症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

麻痺

Paralysis

別名
運動麻痺完全麻痺
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-04:中枢性不全麻痺症候群の局在診断神経内科 G1-05:上位・下位運動ニューロン障害の症候神経学 G1-13:脊髄損傷の症候
関連疾患
コンパートメント症候群ジフテリアてんかんボツリヌス症ポリオ外傷性脊椎・脊髄損傷狂犬病浸透圧性脱髄症候群神経芽腫・ウィルムス腫瘍声帯麻痺大動脈解離脳梗塞腕神経叢損傷
スコア
Hunt and Hess分類WFNS分類

🧠 全体像:麻痺の診療は、病名を当てにいく前に病変が経路のどの高さにあるかを決める作業である。決め手は3つしかない——の障害かの障害か、どういう分布か、いつどう始まったか。この3つが揃えば大脳皮質から筋までの経路上に病変を一点で落とせる。逆に、筋力を細かく点数化しても、この3つが取れていなければ局在は決まらない。同時に麻痺は時間で不可逆になる病態を最も多く含む症状でもある。局在を詰める作業と並行して、猶予が「分」のものを先に外していく。

用語を整理する

麻痺はの障害を指す総称で、程度によって二分される。このノートの見出し語は両方を含む広い意味で使う。

用語 意味 注意
は残るが筋力が低下している では「片」「対」のように語頭へ付ける
が完全に消失している 」「」「」の語尾はすべてこれ

⚠️ の「」は、hemiparesis と hemiplegia のどちらの訳としても流通している。 記録に「」とあってもとは限らないので、程度は語ではなくの点数で残す。患者の「まったく動かない」という申告も同じで、疼痛回避や不使用でもそう表現される。的には動くが随意には動かないことを自分で確認してからと記載する。

💡 筋力低下との境界は、扱う問いが違うところにある。が失われた状態をどこの病変で説明するかがこのノート、「力が入らない」という訴えが本当に筋力の問題かを切り分けるのが筋力低下のノートである。

上位運動ニューロンか、下位運動ニューロンか

局在の第一歩は、大脳皮質からまでのと、から筋までののどちらが障害されているかを決めることである。

所見
筋緊張 亢進()。 低下(弛緩)
腱反射 亢進、 低下・消失
が陽性 陰性
軽度で遅い。多くは 高度で早い。による
通常みられない みられる
麻痺の広がり 単一筋より筋群単位 支配神経・に一致

💡 この違いは1つの理屈から出ている。 UMN障害はへのが外れる障害なので、そのものは残り、むしろ過剰になる(亢進・)。LMN障害はと筋への栄養入力そのものを断つので、反射は消え、筋は速やかに萎縮する。

両者が同一患者に同居するパターンが2つあり、どちらも局在に直結する。 では同じ肢にUMN徴候とLMN徴候が混在する。病変では病変にLMN徴候(上肢)、それよりにUMN徴候(下肢)が出るので、LMN徴候の出ているがそのまま病変の高さになる。

急性期は所見が嘘をつく

⚠️ UMN障害でも、発症直後は弛緩性・に見える。 急性ではとしてを示し、脳卒中の急性期にも筋緊張が低下していることがある。が出そろうのは数日から数週後である。

したがって発症数時間の患者で「弛緩性だから末梢神経・前角の障害」と決めてはいけない。この時期に局在を支えるのは上の表ではなく、麻痺の分布(顔面が入るか、左右対称か、があるか)、感覚障害と膀胱直腸障害の有無、そして(秒〜分で完成したか、時間〜日で進行したか)である。

💡 逆向きの落とし穴もある。慢性期にが出そろってから初めてUMN障害と分かる例があるため、一度きりの診察で局在を確定させず、反復診察で所見の変化そのものを記録する。

分布から高さを決める

分布 想定する病変 併せて確認するもの
、または神経根・神経叢・末梢神経 に沿うか、感覚障害が神経に一致するか
対側の大脳半球・、または脳幹 顔面が入るか、
脳幹(同側の脳神経+対側の上下肢) をひとつずつ拾う
以下、 、膀胱直腸障害、
、両側の、または全身性の神経筋疾患 呼吸、意識、眼球運動
遠位対称性 の感覚障害、
近位対称性 感覚障害を伴わないこと、、CK

最初の分岐は「顔面が入るか」である。 顔面と上下肢が同側でまとめて障害されていれば病変はより上にあり、顔面が入らない片側の麻痺では病変も候補に残る。半球病変と病変では次の一手がまったく違うので、この確認を省略しない。麻痺の性状弛緩性痙性か)は上のUMN/LMNの軸に、分布は病変の高さに対応する。2軸を独立に取ってから交差させると、経路上の一点に絞れる。

時間で不可逆になるもの

⚠️ 麻痺では、頻度ではなく猶予時間の順に鑑別を進める。

猶予 拾う所見 遅れると失われるもの
突然完成した 。発症時刻が治療可否を決める
分〜時間 病変での浅く速い呼吸、咳嗽の弱さ 換気。(C3〜C5)が落ちれば自発呼吸を保てない
時間 進行する+尿閉+ 脊髄機能。減圧までの時間が回復可能性を決める
時間 上行性のの低下 気道と換気。数値より臨床的なで介入を決める
時間 の異常、 心筋。麻痺より先にが来る
時間 四肢の強い疼痛に遅れて出る麻痺と 肢。虚血・上昇では麻痺は末期徴候である

⚠️ 麻痺を神経の病気と決めつけない。 によるや急性動脈閉塞は神経診察だけでは拾えず、痛みの経過・左右の・血圧差で拾う。カリウム異常も同様に、病歴と血液検査・心電図でしか分からない。

⭐ 脳卒中を模倣する代表は低血糖麻痺(である。低血糖は補正すれば戻り、は数分〜数十時間で改善する。では血糖測定と、発作情報の確認を最初に済ませる。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["麻痺"] --> B{"発症は秒〜分か"}
    B -->|"はい"| C["血糖測定と発症時刻の確定<br>血管性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic'>外傷性</span>を最優先で評価"]
    B -->|"いいえ"| D["時間〜日で進行しているか"]
    D --> E["呼吸・嚥下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder and bowel function'>膀胱直腸機能</span>を先に評価"]
    C --> F["分布を決める"]
    E --> F
    F --> G{"顔面が入るか"}
    G -->|"入る"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical spinal cord'>頸髄</span>より上<br>脳<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological findings'>神経所見</span>で半球と脳幹を分ける"]
    G -->|"入らない"| I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensory level'>感覚レベル</span>があるか"}
    I -->|"あり"| J["脊髄病変として緊急MRI"]
    I -->|"なし"| K["対称性と近位・遠位で<br>末梢神経・接合部・筋を分ける"]
    H --> L["UMN/LMN所見を反復診察で確認"]
    J --> L
    K --> L

まとめ

  • 麻痺は病名当てではなく、UMN/LMN・分布・の3つで病変の高さを決める作業である。
  • は筋力の低下、の消失。の「」は程度を保証しないので筋力は点数で残す。
  • UMN障害は、LMN障害は弛緩・早期の高度な・反射消失。
  • 急性期はや脳卒中初期でUMN障害も弛緩性に見える。この時期の局在は分布・で支える。
  • 顔面が入るかどうかが分布の最初の分岐。病変では病変のLMN徴候がそのまま高さを示す。
  • 鑑別は頻度ではなく猶予時間の順に進める。再灌流の、呼吸筋、脊髄圧迫、カリウムが先。
  • 神経以外の原因(・電解質)と脳卒中の模倣(低血糖・)を、神経診察の外側から拾う。