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Microbe Atlas · 細菌

Bartonella quintana

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliBartonella
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical MicrobiologyDermatology
トピック
2/23: Pasteurella multocida, Francisella tularensis, Bartonella species5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis2-15: Pediculosis
原因となる疾患
感染性心内膜炎細菌性血管腫症塹壕熱

🧠 全体像:Bartonella henselaeがネコを介する人獣共通感染症であるのに対し、Bartonella quintanaはヒトとの間で完結する媒介動物感染症という点で決定的に異なる。はヒト自身で、は——衛生状態の悪化した集団(戦場・貧困・ホームレス状態)で流行し、第一次世界大戦では推定100万人超が罹患して「」の名がついた1。曝露歴は「がわく生活環境」であり、これがネコ引っかき傷というB. henselaeの曝露歴と対をなす。

微生物学的な特徴

B. henselaeと同じ属のグラム陰性の短い桿菌で、、発育が遅く培養しにくい点も共通する1。菌種を分けるのは生化学的性状よりも媒介動物との違いであり、この2軸で属内の鑑別を行う。

項目 B. quintana B. henselae
ヒト ネコ
媒介動物
典型的な患者背景 ホームレス状態・貧困・戦時下・ ネコの飼育・接触
特徴的な 4〜6日ごとに繰り返す() 特になし
で目立つ病変 ・ ・リンパ節病変

病原性の仕組み

菌血症を起こしながら赤血球・血管内皮に接着・侵入して増殖する点は属共通の機序である。無症状の菌血症では菌は赤血球の中に見つかり、血管内皮にも親和性を持つため、免疫不全者では血管が増殖するを起こしうる1。

B. quintanaに特徴的なのは、が4〜6日ごとに繰り返す周期性(の名の由来)と、症状が治まった後も数週〜数年にわたって菌血症が続きうることである1。周期性がなぜ生じるのかは十分に解明されていない。持続する菌血症はへの菌の受け渡しを助け、ヒトがであり続ける理由になっている。

感染経路と疫学

flowchart TD
  A["菌血症のヒト"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body louse'>コロモジラミ</span>が吸血して菌を取り込む"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='louse'>シラミ</span>の腸管で菌が増殖<br>糞に菌が出る"]
  C --> D["刺咬によるかゆみ→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scratching (excoriation)'>掻破</span>"]
  D --> E["傷んだ皮膚から糞中の菌が侵入"]
  E --> F["菌血症(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trench fever'>塹壕熱</span>・慢性菌血症)"]
  F --> A
  • 菌はの腸管で増えて糞に排出され、刺咬のかゆみで掻き壊した皮膚から侵入する1——糞を皮膚に掻き込む伝播は、の起因菌Rickettsia prowazekiiと同じ様式である
  • は衣類に住み、衣類・寝具を介して広がる。入浴・更衣が難しい環境で蔓延しやすく、ホームレス状態・難民キャンプ・戦時下で流行がみられる(1997年にはブルンジの難民キャンプで流行した)1
  • 劣悪な生活環境に加え、慢性も主な素因とされる1
  • ⭐ 欧米の都市のホームレスの人で再興している。フランス・マルセイユの救急外来で調べたホームレスの人71人の30%が抗体陽性、14%が菌血症で、4年間に調べた入院していないホームレスの人930人でも5.4%が菌血症、22%にがあった1

起こす疾患

疾患 特徴
() 潜伏期は通常15〜25日。1〜3日続くが頭痛・めまい・脛の痛みを伴い、4〜6日ごとに繰り返す(発作は回を追って軽くなることが多い)。長引くことはあるが死亡例は報告されていない1
慢性菌血症 の後に一部で続き、無症状のことも多い
(血液培養陰性) ホームレス状態の患者におけるの代表的な原因菌。バルトネラ心内膜炎48例のうち38例が本菌で、弁膜症の既往がない人に多く、90%超が弁の手術を要した1
大半は感染者など免疫不全者だが、免疫が保たれた人にも起こる。B. henselaeと並ぶ2大起因菌で、未治療では致死的になりうる1

診断

  • 標準の血液培養では発育がきわめて遅く、には陰性となりやすい。初回分離には血液寒天培地で12〜14日、ときに45日までの培養を要する1。心内膜炎を疑うときは、の培養・・も行う
  • 血清学()が基準法。1:50超で感染、1:800超で心内膜炎を示唆する。コクシエラや肺炎クラミジアとのがあり、菌種の確定にはと交差吸収を用いる1
  • 心内膜炎の(2023年版Duke-ISCVID基準)では、B. henselaeまたはB. quintanaに対する1:800以上と、血液からのの陽性が、それぞれ微生物学的なに入る2

治療と予防

病型 推奨される治療
・慢性菌血症 ドキシサイクリン200 mg/日を4週間+3 mg/kg/日静注を2週間3
心内膜炎(培養で確定) ドキシサイクリン100 mg 1日2回を6週間+3 mg/kg/日を14日間3。多くは弁の手術も要する
を3か月が第一選択、代替はドキシサイクリン3か月3

💡 なぜアミノグリコシドを併用するのか。 は多くの抗菌薬にで感受性を示すが、に働くのはアミノグリコシドだけで、菌が赤血球内に隠れることもあってと臨床効果がよく一致しない1。心内膜炎101例の解析でも、アミノグリコシドを受けた患者のほうが完全に回復しやすかった1。

  • ⚠️ 慢性菌血症の患者は心内膜炎を合併していないかを必ず評価する——合併していれば治療期間が長くなる3
  • 予防の中心は感染経路そのものを断つこと——は衣類に住み吸血のときだけ皮膚へ来るので、駆除は体ではなく衣類・寝具が対象になる(・・着替え)。シェルターでは内服による駆除も有効だった1。ホームレス状態にある集団への衛生支援が要る。ワクチンはない

まとめ

  • B. quintanaはB. henselaeと同属だが、ヒトをとしが媒介する点が決定的に異なる——曝露歴は「ネコ」ではなく「がわく生活環境」。
  • の糞中の菌が掻き壊した皮膚から入る。ホームレス状態・難民キャンプ・慢性が背景になる。
  • は4〜6日ごとに繰り返すと脛の痛みが特徴で、第一次世界大戦での大流行に由来する病名。
  • ホームレス状態の患者におけるの代表的な原因菌で、弁膜症の既往がない人にも起こり、多くは弁の手術を要する。免疫不全者ではも起こす。
  • 診断は・(IgG 1:800以上は心内膜炎の)・の組み合わせで行う。
  • ・慢性菌血症はドキシサイクリン4週+2週、心内膜炎はドキシサイクリン6週+14日。予防はの駆除(衣類・寝具)で、ワクチンは存在しない。

出典

  1. 1.Bartonella quintana Characteristics and Clinical Management(Emerging Infectious Diseases (CDC)・2006)CDCのEID掲載の全文(Foucault・Brouqui・Raoult、DOI 10.3201/eid1202.050874)で確認した。ヒトが保有宿主でコロモジラミが通常の媒介者であること、菌はシラミの腸管で増えて糞として排出され、掻破で傷んだ皮膚から侵入すること、第一次世界大戦で推定100万人超が罹患したこと、新たな感染の主な素因が劣悪な生活環境と慢性アルコール依存であること、1997年にブルンジの難民キャンプで流行したこと、マルセイユの救急外来でホームレスの人71人の30%が抗体陽性・14%が菌血症だったこと、4年間に調べた非入院のホームレスの人930人では5.4%が菌血症・22%にシラミ寄生があったこと、塹壕熱は1〜3日続く発熱発作が頭痛・脛の痛み・めまいを伴って4〜6日ごとに繰り返し、潜伏期は通常15〜25日で死亡例は報告されていないこと、無症状の菌血症では菌が赤血球内にあり血管内皮にも親和性を持つこと、バルトネラ心内膜炎48例のうち38例がB. quintanaで、90%超が弁の手術を要し、B. quintana心内膜炎は弁膜症の既往がない人に多く危険因子がアルコール依存・ホームレス状態・シラミ寄生であること、細菌性血管腫症ではB. quintanaが骨病変・皮下腫瘤と、B. henselaeが肝紫斑病・リンパ節病変と関連したこと、診断の基準法は間接蛍光抗体法でIgG 1:50超が感染、1:800超が心内膜炎を示唆し、コクシエラ・肺炎クラミジアとの交差反応はウエスタンブロットと交差吸収で解決して菌種も決められること、初回分離には血液寒天培地で12〜14日、最長45日の培養を要すること、細菌性血管腫症は免疫が保たれた人にも免疫不全の人(大半はHIV感染者)にも起こり未治療では致死的になりうること、バルトネラ属は多くの抗菌薬に試験管内で感受性を示すが殺菌的なのはアミノグリコシドだけで、最小発育阻止濃度と臨床効果の相関が悪いのは殺菌作用の欠如と赤血球内への隔離で説明されうること、心内膜炎101例の解析でアミノグリコシドを受けた患者のほうが完全に回復しやすかったこと、塹壕熱の菌が初感染から最長8年血中に残った記録があること、シラミは衣類・寝具を殺虫剤で処理するか煮沸して駆除し、シェルターのホームレスの人ではイベルメクチン内服が有効だったことを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.JCS 2026 Guideline on the Management of Infective Endocarditis(Circulation Journal(日本循環器学会)・2026)J-STAGEの全文PDFで確認した。同ガイドラインが掲げる2023 Duke-ISCVID基準の微生物学的大基準に、血液からのバルトネラ属のPCR等核酸検出陽性と、B. henselaeまたはB. quintanaに対する間接蛍光抗体法でIgG抗体価1:800以上が含まれること、血液培養陰性の心内膜炎はバルトネラ属やコクシエラのような通常の方法で検出しにくい病原体で起こり、血清学的検査・手術組織のPCRや配列解析が有用とされること、起因菌の手がかりとしてB. quintanaにシラミが挙げられていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Recommendations for treatment of human infections caused by Bartonella species(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2004)PMC415619の全文のTable 6と本文で、塹壕熱またはB. quintanaの慢性菌血症にはドキシサイクリン200 mg/日を4週間とゲンタマイシン3 mg/kg/日静注を2週間併用すること(推奨度AI)、培養で確定したバルトネラ心内膜炎にはドキシサイクリン100 mg 1日2回を6週間とゲンタマイシン3 mg/kg/日を14日間併用すること(BII)、培養陰性でバルトネラを疑う心内膜炎にはゲンタマイシン14日間+セフトリアキソン6週間(±ドキシサイクリン6週間)とすること、細菌性血管腫症にはエリスロマイシン3か月が第一選択でドキシサイクリン3か月が代替(AII)であること、慢性菌血症の患者は治療期間が長くなる心内膜炎の合併がないかを慎重に評価すべきことを確認した。閲覧 2026-09-27