病理学

病理学 · C/105

中枢神経系の先天奇形

Congenital malformations of the central nervous system

疾患
Chiari奇形COACH症候群Dandy-Walker奇形Joubert症候群Meckel-Gruber症候群限局性皮質異形成神経管閉鎖不全(二分脊椎・無脳症)脊髄空洞症多小脳回脳穿通症裂脳症

🧠 全体像:の多くは神経管閉鎖の失敗という一つの発生学的事象から説明できる——後方の閉鎖不全はの系列(→→の順に重症化)、前方の閉鎖不全は・を生む。葉酸欠乏はこの経路全体で最も代表的なな原因。

神経管閉鎖不全

概要

  • 最も多いの群。
  • :外胚葉が肥厚 → → 折りたたみ+閉鎖 → 神経管。
  • 閉鎖の失敗や再開 → 複数の奇形。

病因

  • 妊娠初期の葉酸欠乏(最も重要な原因。葉酸補充で予防できる)。
  • 。

💡 葉酸の効果は無作為化試験で数値化されている。 児の妊娠既往により高リスクとされた1,817例を対象にした英国MRC Vitamin Studyの無作為化試験(7か国33施設)では、群は非補充群に比べの再発が72%減少した(0.28、95%信頼区間0.12〜0.71)。他のビタミン補充には有意な予防効果はなかった1。一般集団については、米国予防医療専門委員会()が、妊娠を計画している、または妊娠しうる人全員に葉酸0.4〜0.8mg/日を妊娠の1か月以上前から妊娠2〜3か月まで摂取するよう勧告している(Grade A)。ただしこの勧告は、児の妊娠既往がある人や、家族歴・葉酸の働きを妨げる薬剤などで非常に高リスクの人には適用されないと明記されている——上のMRC試験が対象にしたのはまさにこの既往例であり、両者は別の集団についての話である2。

  • 母体血清α-フェトプロテイン上昇 → 。
  • 母体糖尿病、バルプロ酸。

後神経孔閉鎖の欠陥

A)潜在性二分脊椎

  • occulta = 隠れた。
  • 脊椎の小さな裂隙(癒合の失敗)。
  • 通常は無症状。
  • 上部に毛の房、くぼみ、があることも。

B)髄膜瘤

  • 脊椎の液体の嚢()。
  • 脊髄は嚢内にない(髄膜のみ)。

C)脊髄髄膜瘤

  • 最も重篤な型()。
  • 脊髄+神経を含む構造が欠損部から突出。
  • 運動+感覚障害を来す → の低下+膀胱・腸のコントロール障害。
  • Arnold-と関連。

前神経孔閉鎖の欠陥

A)無脳症

  • 脳+頭蓋頂の欠如。
  • 神経管前端の奇形。
  • 生命と両立しない(または出生後まもなく死亡)。
  • 母体著増+。

B)脳瘤

  • 頭蓋の欠損を通り伸びる奇形性の中枢神経組織の憩室。
  • しばしば後頭部。

前脳の奇形

A)巨脳症・小脳症

B)滑脳症・厚脳回症

  • = とも呼ばれ、正常な化の欠如 → 平滑な表面の脳。
  • = より斑状の病変。
  • 皮質が異常に肥厚し、通常は4層のみ(正常 = 6層)。

C)多小脳回症

D)全前脳胞症

E)裂脳症

  • では大脳半球をから脳室のまで貫く「裂」ができる。
  • 定義の重心は裂そのものではなく、裂の壁が灰白質(多くは)で裏打ちされていることにある。
  • 灰白質で裏打ちされる=神経細胞の移動がまだ続いていた時期の障害で、生き残った細胞が損傷部の周りへ這い上がって皮質を作ったことを意味する。
  • ⚠️ との違いはここだけ。 の裂はを起こした白質で裏打ちされており、移動が終わったあとの破壊を示す。
  • 裂の唇が離れているか(open-lip)閉じているか(closed-lip)、片側性か両側性かが重症度の目盛りになる。

後頭蓋窩の奇形

最も多い:小脳の位置異常・欠如。典型的に水頭症を伴う。

A)Chiari I型

  • のがを通り伸びる(詳しくは)。
  • 画像上の目安:小児の国際コンセンサスは、または両側のがの前後縁を結ぶ線(McRae線)より5 mm以上下垂するもの、または3〜5 mmでもや杭状の扁桃を伴うものをI型とみなす。水頭症やその他ので扁桃が一時的に押し下げられた状態はI型に含めず、後天性の扁桃偏位として区別する3。
  • → 髄液流の閉塞+延髄の圧迫。
  • と関連しうる。
  • しばしば成人で診断、頭痛、。

B)Chiari II型

  • 小さな+へのの下方伸展を伴う変形した正中小脳。
  • 通常水頭症+の変形を伴う。
  • と強く関連。

C)Dandy-Walker奇形

  • 拡大した+低形成・欠如した。
  • に拡張した。
  • 水頭症と関連。

周産期脳損傷

原因

  • 早産:
    • からの内出血。
    • 。
    • (脳室近傍の白質壊死)。
  • → TORCH(Toxoplasma、Other[梅毒]、Rubella、CMV、Herpes/HIV)。

💡 TORCH感染によるのパターンは病原体で異なり、鑑別の手がかりになる。 の石灰化は脳室周囲・点状に分布するのに対し、の石灰化は基底核・視床・大脳皮質・脳室周囲組織にまで及ぶ広範なもので、概してのほうがより周辺(皮質寄り)に分布する4。

臨床像

  • (Little病):
    • 出生時には存在しない非進行性の運動障害。
    • 、、、、。

脊髄の奇形

  • :脊髄のに覆われたの拡大。
  • :内側脊髄の液体で満たされた裂隙状の空洞(しばしば頸胸部)。
    • 古典的に、触覚・は保たれるがの痛覚+温度覚の喪失(脊髄視床路の交叉が侵される)。
  • 両者:隣接する灰白質+白質を破壊 → 。
  • Chiari Iと関連。

まとめ表

奇形 欠陥 主な特徴
後神経管閉鎖 隠れた、無症状、毛の房
後神経管閉鎖 嚢内に髄膜、脊髄は無傷
後神経管閉鎖 嚢内に脊髄+神経、障害
前神経管閉鎖 脳/頭蓋なし、致死的、著増
前神経管閉鎖 中枢神経組織が頭蓋欠損を通りヘルニア(後頭部)
正中前脳分割の失敗 、FAS、、
皮質移動 平滑な脳、4層皮質
Chiari I 扁桃がを通る 成人の頭痛、
Chiari II(Arnold-Chiari) 小さな、がを通る +水頭症
Dandy-Walker 低形成 拡大した+
脊髄の空洞 の痛/低下、Chiari I
周産期損傷 非進行性運動障害、早産+TORCH
皮質移動期の破壊 から脳室まで貫く裂が灰白質で裏打ち(は白質)

💡 ポイント: 葉酸欠乏 = NTDsの第1の原因、母体血清上昇。:(隠れた)→ (髄膜のみ)→ (脊髄+神経、上昇)。 = 脳/頭蓋なし、致死的。 = 正中の失敗、、、FAS。 = 平滑な脳。Chiari I = 成人、扁桃がを通る、(の痛/低下)。Chiari II(Arnold-Chiari) = +水頭症。Dandy-Walker = 欠如+。 = 早産/TORCHによる非進行性運動障害。

まとめ

  • は最も多い群で、妊娠初期の葉酸欠乏が主要な原因である。米国は妊娠しうる人全員に葉酸0.4〜0.8mg/日を勧告するが、既往例など非常に高リスクの人はこの勧告の対象外である。母体血清上昇は病変で見られる所見だが、閉鎖性病変は原理上検出できず、現在のスクリーニングの中心は妊娠中期のである5。
  • 閉鎖の欠陥は(無症状)→(脊髄は無傷)→(脊髄・神経を含み障害を来す、Arnold-Chiari II型と関連)の順に重症化する。
  • 閉鎖の欠陥には(生命と両立しない)と(頭蓋欠損からの中枢神経組織のヘルニア)がある。
  • は正中パターン形成の破綻で、やと関連し、・を伴いうる。
  • の奇形にはChiari I型(扁桃がを越えて下垂する。小児の国際コンセンサスでは5 mm以上、または3〜5 mmで・杭状扁桃を伴うもの。と関連)、Chiari II型(+水頭症と強く関連)、(低形成+)がある。
  • (早産・TORCH感染)は(非進行性の運動障害)の主要な原因となる。

出典

  1. 1.Prevention of neural tube defects: results of the Medical Research Council Vitamin Study(Lancet・1991)抄録で、神経管閉鎖不全児の妊娠既往により高リスクとされた1,817例を7か国33施設で葉酸・他ビタミン・両方・いずれも無しの4群に無作為割付けした二重盲検試験において、転帰の判明した1,195妊娠のうち神経管閉鎖不全は27例(葉酸群6例、非葉酸群21例)で、葉酸の予防効果が72%(相対危険度0.28、95%信頼区間0.12〜0.71)であったこと、他ビタミンには有意な予防効果がなかったこと(相対危険度0.80、95%CI 0.32〜1.72)、妊娠前から始める葉酸補充を既往のある全女性に確固として推奨できると結論したことを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Folic Acid Supplementation to Prevent Neural Tube Defects: Preventive Medication(U.S. Preventive Services Task Force・2023)勧告ページで、妊娠を計画している、または妊娠しうる人全員への葉酸0.4〜0.8mg/日、妊娠前1か月以上から妊娠2〜3か月までの摂取期間、Grade A(2017年勧告を2023年に再確認)を確認し、あわせてこの勧告は神経管閉鎖不全児の妊娠既往がある人や、家族歴・葉酸の働きを妨げる薬剤の服用などで非常に高リスクの人には適用されないと明記されていることを確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.Diagnosis and treatment of Chiari malformation type 1 in children: the International Consensus Document(Neurological Sciences(Massimi L, Peretta P, Erbetta A, et al.)・2022)PMC8789635の全文で、小児の国際コンセンサス(Delphi法、参加した国際専門家34名)が、より良い画像的定義が無い現状ではChiari I型奇形を一側または両側の小脳扁桃がMcRae線より5 mm以上下垂するもの、または3〜5 mmでも脊髄空洞症や杭状(peg-like)の扁桃を伴うものとみなしたこと、水頭症など占拠性病変による一過性の扁桃下垂はChiari I型ではなく後天性扁桃偏位とすることを確認した閲覧 2026-09-24
  4. 4.From Fetal to Neonatal Neuroimaging in TORCH Infections: A Pictorial Review(Children (Basel)・2022)全文で、CMVの頭蓋内石灰化は脳室周囲・点状に分布するのに対し、トキソプラズマ症の石灰化は基底核・視床・大脳皮質・脳室周囲組織にまで及ぶ広範なもので、両者は石灰化を共有するが概してトキソプラズマ症のほうがCMVより周辺(皮質寄り)に分布することを、放射線画像所見の対比表と本文の記述で確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Prenatal screening for neural tube defects: from maternal serum alpha-fetoprotein to ultrasonography(Obstetrics & Gynecology Science・2023)全文で確認した。母体血清AFPは40年にわたり妊娠中期前半(妊娠15〜18週)の標準的スクリーニングであったが、妊娠中期超音波がその役割を置き換えてきたこと、母体血清AFPは原理上、閉鎖性の神経管閉鎖不全を検出できないこと、著者らの自験例では母体血清AFP高値394例のうち超音波で脊椎の神経管閉鎖不全の確定所見が得られたのは7例(Table 5 では脊椎神経管閉鎖不全の疑い13例)にとどまり、原因不明の上昇が79%であったこと、説明のつく原因では胎盤病変が37例で最多であったこと閲覧 2026-09-07