微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 真菌

Fusarium

分類
フザリウム / FusariumFusarium
科目
Medical Microbiology
トピック
4/10: Zygo- (phyco-) mycoses. Aspergillus species and Penicillium genus
原因となる疾患
角膜炎
作用する薬剤
ナタマイシン

🧠 全体像Fusarium属は、土壌・植物・水系に広く分布するの糸状菌でありながら、宿主の状態によって「局所の角膜炎」と「ほぼ確実に致死的な」という両極端な顔を持つという点でAspergillus fumigatusと同じ構図を描く糸状菌である。免疫正常者ではコンタクトレンズ関連の角膜炎という限局した眼科疾患の主要な原因菌にとどまるが、好中球減少が持続する患者では血流に侵入して播種し、死亡率がほぼ100%に達する——「同じ菌でも免疫状態が予後を決める」というに共通するテーマを、最も鮮烈な数字で示す属である。

微生物学的な特徴

  • 糸状菌(カビ)で、隔壁のある菌糸を持つ。培養では白色〜淡紅色・淡紫色の綿毛状コロニーを形成し、鎌状(バナナ状)のを作るのが形態学的特徴。
  • 環境中に遍在するで、土壌・植物・水系(病院の給水設備を含む)に広く分布する1
  • の中ではFusarium solani species complexが最も高頻度で、重症感染・薬剤感受性の低さと関連することが知られる2

ではAspergillusと鑑別が難しい。 隔壁のある細い菌糸で鋭角に分岐する像はAspergillus属と類似するため、確定同定には培養での形態や分子検査が必要になる。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Fusarium属の分生子<br>(土壌・水・コンタクトレンズ用具などに由来)"] --> B{"宿主の状態"}
    B -->|"免疫正常<br>角膜微小外傷・コンタクトレンズ装用"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal epithelium'>角膜上皮</span>への定着・局所増殖"]
    C --> D["真菌性角膜炎(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='localized infection'>局所感染</span>にとどまる)"]
    B -->|"好中球減少が持続する<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood dyscrasias'>血液疾患</span>・移植後"| E["血管への浸潤"]
    E --> F["播種性フザリウム症<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bloodstream infection'>血流感染</span>・多臓器病変)"]
    F --> G["持続的好中球減少患者では<br>ほぼ100%の死亡率"]

⚠️ 播種性フザリウム症は好中球減少が続く限り制御できない。 免疫低下患者に生じるフザリウム症の約70%は播種性の病型で、そのうち好中球減少が持続する症例の死亡率はほぼ100%に達する。患者84例の解析でも診断後30日・90日のはそれぞれ50%・21%にとどまった1。この予後の悪さは、抗真菌薬そのものの効果よりも好中球の回復が生じるかどうかに大きく左右される——Aspergillusによる侵襲性感染と同様、の回復なしに薬物治療だけで制御することが難しい感染の典型である。

感染経路と疫学

  • 角膜炎はコンタクトレンズ装用者に多く、不適切なレンズ装用・特定のレンズ用消毒液の使用が危険因子になる。2005年3月〜2006年5月にシンガポールで発生したコンタクトレンズ関連真菌性角膜炎のは66例に上り、主にFusarium solani species complexが原因菌で、不適切なレンズ装用と特定のの使用が危険因子として関連していた——同時期に米国など他地域でも同様のが発生している2
  • 免疫正常者での感染は外傷(植物・土壌による角膜外傷、熱傷)を契機に成立することが多い。
  • 免疫低下患者(後などで持続的な好中球減少を伴う症例)では、皮膚病変や副鼻腔・肺からの吸入を契機にへ進展しうる1
  • ヒト-ヒト感染はない。

起こす疾患

病態 宿主 特徴
真菌性角膜炎 免疫正常者(コンタクトレンズ装用者に多い) ・羽毛状のを伴うことがある
皮膚・軟部組織感染 外傷・熱傷、局所免疫低下 局所の結節性病変から始まることがある
播種性フザリウム症 持続的好中球減少(後) ・多臓器病変。死亡率がほぼ100%に達しうる重症感染1

診断

  • 角膜炎では後のに続き、・グラム染色・培養を行う。境界が羽毛状に不整でを伴う所見は真菌性角膜炎を示唆する所見の一つである。
  • 培養では鎌状(バナナ状)の形成で属を推定し、は分子検査で確定する。
  • が疑われる好中球減少患者では血液培養が有用——Fusarium属は糸状菌の中では比較的血液培養で検出されやすい点がAspergillusとの相違点である。

治療と予防

病態 治療
真菌性角膜炎 外用抗真菌薬(ナタマイシンなど)を頻回投与。重症例・治療抵抗例では全身投与や外科的処置を検討する
播種性フザリウム症 またはによる全身投与に加え、可能であれば好中球減少の回復(G-CSFなど)を図ることが予後を左右する

⚠️ コンタクトレンズ関連角膜炎の予防はレンズケア習慣そのものにある。 レンズケースの定期交換、装用時間の遵守、水道水でのレンズ洗浄回避などの基本的なレンズケアが再発・になる。

まとめ

  • Fusarium属は土壌・水系に広く分布する糸状菌で、鎌状と隔壁菌糸が形態学的特徴。ではFusarium solani species complexが最多。
  • 免疫正常者ではコンタクトレンズ関連の真菌性角膜炎の主要な原因菌となる。2005〜2006年のレンズ用消毒液関連の世界的が代表例。
  • 持続的な好中球減少を伴う患者では播種性フザリウム症へ進展し、死亡率はほぼ100%に達しうる——Aspergillusと同様、宿主の免疫状態が予後を決める感染の典型。
  • 治療は角膜炎では外用抗真菌薬、ではに加え好中球減少の回復が鍵になる。

出典

  1. 1.Fusarium Infections in Immunocompromised Patients(Clinical Microbiology Reviews・2007)Fusarium属は土壌・植物・水系に広く分布し、免疫正常者では外傷・熱傷・コンタクトレンズ装用に伴う局所感染(角膜炎など)を起こす一方、免疫低下患者では播種性感染がフザリウム症全体の約70%を占める。播種性病変を持つ持続的好中球減少患者の死亡率はほぼ100%。別に、血液疾患患者84例の解析では診断後30日・90日の生存率がそれぞれ50%・21%であった。閲覧 2026-08-10
  2. 2.Use of multiple methods for genotyping Fusarium during an outbreak of contact lens associated fungal keratitis in Singapore(BMC Infectious Diseases・2008)2005年3月〜2006年5月にシンガポールで発生したコンタクトレンズ関連真菌性角膜炎のアウトブレイクは66例に上り、主にFusarium solani species complexが原因菌で、不適切なコンタクトレンズ装用と特定のレンズ用消毒液(ReNuなど)の使用が危険因子として関連していた。閲覧 2026-08-10