微生物学

微生物学 · 4/3

真菌の培養。真菌感染症の微生物学的診断

Cultivation of fungi. Microbiological diagnosis of fungal infections

疾患
播種性フザリウム症
検査値
KOH標本

🧠 真菌診断は「遅い培養」と「速い」の二重構造で読む。 真菌はが長く(培養に最短48時間、陰性確定に4週間)、待っている間に患者は待てないことが多い——だからこそ・各種染色・血清抗原・という「培養を待たない」手段が並走する。培養は25℃と37℃を並行して行う点も、4/1で学んだ二形性を検出するための工夫である。

真菌培養の基本原則

  • 真菌はが長く(増殖が遅い)、最短でも48時間かかる
  • 陰性の判定は培養4週間を経てから初めて下せる
  • 培養は好気条件で行う(真菌はすべて好気性生物)
  • 通常、2種類の温度で並行培養し(二形性の検出のため)、非とを併用する
    • 非:酵母・カビいずれの急速な増殖も許す

サブロー寒天培地

真菌用の標準寒天培地。

  • 高濃度のデキストロース(4%)と5〜10%羊血液を含む
  • 炭素源としてグルコース、窒素源としてペプトンを含む
  • pHは酸性(4〜5)
  • 細菌の増殖を抑えるため各種抗菌薬を添加する
  • 酵母・カビどちらも本培地上で増殖できる → カビの増殖を抑えたい場合はを添加する
培養条件 内容
好気性
温度 25℃と37℃を並行(二形性の検出!)
期間 5日間、毎日発育を確認。酵母は48時間以内、カビは4〜5日(〜3週間)で発育

⚠️ を疑うときはを入れない。 はカビの発育を抑える目的で加えるが、Cryptococcus neoformans自体の発育も抑制してしまうため、培養する際は無添加のを用いる。

その他の培地・手法

  • Czapek寒天培地:真菌の培養全般に用いる
  • TTC培地:さまざまな菌種が発育できる複合培地
  • Rice tween寒天培地:Candida albicansのの観察や、他菌種の観察用の培養作成に有用
  • 寒天ベースの:酵母・カビ・二形性病原体によるの検出に用いる
  • 培養は胞子または菌糸断片から開始できる。臨床検体は膿、血液、髄液、喀痰、、皮膚検体など。同定は通常顕微鏡的に行う

検体採取

  • 検体は無菌的に、または採取部位を適切に清拭・消毒した後に採取する
  • 血液、皮膚、口腔、腟、髄液(=cerebrospinal fluid, 脳脊髄液)から採取可能
  • 処理が遅れる場合は4℃で短期間保存すればは失われない
  • ・蓄痰は有用でない——細菌・真菌の過増殖が起こるため
感染の種類 検体
表在性
皮膚性 皮膚・爪の検体
皮下性 皮膚生検
粘膜 食道生検(食道炎)、液(胃炎)、便()、尿(尿路感染症)、膀胱生検(尿路炎)、()
・全身性 血液(血液培養:心内膜炎・敗血症)、喀痰・(症)、胸水()、副鼻腔穿刺液(副鼻腔炎)、臓器生検(肝・脾・骨など)、腹水(腹膜炎)、髄液()

直接鏡検

  • 最も迅速かつ低コストな診断手段の一つで、最適な培養法選択のガイドにもなる
  • ネイティブ標本は10〜20%水酸化カリウム(=potassium hydroxide)溶液で前処理し、宿主組織の蛋白成分を溶かしてだけを見やすくする
  • (紫外線)を用いた蛍光観察も行われる
染色法 用途
Calcofluor-White染色 (・キチン)を検出。が必要
細胞内Histoplasma capsulatum、およびPneumocystis jiroveciiの栄養型・シスト内型の両方を検出
ほとんどの酵母・菌糸要素を染色(真菌はすべて「グラム陽性」に染まる)
H&E染色 ほとんどの真菌を染色し、感染組織のも示す
PAS(Schiff)染色 酵母・菌糸細胞の両方を染色(真菌細胞が赤色に)
Gömöri(Grocott) あらゆる真菌の検出に最も優れた染色法(銀法)
の証明に有用
真菌細胞が青色に染まる
India ink(墨汁)染色 髄液中のCryptococcusの検出に用いる

血清学的・分子生物学的診断

  • 血清中の抗体(Ab)または抗原(Ag)価の測定が診断に有用なことがある
  • (polymerase chain reaction, )により臨床材料中の真菌特異的核酸を検出できる
  • (matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry, 飛行時間型):培養後の法として酵母では既にに定着しており、二形性真菌(Coccidioides・Histoplasma・Blastomyces・Sporothrix等)や糸状菌への適用も広がっているが、同定精度は搭載データベースの菌種収載状況に左右される1

鑑別用培地

  • Chromagar:発色基質を用いた代謝ベースのカンジダ属菌種鑑別培地
  • 鳥の培地:Cryptococcus neoformansのコロニー周囲に褐色のが現れる

バイオマーカー

血液中の真菌特異的細胞壁成分を検出する手法——迅速だが偽陽性になりうる点に注意。

1,3-
由来 多くの真菌の細胞壁成分 Aspergillus細胞壁の主要多糖成分(他菌種にも一部存在)
主な用途 カンジダ、Aspergillus(他:(PCP=Pneumocystis pneumonia)、Histoplasma、Fusarium、Acremonium、にも陽性化しうる) Aspergillus(他:Fusarium、Penicillium、Histoplasmaにも陽性化しうる)
・ ほぼ常に陰性 —
陰性(<60 pg/mL)・(60〜79)・陽性(>80)、感度55〜95%・特異度77〜96% OD≧0.5を陽性、(IA)診断で感度82%・特異度81%2。(PPV)<50%、(NPV)>90%
偽陽性の原因 、静注ペニシリン製剤(アモキシシリン/など)、膜での、静注ラインの、ガーゼ、アルブミン、特定の細菌感染 /・アモキシシリン/(投与中止後最大5日残存しうる)、、後100日以内・消化管/に伴う偽陽性、食品汚染、凍結アイスポップ、特定の

画像・その他の診断法

手法 所見
検査 結節または斑状陰影。halo徴候(結節周囲の淡い陰影)は免疫不全下のを示唆しうるが、時期により感度が変化する
(1,3)-測定 に優れる
測定 血清をODI 0.5で陽性とすると、証明・ので感度82%(95%CI 73〜90%)・特異度81%(95%CI 72〜90%)。を1.0に上げると感度72%・特異度88%、1.5では感度61%・特異度93%と、閾値を上げるほど感度が落ちて特異度が上がる2
真菌の検出 で感度100%(症状出現の中央値2日前から検出可能)、標準化・検証はさらに必要

💡 の感度・特異度は対象患者群・で大きく変動する。 全般(Pneumocystis感染を除く)を対象としたでのプール感度は76.8%・特異度は85.3%だが、研究間のが大きく、・によって数値は大きく変わる3。

まとめ

  • はが長く、陰性確定に4週間かかるため、(4%デキストロース、酸性pH、、必要なら添加)で25℃・37℃並行培養し二形性を確認する。
  • 診断は微生物学的(培養・鏡検)・免疫学的(血清抗体/抗原)・学的の3本柱で進める。
  • は最も迅速・低コストな手段で、前処理と各種染色(Calcofluor-White、Giemsa、Gömöri=全真菌に最良、Mucicarmine=莢膜、India ink=中Cryptococcus)を使い分ける。
  • Chromagar(Candida属鑑別)、鳥のなどのに加え、1,3-とという2つのは迅速だが偽陽性の原因をしたうえで解釈する必要がある。
  • ・などの補助診断を組み合わせ、を待たずに・早期治療介入を可能にする。

出典

  1. 1.A Moldy Application of MALDI: MALDI-ToF Mass Spectrometry for Fungal Identification(Journal of Fungi (MDPI)・2019)MALDI-TOF質量分析は酵母同定において既に日常検査法として定着しており、二形性真菌(Coccidioides immitis/posadasii、Histoplasma capsulatum、Blastomyces dermatitidis、Sporothrix schenckii complexを含むVitek MSデータベース収載菌)や糸状菌への適用も広がっていること、FDA承認試験(Vitek MS v3.0)でこれら二形性真菌40/38/32/31株の同定率が100%であったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Galactomannan detection for invasive aspergillosis in immunocompromised patients(Cochrane Database of Systematic Reviews・2015)血清ガラクトマンナンEIAをOD指数(ODI)0.5を陽性閾値として用いた場合、侵襲性アスペルギルス症診断の統合感度は82%(95%信頼区間73〜90%)、特異度は81%(95%信頼区間72〜90%)であること(54試験・5660例、うち586例が証明・疑い例のメタ解析)を確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.(1->3)-Beta-D-glucan assay for the diagnosis of invasive fungal infections: a meta-analysis(Clinical Infectious Diseases・2011)血清(1→3)-β-D-グルカンによる侵襲性真菌症(Pneumocystis jirovecii感染を除く)診断のプール感度は76.8%(95%信頼区間67.1〜84.3%)、特異度は85.3%(95%信頼区間79.6〜89.7%)であり(16試験・2979例、うち594例が証明・疑い例)、著しい研究間異質性が認められたことを確認した。閲覧 2026-08-26