であったが、病期・組織型に基づくリスク層別化とそれに基づく治療プロトコルの体系的な発展により現在は90%を超えるまでに劇的に改善したことを確認した。閲覧 2026-08-27