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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

水頭無脳症

Hydranencephaly

別名
Hydranencephalus
臓器系
神経小児
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
発生学 17.6:中枢神経系:臨床
鑑別疾患
水頭症全前脳症脳穿通症裂脳症
合併症
脳性麻痺てんかん
続発疾患
小頭症
症状
痙性麻痺視力低下易刺激性発作

🧠 全体像:は、両側領域の虚血性破壊によりいったん形成された大脳半球そのものが失われる病態であり、「発生の初期段階で分割がうまくいかなかった」()や「は保たれたまま脳室だけが拡大する」重症水頭症とは、成り立ちが根本的に異なる。この3者を分けるカギは3つ——の有無(・水頭症では保たれる、では欠損する)、(で頭皮全体が著明に透光する)、の推移(は出生時ほぼ正常でその後に増大するのに対し、重症水頭症は出生時からすでに異常を示す点で対照的である)である。出生時には一見正常に見えることが多く、数週間かけて・・が明らかになる経過そのものが診断の手がかりになる。

病因・位置づけ

⭐ は「発生の失敗」ではなく「いったんできた脳の破壊」である。 最も一般的な機序は、妊娠8〜12週ごろに生じる両側の閉塞によるで、・の構造が失われる一方、・領域(視床・脳幹・小脳)は灌流を保たれるため保存される1。後・シナプス形成前のに、いったん形成されたが破壊されるというが本態とみなされるが、発生そのものの初期段階に生じるの関与を完全には否定できない1。感染症(・等)、、COL4A1・LAMB1・-Akt3-の遺伝子異常、母体の(・喫煙・)も病因として挙げられる1。頻度は妊娠1万〜5千例に1例(0.01〜0.02%)で性差はなく、多くは孤発例だが、(FLVCR2変異)ではを示す1。

臨床像:出生時は正常に見え、数週間かけて明らかになる

⚠️ 出生直後の診察だけで否定しない。 ・嚥下・・四肢運動などの、、自発運動が出生時には正常なことが多く、完全に正常に見える例もある1。

flowchart TD
    A["出生時:外見上正常に見えることが多い"] --> B["数週間後:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperirritability'>過刺激性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal muscle tone'>筋緊張異常</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='widened anterior fontanelle'>大泉門開大</span>"]
    B --> C["脳脊髄液圧上昇による進行性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head circumference'>頭囲</span>増大<br>(水頭症様の経過)"]
    B --> D["まれに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain parenchyma'>脳実質</span>減少が優位となり<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcephaly'>小頭症</span>へ向かう(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encephaloclastic sequence'>脳破壊列</span>)"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral palsy'>脳性麻痺</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spastic paralysis'>痙性麻痺</span>)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive developmental delay'>認知発達遅滞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cortical visual impairment'>皮質視覚障害</span>"]
    D --> E

という形をとるは、StatPearlsが合併症の項に明記する代表的なである1。眼球自体は正常だがを欠くためによる著明なを来す一方、聴覚は通常保たれる1。

診断

(妊娠21〜23週)では大脳半球の欠損と均一なエコー物質への置換、視床・脳幹・小脳の保存を認める。頭部MRIがで、の欠損と置換を示すが、後頭部・にはが残存することがあり、・・脳幹は通常保たれる1。

⭐ が最も簡便で特徴的な所見を与える。 頭部底面に光源を当てると、脳脊髄液で満たされた頭蓋内容のため頭皮全体が著明に透光する1。は全誘導で電気活動消失または拡散性平坦化・低振幅を示し、で皮質機能喪失と脳幹機能保存を確認できる1。

鑑別——重症水頭症・全前脳症(無葉型)との3者鑑別

⚠️ この3者は画像上どれも「大脳が大きく失われて見える」点で似るが、の有無・の有無・の経過が区別点になる。

重症〜極度水頭症 ()
成り立ち 形成後の破壊(虚血性) 障害 発生初期の分割不全
欠損(後頭部・に一部残存しうる) 保たれる(菲薄化) 分割されず単一の中心性脳室
保たれる 保たれる 欠損
通常評価困難 存在する 単一脳室と交通
出生時 正常なことが多い 出生時からすでに異常(拡大)を示す しばしばを伴う
著明に陽性 陽性の程度は軽い 評価の記載なし
随伴する所見 特記なし 特記なし を伴うことが多い
シャント留置への反応 改善に乏しい 臨床・放射線学的に明らかな改善 適応外

1

⚠️ 出生時は「と水頭症が同じ経過をたどる」軸ではない。 は出生時ほぼ正常でその後に増大するのに対し、重症〜極度水頭症は出生時からすでに異常を示す。両者とも最終的にが拡大する点は似るが、出発点が違う1。

💡 「が保たれているか」がを除外する決め手になる。 の/では両側大脳半球とを欠き液体で満たされた腔を示すが、全体が保たれていることでが除外される2。

このほか、重症の(で裏打ちされた裂を認めるがは菲薄化するのみで欠損しない点で区別)や、(による頭蓋骨とそのものの欠損で、とは発生機序が異なる)も鑑別に挙がる1。

治療

⚠️ 根治法はなく、対症療法と支持療法が中心である。

水頭症様の進行性増大に対しては、従来は脳室腹腔/心房シャントが行われてきたが、小児の25〜40%が1年以内、81%が12年以内に修正を要し感染率も高い1。近年は、により両側へアクセスしやすいというに特有の解剖を活かした(ECPC、成功率50〜80%)が、シャントより良好な成績を示すとされる1。そのほか、てんかんに対する、呼吸不全時の・人工呼吸、・、栄養管理を行う1。出生前に診断された場合は、家族への詳細な面談と、までの医学的の選択肢提示が行われる1。

予後

⚠️ 予後はきわめて不良である。 ほとんどがし、も通常生後1年以内に死亡する。生存は脳幹機能の保持に依存する1。まれな長期生存例でも、シャント留置後を含め神経機能に改善はみられず生涯を通じて安定した状態にとどまり、手の使用や意思疎通は限定的だが一部は単語を使用できる1。

まとめ

  • は、妊娠8〜12週ごろの両側閉塞による虚血性破壊で大脳半球が失われる病態で、視床・脳幹・小脳は保たれる。「発生の失敗」であるとは成り立ちが異なる「形成後の破壊」である。
  • 重症水頭症・()との3者鑑別が要点。の有無(・水頭症で保存、で欠損)、の有無(水頭症で保存、・で欠損)、出生時(は出生時正常→進行性増大、重症水頭症は出生時からすでに異常)で見分ける。
  • 出生時は正常に見えることが多く、数週間かけて・・・が明らかになる。
  • が著明に陽性というを持つ。診断はがで、・・脳幹の保存を確認する。
  • 根治法はなく、進行性増大にはがシャントより良好な成績を示す。予後はきわめて不良で、生存は脳幹機能の保持に依存する。

出典

  1. 1.Hydranencephaly(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)NCBI Bookshelfで全文を確認した(2023年8月23日最終更新)。水頭無脳症が大脳半球を欠き基底核・脳幹・髄膜は保たれ脳脊髄液で満たされた膜様嚢を呈する稀な先天異常であること、最も一般的な病因が妊娠8〜12週ごろの両側内頸動脈上海綿部閉塞による虚血性梗塞で内頸動脈・中大脳動脈領域の構造が失われる一方後大脳動脈・脳底動脈領域は保たれること、本態が神経細胞移動後・シナプス形成前の妊娠第2三半期に脳が破壊される破壊性機序(encephaloclastic process)とみなされる一方で早期の発生異常性機序(dysontogenic process)の可能性も否定されないこと、その他の病因として感染症(トキソプラズマ症・エンテロウイルス等)・胎児低酸素症・遺伝子異常(COL4A1・LAMB1・PI3K-Akt3-mTOR経路)・母体の薬物曝露(コカイン・喫煙・バルプロ酸ナトリウム)が挙げられること、頻度が妊娠1万〜5千例に1例(0.01〜0.02%)で性差はなくほとんどが孤発例だがFowler症候群(FLVCR2遺伝子変異)では常染色体劣性遺伝であること、出生時には完全に正常に見えることがあり吸啜・嚥下・啼泣・四肢運動などの原始反射も頭囲も正常なことが多いこと、数週間後に過刺激性・筋緊張異常・大泉門開大が進行し脳脊髄液圧上昇による頭囲増大(まれに脳実質減少により小頭症へ向かう「脳破壊列」という経過をたどることもある)を来すこと、Complications(合併症)の項に脳性麻痺(cerebral palsy)が明記され神経学的には痙性両麻痺(spastic diplegia)・認知発達遅滞を来し眼球自体は正常だが視覚皮質欠損による皮質視覚障害のため視力障害が著明である一方聴覚は通常保たれること、画像所見として妊娠21〜23週の超音波で大脳半球の欠損と均一なエコー物質への置換・視床と脳幹と小脳の保存を認めること、頭部MRIがゴールドスタンダードでテント上の脳実質欠損と脳脊髄液置換を認めるが後頭部・眼窩前頭部には脳実質が残存することがあり大脳鎌・小脳半球・脳幹は通常保たれること、頭部CTはMRIと同様の所見だがMRIの方がより正確であること、透光試験で頭部底面に光源を当てると脳脊髄液充満のため頭皮全体に光が透光すること、脳波で全誘導にわたる電気活動消失または拡散性平坦化・低振幅を認め脳幹聴覚誘発反応で皮質機能喪失と脳幹機能保存を確認できること、鑑別診断の表で重症〜極度水頭症は大脳皮質マントルが保たれ第3脳室が存在し**出生時から頭囲異常(abnormal head circumference at birth)を示し**大泉門は膨隆しシャント留置後に臨床・放射線学的改善がみられる点で区別されること(水頭無脳症は出生時ほぼ正常でその後増大する点が対照的)、全前脳症無葉型は視床の部分癒合・大脳鎌の欠損を認め患者は顔面奇形と小頭症を呈すると記載され透光試験についての記載は無いこと、重症開放性裂脳症は多小脳回で裏打ちされた裂があり大脳皮質マントルは菲薄化するが欠損しない点で区別されること、無脳症は神経管閉鎖障害による頭蓋骨と脳実質の欠損である点で区別されること、治療に根治法はなく水頭症様の頭囲増大に対しては従来脳室腹腔/心房シャントが行われてきたが小児の25〜40%が1年以内・81%が12年以内に修正を要し感染率も高いため近年は透明中隔欠損により両側脈絡叢へアクセスしやすい解剖を活かした内視鏡下脈絡叢凝固術(ECPC、成功率50〜80%)がシャントより良好な成績を示すこと、その他抗けいれん薬・気管切開/人工呼吸・理学療法/作業療法・栄養管理などの対症療法を行うこと、出生前診断時には家族面談と妊娠第3三半期までの医学的人工妊娠中絶の選択肢提示が行われること、予後がきわめて不良でほとんどが子宮内胎児死亡し生存児も通常生後1年以内に死亡し生存は脳幹の機能保持に依存すること、まれな長期生存例でも神経機能に改善はなく生涯にわたり安定した状態にとどまり手の使用や意思疎通は限定的だが単語を使用できる例もあることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Holoprosencephaly(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)NCBI BookshelfのDifferential Diagnosis節で、水頭無脳症の頭部CTが両側大脳半球の欠如・大脳皮質マントルの欠如・液体で満たされた腔を示す一方で大脳鎌全体が保たれており、この大脳鎌の保存によって全前脳症が除外される(HPE is excluded)と記載されていることを確認した。閲覧 2026-09-02