微生物学

微生物学 · 4/4

真菌感染症の治療

Treatment of fungal infections

🧠 抗真菌薬はすべて4/1で学んだ図の「どこを狙うか」で分類できる。 細胞膜のに直接結合する()か、合成経路を止める(=P450酵素、=)か、細胞壁のβ-合成を止める()か、・微小管という真核生物共通の機構を狙う(、)か——「膜」「壁」「核酸/微小管」の3階層で覚えると、薬剤ごとの副作用プロファイル(ヒト細胞にも共通の標的があるほど毒性が強い)まで見通せる。

治療の基本方針

  • 強い感染症では複数の抗真菌薬の併用療法がより優れることが多い
  • 抗真菌薬はとに大別される
flowchart TD
  A["真菌細胞"] --> B["細胞壁<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-1,3-glucan'>β-1,3-グルカン</span>"]
  A --> C["細胞膜<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ergosterol'>エルゴステロール</span>"]
  A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid synthesis'>核酸合成</span>・微小管"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Echinocandins'>エキノキャンディン系</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucan synthase'>グルカン合成酵素</span>阻害"]
  C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Polyenes'>ポリエン系</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ergosterol'>エルゴステロール</span>に直接結合"]
  C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Azoles'>アゾール系</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Allylamines'>アリルアミン系</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ergosterol'>エルゴステロール</span>合成阻害"]
  D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flucytosine'>フルシトシン</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid synthesis'>核酸合成</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Griseofulvin'>グリセオフルビン</span>(微小管)"]

全身性抗真菌薬

ポリエン系——細胞膜に直接作用

  • (amphotericin B)はの中で最も毒性が強い薬剤
  • 作用機序は2つ:
    1. に結合しチャネルを形成、真菌細胞の浸透圧的を破壊する
    2. 自身の酸化を引き金とした酸化反応のカスケードを誘発する
  • 主な副作用:腎毒性、発熱、悪寒、低血圧、
  • スペクトラム:酵母・カビの両方に作用

アゾール系——エルゴステロール合成阻害

  • とに分かれる
  • いずれも真菌のチトクロームP450依存性酵素(酵素)を阻害し、からへの変換を止める → 細胞膜合成を障害する
  • :——現在は外用(・シャンプー)が中心。肝毒性・のため全身投与()は2013年以降どの国でも用途が制限され、第一選択にはならない
  • (静注投与も可能):、、
  • 2015年以降は(:)も加わった。を対象とした第3相SECURE試験でに対するが示され(42日19% vs 20%、補正群間差−1.0%)、にも活性を持つ点で他のと一線を画す1
  • スペクトラム:カンジダ属、Aspergillus属、Cryptococcus属

エキノキャンディン系——β-グルカン合成阻害

  • 合成リポペプチドの選択性の高いクラスで、の重要な構成成分であるの合成を阻害する
  • は細胞壁の浸透圧的の維持に関わるため、この阻害はに働く
  • スペクトラムはが細胞壁のである真菌に限られる
  • 、(他に)を含む
  • ⚠️ 2023年以降、新しい選択肢が加わっている。 週1回投与でよい(の新薬)と、可能な系(と同じを標的とするが結合部位が部分的にしか重ならずが限定的)がカンジダ症治療に加わったが、は引き続きの第一選択である2
  • スペクトラム:カンジダ属、Aspergillus属

アリルアミン系——エルゴステロール合成阻害

  • (全身性)と(局所用)が含まれる
  • を阻害し、産生を減少させる
  • スペクトラム:

代謝拮抗薬

グリセオフルビン

  • 感染症の治療に用いる
  • 真菌細胞内の微小管と相互作用し有糸分裂を阻害すると考えられている
  • 副作用は軽度(悪心、頭痛、発疹)

局所抗真菌薬

  • 表在性の皮膚・粘膜の治療に用いる
  • 皮膚感染には・ローション・・パウダー・スプレーが、粘膜感染には・が適する
  • 局所治療で足りるか全身治療が必要かは、宿主の状態と感染の種類・広がりのみによって決まる

薬剤クラス一覧

クラス 標的 代表薬 スペクトラム
細胞膜に直接結合 酵母・カビ
合成(P450経路)阻害 、、、 カンジダ、Aspergillus、Cryptococcus
β-合成阻害 、、 カンジダ、Aspergillus
合成()阻害 、
/合成阻害 カンジダ、C. neoformans、一部のカビ
その他 微小管阻害

💡 開発中の新規抗真菌薬——まだ承認されていない薬剤に注意する。 オロロフィム(olorofim、オロトミド系:DHODH〈〉阻害薬。Aspergillus属・稀少糸状菌に活性を持つが酵母・には無効)は第3相試験段階(NCT05101187)にあり、EMA/の・画期的治療薬指定は受けているが、いずれのからも未承認である。フォスマノゲピクス(fosmanogepix、真菌Gwt1薬。カンジダ属・Aspergillus属・稀少カビに広域活性)は・Candida auris感染症を対象とした第2相試験段階にとどまり、同じく未承認である34

まとめ

  • 抗真菌薬は真菌細胞の「膜」「壁」「核酸/微小管」という構造上の標的で整理でき、複数薬剤の併用療法は重症感染で単剤より優れることが多い。
  • ()はに直接結合し最も毒性が強く、・はいずれも合成経路を異なる酵素(P450 vs )で阻害する。
  • はβ-合成阻害という真菌に特異的な機序を持ち、ヒト細胞に相同構造がないため比較的副作用が少ない。
  • は阻害、は微小管阻害と、いずれも真核生物共通の機構を狙うためスペクトラムが限定的。
  • 局所薬か全身薬かの選択は感染の部位・広がりと宿主の免疫状態で決まり、4/1の細胞壁・細胞膜の構造知識がそのまま薬剤選択の理解に直結する。

出典

  1. 1.Isavuconazole versus voriconazole for primary treatment of invasive mould disease caused by Aspergillus and other filamentous fungi (SECURE): a phase 3, randomised-controlled, non-inferiority trial(The Lancet・2016)侵襲性糸状菌症(主にアスペルギルス症)を疑う患者527例を対象とした第3相非劣性試験で、投与開始から42日までの全死亡率がイサブコナゾール群19%・ボリコナゾール群20%(補正群間差−1.0%、95%信頼区間−7.8〜5.7%)と非劣性マージン10%を満たしたこと、イサブコナゾール群はボリコナゾール群より肝胆道系障害(9% vs 16%)・眼障害(15% vs 27%)・皮膚障害(33% vs 42%)の頻度が低かったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Global guideline for the diagnosis and management of candidiasis: an initiative of the ECMM in cooperation with ISHAM and ASM(European Confederation of Medical Mycology (ECMM) / ISHAM / ASM・2025)エキノキャンディン系が引き続き侵襲性カンジダ症の第一選択であること、週1回投与のレザフンギンと経口薬イブレキサフンガープが新しい治療選択肢に加わったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.The Antifungal Pipeline: Fosmanogepix, Ibrexafungerp, Olorofim, Opelconazole, and Rezafungin(Drugs・2021)フォスマノゲピクス(Gwt1酵素阻害薬)・イブレキサフンガープ(トリテルペノイド系)・オロロフィム(DHODH阻害薬、オロトミド系新規クラス)・オペルコナゾール(吸入用トリアゾール)・レザフンギン(週1回投与エキノキャンディン)が、過去20年間で新規クラスの抗真菌薬が承認されていない中、後期臨床開発段階にある新規抗真菌薬であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Review of the novel antifungal drug olorofim (F901318)(BMC Infectious Diseases・2024)オロロフィム(F901318、オロトミド系DHODH阻害薬)が2024年時点で第3相試験(NCT05101187)段階にあり、EMA・FDAから希少疾病用医薬品・画期的治療薬などの指定は受けているもののいずれの規制当局からも未承認であること、経口投与のみでAspergillus属・稀少糸状菌・二形性真菌には活性を持つが酵母やムーコル類には無効であることを確認した。閲覧 2026-08-26