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Lab values · Published

KOH標本

KOH preparation

別名
KOH直接鏡検苛性カリ標本水酸化カリウム標本真菌直接鏡検
臓器系
感染症皮膚
科目
Medical MicrobiologyDermatology
トピック
微生物学 4/3:真菌の培養。真菌感染症の微生物学的診断皮膚科 1-15:癜風
関連疾患
カンジダ症マラセチア毛包炎細菌性腟症皮膚糸状菌症(白癬)癜風

🧠 全体像)は、角質・爪・毛・鱗屑やと細胞成分をアルカリで溶かし、溶けずに残る真菌の菌糸・胞子だけを浮かび上がらせる検体処理である。この検査で分かるのは「菌がいるか」であって「何という菌か」ではない——菌種の同定には培養やが要る。領域では・カンジダ症・の鏡検に、婦人科領域ではと同じ標本からの酵母・を確認するのに使われる——「腟の3標本」と「の真菌鏡検」という2つの文脈にまたがる検体処理であり、このノートは標本操作の側からその両方を束ねる。

何をしているか

KOHはで、を架橋しているを切断して角質・爪・毛をする。真菌の細胞壁はではなくキチン・でできておりアルカリに抵抗するため、周囲の宿主組織が溶けたあとも菌糸・胞子だけが壊れずに残る。領域の検体には10〜30%のを用いる1ではと共通の10% KOHを用いる。

補助的な処理・染色を併用するとや観察がしやすくなる。

手段 効果・注意点
加温(アルコールランプ・ホットプレート) 角質の溶解を進めて観察を容易にする。ホットプレートが便利とされる1
DMSO 20〜40%添加 加温しなくても角質溶解が進む
クロラゾールブラックE 0.1%添加 菌要素を染色し観察しやすくする。かつてのパーカー(万年筆)インクを用いる染色法に代わって使われる1
のキチンを検出する。が要る
ズームブルー®/酸性 ではKOHを使わずズームブルー®で溶解と染色を兼ねる。もこれらの疾患できれいに溶解・染色され有用とされる1

検体の採り方

検体の採り方が結果を左右する。

  • 鱗屑は病変の辺縁(活動部)から掻き取る。では辺縁の環状部、ではから集める——中心部は治癒傾向にあり菌量が少ない1
  • 爪では下の角質、に近い深部を検査材料とする。爪切りで剥離部位・先端部を除去したうえで採取し、した辺縁部からの採取は培養陽性率も上げる1
  • ⚠️ 抗真菌薬を先行使用していると偽陰性になりうる。 外用・内服いずれも菌要素を減少・変性させるため、可能なら検査前にをおくことが望ましい。

陽性所見の読み分け

観察される菌要素の形態で原因菌を絞り込める——ただし菌種の同定ではなく推定にとどまる。では、カンジダ症では(ブドウの房状・桑実状にした胞子を伴うことがある)、では太く短い菌糸との胞子がした像(比喩的に「スパゲッティと」像と呼ばれる)が観察される1

所見 示唆する疾患
カンジダ症
太く短い菌糸+胞子の(「スパゲッティと」像) Malassezia furfurによる)

⚠️ 偽陽性の原因になるがある。 間の脂肪滴が菌糸に見える「」、綿などの繊維、真皮の、細胞境界が、菌糸や胞子と紛らわしい1。観察に習熟していないと取り違える。

腟の文脈:同じ検体からの3つの標本

で評価するとき、から目的ごとに別の標本を作る。はそのうちの1つにすぎない。

標本 使う試薬 見るもの
10% KOH の判定)、の酵母・
clue cellTrichomonas vaginalisの運動性
標本 グラム染色 の3形態型

の判定後、をかけて5分静置すると上皮細胞・赤血球が溶解し、他の細胞に妨げられずに酵母のを鏡検できる——1つのからと真菌の確認という2つの情報が得られる2。一方clue cellの判定はKOHを使わないで行う別の操作であり、にも標本にもそれぞれ別のを用いる2

⚠️ 測定上の注意

  • 陰性でも真菌症を否定できない。 ではの感度が高いとはいえず偽陰性になりやすいとされ、臨床的に強く疑うなら培養へ進む1でもなKOHの感度は約60%にとどまり、菌種の同定はできない3
  • 判定はの熟練度に大きく依存する。 判定のは施行医の技量に左右されるとされ、では培養(感度51〜97%)のほうが(感度59〜73%)より感度が高いとされる4

経時変化とモニタリング

は基本的に単回の診断用所見だが、治療効果判定には陰性かつ培養陰性をもって「」とする用い方もある1。ただし見た目の改善(色調・鱗屑の消失)と菌学的治癒の間には時間差があり、鏡検陰性だけを理由に治療を打ち切ってよいとは限らない。

まとめ

  • は角質・爪・毛やをアルカリで溶かし、アルカリに抵抗する真菌の菌糸・胞子だけを残す検体処理である。菌の存在は分かるが菌種の同定はできない。
  • 加温・DMSO・クロラゾールブラックE・カルコフルオロホワイト(が要る)などを併用すると観察しやすくなる。
  • 検体は病変の辺縁(活動部)、爪ではに近い深部から採る。抗真菌薬の先行使用は偽陰性の原因になる。
  • はカンジダ症、太く短い菌糸+胞子の(「スパゲッティと」像)はを示唆する。間の脂肪滴による「」、綿などの繊維、真皮のは菌糸と紛らわしい混入物になる。
  • 腟の3標本のうち、の確認は同じ10% で行い、clue cellの判定は別ので行う。
  • 陰性でも真菌症を否定できず、判定はの熟練度に大きく依存する。

出典

  1. 1.皮膚真菌症診療ガイドライン2025(日本皮膚科学会・日本医真菌学会合同皮膚真菌症診療ガイドライン策定委員会・2025)KOH溶液の濃度が10〜30%で、加温(アルコールランプ・ホットプレート)やDMSO20〜40%添加により角質溶解を促進できること、クロラゾールブラックE0.1%添加がパーカーインクKOH法に代わる染色法として使われていること、癜風・マラセチア毛包炎ではKOHを使わず酸性メチレンブルー(ズームブルー®)で溶解と染色を兼ねられること、偽陰性を防ぐため足白癬では水疱蓋、体部白癬では辺縁の環状部から鱗屑を集め、爪では爪甲剥離部位・先端部を除去し爪床に近い深部を検査材料とし混濁辺縁部からの採取で培養陽性率が上がること、角質細胞間の脂肪滴による「菌様モザイク」や繊維・膠原線維など菌糸と紛らわしい混入物があること、カンジダ症では仮性菌糸とブドウの房状・桑実状の胞子集団、癜風では太く短い菌糸と球状胞子の集団が観察されること、頭部白癬では直接鏡検の感度が高いとはいえず偽陰性になりやすく培養が強く推奨されること、臨床試験で直接鏡検陰性かつ培養陰性を「真菌学的治癒」の判定基準として用いていることを確認した閲覧 2026-08-04
  2. 2.Diagnosis and Management of Tinea Infections(American Family Physician (AAFP)・2025)KOH直接鏡検の判定の信頼性が施行医の技量に依存するとされていること、頭部白癬では培養の感度(51〜97%)が一般にKOH直接鏡検の感度(59〜73%)より高いとされていることを確認した閲覧 2026-08-04
  3. 3.Onychomycosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)伝統的なKOH湿式標本(爪甲下角質検体)の感度が約60%にとどまり菌種の同定はできないこと(KOH陽性であれば皮膚糸状菌か非皮膚糸状菌かの鑑別は可能なこと)、外見上異常な足趾爪の約半数は実際には真菌症ではなく真菌学的検査が正確な診断に不可欠であるとされていることを確認した閲覧 2026-08-04
  4. 4.Vaginitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)whiff試験の判定後にカバーガラスをかけて5分静置すると上皮細胞・赤血球が溶解し、他の細胞に妨げられずに酵母の仮性菌糸・分芽胞子を鏡検できるとされていること(Wet Mount Microscopy節)、KOH標本には生理食塩水標本とは別のスライドを用いるとされていることを確認した閲覧 2026-08-04