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Microbe Atlas · 細菌

Bartonella spp.

バルトネラ属

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliBartonella
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/23: Pasteurella multocida, Francisella tularensis, Bartonella species

🧠 全体像:Bartonella属を読む軸は「リザーバーが動物かヒトか」の1本である——B. henselaeはネコを、B. quintanaはヒト自身をリザーバーとし、媒介動物(/)もそれぞれ異なる。属に共通するのは発育がきわめて遅くグラム染色にも染まりにくいの高い菌という性質で、日常の血液培養では検出できないため培養陰性の代表的な起因菌属として位置づけられ、診断の柱は培養ではなく血清学に置かれる1。

微生物学的な特徴

  • グラム陰性の球桿菌だが、染色性が乏しくグラム染色では可視化が困難——組織診断には()を用いる1。
  • が高く(fastidious)発育がきわめて遅い——初代分離に2〜6週間を要し、標準的な血液培養ではにほぼ検出できない1。
  • として・赤血球内で増殖できる点が病原性の中核にある。
  • 属全体では42種以上が公開されているが、ヒト感染に関与するのは12〜20種程度で、臨床的に重要なのはB. henselaeとB. quintanaの2種である1。

⭐ 2菌種はリザーバーと媒介動物で覚える。

項目 B. henselae B. quintana
リザーバー ネコ ヒト
媒介動物
典型的な患者背景 ネコの飼育・接触 ホームレス状態・貧困・戦時下・
代表疾患 ()

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Bartonella属<br>媒介動物を介して侵入"] --> B["宿主の細胞性免疫は保たれているか"]
    B -->|"保たれている"| C["局所に封じ込められる<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulomatous lymphadenitis'>肉芽腫性リンパ節炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='self-limited'>自己限定性</span>の菌血症"]
    B -->|"破綻している<br>(進行した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human immunodeficiency virus'>HIV</span>感染症など)"| D["血管内皮に接着・侵入し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiogenic factor'>血管新生因子</span>の産生を誘導"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cat scratch disease'>猫ひっかき病</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trench fever'>塹壕熱</span>など"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacillary angiomatosis'>細菌性血管腫症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Peliosis hepatis'>肝紫斑病</span><br>(増殖性の血管病変)"]

💡 なぜ属として「」の代表格なのか。 発育がきわめて遅くグラム染色にも染まりにくいため、標準的な血液培養・鏡検のどちらでも検出を逃しやすい。症例の集積では48例中38例がB. quintana感染によるものであったという報告があり、B. henselae・B. quintanaの2種でBartonella心内膜炎の約96%を占める12。培養で追えない以上、血清学()が最もの高い初期になる1。

感染経路と疫学

  • B. henselae:リザーバーはネコ(特に子ネコ)。がネコ間で媒介し、ノミの糞が引っかき傷・咬傷に紛れ込んで感染する。
  • B. quintana:リザーバーはヒト自身。の糞がから侵入する——衛生状態の悪化した集団(ホームレス状態・難民キャンプ・戦時下)で流行する。
  • いずれもヒト-ヒト感染(媒介動物を介さない直接伝播)は知られていない。

起こす疾患

疾患 主な起因種 宿主背景
(限局性リンパ節炎) B. henselae 免疫正常者。90〜95%が2〜4か月で自然軽快する3
() B. quintana ホームレス状態・貧困・戦時下
・ 両種共通 免疫不全者(進行した感染症など)。免疫正常者では自然軽快するが免疫不全者では治療しないと進行する3
両種共通(B. quintanaが多い) いずれの宿主でも起こりうる2

診断

  • 血液培養はにはほぼ陰性となるため、診断の柱は血清学()と病理()である。≥1:800はを強く示唆する1。
  • を疑う症例では、標準培養に加えてBartonella血清学・を追加する。
  • B. henselaeとB. quintanaは血清学的にがあるため、菌種の確定にはを要することがある。

治療と予防

病態 治療
免疫正常者の限局性感染(等) で経過観察が基本。有痛性リンパ節にはアジスロマイシンの短期投与でリンパ節腫脹の期間短縮が期待できる
・ 自然軽快しないため長期治療を要する。第一選択は500 mg 1日4回を3か月で、マクロライドが使えない場合の代替がドキシサイクリン100 mg 1日2回を3か月である42
心内膜炎 ドキシサイクリン+(あるいはリファンピシン)の併用が基本で、多くはを要する

⚠️ アジスロマイシンの出番はのリンパ節腫脹だけで、の第一選択ではない。 同じマクロライド系でも、にはを3か月という長期レジメンが推奨度AIIで挙がっており、アジスロマイシンはこの位置に入っていない4。「のを短く抑える薬」と「増殖性病変を3か月かけて封じる薬」を混ぜない。

💡 どの病態でも期間と併用の守り方が結果を決める。 ・慢性菌血症では、ドキシサイクリン4週間と2週間を両方この期間受けた患者だけがで治癒しており、単剤や短縮では失敗している4。背景には、に対してに働くのはアミノグリコシド系だけで、が臨床効果とうまく相関しないという事情がある——その説明として、の欠如と菌が赤血球内に隔離されることが挙げられている2。だからこその併用が組み合わせに入る。

予防はに尽きる——B. henselaeはネコの引っかき・咬傷を避けノミ対策を行い、B. quintanaはの駆除と衛生環境の改善が中心になる。いずれもヒト用ワクチンは存在しない。

まとめ

  • Bartonella属はグラム陰性の球桿菌だが染色性に乏しく、が高くきわめて発育が遅いため標準的な血液培養ではほぼ検出できない。
  • リザーバーの違いが菌種を分ける——B. henselaeはネコ(媒介:)、B. quintanaはヒト自身(媒介:)。
  • 免疫正常者では局所に封じ込められ自然軽快することが多いが、免疫不全者(進行した感染症など)では・というに姿を変える。
  • 培養陰性の代表的な起因菌属で、2菌種でBartonella心内膜炎の約96%を占める。診断の柱は血清学(≥1:800)と。
  • 治療は病態ごとに変わる——は3か月が第一選択(ドキシサイクリン3か月が代替)4、慢性菌血症・心内膜炎はドキシサイクリン+の併用で、心内膜炎は多くはを要する。予防はが中心でワクチンはない。

出典

  1. 1.Bartonellosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)Bartonella属が細胞内寄生性・通性のグラム陰性菌("intracellular, facultative, gram-negative bacteria")で現在42の有効公開種があり人間への感染に関連する種は12〜20種であること、菌体はグラム染色に染まりにくく可視化が困難であること("organisms are difficult to visualize because they stain poorly with the Gram stain")、発育が遅く発育要求性が高いこと("slow-growing and fastidious")で初代分離に2〜6週間を要すること("Primary isolation takes 2 to 6 weeks")、Bartonella henselaeがネコを、Bartonella quintanaがヒトをリザーバーとすること("Bartonella henselae is found in domestic cats, but Bartonella quintana and Bartonella bacilliformis appear to have humans as their reservoir")、B. henselaeとB. quintanaがBartonella心内膜炎の約96%を占めること、血清学が最も費用対効果の高い初期診断検査であり抗体価IgG≥1:800が活動性感染を強く示唆することを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Bartonella quintana Characteristics and Clinical Management(Emerging Infectious Diseases (CDC)・2006)ホームレスシェルターでの調査で検査対象71人中30%がB. quintana抗体陽性、14%が菌血症であったこと、48例の血液培養陰性心内膜炎のうち38例がB. quintana感染によるものであったという報告があること、B. quintanaとB. henselaeが細菌性血管腫症の2大起因菌であることを確認した。2026-09-27に再読し、細菌性血管腫症の治療をエリスロマイシン500 mg経口1日4回3か月とし、マクロライドが禁忌の患者にはドキシサイクリン100 mg経口1日2回3か月とすること(原文「erythromycin 500 mg 4×/day orally for 3 months. In patients with a contraindication to macrolides, doxycycline 100 mg 2×/day orally for 3 months」)、慢性菌血症をドキシサイクリン200 mg/日1日1回28日間とゲンタマイシン3 mg/kg/日静注14日間の併用とすること、殺菌的に働くのはアミノグリコシド系だけであること(原文「only aminoglycosides have a bactericidal effect」)、最小発育阻止濃度が患者での効果とうまく相関しないこと(原文「MICs correlate poorly with the in vivo efficacies of antimicrobial drugs in patients」)、その説明として殺菌作用の欠如と赤血球内への菌の隔離(原文「sequestration of the bacterium in erythrocytes」)が挙げられていることも確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.Cat Scratch Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)免疫正常者の猫ひっかき病は接種部の丘疹が出た後1〜2週間で所属リンパ節腫脹をきたし、90〜95%が2〜4か月で自然軽快すること、免疫不全宿主では細菌性血管腫症・肝紫斑病という血管増殖性病変に姿を変えること、診断は血清抗体検査・PCRが中心であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Recommendations for treatment of human infections caused by Bartonella species(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2004)PMC415619の全文で、細菌性血管腫症の第一選択がエリスロマイシン500 mg経口1日4回を3か月(推奨度AII)、代替がドキシサイクリン100 mg経口1日2回を3か月(AII)であること、塹壕熱またはB. quintanaの慢性菌血症がドキシサイクリン200 mg経口1日1回4週間とゲンタマイシン3 mg/kg静注1日1回2週間の併用(AI)で、両薬をこの期間受けた患者のみが臨床試験で治癒に至り単剤や短縮では失敗したこと、培養で確定したバルトネラ心内膜炎がドキシサイクリン100 mg 1日2回6週間とゲンタマイシン3 mg/kg/日14日間の併用であることを確認した閲覧 2026-09-27