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Microbe Atlas · 真菌

Histoplasma capsulatum

分類
二形性真菌 / Dimorphic fungiHistoplasma
科目
Medical MicrobiologyPathology
トピック
4/7: Coccidioides immitis. Histoplasma capsulatum5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention5/22: Pathogens of viral and fungal meningitis and encephalitis (list)病理学 C/88:副腎の機能異常・腫瘍
原因となる疾患
ヒストプラズマ症原発性副腎不全
作用する薬剤
アンフォテリシンBイトラコナゾール

🧠 全体像:Histoplasma capsulatumはミシシッピ・オハイオ川流域、コウモリ・鳥の糞に汚染された土壌(洞窟、鶏舎)という地理そのものが診断の入口になる二形性真菌である。他の全身性二形性真菌と同じく25℃では菌糸、37℃では酵母へ姿を変えるが、本菌の際立った特徴はマクロファージに貪食されても殺されず、その内部で増殖する細胞内寄生という戦略にある——だからこそ病変は肝・脾・骨髄というに集中し、は指標疾患になりうる。菌名の capsulatum は「莢膜をもつ」という意味だが誤称で、真の莢膜は持たない。

微生物学的な特徴

全身性の主要4菌種(Histoplasma・Coccidioides・Blastomyces・Paracoccidioides)はいずれもで、土壌中ではカビ、体温37℃では別の形へ転換するという共通の温度依存的二形性を持つ。

flowchart TD
  A["土壌中の胞子を吸入<br>(25℃・カビ形)"] --> B["肺胞上皮・マクロファージに到達"]
  B -->|"体温37℃<br>温度依存的二形性"| C["組織内形へ転換<br>(酵母 or <span class='jp-term jp-term-diagram' title='spherule'>球状体</span>)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunocompetent host'>免疫正常宿主</span><br>大半は無症候<br>(症候性は約1%)"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunocompromised host'>免疫不全宿主</span>・妊婦<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated disease'>播種性疾患</span>"]
真菌 環境中形態・25℃(Mold form) 組織内形態・37℃(Tissue form)
Histoplasma capsulatum ミシシッピ・オハイオ川流域、鳥・コウモリの糞便に汚染された土壌(洞窟、鶏舎) ・(様)を持つ菌糸 マクロファージ内の細胞内酵母
Coccidioides immitis 米国南の砂漠地帯(San Joaquin Valley等) 樽状のを生じる菌糸 +——唯一にならない例外
Blastomyces dermatitidis 米国中・五大湖周辺の腐敗有機物・林地 非特徴的なを持つ菌糸
Paracoccidioides brasiliensis 中南米(特にブラジル)の土壌 糸状菌 「」酵母(多発出芽)

⭐ 4菌種の組織内サイズを赤血球を基準に並べると: Histoplasma(酵母)<赤血球=Blastomyces(酵母)<Coccidioides()・Paracoccidioides(酵母)。顕微鏡診断ではこの相対サイズ感覚が鑑別の第一歩になる。

本菌固有の性状として、薄い細胞壁を持つが菌名(capsulatum)に反して真の莢膜は持たない点、組織内酵母(2〜4 μm)は赤血球より小さい点が挙げられる。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["分生子を吸入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>に速やかに貪食"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='food vacuole'>食胞</span>内でpHを操作し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='phagosome-lysosome fusion'>ファゴソーム-リソソーム融合</span>を阻害"]
    C --> D["マクロファージ内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parasitic'>寄生性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='yeast form'>酵母形</span>へ転換・増殖"]
    D --> E["感染マクロファージが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticuloendothelial system, RES'>網内系</span>(肝・脾・骨髄・リンパ節)へ遊走"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunocompetent host'>免疫正常宿主</span><br>肉芽腫を形成し封じ込め"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell-mediated immunodeficiency'>細胞性免疫不全</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acquired immunodeficiency syndrome'>AIDS</span>等)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated histoplasmosis'>播種性ヒストプラズマ症</span>"]

💡 なぜ肝・脾・骨髄に病変が集中するのか。 他の全身性二形性真菌が組織内で細胞外に留まるのに対し、本菌はマクロファージに貪食された後も殺されず、その内部で増殖するという細胞内寄生の戦略をとる。感染マクロファージはそのままマクロファージが豊富な(肝・脾・骨髄・リンパ節)へ運ばれるため、では肝脾腫・()・リンパ節腫脹が前面に出る。

⚠️ 副腎は病変の“隠れた”好発部位。 は両側副腎を破壊し、を来しうる——結核と並んで肉芽腫性副腎不全の代表的原因である。

感染経路と疫学

  • ミシシッピ・オハイオ川流域(米国中)を中心に世界中の鳥・コウモリの糞便に汚染された土壌に分布する。洞窟探検(「洞窟探検家病」の異名がある)、鶏舎・鳩舎の清掃、老朽建築物の解体が典型的な曝露機会。
  • 分生子の吸入により感染する。ヒト-ヒト感染はない。
  • 高リスク群:AIDS(特にCD4<150/μL)、臓器移植後、阻害薬使用者などの患者に加え、乳児と55歳以上の成人1。免疫正常者でも大量曝露(洞窟の集団曝露など)で急性肺炎を発症しうる。

起こす疾患

病型 宿主 特記事項
無症候〜自然治癒性肺炎 免疫正常・軽度曝露 ⭐ 症候性感染は約1%にとどまり、大半は気づかれない1
免疫正常・大量曝露 通常は曝露後3〜17日に発症する1。、肺炎・(ARDS)へ進行することもある
慢性肺 ・肺気腫などの基礎肺疾患 結核に類似したを呈し臨床的に鑑別が問題となる
・移植後などの 肝脾腫、、リンパ節腫脹、、副腎不全。指標疾患になりうる

診断

  • 顕微鏡:Histoplasmaを充満させたマクロファージ(末梢血・のWright-での診断に有用)
  • 尿中・血清の抗原検査:最も広く用いられ、最も感度が高い方法で、を待たずにを決められる実務上の主力検査。で行い、髄液やにも用いられる1
  • 培養:確定診断だが陽性化に最長6週間かかり、重症型の診断で最も有用である。カビ形の分生子は感染性が強いため取り扱いに厳重な封じ込めを要する1
  • 血清学的検査:抗体の産生には2〜6週間かかるため急性期は偽陰性になりやすく、免疫抑制者では十分なが得られずさらに感度が落ちる。(H・M)の感度は約80%で、はより感度が高いが特異度は低い。⭐ 抗原検査と併用すると感度が上がる1
  • は広く利用できる段階になく、血清・組織・で有望と位置づけられている1
  • ⚠️ 抗原検査はBlastomyces dermatitidisとすることがあり、地理的背景・臨床像と合わせて解釈する

治療と予防

⚠️ 「軽症なら」という覚え方は現在の推奨と合わない。 は2025年の更新で、免疫正常者の軽症・には抗真菌薬をに投与しないことを提案した(条件付き推奨・確実性は非常に低い)。根拠として、研究で75%超が1週間以内の経過であり全員が無治療で2か月以内に完全回復したことが挙げられている。中等症は治療しても経過観察しても許容される2。

病型・重症度 現在の推奨
無症候の非石灰化(ヒストプラズモーマ)・既知の未治療既感染 再活性化予防のための治療をに行わない(条件付き推奨)。播種・重症化のリスクが高い免疫不全者では厳重に経過を見るか治療を考慮する。石灰化結節だけなら治療しない
免疫正常・軽症の急性 抗真菌薬をに投与しない(条件付き推奨)。症状が長引く例、浸潤影が進行する例、・が増大する例では治療を考慮しうる
免疫正常・中等症の急性 治療・経過観察のいずれも許容(条件付き推奨)。症状の重さと期間、薬剤相互作用などの害を勘案して決める
免疫不全者の軽症・中等症の急性(播種へ進むリスクが中〜高) ⚠️ 抗真菌薬による治療を提案(条件付き推奨)。免疫抑制が軽い無症候・軽症例では治療不要のこともある2
治療する場合の薬剤 が優先。成人は200 mgを1日3回3日間のあと200 mgを1日2回で6〜12週間
重症の急性・播種性 (製剤 3 mg/kg 1日1回)で導入し、改善後にへ切り替える
中枢神経病変 5 mg/kg 1日1回で、一般に4〜6週間の導入
患者(CD4が回復しない場合) 生涯にわたる維持療法()を要することがある

⭐ 間は固定の数字ではない。 中枢神経病変のない重症例では従来7〜14日が提案されてきたが、発熱と循環・呼吸状態が改善してを飲める患者、あるいはの毒性が出た患者では、より短い導入と早期のへの移行が妥当でありうる3。

⚠️ はが要る薬である。 軽症・中等症ではの濃度を1 mg/L超・3〜4 mg/L未満に保つことを目標とし2、重症例では治療開始1〜2週後に測定して1〜4 mg/Lを目標とする3。💡 上限があるのは毒性回避のためで、下限だけを見て増量すると副作用側に倒れる。

  • ⚠️ 妊婦では第1三半期の間はを避け、治療が必要ならを用いる2。
  • 💡 かつて用いられたは肝毒性が強く、今日の選択肢ではない。 現在の推奨で優先されるはである2。他のを初期治療として推奨するだけのデータは無いとされる3。
  • は本菌への活性がより弱く、の問題でが使えない場合の代替に位置づけられる。
  • 予防はワクチンがなく、での鳥・コウモリの糞便への曝露を避けること(洞窟探検時のマスク着用等)が中心。
  • ⭐ 治療が終わっても残るがある——・気管支結石症・・縦隔肉芽腫・縦隔線維症が挙げられる1。

まとめ

  • 全身性4菌種は共通して「25℃で菌糸、37℃で酵母(Coccidioidesだけ)」という温度依存的二形性を持つである。
  • 本菌の最大の特徴はマクロファージ内で生存・増殖する細胞内寄生で、これが(肝・脾・骨髄)への病変集中と副腎不全のリスクを説明する。
  • 感染経路はミシシッピ・オハイオ川流域の鳥・コウモリ糞便からの吸入。ヒト-ヒト感染はない。
  • 診断は尿中・血清のがで最も実務的。菌名に反して真の莢膜は持たない。
  • ⚠️ は2025年の更新で変わった——免疫正常者の軽症・急性と無症候のは治療しないことが提案され、中等症はどちらも許容、播種へ進むリスクのある免疫不全者の軽症・中等症は治療が提案される。治療する場合の優先薬が(必須)である。重症・播種性・中枢神経病変ではで導入し、改善後にへ移行する。
  • は指標疾患になりうる——原因不明の発熱・肝脾腫・ではの居住歴・渡航歴を確認する。

出典

  1. 1.Clinical Overview of Histoplasmosis(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2024)2024年4月24日付のCDC医療者向けページ本文で確認した。病原体はHistoplasma capsulatum var. capsulatum(ほぼ世界的分布)とアフリカのvar. duboisiiであること、流行地域は米国中部・東部、とくにオハイオ川とミシシッピ川の流域で、中南米・アフリカ・アジア・オーストラリアにも分布すること、症候性感染は1%で通常曝露後3〜17日に発症すること、播種性疾患のリスクはHIV/AIDS・臓器移植後・免疫抑制薬使用者・乳児・55歳以上の成人で高いこと、尿または血清のHistoplasma抗原検出が最も広く用いられ最も感度が高い方法であること、抗体は産生に2〜6週間かかり急性期や免疫抑制者では有用性が落ちること、免疫拡散法は感度約80%で、補体結合反応は免疫拡散法より感度が高く特異度は低いこと、培養は陽性化に最長6週間かかり重症型の診断で最も有用なこと、後遺症に心膜炎・気管支結石症・肺結節・縦隔肉芽腫・縦隔線維症があること、治療適応が中等症〜重症の急性肺型・慢性肺型・播種性・中枢神経型であることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.2025 Clinical Practice Guideline Update by the Infectious Diseases Society of America on Histoplasmosis: Treatment of Asymptomatic Histoplasma Pulmonary Nodules (Histoplasmomas) and Mild or Moderate Acute Pulmonary Histoplasmosis in Adults, Children, and Pregnant People(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2025)IDSA公式サイトのガイドライン頁(idsociety.org、2026年9月16日更新)に逐語収載された推奨本文で確認した(DOIが指す誌上版は未取得)。①無症候の非石灰化肺結節(ヒストプラズモーマ)または既知の未治療既感染では、再活性化予防のための治療を日常的に行わないことを提案する(条件付き推奨・確実性は非常に低い)。②免疫正常の軽症・急性肺ヒストプラズマ症では抗真菌薬を日常的に投与しないことを提案する(条件付き推奨・確実性は非常に低い)——大規模アウトブレイク研究では75%超が1週間以内の経過で、全員が無治療で2か月以内に完全回復した。ただし症状が長引く例、肺の浸潤影が進行する例、肺門・縦隔リンパ節が増大する例では治療を考慮しうる。③中等症では治療するかしないかのいずれも許容される(条件付き推奨・確実性は非常に低い)。④治療する場合の優先薬はイトラコナゾールで、通常のカプセル・内用液は成人200 mgを1日3回3日間のあと200 mgを1日2回で6〜12週間、小児は1回5 mg/kg(1回最大200 mg)を1日3回3日間のあと1日2回(1日400 mgを超えない)で6〜12週間、SUBAイトラコナゾールは130 mgを1日3回3日間のあと1日2回で6〜12週間。⑤イトラコナゾールには治療薬物モニタリングを行い、トラフのイトラコナゾール濃度は1 mg/L超・3〜4 mg/L未満を目標とする。⑥妊婦では第1三半期の間はアゾールを避け、必要ならリポソーマルアムホテリシンBを用いる。⑦免疫不全で播種へ進むリスクが中〜高の成人・小児の軽症・中等症急性肺型では抗真菌薬治療を提案する(条件付き推奨・確実性は非常に低い)。無症候結節でも播種・重症化のリスクが高い免疫不全者では厳重な経過観察か治療を考慮し、石灰化結節のみなら治療しない。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Histoplasmosis in Adults, Children, and Pregnant Individuals — Consensus Statement: Initial Antifungal Treatment of Severe Histoplasmosis(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2026)IDSA公式サイトのガイドライン頁(2026年9月16日更新)に収載された合意声明の本文で確認した。重症の急性肺ヒストプラズマ症および播種性ヒストプラズマ症では全例でアムホテリシンBによる初期治療を提案すること、剤形はリポソーマルアムホテリシンBが優先され、中枢神経病変のない重症例は3 mg/kgを1日1回、中枢神経病変がある場合は5 mg/kgを1日1回とすること、導入期間は非中枢神経病変で従来7〜14日が提案されてきたが臨床的に改善している例(発熱と循環・呼吸状態の改善、経口薬の内服が可能)や毒性が出た例ではより短い導入と早期の経口薬への移行が妥当でありうること、中枢神経病変では一般に4〜6週間の導入を提案すること、導入後の経口薬はイトラコナゾールが優先され、他のアゾールを初期治療として推奨する十分なデータは無いこと、重症例のイトラコナゾールでは治療開始1〜2週後に治療薬物モニタリングを行い1〜4 mg/Lを目標とすること、重症度が低い播種性疾患や免疫抑制が軽い患者での最適な初期薬については十分な根拠が無く、死亡・臓器障害のリスクが低いと判断される慢性の播種性疾患ではイトラコナゾールを初期治療に用いてもよいことを確認した。閲覧 2026-09-27