微生物学

微生物学 · 4/1

医学的に重要な真菌の構造・代謝・生活環・分類

Structure, metabolism, life cycle and classification of medically important fungi

微生物
Saccharomyces cerevisiae

🧠 真菌を理解する軸は2つしかない——「形はどっちか(酵母/カビ/二形性)」と「壁と膜は何でできているか(キチン・・)」。 前者は臨床像(どこにどう感染するか)を、後者は抗菌薬・抗真菌薬の(治療で・を狙う薬が効く理由)を決める。この2軸をこの1ノートで固めておけば、4/7〜4/9の二形性真菌各論はすべて「25℃でカビ、37℃で酵母」という同じパターンの繰り返しとして読める。

真菌細胞の構造

真菌は真核生物であり、(死んだ有機物から栄養を得る)と(宿主から栄養を得る)の両方の生活様式を持つ。ほぼすべての生物種が真菌感染の対象になりうる。

構造 特徴
細胞の大きさ 3〜5 μm
核 真の核を持つ(原核生物との最大の違い)
細胞壁 キチン(N-のポリマー)、β-(β-glucan, 1,3-および1,6-結合)、が
細胞膜 ヒト細胞のコレステロールの代わりにを含む
リボソーム 80S(ヒトと同じ真核生物型)
微小管 で構成

⭐ 細胞壁・細胞膜の成分がそのまま抗真菌薬の標的になる。 キチン・β-は細胞壁の骨格、は細胞膜の主要ステロールであり、ヒト細胞には存在しない(ヒトはコレステロールを使う)。この違いが抗真菌薬治療におけるの基盤になる——はβ-合成を、・は合成・結合を狙う。

形態:酵母・カビ・二形性真菌

真菌は3つの形態のいずれかをとる。

  1. =酵母
  2. =カビ
  3. 二形性真菌——酵母・カビ両方の形をとりうる

酵母

  • 単細胞・球形の構造(5〜8 μm)
  • 個々の細胞間の結合はゆるい
  • 出芽による無性増殖
  • 出芽が不完全に終わると——細胞が分離しきらず連結した「酵母細胞の長い鎖」のように見える構造——を形成する
  • 例:カンジダ、Cryptococcus neoformans

カビ

  • 多細胞(2〜10 μm)
  • 糸状構造(菌糸, hyphae)を形成し、コロニーとして見えるものをと呼ぶ
  • 菌糸は隔壁で仕切られる部分があるが、細胞質は連続している
    • 隔壁に孔があり細胞質が自由に流れるもの →
    • 隔壁を作らず1つの巨大な細胞として存在するもの →
    • 菌糸は一方向にしか伸長できない → 円形にコロニーが広がる
  • 培地の中へ縦方向に伸びて栄養を吸収し、表面より上へは胞子(分生子, conidium)を作るために伸びる
  • 例:Aspergillus、Penicillium

二形性真菌

環境の温度によって、カビにも酵母にもなる真菌群である。

  • 室温(25℃)ではカビとして増殖
  • 体温(37℃)では酵母として増殖
  • 多くはである
  • 二形性を調節する因子:
    • 温度
    • CO₂濃度
    • pH
    • システインなどの含有化合物の濃度
flowchart TD
  A["二形性真菌<br>(Dimorphic fungi)"] --> B["環境中・土壌<br>25℃"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in vivo'>生体内</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='locus of infection'>感染巣</span><br>37℃"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mold'>カビ型</span><br>菌糸を形成"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='yeast'>酵母型</span><br>※Coccidioidesのみ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spherule'>球状体</span>(spherule)"]

💡 なぜ体温でカビ→酵母に切り替わるのか。 二形性真菌は土壌中では菌糸を伸ばして分解者として生きるが、ヒトの肺に吸入されると37℃という環境シグナルを受けて酵母(またはCoccidioidesの場合は)へ形態転換する。これは単なる温度反応ではなく、宿主内で免疫から逃れやすい・組織に定着しやすい形態への適応と考えられる。代表例(Blastomyces、Coccidioides、Histoplasma、Paracoccidioides、Sporothrix)は4/7・4/8で個別に扱う。

代謝

  • すべての真菌は——増殖に有機炭素源を必要とする
  • を分泌し、周囲の有機物を分解して栄養とする
  • 暗く湿った環境(土壌や腐敗有機物を含む水)を好む
  • 大半はだが、一部は
  • 至適pHは性
  • が宿主に特異的な作用を及ぼすことがある(毒素、例:, aflatoxin)
  • 至適温度域が広いため、37℃という環境(ヒト体内)でも増殖できる種がヒトにとって臨床的に問題となる

生活環:胞子形成

真菌の主なはである。から大量に放出された胞子は、新たな場所でコロニーを形成する。胞子は無性的にも有性的にも作られる。

無性胞子形成

  • 無性胞子は分生子と呼ばれ、した菌糸である上または内部で有糸分裂によって作られる(この無性世代を不完全世代 anamorph と呼ぶ)
  • 分生子は栄養型の酵母・菌糸細胞の変形、またはした菌糸から形成される
無性胞子の種類 特徴 代表例
(杯状の分生子形成細胞)から作られる Aspergillus fumigatus
という袋状の細胞内で作られる Rhizopus sp.
厚い壁を持ち、熱・乾燥に強い。菌糸/内部に形成される Candida albicans
菌糸のによって形成され、空気中を飛散しやすい Coccidioides immitis
出芽によって形成される 酵母全般、Cladosporium

有性胞子形成

  • 減数分裂によって形成される:の適合する2菌株それぞれの核が融合し、一過性のを作る
  • 有性胞子は完全世代と呼ばれる
有性胞子の種類 所属する分類群
(旧称Zygomycota門。現在はMucoromycotina亜門等に再編1)
、、

⚠️ 「」という門は現在の分類体系にはもう存在しない。 によりZygomycota門は多系統群(単一の起源を持たない寄せ集め)であることが判明し、Glomeromycota門と複数の所属未確定亜門(Mucoromycotina・Entomophthoromycotina・Kickxellomycotina・Zoopagomycotina)に再編された2。臨床的に重要なRhizopus・Mucor・Rhizomucorなどは現在Mucorales目(Mucoromycotina亜門)に位置づけられ、疾患名も分類変動の影響を受けにくい「mucormycosis()」が「zygomycosis()」より適切とされる1。旧称「・」は実習・過去の文献で今も使われるため、対応関係として押さえておく。

準有性生殖

  • 異なる菌糸同士が融合する
  • 融合後も異なる核がそれぞれ独立に複製される(例:Aspergillus)

医学的に重要な真菌の分類

感染部位による分類が最も臨床的に使われる。

真の病原体 spp.、Microsporum spp.、 spp.、(他:Malassezia furfur、Trichosporon cutaneum、Cladosporium werneckii、Candida spp.) Sporothrix schenckii、Cladosporium spp.、Phialophora spp. Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Histoplasma capsulatum —
日和見病原体 — — — カンジダ spp.、Aspergillus spp.、Cryptococcus neoformans、Mucor spp.、Rhizopus spp.

この分類は感染部位に基づくものだが、他にも次の観点で分類できる。

  • :進化的な発達段階(単細胞・多細胞・二形性)
  • 完全世代の有無:原形質融合と核の組換えの結果生じる段階を持つかどうか

まとめ

  • 真菌は真核生物で、細胞壁はキチン・β-・、細胞膜はを含む——この組成の違いが抗真菌薬の標的になる。
  • 形態は酵母(単細胞・出芽)、カビ(多細胞・菌糸/)、二形性真菌(25℃でカビ、37℃で酵母)の3種類に分かれる。
  • は無性(分生子:・・・・)と有性(・・)の2経路があり、(菌糸融合)も存在する。
  • 分類は感染部位(皮膚・皮下・全身)と病原性の性質(真の病原体か日和見病原体か)の2軸で整理すると臨床像に直結する。
  • 二形性真菌の温度依存的な形態転換は、4/7・4/8で扱う全身性真菌症(Histoplasma・Blastomyces・Coccidioides・Paracoccidioides)を理解する共通の鍵となる。

出典

  1. 1.Taxonomy of fungi causing mucormycosis and entomophthoramycosis (zygomycosis) and nomenclature of the disease: molecular mycologic perspectives(Clinical Infectious Diseases・2012)Zygomycota門は多系統であることが確認されGlomeromycota門と4つの所属未確定亜門に再分配されたこと、Rhizopus・Mucor・Absidia(現Lichtheimia)・Saksenaea・Rhizomucor等の病原属はMucorales目(Mucoromycotina亜門)に属すること、疾患名は分類変動の影響を受けにくい"mucormycosis"が"zygomycosis"より適切であることを確認閲覧 2026-08-26
  2. 2.A higher-level phylogenetic classification of the Fungi(Mycological Research・2007)従来Zygomycota(接合菌門)に分類されていた分類群は分子系統解析により多系統群と判明し、Glomeromycota門および複数の所属未確定亜門(Mucoromycotina・Entomophthoromycotina・Kickxellomycotina・Zoopagomycotina)に再分配されたことを確認(抄録で確認、有料誌のため全文は取得できず)閲覧 2026-08-26