微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 真菌

Saccharomyces cerevisiae

分類
酵母 / YeastsSaccharomyces
科目
Medical Microbiology
トピック
4/1: Structure, metabolism, life cycle and classification of medically important fungi
原因となる疾患
カテーテル関連血流感染

🧠 全体像:Saccharomyces cerevisiae(パン酵母・ビール酵母)は本来ヒトの病原体ではなく、ヒトとの主な接点は台所と発酵タンクである。医学的に問題になる場面はほぼ一つに絞られる——として投与される株(S. boulardii)が、中心静脈カテーテルを留置された重症・免疫不全患者の血流に入り込む関連という、日和見感染としては珍しい経路である。

培養形態

  • 単細胞・球形〜楕円形の(5〜10 μm)で、通常はにとどまり、Candida albicansのような病原性を持つへの転換能を持たない。
  • 糖類(グルコース・・など)のが強い——パン・ビール・ワインの醸造に工業利用される所以であり、生化学的な・が臨床検体での同定にも使われる。
  • ヒトの正常フローラの一員ではなく、食物由来で消化管を一過性に通過するにとどまる点でCandida albicansなどの常在カンジダ属とは立ち位置が異なる。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Saccharomyces cerevisiae<br>環境・食品中に遍在する酵母"] --> B{"ヒトとの接点"}
    B -->|"経口摂取(通常)"| C["消化管を一過性に通過<br>定着・発症なし"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Probiotics'>プロバイオティクス</span>製剤<br>(S. boulardii)として投与"| D["中心静脈カテーテル留置患者・<br>重症/免疫不全患者が同室に存在"]
    D --> E["医療者・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='caregiver'>介護者</span>の手指を介し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='catheter hub'>カテーテルハブ</span>へ酵母が付着<br>(製剤の分包操作時など)"]
    E --> F["カテーテル内での増殖"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catheter-related fungemia'>カテーテル関連真菌血症</span>"]

💡 なぜ「」が源になるのか。 として用いられるS. boulardii株そのものの病原性は低いが、粉末製剤を開封する際に酵母が空中に・手指や周囲環境に付着し、同じ病室内に留置された中心静脈カテーテルのを汚染することで血流へ侵入しうる——製剤の有効性ではなく取り扱い時の環境汚染が問題になる、他の真菌とは毛色の違う感染経路である。

感染経路と疫学

  • 環境中に遍在する酵母(果実の表皮、発酵食品)で、通常の摂取では病原性を発揮しない。
  • 医学的リスクは(S. boulardii)投与を受けている患者、特に中心静脈カテーテルが留置された重症・免疫不全・入室患者に集中する。
  • まれに、重度の免疫不全やの破綻(化学療法後、など)での使用なしに消化管から血流へ移行した症例も報告されている。

起こす疾患

病型 特徴
(→敗血症) 投与中の中心静脈カテーテル留置患者に生じる、この菌の中心的な臨床像
腹膜炎 消化管手術後・穿孔例でまれに報告される

診断

  • 通常ので発育し、Malassezia furfurのような脂質補充や、Pneumocystis jiroveciiのような培養不能といったはない。
  • ⚠️ 小型のという形態はCandida glabrataなどと紛らわしく、確実な同定には・やによる確認が要る。
  • が疑われる場合は、末梢血培養との両方で本菌が検出されることを確認する。

治療と予防

状況 対応
カテーテルが治療の中心。抗真菌薬はまたは(本菌は特有のを持たず、感受性は一般に保たれる)
予防 中心静脈カテーテルを留置された重症・免疫不全患者では(特にS. boulardii製剤)の使用を避けるか、使用する場合は分包操作の際にカテーテル周囲を汚染しないようを徹底する

まとめ

  • パン酵母・ビール酵母として知られるで、ヒトの正常フローラではなく食物由来の一過性通過菌にとどまる。
  • 臨床的に重要な場面はほぼ一つ——製剤(S. boulardii)の取り扱いを介した中心静脈カテーテル関連という日和見感染。
  • 病原体自体の病原性は低く、感染は製剤の分包操作による環境・手指汚染がに及ぶという経路が中心。
  • 通常の培養で発育し、抗真菌薬感受性も概ね保たれる——診断・治療自体に特殊性は乏しい。
  • 予防の要は、患者での使用を控えるか、使用時のを徹底すること。