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Lab values · Published

β-D-グルカン

(1->3)-beta-D-glucan

別名
ベータDグルカン(1→3)-β-D-グルカンBDG1,3-β-D-グルカン
臓器系
感染症呼吸器
科目
Medical MicrobiologyPulmonology and Thoracic Surgery
トピック
微生物学 4-03:真菌の培養と真菌感染症の微生物学的診断呼吸器病学 28:その他の肺感染症
関連疾患
ニューモシスチス肺炎

🧠 全体像:(より正確には(1→3)-)は、多くの真菌の細胞壁を構成する主要なであり、血中への遊離を測定することでを迅速かつ非侵襲的に拾い上げるスクリーニングマーカーである12。血液培養では陽性化が遅い・検出率が低いや、培養不能な、で鋭敏に陽性化する2。⭐ 検査解釈の最大の要点は「測定できる真菌とできない真菌のスペクトラムの境界」と「多彩な医療材料・薬剤・手技による偽陽性の鑑別」にある13。や()は細胞壁に本物質をほとんど含まないため高値にならず、や特定の抗菌薬・投与では偽陽性を生じる13。

何を測っているか

は内側のキチン層、中間のβ-層、外側のマンノプロテイン層からなる多層構造をとる。

  • (1→3)-の生化学:グルコースがβ-1,3結合で直鎖状に重合し、所々にβ-1,6結合の分岐を持った高分子多糖体である。真菌が組織へ侵襲増殖する際や、系(マクロファージ等)の攻撃・抗真菌薬(など)の作用で細胞壁が破壊・リモデリングされる際に、微量のフラグメントが血流中へ遊離する。
  • ヒト細胞との違い:ヒトなどの細胞には細胞壁が存在せず、(1→3)-を合成する酵素系も持たない。したがって、本来健常人の血中には存在しないか極微量しか検出されない。

基準値と測定法

日本国内と欧米では承認されている試薬キットおよび測定原理が異なり、測定キットごとに()が大きく異なるため、数値を直接比較してはならない。

キット名(測定法) 測定原理 主な使用地域 (判定基準)
ワコー法
(β-・テストワコー)
(活性化) 日本 11 pg/mL 未満(陰性)
11 pg/mL 以上で陽性
ファンギテックGテストMKII () 日本 20 pg/mL 未満(陰性)
20 pg/mL 以上で陽性
Fungitell法 プロテアーゼ活性化 米国・欧州など 60 pg/mL 未満(陰性)
60〜79 pg/mL(疑陽性)
80 pg/mL 以上(陽性)
  • (LAL)試薬の原理:の血球抽出液には、グラム陰性菌内毒素()に反応するC因子系と、真菌(1→3)-に特異的に反応するG因子系の2つのが存在する。臨床試薬ではC因子系を除去または阻害し、G因子系のみを選択的に活性化させてゲル化・変化・合成発色基質の変化を的に測定する。

高値の意味と低値(陰性)の解釈

1. 検出できる真菌症(高値となる疾患)

のスクリーニングとして極めて有用であり、EORTC/MSGERCのでもに採用されている1。

疾患 原因菌 臨床的特徴と解釈
(PCP) Pneumocystis jirovecii 感度がきわめて高い(90%以上)。真菌量が比較的少ない非HIV免疫不全者でも早期から(数百〜数千 pg/mL)を示すことが多い
Candida albicans, C. glabrata など 、、深部臓器カンジダ症で高値。血液培養が陰性のでも陽性となり得る
Aspergillus fumigatus など 肺・副鼻腔・中枢神経で高値。検査と相補的に併用される
その他の Trichosporon属, Fusarium属, Acremonium属など 稀な真菌症でも細胞壁にを持つため高値となる

2. 検出できない真菌症(陰性でも除外できない疾患)

以下の真菌症では細胞壁に(1→3)-がほとんど含まれないか、厚い莢膜・特殊な細胞壁構造により血中へ遊離しないため、陰性であっても絶対に除外できない1。

真菌症 原因菌 陰性となる理由と代替検査
() Rhizopus, Mucor, Lichtheimia など 細胞壁のがキトサン・キチンであり、を合成しない。診断は病理組織(広口径・・菌糸)やPCRによる
Cryptococcus neoformans 細胞壁外側に厚いが存在し、の含有量が極微量である。診断には血清・髄液検査を用いる

⚠️ 測定上の注意と偽陽性要因

検査は感度・に優れる反面、多種多様な臨床手技や医療材料によって偽陽性を生じやすい3。単回の軽度高値を鵜呑みにして抗真菌薬を開始する前に、以下の要因を除外する必要がある。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-D-glucan'>β-D-グルカン</span>高値の検知"] --> B{"偽陽性要因のスクリーニング"}
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cellulose'>セルロース</span>膜を用いた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemodialysis, HD'>血液透析</span>・濾過・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic plasma exchange, TPE'>血漿交換</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cellulose'>セルロース</span>含有<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical gauze'>外科用ガーゼ</span>・ドレープの使用"]
    B --> E["アルブミン製剤・免疫グロブリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulation factor concentrates'>凝固因子製剤</span>の投与"]
    B --> F["特定の抗菌薬(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tazobactam'>タゾバクタム</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='piperacillin'>ピペラシリン</span>等)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous drip infusion (IV infusion)'>点滴</span>"]
    B --> G["緑膿菌など重症グラム陰性桿菌敗血症"]
    B --> H["環境中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dust'>粉塵</span>・採血管の汚染"]
    C --> I["偽陽性の可能性を考慮<br>ロット・手技確認と再検"]
    D --> I
    E --> I
    F --> I
    G --> I
    H --> I
    B -->|"該当因子なし・臨床像合致"| J["真の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='invasive fungal disease'>侵襲性真菌症</span>を強く疑う<br>連続測定・画像評価・標的抗真菌薬の検討"]
  1. 透析・:
    • 膜(再生膜、など)から微量のが溶出するため、透析中・透析直後は著明な偽陽性を呈する。合成高分子膜(PS膜、PEPA膜など)では生じにくいが、膜の種類を必ず確認する。
  2. ・生物学的製剤:
    • 人血清アルブミン製剤、乾燥濃縮人第VIII因子製剤、静注用人の(による濾過)でが混入し、投与後に一過性の偽陽性を起こす3。
  3. ・医療用綿球:
    • 腹腔内手術やなどで大量のガーゼを創部に使用・充填した場合、浸出液を介して血中に吸収され高値となる。
  4. β-:
    • や・などの一部の製剤ロットで、製造時の濾過膜や真菌発酵抽出過程に由来するが混入し、投与中に陽性化することがある3。
  5. グラム陰性菌敗血症:
    • 重症の緑膿菌感染症やによる菌血症において、内毒素や物質、あるいはバリア破綻による微小移行により、真菌症が存在しなくても弱陽性〜陽性を示すことがある3。

経時変化とモニタリング

  • の長さ:は宿主の(肝・脾マクロファージ)によって貪食・代謝されるが、血中は数日から数週間と非常に長い。
  • 治療効果判定での注意:抗真菌薬投与がし、発熱や画像所見が劇的に改善していても、破壊された菌体から放出されたが血中に残存するため、数週間にわたって高値が持続することがある。単回の数値が下がらないことのみを理由にと判断して抗真菌薬を変更してはならない。
  • 連続測定の原則:EORTC/MSGERCのコンセンサスでは、偶発的な偽陽性を排除しの確度を高めるため、異なる時点で採取された検体での2回連続陽性をの要件としている1。

まとめ

  • はの主要多糖を測定するであり、、、のスクリーニングに優れた感度を持つ。
  • ()や()では細胞壁に本物質を欠くため、陰性であっても除外できない。
  • 透析膜、アルブミンやグロブリン製剤、一部の抗菌薬、による偽陽性要因を熟知し、臨床像や画像、培養所見と統合した解釈が不可欠である。

出典

  1. 1.Revision and Update of the Consensus Definitions of Invasive Fungal Disease From the European Organization for Research and Treatment of Cancer and the Mycoses Study Group Education and Research Consortium(Clinical Infectious Diseases(Donnelly JP, Chen SC, Kauffman CA, et al.)・2020)免疫不全患者における侵襲性真菌症の国際コンセンサス定義(EORTC/MSGERC 2020)において、血清(1→3)-β-D-グルカンの連続2回以上の検出がprobable IFD(カンジダ、アスペルギルス、ニューモシスチスなど)の菌学的基準に含まれること、一方でクリプトコッカスや接合菌(Mucorales)の細胞壁には存在しないか極微量でBDG陰性となること、および偽陽性要因への留意が必要であることを確認した。閲覧 2026-10-25
  2. 2.(1->3)-Beta-D-glucan assay for the diagnosis of invasive fungal infections: a meta-analysis(Clinical Infectious Diseases(Karageorgopoulos DE, Qu JM, Korbila IP, et al.)・2011)血清(1→3)-β-D-グルカンによる侵襲性真菌症(Pneumocystis jirovecii感染を除く)診断のプール感度は76.8%(95%信頼区間67.1〜84.3%)、特異度は85.3%(95%信頼区間79.6〜89.7%)であり(16試験・2979例、うち594例が証明・疑い例)、著しい研究間異質性が認められたことを確認した。閲覧 2026-10-25
  3. 3.Difficulties in using 1,3-beta-D-glucan as the screening test for the early diagnosis of invasive fungal infections in patients with haematological malignancies--high frequency of false-positive results and their analysis(Journal of Medical Microbiology(Racil Z, Kocmanova I, Lengerova M, et al.)・2010)血液悪性腫瘍患者のスクリーニングにおいて(1→3)-β-D-グルカンの偽陽性頻度とその要因を解析し、セルロース含有血液透析膜や血液濾過、特定の抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸、ピペラシリン・タゾバクタム等)、血液製剤(アルブミン・免疫グロブリン)、外科用ガーゼや重症細菌感染症が主要な偽陽性原因となり単回測定での診断過誤を招くため連続測定と臨床的文脈の総合判断が必須であることを確認した。閲覧 2026-10-25