疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

裂脳症

Schizencephaly

臓器系
神経小児
科目
PathologyMicroscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
病理学 C/105:中枢神経系の先天奇形発生学 17.6:中枢神経系:臨床
鑑別疾患
限局性皮質異形成水頭症水頭無脳症全前脳症脳穿通症
合併症
てんかん知的発達症
関連疾患
視隔膜異形成症多小脳回
原因微生物
サイトメガロウイルス
症状
発作麻痺

🧠 全体像:を一言で掴むなら——大脳半球をから脳室のまで貫く「裂」ができ、その裂の壁が灰白質で裏打ちされている病態である。定義の重心は「裂があること」ではなく「灰白質で裏打ちされていること」にある。同じように皮質から脳室まで達する裂を作るはを起こした白質で裏打ちされており、この一点で分かれる。灰白質で裏打ちされるということは、破壊が起きた時期が神経細胞の移動がまだ続いていた時期で、生き残った神経細胞が損傷部の周りへ這い上がって皮質(多くは)を作ったことを意味する——つまり「裂の壁の中身が、いつ障害が起きたかを教えている」。臨床では、その裂の唇が離れているか(open-lip)くっついているか(closed-lip)、片側か両側かが、そのまま重症度の目盛りになる。

定義と分類——番号が2系統あることに注意

は、異所性の灰白質で裏打ちされ脳脊髄液で満たされたの裂が、大脳半球のとのを結ぶ、稀な先天性のである1。

⚠️ 分類の「Type I」が2つの意味で使われている。 1946年のYakovlevとWadsworthによる古典的分類と、脳脊髄液を含む裂を必須としない新しい3型分類とで番号が食い違う1。

古典的分類(Yakovlev & Wadsworth 1946) 新しい3型分類 内容
— Type 1(trans-mantle) で脳脊髄液を含む裂は無く、異常灰白質の柱が脳表から脳室まで貫く
Type I(closed-lip) Type 2(closed-lip) 裂の唇が接して癒合し、脳脊髄液が通らない
Type II(open-lip) Type 3(open-lip) 裂の唇が離れ、脳室腔との間で脳脊髄液が行き来する

⭐ open-lipとclosed-lipの区別が臨床像を決める。 以降、本稿では混乱を避けるため型番号ではなく open-lip / closed-lip の語を使う。

発生頻度は生児10万に0.54〜1.54例、は生児10万に1.48例で、ほぼであり性差はない1。が最も多く侵される1。

病因:血管性の破壊と遺伝要因が重なる

flowchart TD
    A["妊娠中期までの侵襲"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in utero stroke'>子宮内脳卒中</span><br>(多くは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='middle cerebral artery territory'>中大脳動脈領域</span>)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytomegalovirus, CMV'>サイトメガロウイルス</span>等の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrauterine infection'>子宮内感染</span><br>→ 炎症を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='middle cerebral artery territory'>中大脳動脈領域</span>の脳卒中"]
    A --> D["COL4A1変異による血管脆弱性<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal intracranial hemorrhage'>胎児頭蓋内出血</span>"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain parenchyma'>脳実質</span>の限局性破壊"]
    C --> E
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuronal migration'>神経細胞移動</span>がまだ続く時期のため<br>周囲の皮質が裂の壁を灰白質で裏打ちする"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transmural'>全層性</span>の裂(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schizencephaly'>裂脳症</span>)"]

⭐ 病変の大半がに生じるという事実が、血管性仮説を支えている1。子宮内の曝露は、炎症を介しての脳卒中を起こすと考えられている1。近年はも挙げられる。

このほか、(アルコール・ワルファリン・)、20歳未満の若年母体、妊娠8週の低酸素、・、母体外傷が病因として報告されている1。

遺伝要因——COL4A1 と EMX2 の扱いは同じでない

⭐ COL4A1 は裏づけが強い。 COL4A1 はをコードし、その異常はを脆くしてを招く。61例・10例を対象としたスクリーニングでは15例(21%)に変異が見つかり、うちは5例であった。著者らは「COL4A1変異がと関連することを初めて確認した」と述べ、・の小児ではCOL4A1の遺伝学的検査を考慮すべきだとしている2。・・・眼所見・・上昇・溶血性貧血を伴いうる2。

⚠️ EMX2 は「」として扱わない。 1996年に前脳の構造形成を制御するEMX2のがの原因として報告され、教科書にも長く載ってきた。しかし後年の検証では、元の2論文の変異率は72%ではなく17%と再解釈され、新規の39例では病的変異が1例も検出されなかった。著者らは「とEMX2変異の関連は現在のデータでは十分に支持されず、EMX2の診断目的の検査は結果が解釈不能となるためされない」としている3。⚠️ それでも教科書側の記述は更新されていない。 StatPearls は現在も Etiology 節で COL4A1・EMX2・SHH・SIX3 を「主要な」として列挙しており、Pathophysiology 節でも「EMX2 は前脳の構造形成を制御し、そのを持つ患者は本症を発症しやすい——ただしその原因は稀ではあるが」と、Merello 2008 を反映しない書き方のままである1。EMX2 を見たら、出典がどちらの世代のものかを確かめる。

随伴奇形

、、、、、、が随伴しうる1。

💡 とが並ぶ以上、を見つけたら視機能と下垂体機能の評価が要る。 はを伴うことがあり、の画像所見だけを見てを落とさない。

臨床像:型と側性の2軸で読む

特徴
closed-lip 経過は軽く、無症状のこともある。と軽度の運動障害で、成人になって初めて診断される例もある
open-lip 経過は重く、しばしば難治性のてんかん、、程度の異なる麻痺
片側性 対側の、筋緊張の左右差
両側性 発作、発達遅滞、、重度の知的障害

1

運動障害が最も多いで、幅は「軽度の発達遅滞を伴う」から「を伴う重度の」まで広い1。⚠️ まれに成人期に精神症状(猜疑心・・衝動的浪費)で初発する1。

診断:MRIで「裂の壁が灰白質か」を見る

が第一選択で、皮質のから脳室のまで達し、で裏打ちされた液体で満たされた線状の裂を示す1。⚠️ では灰白質の描出が劣るため、・・との区別に不利である1。では、が裂の中だけでなくその周辺や対側半球()にも見られることがある1。出生前に2次元超音波で大脳半球内の裂として疑われることもある1。

鑑別

⚠️ どれも「大脳内に液体を含む空間がある」点で似る。分けるのは「壁の裏打ちが何か」「脳室まで達するか」「が残っているか」である。

疾患 決め手
皮質から脳室まで達する点は同じだが、を起こした白質で裏打ちされる(は灰白質)。を「真の」と呼ぶ著者もいる
鑑別の筆頭。画像所見で区別する
(外傷後・術後・出血後・) 周囲のと病歴
水頭症 脳室の拡大であっての裂ではない
前脳の正中分離不全であり、成り立ちが異なる
皮質に裂があっても脳室まで達しない
線状の裂に見えるが、脳室周囲の灰白質が脳室内へ突出する
大脳半球そのものが失われる。ではは菲薄化しても欠損しない

1

治療と予後

治療は対症療法が中心で、と(運動障害・知的障害へのリハビリテーション)を行う。水頭症や頭蓋内圧亢進を合併した場合はを検討する1。

⭐ 予後は裂の大きさと型で決まる。 open-lipの裂はてんかん転帰不良と関連し、裂が大きいほどてんかんの発症が早い1。したがって、てんかん治療を組み立てるときは裂の型と大きさを判断材料に含め、で経過を追う1。

まとめ

  • は、で裏打ちされたの裂がと面を結ぶである。灰白質で裏打ちされることが定義の核で、を起こした白質で裏打ちされるとの分かれ目になる。
  • open-lip(裂の唇が離れ脳脊髄液が通る)とclosed-lip(唇が癒合し通らない)の区別が重症度の目盛り。closed-lipは無症状〜軽症で成人発見もあるが、open-lipは・・麻痺を伴う。⚠️ 古典的分類と新しい3型分類でType番号がずれるので、番号ではなくopen/closedの語で言う。
  • 病因は(多くは)が軸で、感染と**COL4A1変異**(血管脆弱性→)が代表的な引き金である。
  • ⚠️ EMX2は1996年にとされたが、その後の検証で関連は支持されず、診断目的の検査はされないとされている。ただしStatPearlsを含む教科書側の記述はまだ更新されていないので、EMX2の記載を見たら出典の世代を確かめる。
  • 随伴奇形として・・・があり、見つけたら視機能と下垂体機能を評価する。
  • 診断は(は灰白質の描出に劣る)。治療は対症療法で、予後は裂の型と大きさに依存する。

出典

  1. 1.Schizencephaly(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)NCBI Bookshelfで全文を確認した(2023年7月31日最終更新)。裂脳症が稀な先天性神経細胞移動障害であり、異所性灰白質で裏打ちされ脳脊髄液で満たされた全層性の裂が大脳半球の軟膜面と側脳室の上衣面を結ぶものと定義されること、1946年のYakovlevとWadsworthによる古典的2型分類(Type I=closed-lip:裂が癒合し脳脊髄液が通れない、Type II=open-lip:裂が開き脳室腔とくも膜下腔の間で脳脊髄液が行き来する)と、脳脊髄液を含む裂を必須としない新しい3型分類(Type 1=trans-mantle:脳脊髄液を含む裂はなく異常灰白質の柱のみ、Type 2=closed-lip、Type 3=open-lip)が併存すること、発生頻度が生児10万に0.54〜1.54例・有病率が生児10万に1.48例でほぼ孤発性であり性差がないこと、病因として催奇形因子(アルコール・ワルファリン・コカイン)・ウイルス感染(特にサイトメガロウイルス、近年ではZikaウイルス)・子宮内脳卒中・若年母体(20歳未満)・妊娠8週の低酸素・羊水穿刺/絨毛採取・母体外傷・IV型コラーゲン異常による胎児頭蓋内出血が挙げられること、サイトメガロウイルスの子宮内曝露が炎症を介して中大脳動脈領域の脳卒中を起こすという仮説が病変の多くが中大脳動脈領域に生じる事実に支持されること、Etiology節が`COL4A1`・`EMX2`生殖細胞系列変異・`SHH`・`SIX3`を「主要な原因遺伝子」として列挙しており、Pathophysiology節も "Patients with a heterozygotic mutation of this are prone to develop this condition, even though such a cause is rare." と記載していて、いずれもMerello 2008の否定的知見を反映していないこと、組織学的に破壊性変化に伴う移動異常のため裂は異常灰白質で裏打ちされ前頭葉が最も多く侵されること、随伴奇形が視隔膜異形成症・視神経低形成・透明中隔欠損・厚脳回・多小脳回・灰白質異所症・くも膜嚢胞であること、片側性では対側片麻痺と筋緊張の左右差、両側性ではけいれん・発達遅滞・四肢麻痺・重度知的障害を呈し、まれに成人期に猜疑心・易刺激性・衝動的浪費といった精神症状で発症すること、画像診断はMRIが第一選択でCTは灰白質の描出に劣るためくも膜嚢胞・脳穿通症・水頭無脳症との鑑別に不利であること、鑑別の筆頭がくも膜嚢胞であり他に後天性嚢胞(周囲のグリオーシスと病歴で区別)・水頭症・全前脳症・限局性皮質異形成(裂が脳室まで達しない)・灰白質異所症(脳室内へ突出する)・脳穿通症(皮質から脳室まで達するがグリオーシスを起こした白質=gliotic white matterで裏打ちされる)が挙げられること、治療が抗けいれん薬・理学療法を中心とする対症療法で水頭症や頭蓋内圧亢進にはシャント術を行うこと、予後が裂の大きさと型に依存しType I(closed-lip)は軽症で無症状のこともあり成人で初めて診断されうる一方Type II(open-lip)は難治性てんかん・知的障害・麻痺を呈すること、Type IIの裂はてんかん転帰不良と関連し裂が大きいほど発症が早いことを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Phenotypic spectrum of COL4A1 mutations: porencephaly to schizencephaly(Annals of Neurology・2013)脳穿通症61例・裂脳症10例を対象に`COL4A1`変異をスクリーニングした研究で、15例(21%)に変異を認め、その内訳が脳穿通症10例・裂脳症5例であったこと、随伴所見として頭蓋内石灰化・限局性皮質異形成・橋小脳萎縮・眼所見・ミオパチー・血清クレアチンキナーゼ上昇・溶血性貧血がみられたこと、5例が新生変異と確認されたこと、著者らが「`COL4A1`変異が裂脳症および溶血性貧血と関連することを初めて確認した」と述べ、脳穿通症・裂脳症の小児では`COL4A1`の遺伝学的検査を考慮すべきと結論していることを確認した(抄録を取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.No major role for the EMX2 gene in schizencephaly(American Journal of Medical Genetics Part A・2008)1996年以降に`EMX2`を裂脳症の原因遺伝子として報告した2論文(18例中13例に変異とされた)を再解釈すると変異率は72%ではなく17%にとどまること、著者らが新規の裂脳症39例で`EMX2`を配列決定したが病的変異を1例も検出しなかったこと、したがって裂脳症と`EMX2`変異の関連は現在のデータでは十分に支持されず`EMX2`の診断目的の検査は結果が解釈不能となるため正当化されないと結論していることを確認した(抄録を取得)閲覧 2026-09-02