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播種性フザリウム症
Disseminated fusariosis
🧠 全体像:播種性フザリウム症 disseminated fusariosis 播種性フザリウム症(disseminated fusariosis) disseminated fusariosis(播種性フザリウム症) は、好中球減少という土台が崩れた瞬間に、普段は角膜炎程度しか起こさない環境真菌が全身へ乗り込んでくる病態である。Fusarium属は血管を侵しながら胞子を作り続ける(血管侵襲+順化 acclimatization 順化(acclimatization) acclimatization(順化) 的分生子形成)ため、他の糸状菌感染と違って血液培養が陽性になりやすく、皮膚には播種を映す病変が次々に現れる。そして治療の主役は薬そのものより好中球の回復であり、これが起こらない限り死亡率はほぼ100%に達する。
病原体と播種の仕組み
Fusarium属は土壌・植物・水系に広く分布する腐生性糸状菌 saprophytic mold 腐生性糸状菌(saprophytic mold) saprophytic mold(腐生性糸状菌) で、免疫正常者では角膜炎など局所感染 localized infection 局所感染(localized infection) localized infection(局所感染) にとどまるが、造血幹細胞移植hematopoietic stem cell transplantation, HSCT 造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation, HSCT)hematopoietic stem cell transplantation, HSCT(造血幹細胞移植) 後や急性白血病 acute leukemia 急性白血病(acute leukemia) acute leukemia(急性白血病) の寛解導入化学療法 remission induction chemotherapy 寛解導入化学療法(remission induction chemotherapy) remission induction chemotherapy(寛解導入化学療法) 後などで持続的な好中球減少が生じると、血管壁へ浸潤して血流に入り全身へ播種する1。
flowchart TD
A["持続的好中球減少<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematopoietic stem cell transplantation, HSCT'>造血幹細胞移植</span>後・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute leukemia'>急性白血病</span>治療後)"] --> B["Fusarium属が血管壁へ浸潤"]
B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fungemia'>血流感染</span>"]
C --> D["皮膚への播種<br>(有痛性丘疹・結節、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comedo necrosis'>中心壊死</span>を伴うことがある)"]
C --> E["肺・副鼻腔などへの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiorgan involvement'>多臓器病変</span>"]
D --> F["好中球が回復しない限り<br>制御できない"]
E --> F
⭐ 血液培養の陽性率が他の糸状菌感染より高い。 侵襲性アスペルギルス症invasive aspergillosis 侵襲性アスペルギルス症(invasive aspergillosis)invasive aspergillosis(侵襲性アスペルギルス症) では血液培養陽性が稀なのに対し、侵襲性フザリウム症 fusariosis フザリウム症(fusariosis) fusariosis(フザリウム症) では単施設84例の解析で55%、233例の国際多施設研究 multicenter study 多施設研究(multicenter study) multicenter study(多施設研究) でも37%が陽性となる2。この違いは、Fusarium属が血管内でも分生子形成を続けるという性質に由来するとされる。
臨床像
| 部位 | 所見 |
|---|---|
| 血流 | 発熱を伴う血流感染 bloodstream infection血流感染(bloodstream infection) bloodstream infection(血流感染)。他の糸状菌感染と違い血液培養が陽性化しやすい2 |
| 皮膚 | 多発する有痛性の丘疹・結節。壊死を伴う病変と伴わない病変が同時期に混在することが多い。259例中72%の免疫低下患者にみられる2 |
| 全身 | 筋肉痛を訴える患者が多い2 |
| 肺・副鼻腔 | 侵襲性アスペルギルス症invasive aspergillosis 侵襲性アスペルギルス症(invasive aspergillosis)invasive aspergillosis(侵襲性アスペルギルス症) と類似した肺病変・副鼻腔病変を来しうる |
💡 皮膚病変は「播種を映す鏡」である。 血管侵襲を起こした菌が皮膚の毛細血管へ達して転移性病変を作るため、新旧さまざまな段階の丘疹・結節が同時に存在する所見自体が播種の証拠になる。
診断
- 血液培養が他の侵襲性糸状菌感染より有用で、播種例では陽性率が上がる2。
- 皮膚病変の生検・培養は診断確定と菌種同定 species-level identification 菌種同定(species-level identification) species-level identification(菌種同定) の両方に有用。皮膚以外の病変からのアクセスが難しい場合、皮膚生検が最も検体を得やすい経路になる。
- 菌種同定species-level identification 菌種同定(species-level identification)species-level identification(菌種同定) (Fusarium solani species complex・Fusarium oxysporum species complexなど)は感受性の傾向を把握 grasp 把握(grasp) grasp(把握) する参考になるが、後述のとおりin vitro感受性そのものが治療選択 therapeutic options 治療選択(therapeutic options) therapeutic options(治療選択) を直接決めるわけではない。
治療
⚠️ 感受性試験susceptibility test 感受性試験(susceptibility test)susceptibility test(感受性試験) の結果だけで治療薬を選べない。 Fusarium solani species complex・Fusarium oxysporum species complexはいずれもアムホテリシンB Amphotericin BアムホテリシンB(Amphotericin B) Amphotericin B(アムホテリシンB)・ボリコナゾールvoriconazole ボリコナゾール(voriconazole)voriconazole(ボリコナゾール) に対する株間のMICMIC(minimum inhibitory concentration)の幅が広く、88例の侵襲性フザリウム症 fusariosis フザリウム症(fusariosis) fusariosis(フザリウム症) でMICと臨床転帰の相関を検討しても明確な相関は認められず、ボリコナゾールvoriconazole ボリコナゾール(voriconazole)voriconazole(ボリコナゾール) 単剤治療を受けた22例に限ったMIC50の比較(生存例4 µg/mL対死亡例8 µg/mL)でも統計学的有意差 statistical significance 統計学的有意差(statistical significance) statistical significance(統計学的有意差) はなかった(p=0.68)2。
| 治療 | 位置づけ |
|---|---|
| ボリコナゾールvoriconazoleボリコナゾール(voriconazole)voriconazole(ボリコナゾール) | 233例の国際研究で90日生存率 survival 生存率(survival) survival(生存率) 60%と最も良好。ガイドラインの推奨薬の一つ2 |
| リポソームliposome リポソーム(liposome)liposome(リポソーム) 型アンフォテリシンBamphotericin BアンフォテリシンB(amphotericin B)amphotericin B(アンフォテリシンB) | 同研究で90日生存率 survival 生存率(survival) survival(生存率) 53%。ボリコナゾールvoriconazole ボリコナゾール(voriconazole)voriconazole(ボリコナゾール) とならぶ推奨薬2 |
| デオキシコール酸deoxycholic acid デオキシコール酸(deoxycholic acid)deoxycholic acid(デオキシコール酸) 型アンフォテリシンB amphotericin BアンフォテリシンB(amphotericin B) amphotericin B(アンフォテリシンB) | 同研究で90日生存率 survival 生存率(survival) survival(生存率) 28%と他の2剤より劣る2 |
⭐ 予後を決めるのは薬より好中球の回復である。 84例の解析では、持続的好中球減少に副腎皮質ステロイド使用が重なると90日生存率 survival 生存率(survival) survival(生存率) は0%、持続的好中球減少単独でも4%にとどまる一方、非好中球減少下でのステロイド使用では30%、いずれにも該当しなければ67%まで改善する12。持続的好中球減少患者では実質的にほぼ全例が死亡するとされ、G-CSFG-CSF(granulocyte colony-stimulating factor)などによる好中球回復を図ることが抗真菌薬の選択そのものより重要になる。
鑑別
臨床像・宿主背景が重なる侵襲性アスペルギルス症invasive aspergillosis侵襲性アスペルギルス症(invasive aspergillosis)invasive aspergillosis(侵襲性アスペルギルス症)が主要な鑑別に挙がる。血液培養陽性率の違い(フザリウム症fusariosis フザリウム症(fusariosis)fusariosis(フザリウム症) で高い・アスペルギルス症Aspergillosis アスペルギルス症(Aspergillosis)Aspergillosis(アスペルギルス症) で稀)と、皮膚への播種病変の頻度の高さがフザリウム症 fusariosis フザリウム症(fusariosis) fusariosis(フザリウム症) を疑う手がかりになる2。
まとめ
- 播種性フザリウム症disseminated fusariosis 播種性フザリウム症(disseminated fusariosis)disseminated fusariosis(播種性フザリウム症) は、持続的好中球減少を背景にFusarium属が血流へ侵入し全身へ播種する日和見感染。
- 侵襲性アスペルギルス症invasive aspergillosis 侵襲性アスペルギルス症(invasive aspergillosis)invasive aspergillosis(侵襲性アスペルギルス症) と違い血液培養が陽性化しやすい(37〜55%)。皮膚には有痛性の丘疹・結節が新旧混在して現れる。
- 治療はボリコナゾール voriconazole ボリコナゾール(voriconazole) voriconazole(ボリコナゾール) またはリポソーム liposome リポソーム(liposome) liposome(リポソーム) 型アンフォテリシンB amphotericin BアンフォテリシンB(amphotericin B) amphotericin B(アンフォテリシンB)。⚠️ 感受性試験susceptibility test 感受性試験(susceptibility test)susceptibility test(感受性試験) の結果と臨床転帰は相関しないため、感受性のみで薬剤を選ばない。
- 予後を決める最大の因子は好中球の回復。持続的好中球減少が続く限り死亡率はほぼ100%に達する。
出典
- 1.Fusarium Infections in Immunocompromised Patients(Clinical Microbiology Reviews・2007)Fusarium属は土壌・植物・水系に広く分布し、免疫正常者では外傷・熱傷・コンタクトレンズ装用に伴う局所感染(角膜炎など)を起こす一方、免疫低下患者では播種性感染がフザリウム症全体の約70%を占める。播種性病変を持つ持続的好中球減少患者の死亡率はほぼ100%。別に、血液疾患患者84例の解析では診断後30日・90日の生存率がそれぞれ50%・21%であった。閲覧 2026-09-07
- 2.Invasive Fusariosis in Patients with Hematologic Diseases(Journal of Fungi (MDPI)・2021)血液疾患を背景とする侵襲性フザリウム症では、単施設84例の解析で血流感染(fungemia)が55%に生じ、233例の国際多施設研究でも37%であったこと。侵襲性アスペルギルス症では血液培養陽性が稀であるのに対し、フザリウム症では頻繁にみられるという対比が示されていること。皮膚病変は259例中72%の免疫低下患者にみられ、有痛性の丘疹・結節が壊死を伴う場合と伴わない場合の両方があり、経過の異なる病変が同時に混在すること(多発性・播種性が主体)。233例の国際研究(2001〜2011年)では90日生存率がボリコナゾール群60%、リポソーム型アムホテリシンB群53%、デオキシコール酸型アムホテリシンB群28%であり、ガイドラインはリポソーム型アムホテリシンBまたはボリコナゾールを推奨すること。Fusarium solani species complex・Fusarium oxysporum species complexともにアムホテリシンB・ボリコナゾールに対し株間でMICの幅が広く(それぞれ0.25〜16 µg/mL、0.5〜16 µg/mL超)、88例の侵襲性フザリウム症を対象にMICと臨床転帰の相関を検討しても明確な相関はみられず、ボリコナゾール単剤治療を受けた22例に限ったMIC50の比較(生存例4 µg/mL対死亡例8 µg/mL)でも統計学的有意差はなかった(p=0.68)ため、感受性試験の結果のみで治療薬を選ぶべきではないとされること。84例の解析では持続的好中球減少にステロイド使用が重なると90日生存率0%、持続的好中球減少単独で4%、非好中球減少でのステロイド使用で30%、いずれも該当しない群で67%であり、持続的好中球減少患者では実質的に100%が死亡すると明記されていること。閲覧 2026-09-07