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Microbe Atlas · ウイルス

HIV-1

ヒト免疫不全ウイルス1型

分類
レトロウイルス / Retroviruses
性状
エンベロープあり EnvelopedssRNA-RT (逆転写)
科目
Medical Microbiology
トピック
3/32: Retroviruses and AIDS5/27: Screening and verification of HIV-infections. Microbes causing opportunistic infections related to AIDS (list)
原因となる疾患
HIV感染症・AIDSHIV関連空胞性脊髄症HIV関連神経認知障害ウイルス性関節炎巣状分節性糸球体硬化症
作用する薬剤
アタザナビルアバカビルエトラビリンエファビレンツエムトリシタビンエンフビルチドカボテグラビルジドブジンダルナビルテノホビルドルテグラビルフォステムサビルマラビロクラミブジンリトナビルリルピビリンレナカパビルロピナビル

🧠 全体像:は「どのを使うか」という1つのスイッチで感染の全経過を説明できるレトロウイルスである。感染初期はマクロファージのCCR5をとして使い、粘膜からの侵入とCD4陽性T細胞・マクロファージへの感染に有利にはたらく。数年〜10年の無症候期を経てCXCR4株へシフトすると、CD4陽性T細胞が急速に減少して期(CD4数<200/µL)に至る。もう一つの核心は「逆転写でできたが宿主染色体へ不可逆的に組み込まれる()」という事実——これが「(ART)で増殖を抑制できても、感染細胞そのものは除去できず根治しない」という臨床の大前提を作っている。世界の感染の圧倒的多数を占めるのがで、西アフリカに限局し進行の遅いHIV-2とは対照的である。

ウイルスの構造とゲノム

Retroviridae科に属する、エンベロープを持つウイルス。1粒子あたり同一のゲノムを2コピー持つウイルスという点がレトロウイルス科に共通する特徴で、内に逆転写酵素・・プロテアーゼという3つの酵素をあらかじめ格納して細胞へ侵入する。

遺伝子 産物 機能
Gag p24()、p17(マトリックス)、p7() の
Pol 逆転写酵素・・プロテアーゼ ゲノム複製・宿主染色体への組み込み・切断を担う酵素群
Env gp120(表面蛋白)、gp41() gp120がCD4とに結合し、gp41がを実行する

⭐ 逆転写酵素はを持たずエラーを起こしやすい。 これが変異率の高さ、の出現しやすさ、そして有効なワクチンが今なお実用化されていない最大の理由になっている。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["gp120がCD4陽性細胞のCD4と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='co-receptor'>共受容体</span>(CCR5またはCXCR4)に結合"] --> B["gp41による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane fusion'>膜融合</span>・侵入"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uncoating'>脱殻</span>"]
    C --> D["逆転写酵素により<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='double-stranded DNA'>二本鎖DNA</span>"]
    D --> E["核内へ移行"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='integrase'>インテグラーゼ</span>により<br>宿主染色体へ組み込み(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proviral integration'>プロウイルス化</span>)"]
    F --> G["転写・翻訳→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyprotein'>ポリプロテイン</span>産生"]
    G --> H["プロテアーゼによる切断・粒子成熟"]
    H --> I["急性感染期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CCR5-tropic'>CCR5指向性</span>株が優位"]
    I --> J["数年〜10年の臨床的潜伏期"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CXCR4-tropic'>CXCR4指向性</span>株へシフト"]
    K --> L["CD4陽性T細胞の急速な減少"]
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acquired immunodeficiency syndrome'>AIDS</span>期:CD4数<200/µL"]

💡 「として組み込まれる」ことが、この感染症の性格を決めている。 ARTは逆転写・組み込み・成熟という複製環の複数段階を阻害してウイルス量を未満に抑えられるが、すでに宿主染色体へ組み込まれたリーCD4陽性T細胞()そのものは除去できない。ARTを中断すればここから再び増殖が始まる。

⚠️ CD4陽性T細胞の減少は感染細胞の直接破壊だけでは説明できない。 感染細胞のアポトーシス、ウイルス誘発性のに加え、非感染のもを介してする。この持続的な炎症状態は、ART抑制下でも心血管疾患などの非関併症リスクを底上げする一因とされる。

感染経路と疫学

  • 性行為、血液曝露(輸血・注射器共有・針刺し)、母子感染(妊娠・分娩・授乳)が主要3経路。日常接触・食器共有・蚊では感染しない
  • 世界の感染の大多数を占め、サブサハラアフリカに感染者数が集中しつつも全世界に拡大している点が、西アフリカに地理的に限局するHIV-2との疫学的な違いになる
  • 輸血用血液の抗体・によるスクリーニングが標準化されており、輸血感染は先進国ではまれになっている

起こす疾患

急性感染から期に至る経過、皮膚粘膜所見、合併症を含む臨床像の全体は感染症・に譲り、ここでは病期とCD4数がどう対応するかを軸に整理する。

病期 CD4数の目安 臨床像
急性感染期 正常〜軽度低下 曝露後2〜4週で発熱・・全身リンパ節腫脹・などの
無症候期(臨床的潜伏期) 緩徐に低下 数年〜10年、リンパ節内で複製が持続しながら無症候で経過
期 <200/µL 日和見感染・悪性腫瘍のリスクが跳ね上がる

⭐ CD4数が下がるほど守備範囲の広い病原体が出てくる。 目安として、500/µL未満でカンジダ症(口腔咽頭)、200/µL未満でや、100/µL未満で(脳炎)・(髄膜炎)、50/µL未満でCMV網膜炎・播種性MAC感染のリスクが立ち上がる。結核だけはCD4数によらずどの病期でも起こりうる例外である。

悪性腫瘍ではHHV-8による、EBV関連の・が代表的で、いずれも指標疾患に数えられる。

診断

現行のスクリーニングは第4世代/2(p24抗原と/抗体を同時に検出)を用いる。反応性となった検体は/2で・いずれの型かを確定し、鑑別検査が陰性・なら (NAT)を追加して急性感染(抗体成立前の)を確認する1。

⚠️ はもはや標準確認法ではない。 2014年の米国の検査勧告で、上記の「→→」の3段階に置き換えられた1。は抗体しか見ないため抗体が出そろう前の急性感染を拾えず、p24抗原や核酸を直接とらえる新しい手順のほうが早期に診断できる。

⚠️ 新生児は母体由来のIgG抗体が移行するため抗体検査が陽性になりうる。 偽陽性相当であり、ウイルスそのものを検出する-/-で確認する必要がある。

治療と予防

ではウイルスが速やかに耐性を獲得するため、複数クラスの薬剤を組み合わせる併用療法(ART)が原則。現在の初回治療の多くは()を基盤とする。欧州エイズ臨床学会の2025年版ガイドラインがの初回治療として推奨するのは次の4つで、・を使うレジメンは代替の位置づけである2。

推奨レジメン 主な条件
++(1錠の合剤) —
系+または+ —
(または)+の2剤 HBs抗原陰性、ウイルス量50万copies/mL未満。経口のの失敗が疑われる例では推奨されない(遺伝子型耐性検査で耐性が無ければ使用可)
系+または+ドラビリン() には無効、診断当日などの迅速開始には向かない

💡 2剤療法に「HBs抗原陰性」が条件として付くのは、B型肝炎にも効くを外すと、者でB型肝炎がしうるためである。

代表薬 機序
、、、、 逆転写酵素の基質
ドラビリン、、、 逆転写酵素のへの。には構造上効かない
、、 の宿主染色体への組み込みを阻害
/ ウイルスの切断を阻害
(CCR5拮抗薬) CCR5との結合を阻害。株へシフトした後は無効
の機能を阻害。多剤耐性例の最適化背景レジメンやに用いる

💡 の効きにむらが出る理由はCCR5/CXCR4スイッチそのもの。感染初期の株には効くが、期に向けて株が優勢になると標的そのものが失われる。

⚠️ 妊娠中のARTの主役はもはやではない。 欧州の2025年版ガイドラインが妊婦の初回治療に推奨するのは、 ++の合剤、または系+(または)にかでしたを組み合わせるレジメンである。が今も役割を持つのは、分娩時に初めて診断され が400 copies/mLを超える女性へのの静注(入手できる場合)と、生後0〜4週(体重2 kg以上の)の治療でと組み合わせる優先バックボーンとしてである2。

伝播予防

  • 治療による予防(U=U):ARTを6か月を超えて続けて服薬が良好で、過去1年の がすべて200 copies/mL未満または未満に抑えられている人からは、性行為でが伝播しないとするデータがある。このため米国の2025年の勧告は、そうした感染源との性的曝露には曝露後予防を通常は勧めない3。⚠️ 母乳を介した伝播のリスクは、ウイルス抑制下でも非常に低いがゼロではない2。
  • ():経口の+合剤、長時間作用型、2025年に米国で承認された半年に1回投与のという選択肢がある。
  • 曝露後予防(PEP):初回投与はできるだけ早く、理想的には24時間以内、遅くとも曝露後72時間以内に始め、検査結果を待って遅らせない。期間は28日間で、成人の優先レジメンは// の合剤、または+系+(または)である3。

まとめ

  • は世界的に主流のレトロウイルスで、からへ使用がシフトしながらCD4陽性T細胞を減少させる。
  • 逆転写でできたは宿主染色体へ不可逆的に組み込まれるため、ARTで増殖を抑制できても根治はできない。
  • CD4数と日和見感染はおおむね対応する:500未満で、200未満でPCP・、100未満で・、50未満で網膜炎・感染。結核はCD4数によらない例外。
  • 診断は第4世代→/2→(陰性・保留なら) NATの順で行う。はもはや標準ではない。
  • ARTは・・・PI・・を組み合わせる。とは、それぞれへの・株への無効という限界を持つ。
  • 初回治療は(・)を軸とする組み合わせが中心で、妊娠中もではなくこれらが優先される。
  • ウイルス量を持続的に抑えれば性行為では伝播しない(U=U)。はに加え(・)へ選択肢が広がり、PEPは72時間以内に始めて28日間続ける。

出典

  1. 1.Laboratory testing for the diagnosis of HIV infection : updated recommendations(Centers for Disease Control and Prevention/Association of Public Health Laboratories・2014)CDC Stacks の書誌ページの要旨の範囲で確認した。検査はHIV-1・HIV-2抗体とHIV-1 p24抗原を同時に検出する抗原抗体同時検査で始め、反応性の検体はHIV-1とHIV-2の抗体を鑑別する免疫測定法で補足検査し、抗体鑑別検査が陰性または判定保留ならHIV-1核酸増幅検査で決着させること、本勧告がウエスタンブロットによる血清診断の1989年の旧指針に取って代わったこと。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Major revision version 13.0 of the European AIDS Clinical Society guidelines 2025(HIV Medicine (European AIDS Clinical Society)・2026)PMC全文(PMC12757896)で確認した。Table 1のHIV-1初回治療の推奨は、TAF/FTC/BIC、TAF/FTCまたはTDF/XTC+ドルテグラビル、XTC+ドルテグラビルの2剤(HBs抗原陰性・ウイルス量50万copies/mL未満、経口PrEP失敗の疑い後は推奨されないが遺伝子型検査で耐性が無ければ使用可)、TAF/FTCまたはTDF/XTC+ドラビリン(HIV-2に無効・迅速開始に不向き)で、エファビレンツ・リルピビリンは代替の位置づけであること。妊娠中の初回治療の推奨はTAF/FTC/BIC、TDF/XTCまたはTAF/FTC+ドルテグラビル、同+ダルナビル/リトナビルであること。分娩時にHIVと診断された女性ではドルテグラビルまたはビクテグラビルを含む3剤を直ちに開始し、HIV RNAが400 copies/mLを超えれば入手可能ならジドブジンを静注すること。Table 3で生後0〜4週の新生児(体重2 kg以上の正期産児)の優先バックボーンがジドブジン+ラミブジンであること。母乳を介した伝播のリスクは非常に低いがゼロではないこと。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Antiretroviral Postexposure Prophylaxis After Sexual, Injection Drug Use, or Other Nonoccupational Exposure to HIV — CDC Recommendations, United States, 2025(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports)・2025)PMC全文(PMC12064164)で確認した。曝露後予防の初回投与はできるだけ早く、理想的には24時間以内、遅くとも曝露後72時間以内に行い、検査結果を待って遅らせないこと、推奨期間は28日間であること、成人・青年の優先レジメンがビクテグラビル/エムトリシタビン/テノホビル アラフェナミド、またはドルテグラビル+(テノホビル アラフェナミドまたはテノホビル ジソプロキシル)+(エムトリシタビンまたはラミブジン)であること。持続的なウイルス抑制(治療6か月超・服薬良好・過去1年のHIV RNAがすべて200 copies/mL未満または検出限界未満で、直近の測定が曝露前1〜2か月以内)にある感染源からは性行為でHIVが伝播しないとするデータがあり、その場合の性的曝露には曝露後予防を通常は推奨しないこと。閲覧 2026-09-27