微生物学

微生物学 · 4/7

コクシジオイデス・イミチス。ヒストプラズマ・カプスラーツム

Coccidioides immitis. Histoplasma capsulatum

微生物
Coccidioides immitisHistoplasma capsulatum
疾患
コクシジオイデス症ヒストプラズマ症

🧠 この2菌は「地理×形態」で覚える。 どちらも土壌中ではカビ、体内(37℃)では別の形へ転換する——だが転換後の形が違う。Histoplasmaはマクロファージの中に隠れる小さな細胞内酵母(=肝・脾に病変が出やすい)、Coccidioidesは酵母にすらならずを詰めたという独自形態をとる(唯一「酵母にならない」二形性真菌)。感染経路はどちらも吸入で、流行地の地理(Histoplasma=鳥・コウモリの糞、Coccidioides=砂漠の砂塵)を覚えれば臨床像が芋づる式に出てくる。

二形性真菌の温度依存的形態転換

4/1で学んだ通り、全身性真菌症の主要4菌種(Coccidioides・Histoplasma・Blastomyces・Paracoccidioides)はいずれもであり、共通の病態機序をたどる。

flowchart TD
  A["土壌中の胞子を吸入<br>(25℃・カビ形)"] --> B["肺胞上皮に付着"]
  B -->|"体温37℃<br>温度依存的二形性"| C["組織内形へ転換<br>(酵母または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spherule'>球状体</span>)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunocompetent host'>免疫正常宿主</span><br>約90%は無症候〜自然治癒"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunocompromised host'>免疫不全宿主</span>・妊婦<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated disease'>播種性疾患</span>"]
真菌 環境中形態・25℃ 組織内形態・37℃
Coccidioides immitis 米国南の砂漠地帯(San Joaquin Valley等) 樽状のを生じる菌糸 +——酵母ではない
Histoplasma capsulatum 鳥・コウモリの糞便に汚染された土壌(洞窟、鶏舎) ・(様)を持つ菌糸 マクロファージ内の細胞内酵母
Blastomyces dermatitidis 北米中・五大湖周辺の腐敗有機物・林地 非特徴的なを持つ菌糸
Paracoccidioides brasiliensis 中南米(特にブラジル)の土壌 糸状菌 「」酵母(多発出芽)

(Blastomyces・Paracoccidioidesの詳細は4/8を参照)

⚠️ 表中の学名は「種複合体」の代表名にすぎない。 Coccidioides immitisは2002年のにより、カリフォルニア州(San Joaquin Valley中心)に分布するC. immitis本来種と、アリゾナ・テキサス・メキシコ・中南米に広く分布する*C. posadasii(高塩濃度培地での発育がより遅いなど表現型差もある)に分割された1。臨床像・は両種で共通するため本ノートでは区別せず扱うが、「C. immitis」という呼称には両種が含まれてきた点に注意する。同様にHistoplasma capsulatumも、により少なくとも4つの独立種——パナマ由来のH. capsulatum* sensu stricto、H. mississippiense(旧北米系統、ミシシッピ川流域)、H. ohiense(旧北米系統、オハイオ川流域)、H. suramericanum(旧中南米系統)——への分割が2017年に提案されている(アフリカ系統のH. capsulatum var. duboisiiは分割保留)2。旧来の名(var. capsulatum・var. duboisii・var. farciminosum)は教科書・臨床現場で今も広く使われており、本ノートでも旧来の呼称のまま扱う。

Coccidioides immitis

  • 全身性真菌症の
  • 二形性真菌:
    • 環境中形態(25℃):菌糸がして(「樽型」)を生じる
    • 組織内形態(37℃):+——をとらない点が他の3菌種と異なる

病原性・感染経路

  • の吸入により感染する
  • 土壌・砂漠の砂塵中に存在(地震などで舞い上がることもある)
  • 晩夏〜秋に多い(砂塵が最も多い時期)

臨床像:(別名:、San Joaquin熱)

  • 吸入されたは肺胞上皮に付着 → によりを詰めたへ転換し、最終的に肺および全身へが放出される
  • :無症候〜自然治癒性肺炎。発熱・咳(肺炎)・関節痛、(流行地で俗に「砂漠の」と呼ばれる)、肺病変として空洞・結節を呈することがある
  • 免疫不全患者・妊婦:皮膚・骨・髄膜へ播種 → 全身性(真菌性)髄膜炎

診断

  • :樽型の
  • 検体:喀痰(+を含む)、BAL、組織
  • :または
  • 胸部X線:病変以外のは清浄で、そこに限局した空洞・結節として写る
  • ⭐ サイズ比較:は赤血球より大きい

治療

  • ⭐ 免疫抑制のない軽症・非性の一次性肺感染には抗真菌薬を投与しない。 ・厳重な経過観察・体力回復のための運動療法などの支持療法でよい(強い推奨)。診断時点で症状が軽いか、すでに大きく改善・消失している例が対象である3——側(後述)と同じ「まず治療するかどうかを決める」構えになる
  • 抗真菌薬を開始するのは、診断時に著しく性の病像がある例、広範な肺病変・糖尿病の併存・加齢やによる虚弱がある例(いずれも強い推奨)。アフリカ系・フィリピン系の家系も適応に含めるがいる3。治療するときのはまたは(⚠️は肝毒性・のため全身投与では推奨されない)
  • 全身性():
  • :高用量を生涯にわたり継続する必要がある——中止するとしやすく、他の全身性と異なり治療を終了できないことが多い3
  • ⚠️ 妊婦は「」で一括りにせず、三半期で分ける。 第1三半期の非髄膜型初感染は静注、同期の髄膜炎は(静注では髄液に届かない)、第1三半期以降はいずれも・などのを考慮できる3。詳細はを参照

Histoplasma capsulatum

  • 全身性真菌症の
  • 二形性真菌:
    • 環境中形態(25℃):と(様)を持つ菌糸
    • 組織内形態(37℃):内の
  • 薄い細胞壁を持つが、菌名に反して真の莢膜は持たない

病原性・感染経路

  • 鳥やコウモリの糞便に汚染された土壌から伝播(洞窟探検、鶏舎の清掃などが曝露リスク)
  • 分生子(胞子)の吸入により感染する

臨床像:

  • 吸入後、分生子はに速やかに貪食され、細胞内でへ転換する
  • 軽度曝露:90%は無症候。10%は(特別な治療は不要)→ 肺炎・ARDSへ進行することもある
  • 重度曝露/免疫不全患者(AIDSなど):血流を介して全身臓器に感染する。肉芽腫・リンパ節腫脹・を合併しうる。(有痛性の赤色結節)、肝脾腫(肝脾への石灰化)——本菌はマクロファージが豊富なを標的とするため、肝・脾に病変が集中する

診断

  • 顕微鏡:Histoplasmaを充満させたマクロファージ
  • 検体:喀痰・血液培養・で酵母を充満させた単核球が確認できる
  • :
  • 抗原検査:血清、尿中
  • ⭐ サイズ比較:酵母は赤血球より小さい

治療

  • 免疫正常者の軽症の:抗真菌薬をには投与しない(自然に治るため)。中等症は治療・経過観察のどちらも許容され、症状が長引く・悪化する、肺の浸潤影やリンパ節腫大が進む場合は治療に傾く4
  • 治療するときの:(第一選択)を6〜12週間。吸収のばらつきが大きいため血中濃度を測って用量を合わせる4。⚠️は肝毒性・のため全身投与では推奨されない
  • 重症の・全身性():で導入する。製剤3 mg/kg/日(中枢神経病変があれば5 mg/kg/日)で始め、改善したらへ切り替える5。播種性では総計12か月以上続ける(2007年版の記載)6

⚠️ とは「指標疾患」になりうる。 どちらも免疫正常者では自然治癒する肺感染にとどまるが、(特に)があるとへ進展する——原因不明の発熱・肝脾腫・を見たら、渡航歴・居住歴(米国中=Histoplasma、米国南=Coccidioides)を必ず確認する。

まとめ

  • 全身性真菌症の4大(Coccidioides・Histoplasma・Blastomyces・Paracoccidioides)は共通して「胞子の吸入→肺での37℃形態転換→90%は無症候自然治癒、一部は播種」という経過をたどる。
  • Coccidioides immitisは米国南の砂漠土壌に由来し、組織内では唯一「酵母にならない」+を形成する。(俗称「砂漠の」)と関節痛が特徴的。
  • Histoplasma capsulatumは鳥・コウモリの糞便に由来し、組織内ではマクロファージ内の細胞内酵母となる。(肝・脾)への播種と肝脾腫が特徴的。
  • 両菌ともサイズ比較が鑑別に有用(Coccidioidesの>RBC、Histoplasmaの酵母<RBC)。
  • 治療は、軽症で(は/、は)、播種性・全身性ではが基本となる。ただし免疫抑制のない軽症・非性の一次性肺感染は、両菌症とも抗真菌薬を使わず経過を見るのが現行の推奨である34。は全身投与では推奨されない。

出典

  1. 1.Molecular and phenotypic description of Coccidioides posadasii sp. nov., previously recognized as the non-California population of Coccidioides immitis(Mycologia・2002)SNP・遺伝子・マイクロサテライトを用いた系統解析により、非カリフォルニア集団のCoccidioides immitisが独立種Coccidioides posadasiiとして記載されたこと、両種は多数のDNA多型で区別可能であり、C. posadasiiは高塩濃度培地上での発育速度がC. immitisより有意に遅いという表現型差も示されたことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Genome Sequences Reveal Cryptic Speciation in the Human Pathogen Histoplasma capsulatum(mBio (American Society for Microbiology)・2017)4地域(北米2系統・中南米・パナマ)由来のHistoplasma分離株30株の全ゲノム系統解析により、遺伝的に隔離され交雑がまれな少なくとも5系統(NAm1・NAm2・LAm A・パナマ・アフリカ)が確認され、うち米州由来の4系統をHistoplasma capsulatum(パナマ由来に限定)・Histoplasma mississippiense(旧NAm1、ミシシッピ川流域)・Histoplasma ohiense(旧NAm2、オハイオ川流域)・Histoplasma suramericanum(旧LAm A)という新種として分割提案したこと、アフリカ系統(H. capsulatum var. duboisiiに相当)は追加サンプルが必要なため分類保留としたことを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.2016 Infectious Diseases Society of America (IDSA) Clinical Practice Guideline for the Treatment of Coccidioidomycosis(Infectious Diseases Society of America・2016)コクシジオイデス髄膜炎はフルコナゾール高用量を生涯にわたり継続する必要があることを確認した。2026-09-27にConsensusの全文抜粋で推奨文を逐語で追加確認(発行元サイトとDOI先はbot判定で読めない):推奨1が「軽症または非消耗性の症状にみえる患者、あるいは診断時点で臨床像が大きく改善または消失している患者には、患者教育・厳重な経過観察・体力回復のための運動療法などの支持療法を推奨する」(強い推奨・根拠の質は低)であり、抗真菌薬の投与を前提としていないこと。推奨2が診断時に著しく消耗性の病像がある患者には抗真菌薬の開始を推奨すること(強い推奨・低)。推奨3が広範な肺病変・糖尿病の併存・加齢や併存疾患による虚弱のある患者には開始を推奨し、アフリカ系・フィリピン系の家系も適応に含める専門家がいるとすること(強い推奨・低)。推奨36が第1三半期の非髄膜型初感染には静注アンフォテリシンBを推奨し(強い推奨・中等度)、第1三半期以降はフルコナゾール・イトラコナゾールなどのアゾールを考慮できるとすること(強い推奨・低)。推奨37が第1三半期に髄膜炎を発症した場合は髄腔内アンフォテリシンBを推奨すること(強い推奨・中等度)。閲覧 2026-08-26
  4. 4.2025 Clinical Practice Guideline Update by the Infectious Diseases Society of America on Histoplasmosis: Treatment of Asymptomatic Histoplasma Pulmonary Nodules (Histoplasmomas) and Mild or Moderate Acute Pulmonary Histoplasmosis in Adults, Children, and Pregnant People(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2025)IDSA公式サイトのガイドライン頁(2025年3月12日付の推奨本文)で確認した。免疫正常の軽症・急性肺ヒストプラズマ症には抗真菌薬を日常的に投与しないことを提案し(条件付き推奨・確実性は非常に低い)、中等症では罹病期間と症状の重さ・治療の害を考慮して治療・無治療のいずれも提案する(同)。罹病期間の長さ、症状の悪化、肺浸潤影の進行、肺門・縦隔リンパ節の増大、より重い症状は治療に傾ける要素とされる。播種への進展リスクが中〜高の免疫不全者では軽症・中等症でも治療を提案する。無症候の非石灰化肺結節と未治療の既感染では再活性化予防の治療を日常的に行わない。治療薬はイトラコナゾールで、成人200 mgを1日3回3日間のあと200 mgを1日2回6〜12週間、治療薬物モニタリングを行いトラフ1 mg/L超・3〜4 mg/L未満を目標とする。妊婦ではできるだけ第1三半期のアゾールを避け、リポソーマルアムホテリシンBを用いる。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Histoplasmosis in Adults, Children, and Pregnant Individuals — Consensus Statement: Initial Antifungal Treatment of Severe Histoplasmosis(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2026)IDSA公式サイトのガイドライン頁(2026年9月16日更新)の合意声明で確認した。重症の急性肺ヒストプラズマ症と播種性ヒストプラズマ症では全例でアムホテリシンBによる初期治療を提案し、リポソーマル製剤を優先して中枢神経病変のない重症例は3 mg/kgを1日1回、中枢神経病変では5 mg/kgを1日1回とする。導入期間は非中枢神経病変で従来7〜14日とされてきたが、臨床的に改善し内服できる例や毒性が出た例では短縮と早期の経口薬への移行が妥当でありうる。中枢神経病変では一般に4〜6週間。導入後はイトラコナゾールを優先し、開始1〜2週後に全例で治療薬物モニタリングを行い随時採血で1〜4 mg/Lを目標とする。重症度の低い播種性疾患の最適な初期薬は根拠不十分で、死亡・臓器障害のリスクが低いと判断される慢性の播種性疾患ではイトラコナゾールで開始してもよい。閲覧 2026-09-27
  6. 6.Clinical Practice Guidelines for the Management of Patients with Histoplasmosis: 2007 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America(Clinical Infectious Diseases誌)・2007)中等症〜重症の播種性ヒストプラズマ症はリポソーマルアムホテリシンB 3.0 mg/kg/日を1〜2週間投与した後に経口イトラコナゾールへ切り替えて総計12か月以上継続することを確認した。閲覧 2026-08-26