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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

大動脈解離

Aortic dissection

別名
AD
臓器系
循環器
科目
PathologyCardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
病理学 B/39:動脈瘤/大動脈解離循環器内科 B-03:大動脈解離の診断と治療循環器内科 B-15:急性大動脈症候群
鑑別疾患
Boerhaave症候群急性冠症候群胸膜炎自然冠動脈解離内頸動脈解離肺血栓塞栓症
合併症
循環性ショック前脊髄動脈症候群
続発疾患
大動脈弁閉鎖不全症
治療薬
エスモロールラベタロールジルチアゼム
原因薬剤
シプロフロキサシンデラフロキサシンレボフロキサシンモキシフロキサシンノルフロキサシンオフロキサシン
症状
悪心胸痛胸背部痛呼吸困難失神出血蒼白対麻痺麻痺疼痛
元疾患
エーラス・ダンロス症候群大動脈縮窄二尖大動脈弁
原因となる疾患
マルファン症候群高血圧症大動脈瘤
禁忌薬
アセチルサリチル酸アルテプラーゼオフロキサシンシタフロキサシンシプロフロキサシンテネクテプラーゼデラフロキサシンノルフロキサシンヒドララジンモキシフロキサシンレテプラーゼレボフロキサシン

🧠 全体像:は、内膜に生じた裂け目()から血液が中膜へ流れ込み、とを隔てるを作る急性の病態である——じわじわ壁が膨らむとは時間軸も病態もまったく別物と考える。診断・治療のすべては「を巻き込んでいるか(か)」という一点に収束する:A型は破裂・心タンポナーデ・急性で数時間のうちに死にうる外科的緊急、B型は原則として厳格な・心拍数コントロールで内科的に管理し、合併症が出たときだけに踏み込む。

概要・病態

は、大動脈内膜に生じた裂け目(intimal tear、)から血液が中膜内へ進入し、を境にとが並走する状態である。組織学的基盤は・変性(の脱落と弾性線維の)で、高血圧によるな壁ストレスや・Ehlers–Danlos症候群などの結合組織疾患による中膜が背景になる。動脈硬化そのものよりも、高血圧による中膜への機械的負荷が最大の危険因子である点がの一般的な病因(動脈硬化性の壁菲薄化)と対比される。

⚠️ とは病態そのものが異なる:は壁全層が緩徐に拡張する慢性病態、は内膜が急性に破綻して中膜内に血流路ができる病態である。ただしや壁のが解離の温床になることはあり、両者は排他的ではない。動脈硬化・などの結合組織疾患・といった一般的な危険因子の詳細はを参照。

は通常、大動脈弁から10 cm以内の、または起始部近傍のに生じる。ここから解離腔は(末梢方向)または逆行性(心臓方向)に進展し、・まで及ぶこともある。進展の方向と範囲によって、以下の重大な合併症を来す。

  • 外膜を破って外部へ破裂:なら心タンポナーデ、胸腔なら、後腹膜なら大量出血。
  • 逆行性にへ及ぶ:が破綻し急性を来す(代償する時間がなく・ショックに至りやすい)。
  • を巻き込む:。解離では3〜15%に冠動脈へのが報告されており、はが最多である。⚠️ この3〜15%は「冠動脈が巻き込まれた割合」であって、「を合併した割合」ではない(原文は逐語で “Incidence of coronary involvement in type A AAD has been reported to range from 3 to 15%. The leading culprit lesion is RCA.” であり、ACSの合併率としては述べていない)。機序として、の膨隆による冠動脈内腔の閉塞、解離の冠動脈壁への、冠動脈のからの・、するによるのの4つが挙げられている1。
  • 分枝動脈がから灌流される、またはがされる():頸動脈なら脳虚血・失神、腸間膜動脈なら、なら、腸骨・なら。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intimal tear'>内膜裂孔</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='entry'>エントリー</span>)"] --> B["血液が中膜内へ進入"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='true lumen'>真腔</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='false lumen'>偽腔</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intimal flap'>内膜フラップ</span>を境に並走"]
    C --> D{"進展の方向・範囲"}
    D --> E["外膜破裂"]
    E --> E1["心タンポナーデ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hemothorax'>血胸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retroperitoneal hemorrhage'>後腹膜出血</span>"]
    D --> F["逆行性に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annulus'>弁輪</span>へ進展"]
    F --> F1["急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic regurgitation'>大動脈弁閉鎖不全</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary ostium'>冠動脈入口部</span>を巻き込む"]
    G --> G1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Acute myocardial infarction / AMI'>急性心筋梗塞</span>"]
    D --> H["分枝動脈の灌流障害(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malperfusion'>マルパーフュージョン</span>)"]
    H --> H1["脳虚血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bowel ischemia'>腸管虚血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal ischemia'>腎虚血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute limb ischemia'>急性下肢虚血</span>"]

分類:Stanford分類とDeBakey分類

臨床的な意思決定は(を含むか否か)で行う。は解離の解剖学的範囲をより詳細に示す。

Stanford DeBakey 範囲 頻度・危険度
A型 I から・まで連続 最多かつ最も危険
A型 II のみに限局 危険度はA型として同様
B型 III (多くは起始部より遠位)から始まる A型より予後良好、内科治療が主体

⭐ の判定基準は「起始部位」ではなく「を少しでも含むか」である。 発症起点が・であっても、逆行性にへ進展していればA型として扱う。

臨床像

⭐ 突然発症の引き裂かれるようなが特徴的である。痛は病変(A型)、背部・への痛みは病変(B型)を示唆しやすいが、痛みの部位だけでA型・B型を除外することはできない。解離の進展に伴い痛みの部位が移動することもある。随伴症状として失神、呼吸困難、悪心が挙げられる。

身体所見では、進展・合併の範囲を反映して以下が出現しうる。

  • 血圧左右差・:分枝動脈がから灌流される、またはがされることで生じる。上肢間の血圧差20 mmHg以上は診断的価値が高い。
  • :による急性を示唆する。
  • 心タンポナーデ徴候:、血圧低下、()。
  • :頸動脈波及による脳虚血、脊髄動脈波及による。
  • の徴候:疼痛・蒼白・・・・麻痺()。

💡 「胸痛+左右差のある脈拍・血圧」を見たらをまず鑑別に挙げる。と誤って・抗凝固薬・を投与すると致命的な出血を招くため、この鑑別はそのものを左右する。

⚠️ は、では「疑い」の段階で既に禁忌である。 日本循環器学会のガイドライン(2018年改訂版)は、に対するの禁忌7項目を列挙し、その7番目に「およびその疑い」を挙げている(他はの既往、6か月以内の、頭蓋内新生物・、最近の主要外傷・手術・、1か月以内の消化管出血、活動性出血)1。⭐ 同ガイドラインは、解離でを伴う例は診断が遅れ、それがを高める要因の一つになると述べている1。心電図が虚血を示していることは、解離を除外する材料にならない。

💡 rt-PA製剤のでは、国内の電子添文が〈虚血性急性期〉のに「胸部の悪化あるいは破裂を起こし死亡に至った症例が報告されている」と明記し、胸痛またはを伴う、あるいは胸部X線で縦隔の拡大所見が得られるなど胸部・を合併している可能性がある患者では適応を十分に検討するよう求めている2。⚠️ ただし文書上の位置づけは診療ガイドラインと同じではない。 この記載は国内の電子添文でも「2. 禁忌」ではなく「1. 」の側にあり、英国のの4.3にも米国のの4.1・4.2にもという項目は無い(どちらも文書全文にaortic・dissectionの語が0件)34。禁忌として明示しているのは添付文書ではなく診療ガイドラインの側である。

診断

⭐ 造影CT( angiography)が第一選択の確定検査である。感度・特異度が高く、解離範囲・分枝動脈の巻き込み・破裂の有無を短時間で評価できる。血行動態が不安定で検査室への移動が困難な場合は、ベッドサイドで施行できる(TEE)が代替となる。MR angiographyは非急性期の評価や造影剤禁忌例で有用だが、撮像時間の長さから急性期の第一選択にはならない。(TTE)は病変や心タンポナーデ、急性の初期評価に有用だが、の評価能は限られる。

検査 位置づけ
造影CT() 第一選択。解離範囲・分枝血管の巻き込み・破裂の評価に優れる
(TEE) で搬送が困難な場合の代替。ベッドサイドで施行可能
MR angiography(MRA) 非急性期・造影剤禁忌例で有用。撮像時間が長く急性期の第一選択ではない
(TTE) 初期評価・心タンポナーデや急性ARの評価に有用だがの評価は限定的
胸部X線 を示唆するが感度が低く除外には使えない
心電図 虚血・冠動脈波及の評価。正常心電図は解離を除外しない
D-dimer 陰性の場合、解離の可能性を下げる補助的指標(の一助)
flowchart TD
    A["突然の引き裂かれるような<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest-to-back pain'>胸背部痛</span>を疑う"] --> B["バイタル・両上肢血圧・脈拍を確認"]
    B --> C{"血行動態は安定か"}
    C -->|"安定"| D["造影CT(第一選択)"]
    C -->|"不安定・搬送困難"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transesophageal echocardiography (TEE)'>経食道心エコー</span>(TEE)をベッドサイドで施行"]
    D --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Stanford type A'>Stanford A型</span>かB型か"}
    E --> F

治療

診断確定を待つ間から、・連続モニタリング・鎮痛(モルヒネ等)を並行して開始する。⭐ 化の目標は、120 mmHg未満(またはを保てる最低血圧)かつ心拍数60〜80/分である。まず静注β遮断薬(、など)で心拍数と左室力(dP/dt)を抑え、これでも血圧が下がらなければを追加する(β遮断薬による心拍数抑制が先——を単独で先行させるとで壁ストレスがかえって増大するため)。のみを理由にβ遮断薬を一律回避せず、重症など真の禁忌がある場合は(など)を代替とする。

Stanford A型:緊急外科手術

⭐ (を含む解離)は診断確定後ただちに緊急外科修復の適応であり、心タンポナーデ・・・破裂による死亡を防ぐことを目的とする。をに置換し、必要に応じて大動脈弁形成・置換や再建を追加する。⚠️ 手術までの間の・心拍数コントロールは重要だが、薬物治療で安定しているように見えても手術適応そのものは変わらない——A型でを待つことは推奨されない。

Stanford B型:原則として内科的治療

⭐ 合併症のないは、厳格な・心拍数コントロールによる内科的治療が第一選択である。以下のいずれかを認める「合併症のあるB型(complicated)」では、(:)または外科手術の適応となる。

  • 破裂または
  • 分枝動脈閉塞による(臓器・下肢虚血)
  • 解離腔の急速な進展
  • 大動脈径の進行性拡大
  • 内科治療下でも制御できない疼痛
  • 内科治療で制御できない高血圧

💡 近年は、上記の明確な合併症がなくても、部位や大動脈径などの高リスク解剖学的特徴を有する無合併症B型に対して、早期を検討する流れが広がっている(従来の「無合併症B型=内科治療のみ」という単純なから、解剖学的リスク評価を組み込んだ判断へ)。ただし合併症のないB型に対する内科治療の位置づけそのもの(初期対応としての・心拍数コントロール)は変わらない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Stanford classification'>Stanford分類</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending aorta'>上行大動脈</span>を含むか"}
    B -->|"A型"| C["緊急外科手術(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending aorta'>上行大動脈</span>置換)"]
    B -->|"B型"| D{"合併症の有無<br>破裂・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malperfusion'>マルパーフュージョン</span>・進展・<br>制御不能な疼痛/高血圧"}
    D -->|"合併症あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thoracic endovascular aortic repair'>TEVAR</span>または外科手術"]
    D -->|"合併症なし"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antihypertensive (blood-pressure lowering)'>降圧</span>・心拍数コントロール<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systolic blood pressure, SBP'>収縮期血圧</span><120mmHg・HR60-80/分)"]
    F -.高リスク解剖学的特徴があれば.-> G["早期<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thoracic endovascular aortic repair'>TEVAR</span>を検討する場合がある"]

慢性期の管理

急性期を乗り越えた症例、特にB型の内科治療例では、長期的な(β遮断薬を中心とする)による厳格なと、定期的な画像検査(・MRA)によるの拡大・動脈瘤化のを継続する。

まとめ

  • はから中膜内へ血液が進入し・を形成する急性病態で、に壁が拡張するとは病態の時間軸が異なる。
  • (を含むA型/含まないB型)がを決める。(I・II・III)は解剖学的範囲の記述に用いる。
  • 突然発症の引き裂かれるような、血圧・脈拍の左右差、急性、心タンポナーデ、分枝動脈のが特徴的な臨床像である。
  • 診断は造影CTが第一選択、例では(TEE)が代替となる。
  • 解離の3〜15%で冠動脈への波及が報告されている(はが最多)——これは冠動脈への波及の割合であって「の合併率」ではない。に対するは「およびその疑い」を禁忌としており、疑った時点では選べない。
  • 初期治療は静注β遮断薬による心拍数・血圧コントロール(目標:<120 mmHg、心拍数60〜80/分)で、必要に応じてを追加する。
  • A型は緊急外科手術、合併症のないB型は内科治療が原則で、破裂・・進展・制御不能な疼痛や高血圧を伴う合併症のあるB型はまたは外科手術の適応となる。

出典

  1. 1.JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndrome(Circulation Journal 83(5):1085-1196(日本循環器学会)・2019)版年は2018年(急性冠症候群ガイドライン2018年改訂版)、誌上公開はCirculation Journal 83巻5号1085-1196頁で、J-STAGEのPDF全文を取得して確認した。2.2 Contraindications to Fibrinolysis が絶対的禁忌7項目を番号付きで列挙し、7番目が逐語で "Known or suspected aortic dissection"である(1〜6は頭蓋内出血の既往、6か月以内の脳梗塞、頭蓋内新生物・動静脈奇形、最近の主要外傷・手術・頭部外傷、1か月以内の消化管出血、活動性出血)。4.1 Acute Aortic Dissection は逐語で "Incidence of coronary involvement in type A AAD has been reported to range from 3 to 15%. The leading culprit lesion is RCA." と述べ、機序として偽腔による冠動脈内腔の閉塞・解離の逆行性進展・冠動脈の大動脈基部からの離断・動揺する内膜フラップによる冠動脈入口部の閉塞の4つを挙げ、"In patients with type A AAD, ischemic changes in ECG lead to delays in diagnosis and increase the rate of hospital mortality." としている。なお日本循環器学会のガイドライン一覧(2026-09-17閲覧)では、急性冠症候群ガイドラインは2018年改訂版が現行として掲載されており、正誤表の訂正は表題と1か所の数値のみで線溶療法の禁忌には及ばない。閲覧 2026-09-17
  2. 2.アクチバシン注600万/アクチバシン注1200万/アクチバシン注2400万 電子添文(協和キリン株式会社(PMDA 電子添文。作成又は改訂年月は2024年5月改訂・第2版)・2024)全文を取得して確認した。1.警告の〈虚血性脳血管障害急性期に伴う機能障害の改善(発症後4.5時間以内)〉の項に1.3として「胸部大動脈解離の悪化あるいは胸部大動脈瘤破裂を起こし死亡に至った症例が報告されているため、胸痛又は背部痛を伴う、あるいは胸部X線にて縦隔の拡大所見が得られるなど、胸部大動脈解離あるいは胸部大動脈瘤を合併している可能性がある患者では、適応を十分に検討すること。」とある。一方、2.禁忌(〈効能共通〉2.1〜2.5、虚血性脳血管障害急性期2.6〜2.11、急性心筋梗塞2.12〜2.13)に大動脈解離の項目は無い。閲覧 2026-09-17
  3. 3.Actilyse 50 mg powder and solvent for solution for injection and infusion — Summary of Product Characteristics (SmPC)(Boehringer Ingelheim Limited(electronic medicines compendium, UK。10. Date of revision of the text は 04/2026)・2026)全文を取得して確認した。4.3の禁忌は3適応共通の項目と、急性心筋梗塞・急性広範型肺塞栓症の追加項目、急性虚血性脳卒中の追加項目に分かれるが、いずれにも大動脈解離は挙がっておらず、文書全文を検索しても aortic・dissection の語は0件である。閲覧 2026-09-17
  4. 4.ACTIVASE (alteplase) for injection, for intravenous use — Prescribing Information(Genentech, Inc.(DailyMed, 米国。Highlights 末尾に印刷された改訂表示は Revised: 9/2022)・2022)全文を取得して確認した。4 CONTRAINDICATIONS は 4.1 急性虚血性脳卒中と 4.2 急性心筋梗塞・肺塞栓症に分かれるが、どちらの一覧にも大動脈解離は挙がっておらず、5 WARNINGS AND PRECAUTIONS を含む文書全文を検索しても aortic・dissection の語は0件である。閲覧 2026-09-17