微生物学

微生物学 · 2/23

パスツレラ・ムルトシダ、野兎病菌、バルトネラ属

Pasteurella multocida, Francisella tularensis, Bartonella species

微生物
Bartonella henselaeBartonella quintanaBartonella spp.Francisella tularensisPasteurella multocida
疾患
細菌性血管腫症野兎病塹壕熱

🧠 この3菌は「どの動物に、どう接触したか」で覚える人獣共通感染症の三兄弟である。 Pasteurella multocidaはネコ・イヌの正常口腔フローラ——咬まれるとすぐ(24時間以内)に蜂窩織炎を起こす。Francisella tularensisは野生動物(特にウサギ)——ダニに咬まれる//吸入など多彩な経路で入り、マクロファージ内から肉芽腫を作る(の危険な菌)。Bartonella henselaeはネコの引っかき傷——健常者では軽いリンパ節炎()、免疫不全者ではという全く違う顔を見せる。「動物×接触様式」を軸に整理すれば3菌とも混同しない。

Pasteurella multocida(パスツレラ・ムルトシダ)

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 グラム陰性桿菌
生息地 人獣共通感染症——ネコ(最多)・イヌ・ウサギなどの正常口腔フローラ
生化学的性状 カタラーゼ(+)、オキシダーゼ(+)
莢膜 ——免疫系からの回避に働く病原性因子
発育条件

病原性因子・臨床像

  • 動物の咬傷・引っかき傷による人獣共通感染症として伝播
  • 免疫不全患者では吸入により肺炎・腹膜炎を起こしうる
  • 動物咬傷から24時間以内に蜂窩織炎(発赤腫脹)とリンパ節炎を発症
  • 感染が骨に波及すると骨髄炎・関節炎に至る

💡 咬傷の感染率は動物種で違う。 米国では年間およそ450万件・ネコ咬傷40万件が発生し、小児での感染率はが約20%に対しネコ咬傷は最大50%に達する1。ネコの歯は細く鋭いため洗浄の届かない深いになりやすいことが差を生む。パスツレラ属はイヌ・ネコどちらのからも最も高頻度に分離される菌である。

診断・治療

項目 内容
培養 血液寒天培地(5%ヒツジ血)
鏡検 ——顕微鏡下で「」の形態を呈する
莢膜抗原のによる
治療 の予防投与・の第一選択はアモキシシリン・1——菌そのものには(アンピシリン、アモキシシリン)が有効だが、は複数菌感染なので併用で口腔内嫌気性菌までカバーする。代替はテトラサイクリン系/マクロライド系

Francisella tularensis(野兎病菌)

形態・生化学的性状

項目 内容
形態
生息地 人獣共通感染症——主に野生動物、特にウサギが主要な
発育条件
細胞内寄生性 ——マクロファージ内に侵入する

病原性因子・臨床像:野兎病

感染経路は多彩で、ヒト-ヒト感染はない。

  • 直接接触:動物の皮膚への接触、ウサギ肉の摂食
  • 間接接触:、分泌物の吸入()、眼への接種()
病型 特徴
部から菌が侵入しを形成。マクロファージに取り込まれリンパ系を介して(リンパ節など)へ運ばれ、壊死性中心を持つ肉芽腫を形成。他のリンパ節にも波及し限局性リンパ節腫脹を呈する
肺炎
結膜炎

診断・治療・予防

⚠️ 培養は危険。 F. tularensisはに分類され、培養操作自体が感染リスクとなる。10個未満という極めて少ないでも発症しうるためで2、取り扱いは相当、疑ったら検体を提出する前に検査室へ申し送るのが原則である。

項目 内容
培養 :ブドウ糖・システイン・ウサギ血を含み、37℃——コロニーは小型・円形で金属光沢のある青色
血清学 ():抗原をし患者血清中のを測定//(アレルギー性皮膚反応)
培地 も培養に用いられることがある
治療 中等症〜重症の第一選択はアミノグリコシド系(または)。軽症例・曝露後予防にはテトラサイクリン系(ドキシサイクリン)またはを用いる2。は代替薬
予防 との接触回避/高リスク者にはによる

Bartonella species(バルトネラ属)

Bartonella henselae:形態・病原性因子

項目 内容
形態
細胞内寄生性
宿主・伝播 人獣共通感染症——ネコ(最多)・イヌ。引っかき傷・咬傷・ノミの糞を介して伝播

臨床像

疾患 状態 特徴
免疫正常者でも発症 ネコの引っかき傷から感染。リンパ節炎(特に腋窩)、、発熱
免疫不全者(感染やの患者など) 全身の隆起性の紅色、発熱・悪寒・脱力

診断・治療

  • :の一種
  • 治療:ドキシサイクリン(テトラサイクリン系)。は自然軽快するが、疼痛時はなどマクロライド系を使用

💡 「自然軽快する」の中身と、抗菌薬が効く範囲。 免疫正常者のは90〜95%が2〜4か月で自然軽快し、抗菌薬なしでも治る3。マクロライド系のうち根拠が最も強いのはアジスロマイシン5日間投与で、では投与開始30日以内にリンパ節体積が80%縮小した患者がアジスロマイシン群147人・プラセボ群151人(p=0.026)だった。ただし30日以降の消退の速度・程度は両群で差がなく、短縮できるのは初期の腫脹だけである4。一方、免疫不全者のは自然軽快しないため、治療が必須になる。

その他のBartonella属:Bartonella quintana

  • (「」):頭痛・発熱・脱力・の疼痛
  • :免疫不全患者における
  • (診断には3週間の血液培養を要する)——B. quintanaはホームレス状態の患者におけるの代表的な原因菌で、48例ののうち38例がB. quintanaによるという報告がある5

💡 の起因菌は2つある。 B. henselaeとB. quintanaがその2大起因菌であり5、曝露歴(ネコかか)が分からないと菌種は絞れない。Bartonella属は発育がきわめて遅く日常の血液培養ではほぼ検出できないため、診断の柱は血清学()と、および組織のである3。

まとめ

  • Pasteurella multocidaはネコ・イヌの正常口腔フローラで、咬傷後24時間以内に蜂窩織炎を起こす。鏡検で「」のが特徴。
  • Francisella tularensisはウサギを中心とする野生で、などから侵入しマクロファージ内でを作る()。で培養は危険。
  • Bartonella henselaeはネコの引っかき傷で感染し、免疫正常者ではリンパ節炎()、免疫不全者ではという対照的な病態を起こす。
  • 3菌ともの人獣共通感染症であり、「どの動物に・どのように接触したか」が鑑別の軸になる。
  • 治療はいずれもテトラサイクリン系・アミノグリコシド系・マクロライド系が中心だが、Pasteurellaは(±)が第一選択である点が異なる。

出典

  1. 1.Human and Animal Bites(Pediatrics in Review (American Academy of Pediatrics)・2018)米国では年間およそヒト咬傷25万件・ネコ咬傷40万件・イヌ咬傷450万件が発生し、小児のイヌ咬傷の感染率は20%、ネコ咬傷では最大50%に達する。動物咬傷創の多くは複数菌感染で、パスツレラ属はネコ咬傷・イヌ咬傷のいずれからも最も高頻度に分離される菌である。予防投与・経験的治療の第一選択薬はアモキシシリン・クラブラン酸である。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Tularemia as a Biological Weapon: Medical and Public Health Management(Working Group on Civilian Biodefense (JAMA)・2001)野兎病菌が10個未満という極めて少ない菌数でも発症しうる生物兵器カテゴリーAの病原体であること、治療の第一選択がストレプトマイシンまたはゲンタマイシンで、軽症例・曝露後予防にはドキシサイクリンまたはシプロフロキサシンが用いられることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Cat Scratch Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)免疫正常者の猫ひっかき病は接種部の丘疹が出た後1〜2週間で所属リンパ節腫脹をきたし、90〜95%が2〜4か月で自然軽快すること、免疫不全宿主では細菌性血管腫症・肝紫斑病という血管増殖性病変に姿を変えること、診断は血清抗体検査・PCRが中心であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Prospective randomized double blind placebo-controlled evaluation of azithromycin for treatment of cat-scratch disease(The Pediatric Infectious Disease Journal・1998)典型的な猫ひっかき病に対する二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験で、経口アジスロマイシン5日間投与群は観察開始30日以内にリンパ節体積が初期値の80%まで縮小した患者が14人中7人であったのに対し、プラセボ群は15人中1人であった(p=0.026)。30日以降は両群で消退の速度・程度に有意差がなかった。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Bartonella quintana Characteristics and Clinical Management(Emerging Infectious Diseases (CDC)・2006)ホームレスシェルターでの調査で検査対象71人中30%がB. quintana抗体陽性、14%が菌血症であったこと、48例の血液培養陰性心内膜炎のうち38例がB. quintana感染によるものであったという報告があること、B. quintanaとB. henselaeが細菌性血管腫症の2大起因菌であることを確認した閲覧 2026-08-26