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Microbe Atlas · 細菌

Francisella tularensis

野兎病菌

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliFrancisella
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/23: Pasteurella multocida, Francisella tularensis, Bartonella species5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis5/3: Bacteria and viruses causing ophthalmic (eye) infections (list) and their diagnosis
自然耐性薬
ペニシリンG
原因となる疾患
Parinaud眼腺症候群リンパ管炎野兎病

🧠 全体像:を理解する出発点は臨床像ではなく感染力の桁違いの強さである。わずか10個程度の菌体が皮膚接種・吸入のいずれでも発症させうる——この低感染量ゆえに(2012年からは米国のTier 1 Select Agent)に指定され1、のリスクも高いため培養を試みる前に必ず検査室へ連絡する。曝露歴はウサギ・ノウサギとダニが軸で、によって・・・などに姿を変えるが、いずれもマクロファージ内で増殖しを作るという同じ機序に行き着く。

微生物学的な特徴

小型ので。が高く、システインを添加した特殊培地でなければ発育しない。

項目 内容
培養 (ブドウ糖・システイン・ウサギ血を含む)やでの——コロニーは小型・円形で金属光沢のある青色を呈する
感染力 10個程度というごく低い感染量で発症しうる——に分類される所以1
細胞内寄生性 ——マクロファージ内に侵入し増殖する
曝露リスクが最も高いのは培養菌を直接扱う場面で、感染源由来の臨床検体はが少ないぶんリスクが低い。疑わしい臨床材料の初期操作はの手技、疑いの操作はの手技で行う2。ルーチンの自動同定システムでの発生がの主因となるため、疑う場合はを提出する前に必ず検査室へ連絡する
潜伏期 3〜5日(範囲1〜14日)2

病原性の仕組み

マクロファージに取り込まれた菌はファゴソームからの脱出・細胞内増殖を経て、の局所と所属リンパ節に性中心を持つ肉芽腫を形成する。

段階 内容
侵入 部・皮膚の小さな傷・・など
局所 侵入部にを形成
播種 マクロファージに取り込まれリンパ系を介して所属リンパ節()へ運ばれる
病理 壊死性中心を持つ肉芽腫を形成——結核に類似した組織像を呈する

⚠️ 患者から周囲へは基本的に広がらない。 吸入や通常の診療接触によるヒト-ヒト伝播は報告がなく、患者の隔離は要さない。ただしゼロと言い切れるのは経路を限ったうえでの話で、感染リンパ節の排膿などで針刺し損傷が起これば伝播しうる2。感染経路の主体は動物・節足動物からの直接曝露である。

感染経路と疫学

  • 直接接触:(ウサギ・ノウサギが主要な)の解体・皮剥ぎ、感染肉の摂食
  • 間接接触:マダニ・の咬傷、汚染された分泌物・塵埃の吸入()、眼への接種()、汚染された水・食物の摂取()
  • 米国では中南部の州に多く、夏季(ダニの)と冬季(狩猟期)に発症が増える二峰性の季節性を示す

起こす疾患

によって6つの臨床病型に分かれるが、いずれも同じ病理機序()に基づく。

病型 頻度・特徴
最多。・動物接触部に+限局性リンパ節腫脹
腺型 潰瘍を伴わないリンパ節腫脹
への接種による結膜炎+同側の
汚染された水・食物の摂取による咽頭炎+
限局する所見に乏しい全身性感染。致死率が最も高い
吸入による原発性肺炎、または他病型からの二次性播種。の主要な懸念病型

診断

⚠️ 培養は危険。 に分類され、培養操作自体が検査者への感染リスクとなる。ルーチンの生化学的同定システムはを発生させうるため、疑う場合は検体を提出する前に必ず検査室へ連絡する。臨床材料の初期操作はの手技で足りるが、疑いの操作にはの手技が必要になる2。

検査 内容
血清学 :4倍以上の上昇、または単一血清での高力価(目安として1:160以上)で診断的
病変検体からの迅速抗原検出
培養を避けたい場合の選択肢として有用性が高まっている
()——現在は的な位置づけ

治療と予防

⚠️ βラクタム系は無効。しかもでは効くように見えることがある。 は内因性のβラクタマーゼを産生する。加えて臨床的に重要なのは、・・、、グリコペプチド、が一部の薬剤でin vitroの感受性が見かけ上示されても治療には無効だという点である1。⭐ 「感受性あり」の報告を根拠にβラクタム系へ切り替えてはならない——グラム陰性桿菌に対するの定番が、この菌に限って選択肢から外れる理由がここにある。

第一選択と、格下げされたストレプトマイシン

位置づけ 薬剤
第一選択(成人・生後1か月以上の小児) ・・・ドキシサイクリンのいずれか
第一選択(新生児) または
重症例の初期治療 アミノグリコシド()が望ましい。+フルオロキノロン、または+ドキシサイクリンの併用も可だが、転帰が改善するという根拠は乏しい
中枢神経侵襲例 +フルオロキノロンの併用
使い尽くしたときのみ 、(後者は非妊娠の成人・小児に限る)

米国の2025年勧告は、従来「代替薬」だったとドキシサイクリンを第一選択へ格上げし、長く歴史的な第一選択とされてきたを第三段階へ格下げした——供給が限られ、処方者・薬剤師・の取り扱い経験も乏しいためで、と代替薬を使い尽くしたときにのみ考慮する1。⚠️ も同じく最後の選択肢で、非妊娠の成人・小児に限って他の推奨薬を使い尽くしたときのみ考慮する(、新生児のチアノーゼ・グレイ症候群の危険)——「中枢神経病変だから」という旧来の組み立てではなく、中枢神経侵襲例は+フルオロキノロンである1。

⚠️ ドキシサイクリン単剤は、重症例と治療開始が2週間以上遅れた例には用いない1。第一選択に並んでいても、重症度と治療の遅れによって使える範囲が変わる薬である。

曝露後予防

  • では、高リスク曝露(安全キャビネット外での培養操作、の咬傷、針刺し、剖検中の刃物損傷・、防護具なしで培養・組織にを行った場合)には直ちにを行い、低リスク曝露(同じ検査室で他者が検体を処理しただけ等)では14日間の発熱監視で足りる2
  • 薬剤と期間:500 mgを12時間毎に7日間、500 mgを24時間毎に7日間、ドキシサイクリン100 mgを12時間毎に10〜14日間2。散布が疑われる場面では曝露から48時間以内の開始が望ましい1
  • 一般的な予防:との接触時の手袋着用、ダニの使用、野生動物の肉は十分に加熱する
  • ワクチン:かつて米国では検査室職員の防護にが用いられたが、現在は承認されたワクチンが無い1

まとめ

  • は10個程度というごく低い感染量で発症するの菌——臨床材料の初期操作はの手技、疑いの操作はの手技で、いずれも検査室への事前連絡が前提になる。
  • 曝露歴の軸はウサギ・ノウサギとダニ。により(最多)・・・(最も致死的)・(で懸念)に分かれるが、いずれもという共通の病理に基づく。
  • 患者の隔離は要さない(吸入・通常の診療接触によるヒト-ヒト伝播の報告はない)が、感染リンパ節の排膿での針刺し損傷では伝播しうる。
  • βラクタム系は無効で、しかもin vitroでは感受性があるように見えることがある——「感受性あり」を根拠に切り替えない。
  • 第一選択は・・・ドキシサイクリンの4剤(新生児はか)。重症例の初期治療はアミノグリコシド、中枢神経侵襲例は+フルオロキノロン。とは他を使い尽くしたときのみ。
  • 曝露後予防はフルオロキノロン7日またはドキシサイクリン10〜14日。低リスク曝露は14日間の発熱監視で足りる。
  • 予防はダニ・動物接触対策が中心で、承認されたワクチンは現在ない。

出典

  1. 1.Tularemia Antimicrobial Treatment and Prophylaxis: CDC Recommendations for Naturally Acquired Infections and Bioterrorism Response — United States, 2025(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports 74(RR-2))・2025)第一選択がシプロフロキサシン・レボフロキサシン・ゲンタマイシン・ドキシサイクリン(成人および生後1か月以上の小児。新生児はシプロフロキサシンまたはゲンタマイシン)であること、シプロフロキサシンとドキシサイクリンが従来の「代替薬」から第一選択へ格上げされ、ストレプトマイシンは第三段階へ格下げされて第一選択薬と代替薬を使い尽くしたときにのみ考慮すること(供給が限られ米国の処方者・薬剤師・看護師の経験も乏しいという理由)を確認した。重症例では初期治療にアミノグリコシドが望ましく、ゲンタマイシン+フルオロキノロンまたはゲンタマイシン+ドキシサイクリンの併用も可能だが転帰改善の根拠は乏しいこと、ドキシサイクリン単剤は重症例や治療開始が2週間以上遅れた例には用いないこと、中枢神経侵襲例はゲンタマイシン+フルオロキノロンで治療すること、クロラムフェニコールは他の推奨薬を使い尽くしたときにのみ考慮すること(再生不良性貧血、新生児のグレイ症候群の危険)も確認した。βラクタム系(ペニシリン系・セファロスポリン系・カルバペネム系)・ポリミキシン・グリコペプチド・サルファ剤は「一部の薬剤でin vitroの感受性が見かけ上示されても治療には無効」と明記されている。感染菌量が10個程度と少ないこと、2012年に米国のFederal Select Agent ProgramでTier 1 Select Agentに分類されたこと、曝露後予防の期間がフルオロキノロン7日・テトラサイクリン系10〜14日・アジスロマイシン10日で意図的散布では曝露から48時間以内の開始が望ましいこと、米国で現在承認された野兎病ワクチンは無く、かつて検査室職員の防護に用いられていたことも確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Occupational Risk of Tularemia(Centers for Disease Control and Prevention (NCEZID)・2026)2026年9月14日改訂版のPDF本文を取得して確認した。曝露リスクが最も高いのは培養菌を直接扱う場面であり、感染源由来の臨床検体は菌数が少ないためリスクが低いこと、疑わしい臨床材料の初期操作にはBSL-2の手技、疑い分離株の操作にはBSL-3の手技が推奨されること。医療現場での伝播リスクは非常に低く、吸入や通常の診療接触によるヒト-ヒト伝播の報告は無いが、感染リンパ節の排膿などでの針刺し損傷では伝播が起こりうること。潜伏期は3〜5日(範囲1〜14日)。高リスク曝露(安全キャビネット外での培養操作、感染動物の咬傷、針刺し、剖検中の刃物損傷・粘膜曝露、防護具なしでの培養・組織のエアロゾル発生手技)には直ちに予防投薬、低リスク曝露には14日間の発熱監視が推奨され、予防投薬はシプロフロキサシン500 mg 12時間毎7日間・レボフロキサシン500 mg 24時間毎7日間・ドキシサイクリン100 mg 12時間毎10〜14日間である閲覧 2026-09-27